素早すばや)” の例文
「あ、ごめんなさい。」と、みねさんは、おわびをしましたが、義雄よしおさんは、素早すばやはしって、その羽根はねちからまかせにかえしました。
東京の羽根 (新字新仮名) / 小川未明(著)
敬二は寝衣ねまきをかなぐりすてると、金釦きんボタンのついた半ズボンの服——それはこの東京ビルの給仕きゅうじとしての制服だった——を素早すばやく着こんだ。
○○獣 (新字新仮名) / 海野十三(著)
然し彼女は瀕死の病人に似もやらず、素早すばやくもコップの水をゆかにあけて、それを口許に持つて行つた。コップには八分目程血が滿ちた。
実験室 (旧字旧仮名) / 有島武郎(著)
が、窓がしまると、素早すばやく紳士はその手を引ッこめて、ポケットへ入れ、再び前の姿勢になって、新聞を読みはじめたのだ。
香水紳士 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
「そうしておいて安珍殿は熊野へ参詣を済まし、その帰りには、この家の前を笠でかおを隠して、素早すばやく通りぬけてしまった」
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
つゞいて飛込とびこまんとする獅子しゝ目掛めがけて、わたくし一發いつぱつドガン、水兵すいへい手鎗てやり突飛つきとばす、日出雄少年ひでをせうねん素早すばやをどらして、入口いりくちとびらをピシヤン。
「なに、み首級がないと? さてはげたやつらが素早すばやくどこかへかくしたのだろう。それ、向こうの河原かわらけたやつを引きとらえてみろ!」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかしジナイーダは、素早すばやくわたしのかたに手を置くと、半ば身を起しながら、ややふるえを帯びた声で、こう言い放った。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
そこでそっとものえるじゅつ使つかって、お三方さんぽうの中の品物しなもの素早すばやえてしまいました。そしてすましたかおをしながら
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
黍団子の勘定かんじょう素早すばやい猿はもっともらしい雉を莫迦にする。地震学などにも通じた雉は頭のにぶい犬を莫迦にする。
桃太郎 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
かまびすしくおの家号やごう呼立よびたてる、中にもはげしいのは、素早すばやく手荷物を引手繰ひったくって、へい難有ありがとさまで、をくらわす、頭痛持は血が上るほどこらえ切れないのが
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それと知った新吉は、貨車の戸が開いているのを幸いに、暗い方からそっとしのんで行って、ちょろりとねずみのように素早すばやく、貨車の中へびこんでしまいました。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
頬をふくらませ、その輝やくやうな活々しさを憂愁の雲がやはらげる、そして、彼女は、彼の手から素早すばやく自分の手を引込めると、しばらくの不機嫌さで、英雄らしく
シューラは素早すばやくはねきて、毛布もうふゆかへおっぽりすと、はだしでつめた床板ゆかいたをぱたぱたと大きくらしながら、ママのところへんでき、いきなりこうわめいた。
身体検査 (新字新仮名) / フョードル・ソログープ(著)
とサービスがいって、素早すばやくかごのなかにはいった。それはすわって乳のあたりまでかくれた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
山男は達二を小脇こわきにかかえました。達二は、素早すばやく刀をかえして、山男の横腹よこばらをズブリとしました。山男はばたばたまわって、白いあわ沢山たくさんいて、んでしまいました。
種山ヶ原 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
素早すばやくこいつが敵かと、躍り立った一刹那せつな『亡霊追分、正体見た! 二つになれ!』とその武士が、サッと斬り込んで参りました。その太刀風の物凄さ、なんで私に避けられましょう。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そこで素早すばやく肘をついて起き上ると、わしの前に真直に立つてゐる女の影がある。わしは直にそのクラリモンドなのを知つた。彼女は手に、墓の中に置くやうな形をした小さなランプを持つてゐる。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
その男はひょろ長いからだに、襟が後頭部までもかぶさりそうな、長い半木綿のフロックコートをていたが、片手にナプキンを掛けたまま素早すばやく駆け出して、さっと髪を揺りあげるように一揖いちゆうするや否や
『もつと素早すばや何故なぜゆけぬ?』と蝸牛でゝむかつて胡粉ごふんつた
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
素早すばや横手よこて小路こみちをどらせた
素早すばやく倉地のひざから飛びのいて畳の上にほおを伏せた。倉地の言葉をそのまま信じて、素直すなおにうれしがって、心を涙に溶いて泣きたかった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そう云って素早すばやく指先でつまみあげたのは長さ一寸あまりの、柳箸やなぎばしほどの太さの、鈍く光る金属——どうやら小銃しょうじゅう弾丸たまのような形のものだった。
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
空想が生き生きと目ざめて、いつもいつも同じまぼろしのまわりを素早すばやけめぐる有様ありさまは、朝焼けの空につばめの群れが、鐘楼しょうろうをめぐって飛ぶ姿に似ていた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
恐らくこの紳士しんしは、最初車室にはいって来たときに、素早すばやくあたりを見廻して、クルミさん一人だけのこの席をみつけると、相手を少女とみくびって
香水紳士 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
米友は素早すばやく人の中をくぐり抜け、人の頭を飛び越すようにして遊行上人の膝のところへ来てかじりつきました。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
かまびすしくおの家号やがう呼立よびたてる、なかにもはげしいのは、素早すばや手荷物てにもつ引手繰ひツたぐつて、へい有難ありがたさまで、をくらはす、頭痛持づゝうもちのぼるほどこられないのが
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
私のほかにも、この性質のあらはれをじつと見てゐる目があつた——近々と、鋭く、素早すばやく見てゐた。
彼は素早すばやく足をちぢめて、相手の武器を飛び越えると、咄嗟とっさに腰の剣を抜いて、牛のえるような声を挙げた。そうしてその声を挙げるが早いか、無二無三むにむさんに相手へ斬ってかかった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
わたくしいそ取上とりあげた。素早すばや一個いつこ夫人ふじんわたし、今一個いまいつこ右手めてとらへて『日出雄ひでをさん。』とばかり左手ひだり少年せうねん首筋くびすぢかゝへたときふねたちまち、天地てんちくだくるがごとひゞきとも海底かいていぼつつた。
葉子も及ばない素早すばやさで花びんの花のしおれかけたのや、茶や菓子のしなくなったのを見て取って、翌日は忘れずにそれを買いととのえて来た。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
彼は一つうなづくと素早すばやく、西湖せいこを望む窓辺に駈けより、重い花壜かびん※止はっしとなげつけた。ガタリという物音がして、西湖の空のあたりが、二つに裂けて倒れた。
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
抜打ちにした小森のかおをめがけて、一挺の花鋏はなばさみを投げつけた旅人風体りょじんていの男。笠を冠って合羽を着て草鞋わらじに脚絆なのが、桟敷の下をもぐって身を隠したその素早すばやいこと。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼女は毛糸を、折り曲げたカルタふだに巻きはじめたが、そのうち不意に、ぱっと素早すばやく私の顔を、なんとも言えない晴れやかな眼差まなざしで射たので、わたしは思わず顔をせてしまった。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
私は素早すばやく隙間の上に眼をてがひました。セリイヌの部屋附女中が這入つて來て、洋燈ランプともし、卓子テエブルの上に置いて退さがりました。かうしてこの二人づれがはつきりと私の眼に照し出されたのです。
素早すばやく車内を眺めまわし、まだほかにも席がないではないのに、ふと、クルミさんのほうをみると、さも満足したような表情をチラッと見せて、すぐにやって来ると、クルミさんの眼の前の席へ
香水紳士 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
大多数の男はあんな目で見られると、この上なく詩的な霊的な一瞥いちべつを受け取ったようにも思うのだろう。そんな事さえ素早すばやく考えの中につけ加えた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「ああ、そう」西郷副園長は簡単にこたえたが、其の後でチラリと帆村の方に素早すばやい視線を送った。
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
岩と木立の間へ惣太は素早すばやく身をひそませると、流れを上ってこちらへ来るのは、都合十人ほどの武士であって、その服装のいかめしいのを見ても落武者おちむしゃでないことは確かです。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そういって、ドン助の手に素早すばやにぎらせた紙幣——てのひらをあけると、十円札が二枚入っていた。
○○獣 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そこで本家へ取ってかえそうとして鈍重な身を起しかけた時、不意に裏口の戸があいて、そこから声もかけずに人が一人飛び込んで、また素早すばやくその戸をとざしてしまったことを知りました。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
消防手は素早すばやく塔上の小室に飛びこんで、しきりに大声で答えていた。それは同じくこの臭気に関するもののようであった。それは消防手が再び帆村の前に現われたとき明白になった。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
お玉は赤くなって、素早すばやく米友の着物を着換えてしまう。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
帆村が後にさったのをさいわいに、素早すばやくそこをのぞいてみて、あっと愕いた。なるほど、衝立の後には、誰もいない。小さな卓子テーブルのうえに、なるほど録音の発声器らしいものが載っているだけだ。
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
おキミは、素早すばやく側の窓を開くと、窓の下に腰をかがめ、右手を水車みずぐるまのように廻すと、何か黒いものをパッと窓外になげた。なにか街路の上で爆発するらしい音がして、スーウと青い光がひらめいた。
国際殺人団の崩壊 (新字新仮名) / 海野十三(著)