衣類きもの)” の例文
舷の釘に彼の衣類きものと覚しき絣の切れ端が、残されていたのとで、死人の身柄みがらなり自殺の動機なりが分明したよし記されてありました。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
腰こそ、まだ曲つて居なかつたが、盲目縞の衣類きものに包まれた腰の辺には、もう何等の支持力も残つて居るらしくは見えなかつた。
我鬼 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
突然だしぬけに夜具を引剥ひつぱぐ。夫婦ふうふの間とはいえ男はさすが狼狙うろたえて、女房の笑うに我からも噴飯ふきだしながら衣類きものを着る時、酒屋の丁稚でっち
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
衣類きものより足袋たびく。江戸えどではをんな素足すあしであつた。のしなやかさと、やはらかさと、かたちさを、春信はるのぶ哥麿うたまろ誰々たれ/\にもるがい。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
兎も角も明後日あさってからお秀は局に出ることに話を極めてお富に約束したものの、忽ち衣類きものの事に思い当って当惑した。
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
長年教会へ通いつめているので、納骨堂や祭具室の冷たい匂いがその衣類きものにまで浸みこんでしまったのであろう。
老嬢と猫 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
それから翌日は伴藏がおみねに好きな衣類きものを買ってるからというので、幸手へまいり、呉服屋で反物たんものを買い、こゝの料理屋でも一杯やって両人ふたり連れ立ち
「おい、おさつさん、八百屋が出るようだったら、衣類きものをかりるぜ、今着ているのを、そのままでいいや。」
それは成程やはらかひ衣類きものきて手車に乗りあるく時は立派らしくも見えませうけれど、ととさんやかかさんにかうして上やうと思ふ事も出来ず、いはば自分の皮一重
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
お前にもッと良い衣類きものせてる。それから……山に棲んでいるのがいやなら、お前と一所いっしょに町へ行く。何処どこへでも行く。ね、いだろう。ね、それから……。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
眼をましかけた子供に乳を飲まして寝かしつけて、ネンネコ袢纏ばんてんに包んで、隅ッ子の衣類きもの棚の下に置いて、活動のビラを見まわったりしながら、お千代と一所いっしょに湯に這入ったが
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「本当だとも。有ったんだけれど、別れたのさ。……薄情に別れられたのさ。……一人で気楽だよ。……同情してくれ給え! 衣類きものだって、あれ、あの通り綻びだらけじゃないか。」
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
平太郎は更めて女の身の上を尋ねるつもりで、別室へ入って衣類きものを着かえて女のいた処へ往って見ると、女はいなかった。彼は不審に思って室の其処此処を尋ねたが、何処にも見えなかった。
魔王物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
衣類きものこそ変れおりんはまったく生きているおりんであった。
三度そっしおをはねたが、またちょこちょこと取って返して、かしら刎退はねのけ、衣類きものを脱いで、丸裸になって一文字に飛込とびこんだ。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それは成程なるほどやはらかひ衣類きものきて手車てぐるまりあるくとき立派りつぱらしくもえませうけれど、とゝさんやかゝさんにうしてあげやうとおもこと出來できず、いはゞ自分じぶん皮一重かはひとゑ
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
大藏はのりだらけになりました手をお菊の衣類きもので拭きながら、そっと庭伝いに来まして、三尺のしまりのある所を開けて、密っと廻って林藏という若党のいる部屋へまいりました。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ともかく、二人の先触さきぶれ小僧が、小川湯へつくと、ほか浴客おきゃくがあろうがなかろうが、衣類きものぎ場をパッパッと掃きはじめ、ござを敷く、よきところへ着物を脱ぐ入れものをおく。
それも今日こんにち母上おっかさんいもとの露命をつなぐ為めとか何とか別に立派なつかみちでも有るのなら、借金してだって、衣類きものを質草にたって五円や三円位なら私の力にても出来でかして上げるけれど
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
みょうだねえ、無いから帯や衣類きものを飲もうというのに、その後になって何が有るエ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
お前はおらが髪をこんなにはやしているので、いやなのか。それから……こんな獣類けだものの皮をているので、いやなのか。髪は今でもすぐに切るよ。衣服きものは……金持になればすぐ衣類きものを買ってるよ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「何より不気味だね、衣類きものの濡れるのは。……私、聞いても悚然ぞっとする。……済まなかった。お染さん。」
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白粉つけて衣類きものきて迷ふて來る人を誰れかれなしに丸めるが彼の人達が商賣、あゝれが貧乏に成つたから構いつけて呉れぬなと思へば何の事なく濟ましよう
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いいえわたくしは『中の部屋』のお戸棚とだな衣類きものを入れさして頂ければお結構で御座ございます」
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
富「いや/\自害した女の衣類きものだから不縁起だというのではない、買ってもい」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「市郎、衣類きものが汚れるぞ。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
白粉おしろいつけて衣類きものきて迷ふて来る人をれかれなしに丸めるがあの人達が商売、ああれが貧乏に成つたからかまいつけてくれぬなと思へば何の事なくすみましよう
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
こゑふるへ、をのゝいて、わたしたち二十人にじふにんあまりをあわたゞしく呼寄よびよせて、あの、二重にぢう三重さんぢうに、しろはだ取圍とりかこませて、衣類きもの衣服きものはななかに、肉身にくしん屏風びやうぶさせて、ひとすくみにりました。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
女は衣類きものを着て仕舞い、番台の前へ立ちましたが、女の癖にいれずみがあります。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
白粉おしろいつけて衣類きものきてまよふてひとれかれなしにまるめるが人達ひとたち商買しやうばい、あゝれが貧乏びんぼうつたからかまいつけてれぬなとおもへばなんことなくすみましよう
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
女中が、何よりか、と火を入れて炬燵に導いてから、出先へ迎いに出たあとで、冷いとだけ思った袖もすそ衣類きものが濡れたから不気味で脱いだ、そして蒲団の下へ掛けたと云う。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お気の毒だと介抱して呑ませた薬は麻痺薬しびれぐすりだ、手前てめえの身体がきかねえうちに衣類きものから懐中物まで引攫ひっさらってげるのを、盗人仲間どろぼうなかま頭突ずつきというのだ、あの時さらった書付からまんまと首尾よく八十両
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
廣小路ひろこうぢよりながむるに、石段いしだんのぼひとのさま、さながらありとうつるがごとく、はな衣類きもの綺羅きらをきそひて、こゝろなくには保養ほやうこのうへ景色けしきなりき
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
どこからともなく衣類きものかばんなどが降った最中、それを見たものが、魔ものじゃと申します。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大「あい、衣類きものを着替ようかの」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
いそを横ッとびの時は、その草鞋わらじを脱いだばかりであったが、やがて脚絆きゃはんを取って、膝まで入って、静かに立っていたと思うと、引返ひきかえしてはかまを脱いで、今度は衣類きものをまくって腰までつかって、二
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白粉おしろいにはあるまじきいろしろさ、衣類きものなにとむるもなけれど、くろちりめんの羽織はおりにさらさらとせし高尚けだか姿すがた、もしやとさとしわれらずせば、さてこそひきこむ門内もんないくるまなんにふれてか
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)