かつ)” の例文
せしとて甚だ通なりかつ出立しゆつたつの時に曰く木曾海道美人に乏し和田峠西もちや村の餅屋に一人また洗馬せばに一人あり洗馬のはわれ未だ其比を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
わたくしこの大佐たいさとはかつ面會めんくわいしたこといが、かね櫻木海軍大佐さくらぎかいぐんたいさとは無二むに親友しんいうで、また、わたくしためには終世しゆうせいわするゝこと出來できない
当時の証人としては、かつての乳母やさんがいつでも出現して下さるそうでございます。どうぞ、旦那様、花の児を返して下さいませ——
美人鷹匠 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
かつて将来の事を語らんと欲したるも、然れども夫れは実に大なる予が迷いたるの事たるを悟れり。戦地にいずるは、此れ死地に勇進するなり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
けれども米屋こめやはらひを、この三十日みそかにはうしたものだらうといふ、くるしい世帶話しよたいばなしは、いまかつ一度いちど彼等かれらくちにはのぼらなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
実に彼の宮を奪れしは、そのかつて与へられし物を取去られし上に、与へられざりし物をもあはせて取去られしなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
盡し神佛かみほとけへも祈りしかど其しるしかつてなく後には半身はんしん叶はず腰も立ねば三度のしよくさへ人手をかりるほどなれどもお菊は少しも怠らず晝は終日ひねもす賃仕事ちんしごと或ひはすゝ洗濯せんたく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
容易ようい胸隔きようかくひらかぬ日本人にほんじん容易ようい胸隔きようかくつる日本人にほんじんそろ失望しつぼうさうならざるなしと、かつ内村うちむら先生申されそろしか小生せうせい日本人にほんじんそろこばまざるがゆゑ此言このげんそろ
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
かつ自分じぶん一人ひとり毬投まりなげをしてて、れとれをだましたといふので、自分じぶんみゝたゝかうとしたことを思出おもひだしました、それといふのもこの不思議ふしぎ子供こどもが、一人ひとりでありながら
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
さて旧友きういう観励くわんれい上人は(椎谷ざい田沢村浄土宗祐光寺)強学きやうがくきこえあり、かつ好事かうずへきあるを以てかの橋柱はしばしらの文字を双鈎刊刻さうこうかんこくして同好どうこうにおくり且橋柱はしばしらだいする吟詠ぎんえいをこひ
かつてはありふれた質素な品であつたが、私がわけても好むものゝ一種である。工房を訪ねると、時としてはいとも貧しい箱舟や簀で、農事の片手間に、もの静かに漉いてゐる。
和紙の教へ (新字旧仮名) / 柳宗悦(著)
年齡としは取つても私が川村家の總理大臣だ。」とかつて祖母が云つてゐたことがあつた。
孫だち (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
しかしこれはとがめずとも好い。わたしの意外に感じたのは「偉大なる画家は名前を入れる場所をちゃんと心得ている」と言う言葉である。東洋の画家にはいまかつ落款らくかんの場所を軽視したるものはない。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
かつて彼女の魂が、どんなにやさしい心をもとめてゐたかは!
山羊の歌 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
かつてこれらの人間を、作つたのもおゝ自然おまえ!——
こころらじ、かつてだに。
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
然れどもかつて决する事ありて、如何なる塲合にも耐忍すべきとするを以て、強て一時間ばかりにして眼胞まぶたは腫れて、且つ諸所に出血する事あり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
其所そこが代助には難有ありがたい。と云うのは、誠吾は父とちがって、かつて小むずかしい説法などを代助に向って遣った事がない。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かつてこの人との間に縁談があったと妻が云っていたことを思い出して、聞いた時はそのままに流してしまった事柄を、急に大事件のように記憶から呼び起しました。
消えた霊媒女 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
うたがひの雲は始て宮が胸にかかりぬ。父がかつて病院にて見し女の必ず訳有るべしとせしはこれならん。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
あいちやんは自分じぶんまた、三にん園丁えんていのやうに平伏ひれふさなければならないかうかは疑問ぎもんでしたが、かつ行列ぎやうれつ出逢であつた場合ばあひ、かうした規則きそくのあることをきませんでした
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
さて旧友きういう観励くわんれい上人は(椎谷ざい田沢村浄土宗祐光寺)強学きやうがくきこえあり、かつ好事かうずへきあるを以てかの橋柱はしばしらの文字を双鈎刊刻さうこうかんこくして同好どうこうにおくり且橋柱はしばしらだいする吟詠ぎんえいをこひ
兵曹へいそうわたくしとは、うや/\しく敬禮けいれいほどこしつゝ、ふと、其人そのひとかほながめたが、あゝ、この艦長かんちやう眼元めもと——その口元くちもと——わたくしかつ記臆きおくせし、誰人たれかのなつかしいかほに、よくも/\ことおもつたが
しかし道徳はいまかつて、良心の良の字も造ったことはない。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
かつては、われもなよびかの
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
熊は時々馬匹に害を与うるを以て、かつてアイヌ一名を傭置やといおき、一頭を捕れば金五円ずつを臨時賞として与うることとせり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
出勤刻限しゆつきんこくげん電車でんしや道伴みちづれほど殺風景さつぷうけいなものはない。かはにぶらがるにしても、天鵞絨びろうどこしけるにしても、人間的にんげんてきやさしい心持こゝろもちおこつたためしいまかつてない。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
われいまかつて見ざりつる絶壁! あやふしとも、可恐おそろしとも、夢ならずしていかでか飛下り得べき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
あいちやんはかつ法廷ほふていつたことがありませんでした、たゞそれを書物しよもつんだばかりでしたが、それでも其處そこにある大抵たいていものることが出來できたので、非常ひじやうよろこんでゐました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
沙魚ふか領海りようかいとは隨分ずゐぶん奇妙きめう名稱めいしやうだが、實際じつさい印度洋インドやうちうマルダイブ群島ぐんとうから數千里すせんり南方なんほうあたつて、かゝ塲所ばしよのあるといふことは、かつある地理書ちりしよんだことがあるが、いま吾等われら目撃もくげきしたのはたしかにそれだ。
父の様に、こんな波は昔の人は描かないものだから、法にかなっていないなどという批評は、双方共に、いまかつ如何いかなるに対しても加えた事はなかった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
のみならず、一度熟睡さえすれば、あとは身体からだに何の故障も認める事が出来なかった。かつて何かのはずみに、兄とり飲みをやって、三合入の徳利とくりを十三本倒した事がある。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
催促さいそくすると、まだ先方せんぱうからもどつてまゐりませんからとかなんとか言譯いひわけをするだけかつらちいたためしがなかつたが、とう/\れなくなつたとえて、何處どこかへ姿すがたかくして仕舞しまつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)