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閾
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しきゐ
ふりがな文庫
“
閾
(
しきゐ
)” の例文
その時、呼び笛の声が高く響き、もう一人の男が闇から現はれて、その
閾
(
しきゐ
)
に足をかけた。裕佐は繩を持つてゐるその右の手頸を掴んだ。
青銅の基督:――一名南蛮鋳物師の死
(新字旧仮名)
/
長与善郎
(著)
歿
(
なく
)
なつた子供の揺籃に倚懸つてゐる母親、楽園の門の
閾
(
しきゐ
)
に立てゐるエヴ、宝は盗まれて其跡に石の置いてあるのを見た吝嗇な男
クラリモンド
(新字旧仮名)
/
テオフィル・ゴーチェ
(著)
「むゝ。」と
膨
(
ふく
)
れ氣味の
坊
(
ぼ
)
ツちやまといふ
見
(
みえ
)
で、
不承不精
(
ふしやうぶしやう
)
突出
(
つきだ
)
された
品
(
しな
)
を受取ツて、
楊子
(
やうじ
)
をふくみながら中窓の
閾
(
しきゐ
)
に腰を掛ける。
平民の娘
(旧字旧仮名)
/
三島霜川
(著)
戸は彼の思つた通り、するりと
閾
(
しきゐ
)
の上を
辷
(
すべ
)
つた。その向うには不思議な程、
空焚
(
そらだき
)
の匂が立ち
罩
(
こ
)
めた、一面の闇が拡がつてゐる。
好色
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
ところが、
閾
(
しきゐ
)
にあらはれた陶は僕を見ると、曾老人に向つていきなり満洲
訛
(
なまり
)
のはげしいやつを使つたのだ。曾老人も同じ言葉で答へてゐた。
南京六月祭
(新字旧仮名)
/
犬養健
(著)
▼ もっと見る
床屋は言ひ付けられたやうに
翌
(
あく
)
る日の午過ぎ、その姿で恐る/\公爵邸の
閾
(
しきゐ
)
を
跨
(
また
)
ぐと、
昨日
(
きのふ
)
の
使者
(
つかひ
)
が出て来て一
室
(
ま
)
に案内した。
茶話:03 大正六(一九一七)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
閾
(
しきゐ
)
で仕切られてゐるだけで、
嘗
(
かつ
)
て
襖
(
ふすま
)
の立てられたことのない自分の居間で、短い敷蒲團に足を縮めて横になつて目を閉ぢた。
入江のほとり
(旧字旧仮名)
/
正宗白鳥
(著)
切
(
き
)
る
夜風
(
よかぜ
)
に
破
(
やぶ
)
れ
屏風
(
びやうぶ
)
の
内
(
うち
)
心配
(
しんぱい
)
になりて
絞
(
しぼ
)
つて
歸
(
かへ
)
るから
車財布
(
ぐるまざいふ
)
のものゝ
少
(
すくな
)
き
程
(
ほど
)
苦勞
(
くらう
)
のたかの
多
(
おほ
)
くなりてまたぐ
我家
(
わがや
)
の
閾
(
しきゐ
)
の
高
(
たか
)
さ
別れ霜
(旧字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
お
品
(
しな
)
は
漸
(
やうや
)
く
商
(
あきなひ
)
を
覺
(
おぼ
)
えたといつて
居
(
ゐ
)
たのはまだ
其
(
そ
)
の
夏
(
なつ
)
の
頃
(
ころ
)
からである。
初
(
はじ
)
めは
極
(
きま
)
りが
惡
(
わる
)
くて
他人
(
たにん
)
の
閾
(
しきゐ
)
を
跨
(
また
)
ぐのを
逡巡
(
もぢ/\
)
して
居
(
ゐ
)
た。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
そして、それから三日目に、父の紋七が、気ぜはしさうに、店の
閾
(
しきゐ
)
をまたいではいつて来た時、宇部東吉は、奥の帳場から、穏かに声をかけた。
山形屋の青春
(新字旧仮名)
/
岸田国士
(著)
で、彼が
家
(
うち
)
へ帰つてくると、玄関の戸がモウ閉つてゐた。信吾は何がなしにわが家ながら
閾
(
しきゐ
)
が高い様な気がして、
可成
(
なるべく
)
音を立てぬ様にして入つた。
鳥影
(新字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
「ふん、
厚
(
あつ
)
かましいお前さんの云ひさうなことだ。さうだらうと思つてゐた。お前さんが
閾
(
しきゐ
)
を
跨
(
また
)
いだときに、それは、もう
跫音
(
あしおと
)
で分つたからね。」
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
今日の新太郎ちやんは、気が張つてゐたので、惣兵衛ちやんの家の前で、野良犬のやうな
恰好
(
かつかう
)
はしなかつた。栄蔵のすぐあとに続いて
閾
(
しきゐ
)
をまたいだ。
良寛物語 手毬と鉢の子
(新字旧仮名)
/
新美南吉
(著)
閾
(
しきゐ
)
の下の意識がこれまでに働いてゐて、その結果が突然閾の上に出たに過ぎない。八はどこへ行つて好いか分からずに、停車場脇の坂の下に立つてゐた。
金貨
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
自分は驚いて、
慌
(
あわ
)
てて、
寝衣
(
ねまき
)
の儘、前の雨戸を烈しく蹴つたが、
幸
(
さいはひ
)
にも
閾
(
しきゐ
)
の
溝
(
みぞ
)
が浅い
田舎家
(
ゐなかや
)
の戸は
忽地
(
たちまち
)
外
(
はづ
)
れて、自分は
一簇
(
いちぞく
)
の黒煙と共に
戸外
(
おもて
)
へと押し出された。
重右衛門の最後
(新字旧仮名)
/
田山花袋
(著)
お糸は我が家ながら
閾
(
しきゐ
)
も高くおづおづと伯父の
背後
(
うしろ
)
に隠れゐたるに、案じるよりは生むが易く、庄太郎は
前刻
(
せんこく
)
の気色どこへやら、身に覚えなきもののやうなる顔付にて
心の鬼
(新字旧仮名)
/
清水紫琴
(著)
隣れる室の
閾
(
しきゐ
)
に近く
此方
(
こなた
)
に背を見せて、地方行の新聞に帯封施しつゝある
鵜川
(
うかは
)
と言へる老人
火の柱
(新字旧仮名)
/
木下尚江
(著)
別れさしたところで今さらをめ/\村に歸つて自家の
閾
(
しきゐ
)
が跨がれる圭一郎でもあるまいし、同時に又千登世に對して犯した我子の罪を父は十分感じてゐることも
否
(
いな
)
めなかつた。
業苦
(旧字旧仮名)
/
嘉村礒多
(著)
手まはりの小道具の始末をしてゐる間にも、折々弱い心が意識の
閾
(
しきゐ
)
へあらはれて來るのであつた。それを押し殺してすず子はあくる日の朝までに、すつかり仕度をしてしまつた。
計画
(旧字旧仮名)
/
平出修
(著)
底抜
(
そこぬ
)
けにひツ
傾
(
か
)
けた
證據
(
しやうこ
)
の
千鳥
(
ちどり
)
あし、それをやつと
踏
(
ふ
)
みしめて
家
(
いへ
)
の
閾
(
しきゐ
)
を
跨
(
また
)
ぎながら
ちるちる・みちる
(旧字旧仮名)
/
山村暮鳥
(著)
年があけると同時に許されて、再び
閾
(
しきゐ
)
をまたぐと云ふ事が、ひどく面白かつた。
大阪の宿
(旧字旧仮名)
/
水上滝太郎
(著)
百樹曰、
余
(
よ
)
越遊
(
ゑついう
)
して大家の
造
(
つく
)
りやうを見るに、
楹
(
はしら
)
の
太
(
ふとき
)
こと江戸の土蔵のごとし。
天井
(
てんじやう
)
高く
欄間
(
らんま
)
大なり、これ雪の時
明
(
あかり
)
をとるためなり。
戸障子
(
としやうじ
)
骨太
(
ほねふと
)
くして手
丈夫
(
ぢやうぶ
)
なるゆゑ、
閾
(
しきゐ
)
鴨柄
(
かもゑ
)
も
広
(
ひろ
)
く
厚
(
あつ
)
し。
北越雪譜:06 北越雪譜二編
(新字旧仮名)
/
鈴木牧之
、
山東京山
(著)
我は再び博士の
閾
(
しきゐ
)
を
踰
(
こ
)
えじ。禁ぜられたる
果
(
このみ
)
を
指
(
ゆび
)
ざし示す美しき蛇に近づきて、何にかはすべき。
幾千
(
いくち
)
の人か、これによりて我を嘲り我を
侮
(
あなど
)
るべけれど、猶良心に責められんには
逈
(
はるか
)
に優れり。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
「おい、あんなに呼んだのに聞えないのか。」と冷たい
閾
(
しきゐ
)
の上に立つた。
茗荷畠
(新字旧仮名)
/
真山青果
(著)
私の足が
閾
(
しきゐ
)
を跨ぐとやつと今まで
呆唖
(
ぼか
)
されてゐた意識が戻つて来て、初めて普通の悲しさがこみ上げて来た。それで大声を出して泣き喚いた。叔母がついて来て何か解らぬ事を云つて私をなだめた。
父の死
(新字旧仮名)
/
久米正雄
(著)
「お前は永遠なるもの、完全なるものの
閾
(
しきゐ
)
を跨いでゐるのだよ。」
クサンチス
(新字旧仮名)
/
アルベール・サマン
(著)
わが
閾
(
しきゐ
)
は汝の訪はぬままに、静かに暗し。
妄動
(新字旧仮名)
/
与謝野寛
(著)
大百貨店の
閾
(
しきゐ
)
を
跨
(
また
)
ぐ女に
晶子詩篇全集
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
ゐざり
出
(
い
)
て
閾
(
しきゐ
)
の
端
(
はし
)
の
おもひで
(新字旧仮名)
/
末吉安持
(著)
と玄関番は
閾
(
しきゐ
)
に突立つた
儘
(
まゝ
)
、
欠伸
(
あくび
)
をしい/\言つた。玄関番といふものは、主人が奥で欠伸をする時分には、自分も
極
(
きま
)
つてそれをするものだ。
茶話:02 大正五(一九一六)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
彼
(
かれ
)
はそれでも
煙管
(
きせる
)
を
出
(
だ
)
して
戸
(
と
)
の
隙間
(
すきま
)
から
掛金
(
かけがね
)
をぐつと
突
(
つ
)
いたら
栓
(
せん
)
を
揷
(
さし
)
てなかつたので
直
(
すぐ
)
に
外
(
はづ
)
れた。
彼
(
かれ
)
は
闇
(
くら
)
い
閾
(
しきゐ
)
を
跨
(
また
)
いで
袂
(
たもと
)
の
燐寸
(
マツチ
)
をすつと
點
(
つ
)
けた。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
早く彼が帰つて来て一刀両断にこの事件の跡始末をしてくれればと、ただそれのみを祈る気持で家の
閾
(
しきゐ
)
をまたいだ。
双面神
(新字旧仮名)
/
岸田国士
(著)
あとに残された栄蔵は、
閾
(
しきゐ
)
の外に
乞食
(
こじき
)
の子のやうに、もぞもぞして、
前垂
(
まへだれ
)
の端をひつぱつてゐた。
良寛物語 手毬と鉢の子
(新字旧仮名)
/
新美南吉
(著)
ハタとたて
切
(
き
)
る
雨戸
(
あまど
)
の
閾
(
しきゐ
)
くちしは
溝
(
みぞ
)
か
立端
(
たちは
)
もなくわつと
泣
(
な
)
く
空
(
そら
)
に
闇
(
やみ
)
を
縫
(
ぬ
)
ひ
行
(
ゆ
)
く
烏
(
からす
)
の
兩三聲
(
りやうさんせい
)
。
別れ霜
(旧字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
是非小鳥がパンを食べられるやうにしてやりたかつたから。窓は開いた。私はパン屑を撒いてやつた。石の
閾
(
しきゐ
)
の上にも櫻の枝の上にも落ちた。それから窓を閉ぢて私は返辭をした。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
「うん。持つて帰るとも」
閾
(
しきゐ
)
を
跨
(
また
)
いで折を抱へたが、その拍子に鷹雄は板戸に出てゐる靴の
刷毛
(
ブラシ
)
をかける
釘
(
くぎ
)
に
袖
(
そで
)
を引つかけた。だが彼は自暴して、その袖を力一ぱい引つたくるやうにした。
愚かな父
(新字旧仮名)
/
犬養健
(著)
百樹曰、
余
(
よ
)
越遊
(
ゑついう
)
して大家の
造
(
つく
)
りやうを見るに、
楹
(
はしら
)
の
太
(
ふとき
)
こと江戸の土蔵のごとし。
天井
(
てんじやう
)
高く
欄間
(
らんま
)
大なり、これ雪の時
明
(
あかり
)
をとるためなり。
戸障子
(
としやうじ
)
骨太
(
ほねふと
)
くして手
丈夫
(
ぢやうぶ
)
なるゆゑ、
閾
(
しきゐ
)
鴨柄
(
かもゑ
)
も
広
(
ひろ
)
く
厚
(
あつ
)
し。
北越雪譜:03 北越雪譜初編
(新字旧仮名)
/
鈴木牧之
、
山東京山
(著)
(あらゆる芸術的活動を意識の
閾
(
しきゐ
)
の中に置いたのは十年前の僕である。)
文芸的な、余りに文芸的な
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
この時の苦しさは、後の別の時に増したり。後の別の時には、媼は泣きつれど、何事をもいはざりき。既に
閾
(
しきゐ
)
を出でしとき、媼走り入りて、
薫
(
くゆり
)
に半ば黒みたる聖母の像を、扉より剥ぎ取りて贈りぬ。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
台所の
閾
(
しきゐ
)
に腰すゑた
晶子詩篇全集
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
贅澤の極のやうに勝代は思つて「東京で暮しとれば、見る物聞く物が何でも揃うとつて、旅行なぞせいでもよからうにな。東京でさへ年中居ると單調になるぢやらうか。勝は去年の春から
家
(
うち
)
の門の
閾
(
しきゐ
)
から外へ出たことは數へるほどしかないのぢやもの。」
入江のほとり
(旧字旧仮名)
/
正宗白鳥
(著)
又
(
また
)
足
(
あし
)
を
踏
(
ふ
)
みつけ/\のつそり
歩
(
ある
)
いて
戸口
(
とぐち
)
の
閾
(
しきゐ
)
へ
暫
(
しばら
)
く
乘
(
の
)
つてずつと
延
(
の
)
ばした
首
(
くび
)
を
少
(
すこ
)
し
傾
(
かたむ
)
けて
卯平
(
うへい
)
を
見
(
み
)
てついと
座敷
(
ざしき
)
へ
立
(
た
)
つた。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
と、直人は、多少
焦
(
い
)
ら立つて、奥へ声をかけた。三鴨倉太は、鼻をすかすか云はせながら、
閾
(
しきゐ
)
の外へ手をついた。
双面神
(新字旧仮名)
/
岸田国士
(著)
卷パンの一片をこまかく碎いて、
閾
(
しきゐ
)
の上にパン屑をのせてやるつもりで、窓を
開
(
あ
)
けようと
窓框
(
まどかまち
)
を力まかせに引つぱつてゐると、その時ベシーが階段を駈け上つて子供部屋に這入つて來た。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
といふ、家来の保証がなかつたら、夢にも
閾
(
しきゐ
)
をまたがうとはしなかつたから。
茶話:05 大正八(一九一九)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
本當に女房もちに成つては仕方がないねと店に向つて
閾
(
しきゐ
)
をまたぎながら一人言をいへば、高ちやん大分御述懷だね、何もそんなに案じるにも及ぶまい
燒棒杭
(
やけぼつくひ
)
と何とやら、又よりの戻る事もあるよ
にごりえ
(旧字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
菊次さんは菊次さんで、
閾
(
しきゐ
)
に腰をおろし、手拭を両手でしぼりながら
百姓の足、坊さんの足
(新字旧仮名)
/
新美南吉
(著)
藤蔓
(
ふぢつる
)
にてくゝしとめ
閾
(
しきゐ
)
もなくて
扉
(
とぼそ
)
とす。
北越雪譜:03 北越雪譜初編
(新字旧仮名)
/
鈴木牧之
、
山東京山
(著)
その
入口
(
いりくち
)
の
閾
(
しきゐ
)
に。
晶子詩篇全集
(新字旧仮名)
/
与謝野晶子
(著)
リイドは太い首根つ子を真直に肩の上に
押
(
お
)
つ
立
(
た
)
てて三軒目の店を覗いてみた。そこは
擬
(
まが
)
ひもない馬具
店
(
みせ
)
であつた。この共和党の弁論家は店の
閾
(
しきゐ
)
に
衝立
(
つゝた
)
つた儘、暫くは馬のやうに眼を白黒させてゐた。
茶話:03 大正六(一九一七)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
閾
漢検1級
部首:⾨
16画
“閾”を含む語句
閾際
閾越
閾口
識閾
戸閾
窓閾
門閾
閾上
閾内
閾外