不可いけな)” の例文
不気味にすごい、魔の小路だというのに、おんなが一人で、湯帰りの捷径ちかみちあやしんでは不可いけない。……実はこの小母さんだから通ったのである。
絵本の春 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其麽そんな風ぢや不可いけない、兄弟一緒に寄越すさ。遲く入學さして置いて、卒業もしないうちから、子守をさせるの何のつて下げて了ふ。
足跡 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「そうかい、そう思っていれば間違はない。他人のなかに揉まれて、ちっとは直ったかと思っていれば、段々不可いけなくなるばかりだ」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
うねえ、もすこおほきくなりたいの、らずらずのうちに』とつてあいちやんは、『三ずんばかりぢや見窄みすぼらしくッて不可いけないわ』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
「菊ちゃん、お出し」と言って、お種は妹娘いもうとの分だけ湯に溶かして、「どれ、着物おべべがババく成ると不可いけないから、伯母さんが養ってげる」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そして、その混乱の理由は、「その日ではない」筈のことが、「その日である」ことに変った意外さに、混乱したと見ては不可いけないであろうか。
「用心しないと不可いけない。何処どこからか石を投げる奴があるぞ。」と、巡査は注意した。権次は首をすくめて岩のかげに隠れた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
うさなあ。実際なかの事は、なにうなるんだかわからないからな。——うめ今日けふ直木なほきに云ひけて、ヘクターを少し運動させなくつちや不可いけないよ。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
只、假初かりそめの風邪だと思つてなほざりにしたのが不可いけなかつた。たうとう三十九度餘りも熱を出し、圭一郎けいいちらうは、勤め先である濱町はまちやうの酒新聞社を休まねばならなかつた。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
「君まで病人になっては不可いけないぞ。心を丈夫にもって、早く健康になって働くのだ、ね……」
友人一家の死 (新字新仮名) / 松崎天民(著)
「用心なさいよ、それは不可いけない」
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「もう不可いけない。手が廻った」
赤格子九郎右衛門の娘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
……お前は女だから神経を起すと不可いけない、私は工面の悪いやぶのかわりにゃ、大地震の前兆だって細露地を抜けるのは気にならないから。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其麽そんなふうぢや不可いけない、兄弟一緒に寄越すさ。遅く入学さして置いて、卒業もしないうちから、子守をさせるの何のつて下げて了ふ。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「綾さん、どっか悪いのかい。こんな畳の上に寝転んでいて、風でも引いちゃ不可いけないじゃないか。そうしていないで、もらってはどうだね」
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「でも、あの人はまた私が不可いけないんだと言うんですの。だから私もそうとばかり思っていたんですけれど……真実ほんと気毒きのどくだと思っていたんです」
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「ねえ、あなた。ほんたうに降つて来ると困りますね。あなたどうしても今日お帰りにならなければ不可いけないんでせう。」
しかしかなしいことには、ちひさなまたしまつてゐて、ちひさな黄金こがねかぎ以前もとのやうに硝子ガラス洋卓テーブルうへつてゐました、『まへより餘程よつぽど不可いけないわ』とこのあはれなあいちやんがおもひました
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
咲子嫂さまは相變らず一萬圓くれとか、でなかつたら裁判沙汰にするとか息卷いて、たちの惡い仲人なかうどとぐるになつてお父さまをくるしめてゐます。何んといつてもお兄さまが不可いけないのです。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
少し運動させなくっちゃ不可いけないよ。ああ大食おおぐいをして寐てばかりいちゃ毒だ
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「甲府への従軍は不可いけない」
甲州鎮撫隊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
茶店のえんに腰を掛けて、渋茶を飲みながら評議をした。……春日野の新道しんみち一条ひとすじ勿論もちろん不可いけない。峠にかかる山越え、それも覚束おぼつかない。
栃の実 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いか。お前も学校に入ると、不断先生の断りなしに入つては不可いけないといふ処へ入れば、今の人の様に叱られるんだぞ。』
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「それだから気をけなければ不可いけない。世間では針ほどの事を棒のように吹聴するのだから……。しか真実ほんとうにお前はのお葉とか云う女に関係はあるまいな。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
『オイ/\、素通すどほり不可いけないよ。』とお大は一段聲を張あげてれつたさうに
絶望 (旧字旧仮名) / 徳田秋声(著)
「座敷を別に、ここに忍んで、その浮気を見張るんだけれど、廊下などで不意に見附かっては不可いけないから、容子ようすを変えるんだ。」
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
『可いか。お前も學校に入ると、不斷先生の斷りなしに入つては不可いけなといふ處へ入れば、今の人の樣に叱られるんだぞ。』
足跡 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
「それが不可いけないから謝るんだよ。あたしうしてもお前さんのお嫁にゃアなれないんだから……。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「うゝん、誰だか知らない。手桶の中に充満いっぱいになつて、のたくつてるから、それだから、げると不可いけないからふたをしたんだ。」
夜釣 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
『だから不可いけない。』と昌作は錆びた声に力を入れて、『体の大小によつて人を軽重するといふ法はない。真箇ほんとに俺は憤慨する。うちの奴等もみんな然うだ。』
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「うゝん、だれだからない。手桶てをけなか充滿いつぱいになつて、のたくつてるから、それだから、げると不可いけないからふたをしたんだ。」
夜釣 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
自分の藝術から言へば出來るだけそれを排斥しなきや不可いけない。然しそれが出來ない! 抽象的に言ふと、僕の苦痛が其努力の苦痛なんです、そして結局の所——
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
怠けちゃあ不可いけないとわれた日にゃあ、これでちっとは文句のある処だけれど、お精が出ますとおっしゃられてみると、恐入るの門なりだ。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自分の芸術から言へば出来るだけそれを排斥しなきや不可いけない。然しそれが出来ない! 抽象的に言ふと、僕の苦痛が其努力の苦痛なんです。そして結局の所——
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
が、たれては不可いけない、きつては不可いけない、いづれ、やがて仕事しごと出来できると、おうら一所いつしよに、諸共もろともにおかゝつてあらためて御挨拶ごあいさつをする。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
面倒はらん。先生が立処たちどころに手をいて、河野へ連れてお出でなすって構いません。早瀬が不可いけない、と云えば、断然お断りをするまでです。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「待って下さい、形は似ていますけれどもね、いま玉子を言っては不可いけない。ここへ、またお使者が飛んで来て、鶏の因縁になるんですから。」
「じゃあその伯母さんがお案じだろうから、私が送って行ってあげましょう、ね。鳥居前ッて言うのはどこ? 待伏まちぶせをしてると不可いけないから。」
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(短刀をお抜き、さあ、お殺し、殺しように註文がある。切っちゃ不可いけない、十の字を二つ両方へ艸冠くさかんむりとやらにいわくをかいて。)
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ご病気だった。それだもの、湯ざめをなさると不可いけない。猪口ちょこでなんぞ、硝子盃コップだ、硝子盃。しかし、一口いかがです。」
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
不可いけない、不可い、なお目立つ。貴女、失礼ですが、裾を端折はしょって、そう、不可いかんな。長襦袢ながじゅばん突丈ついたけじゃ、やっぱり清元の出語でがたりがありそうだ。」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
だから學校がくかうなまけては不可いけない、したがつてをそはつたことわすれては不可いけない、但馬たじま圓山川まるやまがはそゝぐのも、越後ゑちご信濃川しなのがはそゝぐのも、ふねではおなじうみである。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
うまく手繰って聞き出したら、天丼でも御馳走ごちそうになるんだろう。いやだよ、どこの誰にはばかってかくすッということはないけれども、そりゃ不可いけないや。」
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……くどいと不可いけない。道具だてはしないが、硝子戸がらすどを引きめぐらした、いいかげんハイカラな雑貨店が、細道にかかる取着とッつきの角にあった。私は靴だ。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わがまゝのやうだけれど、銀杏返いてふがへし圓髷まるまげ不可いけない。「だらしはないぜ、馬鹿ばかにしてる。」が、いきどほつたのではけつしてない。一寸ちよつとたびでも婦人をんなである。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
……はなし騷々さう/″\しい。……しづかにしよう。それでなくてさへのぼせて不可いけない。あゝ、しかし陰氣いんきると滅入めいる。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
まずいものを内服のませて、そしてお菓子を食べては悪いの、林檎を食べては不可いけないの、と種々いろんなことを云うんですもの。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「飛んでもない、いまは落人だ。——ああ、いものがある。別嬪べっぴん従妹いとこ骨瓶こつがめです。かりに小鼓と名づけるか。この烏胴からすどうやッつけよう、不可いけないかな。」
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひとりこれをるものは吾輩わがはいだよ。してこれすくふものもまた吾輩わがはいでなければ不可いけない。しかかれかへみちは、ちやんいてるんだ。たゞ少時しばらく辛抱しんばうです。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
……この土地じゃ、これでないと不可いけないんだって、主人が是非と云いますもの、出の衣裳だから仕方がない。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)