八幡はちまん)” の例文
へやは広からずといえども器具調度は相当にちんまりとまとまった二十騎町からは目と鼻のいち八幡はちまん境内に隣する一軒でありました。
八幡はちまんさまのマツよ。あれの三倍も、太かったぜ。そんでね、そのマツに指が五本はえてただ。一本の指が、お寺のはしらくれえ、あったぜ。
天空の魔人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
八幡はちまん、これにきまった、と鬼神がおしえたもうた存念。且つはまた、老人が、工夫、辛労しんろう、日頃のおもいが、影となってあらわれた、これでこそと、なあ。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ムチ打って先にまいったわけでござりまする。八幡はちまん、天の御加護もありましょう。今明中には、御使の一舟が、沖へ見えるに相違ございません
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
母の考えでは、夫がさむらいであるから、弓矢の神の八幡はちまんへ、こうやって是非ないがんをかけたら、よもやかれぬ道理はなかろうと一図いちずに思いつめている。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
困苦をともにした友に危難のせまった場合、無慈悲むじひに見捨て去るとは、実に見下げた人だ。八幡はちまんのたたりを恐れられい。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
狐は稲荷いなりの使わしめとなっているが、「使わしめ」というものはすべてはじめは「聯想れんそう」から生じた優美な感情の寓奇ぐうきであって、鳩は八幡はちまんの「はた」から
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
また横道へ入ったと言われて、もう気を落してしまって、それからは足が動かず、ちょうど見つけたのが八幡はちまんの森。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ふたりが八幡はちまんさまの石鳥居の前を通りかかると、そこで、こまを持って、ひとりでしょぼんとしていたけんぼう
いぼ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
清岡は小づくりの女が京葉だということは、いつぞやいち八幡はちまんの境内からひそかに君江の跡をつけた晩、一生涯忘れるはずのないほどはっきり見覚えている。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その流言に対して会津あいづ方からでも出たものか、八幡はちまんの行幸に不吉な事のあるやも測りがたいとは実に苦々にがにがしいことだが、万一それが事実であったら、武士はもちろん
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
季節は何時いつであったか聞きもらしたが、いち八幡はちまん境内けいだいで、わかい男と女が話していた。話しながら女の方は、見るともなしに顔をあげて、頭の上になった銀杏いちょうの枝葉を見た。
男の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
みんなはあの三にんのおじいさんは、住吉すみよし明神みょうじんさまと、熊野くまの権現ごんげんさまと、男山おとこやま八幡はちまんさまがかり姿すがたをおあらわしになったものであることをはじめてって、不思議ふしぎおもいながら
大江山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
しかり、彼らが八幡はちまんの旗は、翩々へんぺんとして貿易風にひるがえり、その軽舟は、黒潮の暖流に乗じて、台湾、呂宋ルソンより、安南アンナンに及び、さらにスマタラ海峡を突過して、印度インド洋に迫らんとす。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
という八幡はちまん太郎と貞任さだとうとの連歌のごときも、考えてみればただ単なる言葉のしゃれで、とうてい弓につがえてせまわる勇士の頭の中に、浮かんでくるような文句ではない。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「信長は岡崎まで御出馬あるぞ、城之介殿は八幡はちまんまで、家康信長は野田へ移らせ給いてあり、城堅固に持ちたまえ、三日のうち運を開かせ給うべし」と叫んで、はりつけにせられたのは
長篠合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
馬のの様な狭い山の上のやゝ平凹ひらくぼになった鞍部あんぶ八幡はちまん太郎たろう弓かけの松、鞍かけの松、など云う老大ろうだいな赤松黒松が十四五本、太平洋の風に吹かれて、みどりこずえ颯々さっさつの音を立てゝ居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
観音かんのん釈迦しゃか八幡はちまん天神てんじん、——あなたがたのあがめるのは皆木や石の偶像ぐうぞうです。まことの神、まことの天主てんしゅはただ一人しか居られません。お子さんを殺すのも助けるのもデウスの御思召おんおぼしめし一つです。
おしの (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
石川博士など実地に深山を歩きまわって調べてみて、その結果、岐阜の奥の郡上ぐじょう郡に八幡はちまんというところがありまして、その八幡が、まあ、東の境になっていて、その以東には山椒魚は見当らぬ
黄村先生言行録 (新字新仮名) / 太宰治(著)
大生の八幡はちまんへも行ったことアなえという田舎気質かたぎの母様だから、一々気に障るこたアあるだろうが、実はこういう事があって気色が悪いとか、あゝいう事をいわれてはならぬという事があるなら
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
軒がくずれ掛ったような古い薬局が角にあるでら筋を越え、昼夜銀行の洋館が角にある八幡はちまん筋を越え、玉の井湯の赤い暖簾が左手に見える周防町筋を越えて半町行くと夜更けの清水しみず町筋に出た。
世相 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
それから一町ばかりのあいだを、スッカリ失望した気持ちになって、小急ぎに歩いた私は、八幡はちまん前の賑やかな通りへ出る四五軒手前の荒物屋の前まで来ると、フト立ち止ってその店の中へ這入った。
空を飛ぶパラソル (新字新仮名) / 夢野久作(著)
雨は煙のようで、遠くもない八幡はちまんの森や衣笠山きぬがさやまもぼんやりにじんだ墨絵の中に、薄く萌黄もえぎをぼかした稲田には、草取る人の簑笠みのかさが黄色い点を打っている。ゆるい調子の、眠そうな草取り歌が聞こえる。
竜舌蘭 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
鎌倉でも八幡はちまんの森ではよく時鳥が鳴くそうであります。
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
八幡はちまん地獄
おさんだいしよさま (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
これは、常談だ。だが、黒川君、今度は、真面目な、話だが、僕は、昨夜ゆうべ、非常に遅く、十二時頃だった。この裏の、八幡はちまんさまの、森の中を
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そこで同じように売卜者ばいぼくしゃを見つけて、また三本ばかりふところにおまじないを施させておくと、さらに駆けつけさせたところは問題の深川八幡はちまん
「ただしわしが今夜言ってきかせたことだけは以後踏みはずすな。八幡はちまん、尊氏がこよいの言に偽りは持たぬ。何事もその辺を考えてやってくれい」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
晃 山沢、何にもない孤児みなしごなんだ。鎮守の八幡はちまんの宮の神官かんぬしの一人娘で、その神官の父親おとっさんも亡くなった。叔父があって、それが今、神官の代理をしている。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
道をげて胆吹山へ侵入した道庵が、どうして、いつのまに、ここまで来着したか、順路を彦根、八幡はちまん安土あづち、草津と経て、相当の乗物によって乗りつけたか
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
俊寛 あの時成親殿は八幡はちまん甲良大明神こうらだいみょうじんに百人の僧をこもらせて、大般若だいはんにゃ七夜ななよの間ぎょうじさせました。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
すいほど迷う道多くて自分ながら思い分たず、うろ/\するうち日はたち愈〻いよいよとなり、義経袴よしつねばかま男山おとこやま八幡はちまんの守りくけ込んでおろかなとわらい片頬かたほしかられし昨日きのうの声はまだ耳に残るに、今
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
土地の八幡はちまん神社の御神体になっているといった人もあれば、海岸の岡の上に今でもあって、もう三尺余りになっているという人もありました。(太宰だざい管内志。福岡県糸島郡深江村)
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
午後万歳の声を聞いて、あわてゝ八幡はちまんに往って見る。最早もう楽隊がくたいを先頭に行列が出かける処だ。岩公は黒紋付の羽織、袴、靴、ちゃ中折帽なかおれぼうと云うなりで、神酒みき所為せいもあろう桜色になって居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
七つのとし石清水いわしみず八幡はちまんのおみや元服げんぷくして、八幡太郎はちまんたろう義家よしいえのりました。
八幡太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
市ヶ谷八幡はちまんの桜早くも散って、ちゃ稲荷いなりの茶の木の生垣いけがき伸び茂る頃、濠端ほりばたづたいの道すがら、行手ゆくてに望む牛込小石川の高台かけて、みどりしたたる新樹のこずえに、ゆらゆらと初夏しょかの雲凉しに動く空を見る時
八幡はちまん様の
十五夜お月さん (旧字旧仮名) / 野口雨情(著)
「お蔦と手を切ること。次に、以後必ず行状相改むべきこと。右二箇条、八幡はちまん御照覧、違背申すまじくそうろう——でいい」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
江戸三社祭じゃまつりと称せられている年中行事のうちの一つで、すなわち深川八幡はちまんの八月十五日、神田明神の九月十五日、それから六月十五日のこの山王祭りを合わせて
「ほら、八幡はちまんさまの石がき……。あの石がきの石が、一つだけ、ぬけるようになっているんだ。きみはその石のうしろに、からの紙入れを、たくさん、かくしたじゃないか。」
超人ニコラ (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
武将だから毘沙門びしゃもんとか、八幡はちまんとかへ願えばまだしもいものを、愛宕山大権現へ願った。
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
一体堀割の土手つづきで、これから八幡はちまん前へ出る蛇のうねった形の一条ひとすじ道ですがね、洲崎すさきへ無理情死しんじゅうでもしに行こうッて奴より外、夜分は人通のない処で、場所柄とはいいながら、その火事にさえ
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二時間の後、用達ようたしに上高井戸に出かけた。八幡はちまんの阪で、誰やら脹脛ふくらはぎを後からと押す者がある。ふっと見ると、烏山からすやま天狗犬てんぐいぬが、前足をげて彼のはぎを窃とでて彼の注意をいたのである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
関東などで一番多くいうのは、八幡はちまん太郎義家よしいえであります。いくさなかばに水が得られないので、神に念じ、弓をもって岩に突き、また矢を土の上にさすと、それから泉が流れて士卒ことごとく渇をやした。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
八幡はちまんさまの境内けいだい今日けふは朝から初午はつうま太鼓たいこきこえる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
もう半年ほどまえから深川八幡はちまん裏に継母と三人暮らしのわび住まいをしていたのだそうですが、十日ほど以前のある晩、父親が突然不思議な死に方をしたというのです。
うしろふり向きしそのあわれさ、八幡はちまん命かけて堪忍ならずと珠運七と呼留よびとめ、百両物の見事に投出して、亭主お辰のおどろくにもかまわず、手続てつづき油断なくこの悪人と善女ぜんにょの縁を切りてめでたし/\
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その八幡はちまん玉垣たまがきの前へならんでいた夜店の燈籠売とうろううりがとなりの者へはなしかけた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
場所は東京の世田谷せたがや区の、ある屋敷町です。広いおうちのならんだ、屋敷町に、むかしながらに森のある八幡はちまんさまのおやしろがのこっていて、その前に野球のできるような広っぱがあるのです。
虎の牙 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ツクツクボウシ 近江おうみ八幡はちまん