かね)” の例文
「下座は一人休んで、半助とお百といふ夫婦が忙がしく働いてゐる。綱渡りが始まると、女房の三味線に亭主のかねで傍見もできない」
こうなんでございます、まるでお経ではございませんか、合の手にはチーンとか、カーンとかおかねを入れたくなるではございませんか
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
庵主あんじゅさんは、よそゆきの茶色ちゃいろのけさをて、かねのまえにつと、にもっているちいさいかねをちーんとたたいて、おきょうみはじめた。
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
一の宮に特殊な神事という鶏毛打とりげうちの古楽にはどのくらいの氏子が出て、どんな衣裳いしょうをつけて、どんなかねと太鼓を打ち鳴らすかのたぐいだ。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
心経寺の宿へかかった頃、行手からかねの音が聞こえて来た。つづいてご詠歌えいかの声がした。と一群の行列が、辻を廻わって現われた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
毎朝、夜の明けないうちからする勤行ごんぎょうかねが、回向院えこういん裏まで聞えて来る頃、いつもそれを時刻に、雨戸を開ける豆腐屋の夫婦であった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中に一軒お寺があつて切りにかねが鳴つてゐた。風のせゐか、此処の漁師も沖を休んで居るらしく、其処此処に集つて遊んでゐた。
岬の端 (新字旧仮名) / 若山牧水(著)
そして空也上人の門流はそのかねに代うるに瓢箪を以ってしていたに過ぎないのである。されば通じては「たたき」と呼ばれたものであろう。
間人考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
それでは引導いんだうわたしてげよう。グワン/\とかね打鳴うちならし、和「南無喝囉怛那なむからたんの哆羅夜耶とらやや南無阿唎耶なむおりや婆慮羯諦爍鉢羅耶ばりよぎやていしふふらや菩提薩※婆耶ふちさとばや。 ...
黄金餅 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
三人は並んで山門を出ると人も無い郊外の田圃道を後になり先になり列を作ってかねをたたいた。半泣きの曇り声を張上げて念仏を初めた。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その中に夫婦づれのあめ売りがいて、女がかねと太鼓を叩き、男がみだらな唄をうたい、往来のはげしい通りを稲妻形に、踊りあるいていた。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「それはもう御隠居様ごいんきょさま滅法めっぽう名代なだい土平どへいでござんす。これほどのいいこえは、かね太鼓たいこさがしても、滅多めったにあるものではござんせぬ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
その大神楽は、朝早くから温泉町を流しているのだが、坂の左右に並んだ温泉町は小さいから、三味線、かねなどの音が町の入口から聞えた。
白い蚊帳 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
人々は旗見たいなものを造つたり、古いほら貝を持出したり、寺のかねを借りて来たりして、そして山から山をさがして歩いた。
田舎からの手紙 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
本堂の方では経を読む声、かねを打つ音もしている。道子は今年もいつか盆の十三日になったのだと初めて気がついた時である。
吾妻橋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
正太の手はすぐかね在所ありかを見つけた。骸骨のあらわれないうちに鉦をさっさと鳴らして、ここを出ていってしまおうと思った。
骸骨館 (新字新仮名) / 海野十三(著)
平手ひらてで板を叩くようなつづみの音をさせて、鳥打帽子をかぶった万歳まんざい幾人いくにんも来ます。かね太皷たいこを鳴らすばかりで何にも芸のない獅子舞も来ます。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
例えば越中から越後の平野にかけて、お寺の本堂の大きな鐃鉢にょうばちをガンモモ、家々の仏壇の小さなかねを、チンモモというのは普通の語である。
まずその死骸の布片を取って巌の上に置く。で坊さんがこちらで太鼓をたたかねを鳴らして御経を読みかけると一人の男が大いなる刀を持って
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
法願ほうぐわんこほさうかねげてちらほらとおほきかたまりのやうな姿すがたうごいてるまではちからかぎつじつてかん/\とたゝくのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
すると、その時仏間の方でちイんと言うかねの音がしました。私はぞっとして思わず良人にしがみつきましたが、良人はもう眠っておりました。
母の変死 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
全軍一斉に銃射を開始し、喊声かんせいとどろかし、旗幟きしを振って進撃の気勢を示した。水軍も亦船列を整えてかね、太鼓を鳴らして陸上に迫らんとした。
小田原陣 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
土手の道哲の地内じないに、腰衣で土に坐り、カンカンと片手でかねを、たたき、たたき、なんまいだなんまいだなんまいだ、片手は上下うえしたに振っている。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
折角、人が心で何か純真に求めかけると、俗物共は寄ってたかって祭の踊子のように、はたからかねや太鼓ではやし立てる、団扇うちわあおいで褒めそやす。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
又あるときはかしらよりただ一枚と思わるる真白の上衣うわぎかぶりて、眼口も手足もしかと分ちかねたるが、けたたましげにかね打ち鳴らして過ぎるも見ゆる。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
身をのごはずきるものをあらため雪ふらずとも簑笠みのかさ也、あるひはいかなる雪荒ゆきあれにもいとふ事なくかねうちならしつゝゆく。
夜がけるにつれ、夜伽よとぎの人々も、寝気ねむけもよおしたものか、かねの音も漸々ようように、遠く消えて行くように、折々おりおり一人二人の叩くのがきこえるばかりになった。
子供の霊 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
酒が三、四まわると笙歌しょうかが下から聞えて来たが、かねつづみは鳴らさなかった。その笙歌の声も小さくかすかであった。やや暫くして王は左右を顧みて
蓮花公主 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
それを都会の半可通がめくら判をおして、土佐のかつおのたたきとしきりにかねや太鼓を叩きたがるから始末に困る。
鮎の名所 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
くろんぼがふえや、らっぱをき、かねなどをたたくと、しろいくまが、あかみどりのまじったきれはらいてあかがさをしながらダンスをはじめたのです。
白いくま (新字新仮名) / 小川未明(著)
だから、おばあさんは毎日々々ほとけ様の前に坐って、かねばかりたたいていました。きっとこのおばあさんにも、以前は子や孫があったのかも知れません。
でたらめ経 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
彼女が船室へ戻って見ると、別れの言葉を交しながら夫人も泣き、母も泣いていた。そして間もなく、彼女達は合図のかねの音に追い立てられて下船した。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
和尚の長い読経の透ほる声と、折々鳴らすかねの音とが女達のすゝり泣きの間を縫ふて悲しく打ち震ふて聞えた。
若芽 (新字旧仮名) / 島田清次郎(著)
ともかくもこの事と、鸚鵡石おうむいしかねや鈴や調子の高い笛の音の反響しないという記事とは相照応する点がある。
化け物の進化 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
またはかねたたきなどいう類で縁日でも高級品に属する方、カンタンなどは一匹二十銭以上、それがフンダンに鳴く、ざるを草の葉に押しあて、上からたたくと
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
御者のののしる声、らっぱの響き、電車のかねの音が、耳をろうするばかりの喧騒けんそうをなしていた。その音響、その動乱、その臭気に、クリストフはつかみ取られた。
と、折しも本堂では、老僧の声で物も哀れに普門品ふもんぼんを読誦しつつ、勤行ごんぎょうかねが寂しくきこえて来ます。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
丁髷鬘ちょんまげかずら赤陣羽織あかじんばおり裁付袴たっつけばかまおやじどもが拍子木にかねや太鼓でラインしゅとかの広告ひろめ口上こうじょうをまくし立てる。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
おたがいですから。海員組合が仲仕ストのスキャップになるわけにもいかんです。三時になったら、かねをたたきますから、どうぞ、それを合図に、引きあげて下さい
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
念仏衆の打ちならす小、中、大のかねの音が静かに、かなしげに、そして、いかにも退屈さうに響いた。
野の哄笑 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
鈴でなし、かねでなし、よくほうぼうのほこらやお堂の軒先につりさがっているじゃござんせんか。
縁側に立っていると、隣家から赤子の回向えこうかねの音が聞えて来た。初秋の涼しい夜だ。すると
御身 (新字新仮名) / 横光利一(著)
註 満洲では、お嫁さんにゆくとき鈴をつけた馬車に乗つて、かねや太鼓でおくられてゆきます。
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
そして大きな百貨店で、首の動く張子はりことらだとか、くちばしでかねをたたく山雀やまがらだとか、いろんなめずらしいものを買い集めて、持っていたお給金を大方おおかたつかいはたしました。
海からきた卵 (新字新仮名) / 塚原健二郎(著)
村の衛生係が草鞋ばきの巡査さんとどぶ掃溜はきだめを見てあるく。其巡査さんの細君が赤痢になったと云う評判が立つ。かねや太鼓で念仏ねんぶつとなえてねりあるき、厄病禳やくびょうばらいする村もある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
町の中ほどには紅勘べにかん(小間物屋)があってこれも有名でした。紅勘で思い出すが、その頃、かね三味線さみせん長唄ながうたを歌って流して歩いた紅勘というものがあって評判でありました。
こゝへ來た當座、肴町の寺でかねを叩くと、心細くて溜まらないと云つたのと同じ事だ。
半日 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
「ちっ、ふざけっこなしに願いますぜ。ねえ、あんたは悪気はなかろうが、こちとらあ頼まれてかねや太鼓で捜してるんだ。こうっ、返してやんなよ。え? いい功徳になるぜおい」
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
漱石氏が『坊ちゃん』に用いた「かねや太鼓でねえ、迷子の迷子の三太郎と、どんどこどんのちゃんちきりん……」といううたなども、やはりこの迷子さがしをふまえているようだから
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
伊庭は籐椅子とういすに腰をおろした。昔の小学校の作法室といつた感じである。教主は、机上のかねを鳴らして、口のなかで何かぶつぶつつぶやいてゐたが、しばらくして、机上の紙をひろげた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)