二十日はつか)” の例文
「——すぐに帰ってきますから、どうぞ、二十日はつかほどおひまを下さいまし、ほんとに、今いったような、知らせが来ているのですから」
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二十日はつかは日がいいというので、いよいよその朝に草鞋わらじを穿くことになった。その前の日に六三郎は母の寺詣りに行きたいと言った。
心中浪華の春雨 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「誰か飯をくれ、食うものをくれ、今日でもう二十日はつかも飯を食わぬ……わらでもいい、木の根でもいい、俺に何か食べるものをくれ」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それから二十日はつか余りの、彼女と私との、あの屡々の媾曳を、ただれ切った、悪夢の様な其の日其の日を、何と書き記せばよいのであろう。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そんなことをいいいい、毎日まいにちらしているうちに、十日とおかたち、二十日はつかたち、もうかれこれ一月ひとつきあまりの月日つきひがたちました。
松山鏡 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
生まれてからまだ二十日はつかばかりの子山羊を、昼間川上かわかみへつれていって、こんちゅうを追っかけているうち、つい忘れてきてしまったのだ。しまった。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
何しろ、暮の内から御覧の通り、師走の二十日はつか前後に、公園の梅が七分咲きで、日中綿入をかさねますと、ちと汗が出ますくらいでござりました。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私が、ともかくもお前と別れることになって、当分永い間東京に帰らぬつもりで函根はこねにいって、二十日はつかばかりいて間もなくまた舞い戻って来た時
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「こんなくらいなら、湯治に行ったって効験ききめがありゃしない。」と言って、叔父は笑っていたが、するうちに叔母は二十日はつかもいないで帰って来た。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
人は二十日はつか足らずの目のさきに春を控えた。いちに生きるものは、忙しからんとしている。越年おつねんはかりごとは貧者のこうべに落ちた。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
九月も二十日はつかを越えると、大江戸もこれからがもみじの秋で、上野のお山の枝々こずえに、ちらほらとにしき模様が見えるようになるといっしょで
... 私も和郎おまえさんも二十日はつかばかり泣き通したっけ」胃吉「あの時の事はまだ忘れない。モーモーこんな商売はめようと思った。虫のいる食物たべものは私も手を ...
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「そうさ……あれはいつ頃じゃったっけなア……何でも二十日はつかばかり過ぎた時分じゃ、なかったけがと思うでやすが」
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
それにしても、これが二十日はつか前には小型テレビを喜びながら入院したあの気さくな病人だとはとうてい思えない。
日めくり (新字新仮名) / 壺井栄(著)
そのうちに、二十日はつかほどの日数が過ぎてしまった。ちょうどそのころ、読者もまだよくおぼえておられることと思うが、あの天狗岩事件が起ったのである。
火星兵団 (新字新仮名) / 海野十三(著)
二十日はつかの月の明りではるかに白く海が見え渡り、霜が厚く置いて松原の昨日とは変わった色にも寒さが感じられて、快く身にしむ社前の朝ぼらけであった。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
すっかり全快した今になって見れば、二十日はつか以上も苦しんだ大病を長吉はもっけの幸いであったと喜んでいる。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
待ちこがれて居た二月二十日はつか謝肉祭キヤルナヷル、その前後五日いつかわたつて面白かつた巴里パリイの無礼講の節会せちゑも済んで仕舞しまつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
渡邊祖五郎殿という表書うわがき、只今のように二日目に来るなどという訳にはまいりません。飛脚屋へ出しても十日とおか二十日はつかぐらいずつかゝります。読下よみくだして見ると
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
横顔はとにかく中止として今度はスケッチ板へ一気呵成いっきかせいに正面像をやってみる事にした。二十日はつか間苦しんだあとだから少し気を変えてみたいと思ったのである。
自画像 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
この出来事があってから二十日はつかばかり過ぎに、「お叱り」のものの残らず手錠を免ぜられる日がようやく来た。福島からは三人の役人が出張してそれを伝えた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
髪はこの手合てあいにおさだまりのようなお手製の櫛巻なれど、身だしなみを捨てぬに、小官吏こやくにん細君さいくんなどが四銭の丸髷まるまげ二十日はつかたせたるよりははるかに見よげなるも
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
と、自分じぶん自分じぶんのやっていることをいいわけしてなぐさめ、とうとう、二十日はつかばかりでうつしおえました。
「先月の二十日はつかにお払ひ下さるべきのを、いまだにおわたしが無いのですから、何日いつでも御催促は出来るのです」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
だつて、かんがへていらつしやらないも同然どうぜんだわ。今日けふはもう二十日はつかぎよ。それに、こないだから、子供こども洋服やうふくくつをあんなにつてやりたいつてつてたぢやないの?
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
旅の事ゆゑ、なほさら寒さもみるであろ。さうはいふものの、たとへ二十日はつかでも住み馴れて見ると、この離家はなれが何とはなしに古びて来て、矢つ張り二人ふたり住居すまゐらしい。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
二十日はつか許りも過ぎてからだつたらうか、源助の禮状の葉書が、三十枚も一度に此村に舞込んだ。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
はすぐに、村役場むらやくば證明書しようめいしよもらひにつたが、失望しつばうしてかへつてた。證明書しようめいしよなるものが下附かふされるには、十かゝるか二十日はつかかゝるか、わからないといふことだつた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
千鶴子母子おやこが右の問答をなしつるより二十日はつかばかり立ちて、一片の遺骨と一通の書と寂しき川島家に届きたり。こつは千々岩の骨、書は武男の書なりき。その数節を摘みてん。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
二十日はつかあまりの月がねぼけたように町の片側をうすねずみ色に明るくしていた。父の足元は巌が予想したほどみだれてはいなかった、かれは町の暗い方の側を急ぎ足で歩いた。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
クリスマスと新年の祝いも、いつしか過ぎ去りまして、はや今日は二十日はつか正月となりました。昨年さくねんの御正月には、御なずかしき御家に上りまして、御雑煮おぞうにの御祝いに預りました。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
こうして二十日はつかばかりたちますと、やっと沼ばたけはすっかりどろどろになりました。
グスコーブドリの伝記 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
この二十日はつかから、夏休みになりますので、本当は九月から、お願いしてもいいのですが、貴女のご都合がおよろしければ、休み中軽井沢の方へ行きますので、あちらへ来て頂いても
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
さうだわ、十八日につたつて、お神さんから、今聞いたんだわ……。それで、今日が、五月九日……。さうか、あん時、来てても駄目なんだわ、あれが、先月の二十日はつかだから……。
モノロオグ (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
三左衛門は江戸を出てこの箱根の山中さんちゅうへ来てからもう二十日はつかあまりになっていた。
竈の中の顔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
今日けふ今日けふはとおもちながら、なほ其事そのことおよばずして過行すぎゆく、年立としたちかへるあしたより、まつうちぎなばとおもひ、まつとりつれば十五にちばかりのほどにはとおもふ、二十日はつかぎて一げつむなしく
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
二十日はつかあまりいっしょに暮すうち、成信はすっかり伝九郎が好きになった。
泥棒と若殿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「アイ、二十日はつかが俺の誕生日だツて、阿母おつかあが今川焼三銭買つて、ちやんの仏様へ上げて、あとは俺が皆な食べたよ」と、突如だしぬけに返事したるは、覚束おぼつかなき賃仕事に細きけむり立て兼ぬる新後家しんごけせがれなり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
今年、田舎の二十日はつか正月がすんだ頃、アヤが、下手な、それでいてかくのはっきりした字で、祖母ちゃんはこの頃死にたがってばかりいます、死ぬかと思って私は心配ですという手紙をよこした。
小祝の一家 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
一つの花が咲き、次のつぼみが咲き、株上のいくつかの花が残らず咲きくすまで見て、二十日はつかもかかったというのであろう。いくら牡丹でも、一りんの花が二十日はつか間もしぼまず咲いているわけはない。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
ねえ君! わたしが革命党を組織してからまだ二十日はつかにもならないのに、掠奪事件が十何件もあってまるきり挙らない。わたしの顔がどこに立つ? 罪人が挙っても君はまだ愚図々々している。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
その趣味しゆみしぶれいげると、三上みかみがその著名ちよめいなる東京市内出沒行脚とうきやうしないしゆつぼつあんぎやをやつて、二十日はつかかへつてないと時雨しぐれさんは、薄暗うすぐら部屋へやなか端座たんざして、たゞ一人ひとり双手もろて香爐かうろさゝげて、かういてゐる。
いかなるわざをなしてもこの地に留まりて、君が世に出でたまわん日をこそ待ためと常には思いしが、しばしの旅とて立ち出でたまいしよりこの二十日はつかばかり、別離の思いは日にけに茂りゆくのみ。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しかるに日本の国民が乱暴をしてあまつさえ人を殺した、如何いかにしてもそのせめは日本政府にあっまぬかるべからざる罪であるから、こののち二十日はつかを期して決答せよとう次第は、政府から十万ポンドの償金を取り
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ベレロポンデ,スもてなして二十日はつかに亘り宿らしめ
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
…………二十日はつかあまりに四十りやう、つかひはたし
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
どんどは そう 二十日はつか ほねあげ
一休さん (新字新仮名) / 五十公野清一(著)
二十日はつか鼠は巣にこもる
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
この月も二十日はつかになる。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ここ長門ながとの府中滞陣も、いつか二十日はつか以上になっている。——するとここに果たして、尊氏が気にかけていた一報が九州から聞えた。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)