あり)” の例文
次の丘を回ったときには、はるか下の赤土の傾斜地に、桃色の鉢巻きをした漁師たちがありのように並んで網を繕っているのが見えた。
暴風雨に終わった一日 (新字新仮名) / 松本泰(著)
「あ、来たな。ありのやうにやつてくる。おい、さあ、早くベルを鳴らせ。今日はそこが日当りがいゝから、そこのとこの草を刈れ。」
どんぐりと山猫 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
泥濘ぬかるみは、荊棘とげいばら蔦葛つたかずらとともに、次第に深くなり、絶えず踊るような足取りでありを避けながら、腰までももぐる野象の足跡に落ちこむ。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
パラパラッとありのような人影が走り出て、たちまち、二ちょうの駕籠は、まるで黒い帯を引いたよう……ワイワイいってついてくる。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
こおろぎや蜘蛛くもありやその他名も知らない昆虫こんちゅうの繁華な都が、虫の目から見たら天を摩するような緑色の尖塔せんとうの林の下に発展していた。
芝刈り (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
この小さな、緑色に繁茂しげり栄えた島の中には、まれに居る大きなありのほかに、私たちを憂患なやまとりけもの昆虫はうものは一匹も居ませんでした。
瓶詰地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
地べたのありを不審そうに観察したり、蝦蟇がまを恐れて悲鳴を挙げたり、その様には私も思わず失笑することがあって、憎いやつであるが
こんな時のために用意された町内の若者が数十名、天城屋の内外を始め、神楽坂の上下、ありい出る隙間もなく固めてしまいました。
深閑しんかんとして、生物いきものといへばありぴき見出せないやうなところにも、何處どことなく祭の名殘なごりとゞめて、人のたゞようてゐるやうであつた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
私も子供のときリリパットの国の話を聞いて、縁側でありの行列を眺めていたら、自分がガリバーになったような気がしたものです。
いやいやここで腕立てなどしたら、師匠の迷惑は言うまでもなく、殊更、自分は、大望ある身体からだ、千丈のつつみありの一穴。辛抱だ——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
ありの性急な活動を、歩きながら踊ってるように見える足長蜘蛛ぐもを、横っ飛びにね回るいなごを、重々しいしかもせかせかした甲虫かぶとむし
土を穿ち、土を移し、土をらし、土を積む。彼等は工兵のありである。同じ土に仕事する者でも、農は蚯蚓みみずである。蚯蚓は蟻を恐れる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
といいも終らず、滝太郎はつかつかと庭に出て、飛石の上からいきなりつちの上へ手を伸ばした、はやいこと! つかまえたのは一疋の小さなあり
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
相沢から根岸の競馬場へとつづいているその道筋には、ほとんど、ありの行列のようなおびただしい人間の流れが動いてゆくのが見える。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
怜悧れいりに見えても未惚女おぼこの事なら、ありともけらとも糞中ふんちゅううじとも云いようのない人非人、利のめにならば人糞をさえめかねぬ廉耻れんち知らず
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ありのように四方から集ってくる群衆のうえに、梅雨つゆらしい蒸暑い日が照りわたり、雨雲が陰鬱な影を投げるような日が、毎日毎日続いた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
だが、大総督から、とつぜんの命令が下ったので、その闇の中にアカグマ国の軍隊がありの大群のように、真黒に集まってきた。
二、〇〇〇年戦争 (新字新仮名) / 海野十三(著)
不在に主僧がそのへやに行ってみると、竹の皮に食いあましの餅菓子が二つ三つ残って、それにいっぱいにありがたかっていることなどもあった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
夫人はそう言いながら、美奈子達をうながして改札口の方へ進んだ。若い紳士達は、ありの甘きにくように、夫人の後から、ゾロ/\と続いた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
言うかと思う間もなく、大勢おおぜいの小さい人間がありのように群集してきて、机に登り、床にのぼって、滅茶苦茶に彼をなぐった。
柱につかまって地上を見下すと、ありの様な群集が、塔のまわりに集って、すべての顔が空を見上げ、口々に何かわめいている。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
少し高い所からは何処どこまでも見渡される広い平坦な耕作地の上で二人は巣に帰りそこねた二匹のありのようにきりきりと働いた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
さて私が前回に葉切りありの話をしたのは、昆虫こんちゅう社会にもなかなか経済の発達した者がいるという事を示さんがためであった。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
ありは六本の足を持つ」と云ふ文章は或は正硬であるかも知れない。しかし芭蕉の俳諧は度たびこの翻訳に近い冒険に功を奏してゐるのである。
続芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
さいはひにして一人ひとりではひきれぬほど房々ふさ/\つてるのでそのうれひもなく、熟過つえすぎがぼて/\と地にちてありとなり
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
うまくランデブーすれば、雄蝉おすぜみ莞爾かんじとして死出しで旅路たびじへと急ぎ、あわれにも木から落ちて死骸しがいを地にさらし、ありとなる。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
ありの巣のように人がたかっており、蜜蜂みつばちの巣のように勤勉で勇敢でたけり立っているその古い郭外は、動乱の期待と希望とのうちに震えていた。
夜になって雨が降りだして珍らしい暴風雨あらしになったが、その暴風雨の中で山田家のあの中央まんなかありの塔のある土蔵がつぶれた。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
店臺みせだいへはあつころにはありおそふのをいとうて四つのあしさらどんぶりるゐ穿かせて始終しじうみづたゝへてくことをおこたらないのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
煙の絶え間より望めば、黄竜旗こうりょうきを翻せる敵の旗艦の前部は黄煙渦まき起こりて、ありのごとく敵兵のうごめき騒ぐを見る。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
ちょっと諸君に話しておくがいやしくも蝉と名のつく以上は、地面の上にころがってはおらん。地面の上に落ちているものには必ずありがついている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
群衆は窓から投げられたひと塊の砂糖を目がけて集まるありのように、百貨店の取った商策に雲集してきたのであった。
或る嬰児殺しの動機 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
大きな山ありが逃出すのを面白がる。ある時はひきがえるにらめっこしながら盥の中にかしこまっている。涼しい風にくしゃみをするとおばあさんが声をかける。
老鶯ろうおうの声が聞こえている。が、一人の人通りもない。血溜ちだまりの中で幾匹かのありが、もがき苦しんで這いまわっている。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
台所の流しの下には、根笹ねざさや、山牛蒡やまごぼうのような蔓草つるくさがはびこっていて、敷居しきいの根元はありでぼろぼろにちていた。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
ありの穴に小便をしたり、蛇を殺してその口中こうちゆうかへるを無理におし込んだり、さういふ悪戯いたづらをしながら、時間が迫つてくると皆学校まで駈出して行つた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
だが、にんじんは、早くなる足並みを、やっとのことでゆるめているのである。足の中をありっているような気持だ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
ただにこれを得て一時の満足を取るのみならず、ありのごときははるかに未来を図り、穴を掘りて居処を作り、冬日の用意に食料をたくわうるにあらずや。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
上皇は、二十九日、美しく飾られた船で還御されようとしたが、途中、烈風にあふられて海上が荒れたので、厳島のうちのありの浦まで漕ぎもどられた。
五郎は幻覚のことを、たとえばブザーのことや壁に這うありのことを、あまり語りたくなかった。自分は正常である。その方に話を持って行きたかった。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
なんでもないことだよ。それは、たまかたかたのあなのまわりにたくさん蜂蜜はちみつをぬっておいて、絹糸きぬいとありを一ぴきゆわいつけて、べつあなかられてやるのです。
姨捨山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
私は眼をもって、夫のあの非常に線の細い、神経質なペン字が性急に走っているページ面を、ありうのを見るように見るだけですぐページを伏せる。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
美人連を分取ぶんどろうとの興味から、ありの甘きに附くが如く、投げられようと払われようと離れることではありません。
またありの普通な種の速度を計った結果、普通に歩いて蟻は、一マイル行くのに一日と七時間かかることを知った。これ等はごくざっとした計算である。
私は、この、細い脚を持ったありのような人たちの、驚くべき多数の努力を目前にして、同じような光景を呈したであろうピラミッド工事の当時を思った。
修羅しゆらに大つなをつけ左右に枝綱えだつないくすぢもあり、まつさきに本願寺御用木といふのぼりを二本つ、信心の老若男女童等わらべらまでもありの如くあつまりてこれをひく。
ある小駅につづく露次では、うず高くつみ重ねられた芋俵をめぐって、人がありのように動いていた。よじくれたえのきくさむらのはてに、浅い海が白く光っていた。
秋日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
一揆の群は早くもそれを認めたらしく、松林の中からありの塔を突崩したように、手に手に得物を持った人々がばらばらと道の方へ押出して来るのが見えた。
松風の門 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
高架鉄道の堤とそちこちの人家ばかりとが水の中に取り残され、そのすき間というすき間にはありの穴ほどな余地もなくどっしりと濁り水が押し詰まっている。
水籠 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)