土橋どばし)” の例文
私どもの屋敷から行ける所では、まず金杉かなすぎの毘沙門とか、土橋どばしとか、采女原などにあって、土橋では鈴之助という役者が評判であった。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
で、帰りに、数寄屋橋すきやばし外から、土橋どばし大塚間を運転している電車に、乗ることは乗って、神保町へまで来たが、降りる気になれない。
妖影 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そこへかんとて菅笠すげがさいただき草鞋わらじはきて出でたつ。車前草おい重りたる細径こみちを下りゆきて、土橋どばしある処に至る。これ魚栖めりという流なり。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「さあこれなら好いでしょう。不味まずくって大きなところは土橋どばし大寿司流おおずしりゅうとでも云うのかな。まあ役に立ちさえすればよかろう、我慢なさい」
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「じゃ、先生、車に乗りましょう。」と村岡は早速清岡の袖を引張って、土橋どばしへ通ずる西銀座の新道路へ出ようとした。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
柳はくらく花は明るきなかに、仲町なかちょう土橋どばし、表やぐらあたりにはかなり大きな楼も軒をならべて、くだっては裏やぐら、すそつぎ、直助など——。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
はまはうへ五六けんすゝむと、土橋どばし一架ひとつなみちひさなのだけれども、滑川なめりがはかゝつたのだの、長谷はせ行合橋ゆきあひばしだのと、おなじきこえた亂橋みだればしといふのである。
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
其の土橋どばしを渡って真直まっすぐにおいでなせえ、道い悪いから気い付けて往きなさえ、なア安田先生も剣術遣いだから、どうして剣術遣いじゃアまんまア喰えねえ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その上にむかしふうの土橋どばしがかかっていたりして、まるで、いなかのようなけしきですが、ここは、いなかではなく、東京都世田谷せたがや区のはずれなのです。
塔上の奇術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ボンヤリ見ている私は手伝いたくてウズウズしている。小僧さんが天秤棒てんびんぼうたわむほど、かごに一ぱいの大きなうりを担いで来て、土橋どばしをギチギチ急いで渡ってた。
さ、何もうかがっておりませんが、ただ、おかみさんは先へ行って、土橋どばし梅掌軒ばいしょうけん床几しょうぎで待っているから、あなたを呼んで来てくれと仰っしゃっただけなんで。
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其日私共が五六人、其空荷馬車に乘せて貰つて、村端れから三四町の、水車へ行く野川の土橋どばしまで行つた。
二筋の血 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
うちたからうばわれでもしたように、藤吉とうきち地駄じだんで、あとから、土橋どばしをひとびにんでった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
土橋どばしから少しはなれて馬頭観音ばとうかんのんが有り無しの陽炎かげろうの中に立っている、里の子のわざくれだろう、蓮華草れんげそう小束こたばがそこにほうり出されている。いいという。なるはど悪くはない。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
よく、芝口のおはぎ、神明の太々餅だいだいもち土橋どばしの大黒ずしなどがお土産にされたものでありました。
照して來りける故三五郎は土橋どばしの口に平伏しおそれながら願書御取上願ひ奉ると差出すを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ちひさな土橋どばしひとつ、小川をがは山川やまがはそゝぐところにかゝつてゐた。山川やまがはにははしがなくて、香魚あゆみさうなみづが、きやう鴨川かもがはのやうに、あれとおなじくらゐのはゞで、あさくちよろ/\とながれてゐた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
水棹みさをとれ、土橋どばしくぐれ、鳰鳥の火のあたま、いま夕日、それとかかれと、我が仰ぐやかた築地ついぢ、濠めぐるここをよろしと、采配やささとかかれと、前うちの金の鍬形、紙鎧、桜縅の大将我は。
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
土橋どばしの方角を指して帰って行く道すがらも、まだ捨吉はあのむかしの窓の下に、あの墨汁すみやインキで汚したり小刀ナイフえぐり削ったりした古い机の前に、自分の身を置くような気もしていた。壁がある。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
土橋どばしのところへは、よく、あめや、おもちゃみせています。
春の日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
土橋どばしのたもとにむかしからあるちいさい地蔵じぞうさんだろう。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
土橋どばしに白き烏瓜からすうり
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
最近さいきんは……もつと震災前しんさいぜんだが……土橋どばしのガードした護謨輪ごむわさつふうちに、アツとおもふとわたしはポンとくるまそと眞直まつすぐつて、車夫わかいしゆ諸膝もろひざで、のめつてた。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
小女こむすめ土橋どばしを渡って山へあがって往った。山西は上のベンチで話ができると思ったのでよろこんでいて往った。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
手配てくばりが済んで、坂本は役宅やくたくに帰つた。そして火事装束くわじしやうぞく草鞋掛わらぢがけで、十文目筒じふもんめづゝを持つて土橋どばしへ出向いた。蒲生がまふと同心三十人とは揃つてゐた。本多はまだ来てゐない。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
駕籠かごかえしたおせんの姿すがたは、小溝こどぶけた土橋どばしわたって、のがれるように枝折戸しおりどなかえてった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
土橋どばし難波橋なにわばしかをわたって省線のガードをくぐると、暗い壁のおもてに、血盟団を釈放せよなど、不穏な語をつらねたいろいろの紙が貼ってあった。其下にはいつも乞食が寝ている。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
飾り付けも立派でございまして、庭からずうと見渡すと、潮入しおいりの泉水せんすいになって、模様を取って土橋どばしかゝり、紅白の萩其のの秋草が盛りで、何とも云えんい景色でございます。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それゆえに手を分けて、毎夜、川すじの怪しい舟をあらためているのじゃが、只今、この土橋どばしのほとりへまいったところ、下の小舟のとまのうちで、甘やかな、女のさざごとが洩れる……
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
櫟津いちひづは大和の添上そへかみ郡だといふから、櫟津いちひづ檜橋ひばしとつづけると、神田の龍閑橋りうかんばしとか芝の土橋どばしとかいふふうに方向まで示してゐるので、その土地にくはしくもないくせに、大和生れの娘の顏を見て
春宵戯語 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
休日には郊外電車の駅で待合わせて、よく緑の武蔵野むさしのを散歩した。こう目をつむると、小川が見えて来る。土橋どばしが見えて来る。鎮守ちんじゅの森とでも云う様な、高い老樹の樹立こだちや、石垣が見えて来る。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
水の汚い小川にかゝつた土橋どばしの上に立つて、小池が來た方を振り返へると、お光の姿が見えなくなつてゐたので、後戻あともどりして探さうとすると、お光は町はづれの小間物屋こまものやに荒物屋を兼ねたやうな店から
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
うしろ射す夏の朝日にわが渡る土橋どばしのへりのすかんぽの花
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
歩くともなしに土橋どばしの上まで歩いて往った山西は、ふと橋のむこうからきれい小女こむすめの来るのを見た。それは友禅ゆうぜん模様の鮮麗あざやかな羽織を着た十六七の色の白い女であった。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
集合の場所は土橋どばしと極めた。京橋組への伝達には、当番与力わき勝太郎に書附を持たせて出して遣つた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
土橋どばし寄りだ、と思うが、あの華やかな銀座の裏を返して、黒幕を落したように、バッタリ寂しい。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蓮の葉の水に影おとすうしろには低き土橋どばしありてくれの橋桁
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そこは草や雑木ぞうきの生えた小藪こやぶになっていて、すぐ右手に箱根八里の街道へける間道ぬけみちがあって、それがだらだらとおりて土橋どばしを渡り、前岸ぜんがん山裾やますそを上流に向ってうねうねと通じていた。
山寺の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
土橋どばしなゝめ烏森からすもり、とまちもおどろ/\しく、やがて新橋驛しんばしえきいて、づぶ/\と濡幌ぬれほろたゝんでで、𤏋ぱつあかるつたところは、暴風雨あらしふね燈明臺とうみやうだい人影ひとかげくろく、すた/\とまばらに往來ゆきかふ。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
草のにほひする低い土橋どばし
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
それるとながれきこえて、とんところながさ一けんばかりの土橋どばしがかゝつてる。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
驚いたのは、其の土橋どばしが、あぶなつかしくこわごわれに成つて居た事では無い。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)