何卒なにとぞ)” の例文
『——伝右どの、お気持は有難くいただいた。然し、公儀の断罪を待つ私共……身に余りまする。何卒なにとぞ、お火鉢はお退げ置き下さい』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
読者よ、何卒なにとぞ茲に見られる私の執拗を咎めないで下さい。お咎めになるまでもなく、私自身かういふ点では十分に罰せられてゐる。
亡弟 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
「よろこんでお待ちいたしまする。何卒なにとぞこの後はお心置きなく——では、師の坊までまいる途中、今日はこれで失礼いたしまする」
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
何卒なにとぞ私が目をつぶりますまででよろしゅうございますから、死の天使アンジョ御剣おんつるぎが茂作の体に触れませんよう、御慈悲を御垂れ下さいまし。
黒衣聖母 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
はじめて、手紙を差上げる無礼、何卒なにとぞお許し下さい。お蔭様で、私たちの雑誌、『春服』も第八号をまた出せるようになりました。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
竜神何卒なにとぞ檀越だんおつに一度逢わせてくださいと頼むと、数日後果して貴人より召され、夥しく供養されたという(『宋高僧伝』七)。
最後にくれぐれもお願い申し上げたいことは、僕がこんな手紙を差上げたことを何卒なにとぞこいさんに秘密にしておいて戴きたいのです。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そのゴタゴタもあって、咲枝はあなたにさし上げる夜具をまちがえて送ってしまいましたが、あとでとりかえますから、何卒なにとぞあしからず。
牢舍らうしやさするやと尋ねられければお菊は何卒なにとぞ父利兵衞吉三郎ともに御免おんゆるし下され其代りに私しをらう御入下おんいれくださるゝやうにと涙ながらに申立るを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
これがわたしの最後の我儘ですから、何卒なにとぞおゆるし下さい。……妾は貴方をだますまいとした妾のまごころを、欺し得ないで貴方と結婚しました。
キチガイ地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
何卒なにとぞ神様かみさまのおちから子供こども一人ひとりさずくださいませ。それがおとこであろうと、おんなであろうと、けっして勝手かってもうしませぬ……。
此のたびお聞きに入れまするは、業平文治漂流奇談と名題なだいを置きました古いお馴染なじみのお話でございますが、何卒なにとぞ相変らず御贔屓ごひいきを願い上げます。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
何卒なにとぞ御一答承りたく、わざと金六を遣わし候。御答出来かね候わば、爾後じごは使い差出さず候に付き、左様抑聞おおせきけ下さるべく候。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「明日のオペラ座の切符手に入り候に付、主人同道お誘いに参り可申もうすべく候、何卒なにとぞ御待受被下度くだされたく候。母上様」と云うのでした。
最終の午後 (新字新仮名) / フェレンツ・モルナール(著)
老いたる親に思いもよらぬわずらいをかけて先だつ身さえ不幸なるに、死してののちまでかかる御手数をかけるは、何とも心苦しいが、何卒なにとぞこの金をもっ
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
何卒なにとぞゆるください、陛下へいかよ』二點ツウきはめて謙遜けんそんした調子てうしつて片膝かたひざをつき、『わたしどものりましたことは——』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
うけたらよろしかろうとの仰せにて止むなくおひきうけいたしたる次第、何卒なにとぞ若年の拙者をお引き廻し願いとう存ずる
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
今更申上候迄にも御座候はねば、何卒なにとぞよろし御判おんはん被遊度あそばされたく夜一夜よひとよ其事のみ思続け候て、毎夜寝もせず明しまゐらせ候。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
これを養育はぐくむことかなはず、折角頼みし仇討ちも、仇になりなん口惜しさ、推量なして給はらば、何卒なにとぞこの児を阿姐あねごの児となし、阿姐がもて育てあげ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
わたくしめはきちと申す不束ふつつかな田舎者、仕合しあわせに御縁の端につながりました上は何卒なにとぞ末長く御眼おめかけられて御不勝ごふしょうながら真実しんみの妹ともおぼしめされて下さりませと
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
沒する程の所あり何卒なにとぞ小山の上を少しの間歩き玉ひてと車夫の乞ふに心得たりと下りては見たれどなまじ車に足をすくめたる爲め痛み強くわづかに蝙蝠傘かうもりがさ
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
綱もすなわち幽霊れこには恐れる。といわれて得右衛門大きに弱り、このまま帰らんは余り腑甲斐ふがい無し、何卒なにとぞして引張り行かん。はて好い工夫はおっとある。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「手前滝沢清左衛門せいざえもん不束者ふつつかものにござりまするが何卒なにとぞ今後お見知り置かれ、別してご懇意にあずかりたく……」
戯作者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
何卒なにとぞ平生の心事御了解被成下大納言様御手筋を以乍恐朝廷へ御取成寛大の御汰沙只管奉歎願誠恐誠惶ひたすらせいきょうせいこうたんがんたてまつる 謹言
乱世 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
何卒なにとぞ右の儀、高等二学年修了以上の方々及び其父兄へ御懇話の上、一人にても二人にてもおつかわ被下くださらば、邦家ほうか中等教育の為め、光栄これにくもの無之候これなくそうろう頓首再拝とんしゅさいはい
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
何卒なにとぞ此際厳重に撲滅策ぼくめつさくらるゝ様、閣下より一言、政府へ御指図下ださる義を懇願致しますので——
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
(そして相当の長さにわたつて信教に関する力強い訓戒が語られ、最後は次の様に結んである)では、もう一度左様さようなら、愛しい妹よ、そして何卒なにとぞあなたを救ふ唯一者
ジェイン・グレイ遺文 (新字旧仮名) / 神西清(著)
此辺之処閣下御洞察に而、御病中ながら何卒なにとぞ御処置被遊候御儀、ひとへに奉願候也。正月二十一日薫子。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
まことにまことに申上かね候え共、少々お目もじの上申上たき事御ざ候間、何卒なにとぞ御都合なし下されて、あなた様のよろしき折御立より下されたく幾重にもおん待申上候。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
なほまたたとひあなたが私の国語を承知に成りませんとしてもかくこの手紙の内容を御会得ごゑとく下さる事を私は希望致します。夫人よ、この希望を何卒なにとぞこの差出人にお許し下さい。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
目下弁護事務にてすこぶる有望の事件を担当し居り、この事件にして成就じやうじゆせば、数万すまん報酬はうしうを得んこと容易なれば、其上そのうへにてすべて花々しく処断すべし、何卒なにとぞ暫しの苦悶を忍びて
母となる (新字旧仮名) / 福田英子(著)
何卒なにとぞ御示下され度希上候。土山の下の終に、深山にわびしくくらし居り候老僧にかしづきゐる婦人の京の客の帰り行くをたゝずみてはるかに見送る心情、いかにも思ひやられ候。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
得ば本会の面目不過之これにすぎずと存そろ何卒なにとぞ御賛成ふるって義捐ぎえんあらんことを只管ひたすら希望の至にえずそろ敬具
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼の言葉は、「ファアモレモレ(何卒なにとぞ)」が繰返される外、「家の者が呼んでいる」とも言っているらしい。そのうちにアリック少年とラファエレとサヴェアとがやって来た。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
つかはさるべきお約束やくそくとや、それまでのお留守居るすゐまた父樣とうさまをりふしのお出遊いでに、人任ひとまかせらずは御不自由ごふじいうすくなかるべく、何卒なにとぞ其處そこまはせて、白波しらなみ浦風うらかぜおもしろく
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
何卒なにとぞ令弟の死を超えて一日も早く涙の底より起ち上られますよう、願わくばこの苦き盃を速やかに御身の御家庭より離ちたまわんことをひたすらに上帝に祈願して已みませぬ。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
庭のコスモス咲き出で候はば、私帰るまであまりおみなされずにお残し下されたく、軒の朝顔かれ/″\の見ぐるしきも、何卒なにとぞ帰る日までりとらせずにお置きねがひあげ候。
ひらきぶみ (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
私儀感ずるところ有之これあり、今回教会員としての籍を退きたく、何卒なにとぞ御除名下されたくそうろう
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
日頃一面識も無き閣下に突然斯様このような無礼な手紙を差し上げる段何卒なにとぞお許し下さい。
陳情書 (新字新仮名) / 西尾正(著)
何卒なにとぞ、御用お命じ下さいますなら、私ども幸いと存じるものでございます。当ホテルを本日訪問いたしますれば、あなたさまの御来訪を教えられましたにつきまして、出張いたしました。
罌粟の中 (新字新仮名) / 横光利一(著)
背骨も曲つてしまひます。何卒なにとぞこれでお暇を願ひ、郷里に帰りたうございます。
北守将軍と三人兄弟の医者 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
貴兄御困難のことも大方推量致し居候えども何卒なにとぞ出来るだけの御奮発願上候。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
当局の御本人におい云々しかじかの御説もあらば拝承はいしょういたたく何卒なにとぞ御漏おんもら奉願候ねがいたてまつりそうろう
何卒なにとぞ々々お出で下されたく、太陽と月を同時に仰ぎつつ待ち居ります。
春:――二つの連作―― (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
小生も追々衰弱に赴き候につき二十句の佳什かじゅうを得るために千句以上を検閲せざるべからずとありては到底病脳の堪ふる所に非ず候。何卒なにとぞ御自身御選択ごせんたくの上御寄稿被下候様くだされそうろうよう希望候。以上。(二月十二日)
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
彼御所持の無銘の了戒二尺三寸斗の御刀、何卒なにとぞ拝領相願度、其かわり何ぞ御求成度(なされたく)、西洋もの有之候得ハ御申聞奉願候。先ハ今持合候時計一面さし出し申候。御笑納奉願候。
段々酒酔ノ上、恐レ入ッタトテ、殊更相支配ユエニ、何卒なにとぞ御支配ヘハ話ヲシテクレルナトテ、和ボクヲシタ、ソレカラ酒ガ又出テ、大竹が云ウニハ一パイ飲メトイウカラ、酒ハ一向呑メヌトイッタラ
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
肩身の広き思い致候、此上とも何卒なにとぞ御用心被遊候様御願申上候
仙人掌の花 (新字新仮名) / 山本禾太郎(著)
「成程これは無調法……十年前なら其方そなたはまだ子供でござったろう——やあ、思わぬ罪を作るところ何卒なにとぞひらにゆるして下され人違いじゃ」
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
ねがはれ何卒なにとぞわたく御役御免下ごめんくださるべしといはれしかば何故退役たいやくねがはるゝやと申さるゝに大岡殿此度このたび煙草屋たばこや喜八裁許さいきよちがとがなき者を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)