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燻
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くすぶ
ふりがな文庫
“
燻
(
くすぶ
)” の例文
家の中には生木の薪を焚く煙が、物の置所も
分明
(
さだか
)
ならぬ程に
燻
(
くすぶ
)
つて、それが、日一日
破風
(
はふ
)
と誘ひ合つては、腐れた屋根に這つてゐる。
赤痢
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
どうせ彼女はあのむさくろしい千束町に一日
燻
(
くすぶ
)
っている筈はないから、毎日々々、近所隣を驚かすような派手な風俗で出歩くだろう。
痴人の愛
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
一
(
ひ
)
と
口
(
くち
)
に
申
(
もう
)
したらその
時分
(
じぶん
)
の
私
(
わたくし
)
は、
消
(
き
)
えかかった
青松葉
(
あおまつば
)
の
火
(
ひ
)
が、プスプスと
白
(
しろ
)
い
煙
(
けむり
)
を
立
(
たて
)
て
燻
(
くすぶ
)
っているような
塩梅
(
あんばい
)
だったのでございます。
小桜姫物語:03 小桜姫物語
(新字新仮名)
/
浅野和三郎
(著)
鉢形鍋形の土噐に外面の
燻
(
くすぶ
)
りたる物有る事は前にも云ひしが、貝塚
發見
(
はつけん
)
の哺乳動物の
長骨中
(
ちやうこつちう
)
には中間より二つに
折
(
お
)
り
壞
(
くだ
)
きたる物少からず。
コロボックル風俗考
(旧字旧仮名)
/
坪井正五郎
(著)
許嫁のモダン・ボーイと、モダン・ガールがこんな明朗な小春日和の日曜に家に
燻
(
くすぶ
)
っている筈はない。小店員が取次に現われて
求婚三銃士
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
▼ もっと見る
お組とやらいう娘一人の命ではなく、その奥にもっともっと複雑な犯罪が潜んで今ブスブス
燻
(
くすぶ
)
っているような気がしてならなかったのです。
銭形平次捕物控:115 二階の娘
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
栄
(
さかえ
)
えよかしで
祝
(
いは
)
はれて
嫁
(
よめ
)
に来たのだ、
改良竈
(
かいりやうかまど
)
と同じく
燻
(
くすぶ
)
るへきではない、
苦労
(
くらう
)
するなら一度
還
(
かへ
)
つて
出直
(
でなほ
)
さう。いかさまこれは
至言
(
しげん
)
と考へる。
もゝはがき
(新字旧仮名)
/
斎藤緑雨
(著)
それより手を替え品を替え
種々
(
さまざま
)
にして仕官の口を探すが、さて探すとなると無いもので、心ならずも小半年ばかり
燻
(
くすぶ
)
ッている。
浮雲
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
憤然として
衝
(
つッ
)
と立った。主税の肩越しにきらりと飛んで、かんてらの
燻
(
くすぶ
)
った
明
(
あかり
)
を切って玉のごとく、古本の上に異彩を放った銀貨があった。
婦系図
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
夏の鮒で脂は落ちていますが身は新しいので
燻
(
くすぶ
)
る山椒と醤油の
香
(
こう
)
ばしい匂と共にあまい滋味の湯気が周りに立ち拡がりました。
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
或者は火に手を
翳
(
かざ
)
したまま、
燻
(
くすぶ
)
る煙に眼を
瞬
(
しばだた
)
いている。さもなくば酒を温めながらこれに
合槌
(
あいづち
)
を打って陽気にするばかりだ。
越後の冬
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
遠い記憶のなかでなにか
燻
(
くすぶ
)
るものがあるようだ、しかしそれがなんであるかはわからない、彼は手紙の文字を思いかえした。
葦
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
やがて純次は、清逸の使いふるしの
抽出
(
ひきだし
)
も何もない机の前に坐った。机の上には三分
芯
(
じん
)
のラムプがホヤの片側を真黒に
燻
(
くすぶ
)
らして暗く灯っていた。
星座
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
白痴の花嫁——そのいつか来るかもしれない、明日の夢のようなものが、私の心の中で、絶えず
仄暗
(
ほのぐら
)
く
燻
(
くすぶ
)
っているのです。
白蟻
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
此頃はもう
燻
(
くすぶ
)
つたまゝぼんやり光つて、だだツ廣い臺所の隅々までを塵一本も殘さずに照らした昔の面影は見えなかつた。
天満宮
(旧字旧仮名)
/
上司小剣
(著)
二階は六畳敷ばかりの二間で、仕切を取払った真中の柱に、油壷のブリキでできた五分心のランプが一つ、
火屋
(
ほや
)
の
燻
(
くすぶ
)
ったままぼんやり
点
(
とぼ
)
っている。
世間師
(新字新仮名)
/
小栗風葉
(著)
「
主
(
しゅう
)
を
主
(
しゅう
)
とも思わぬ奴じゃ。」——こう云う修理の語の
中
(
うち
)
には、これらの憎しみが、
燻
(
くすぶ
)
りながら燃える火のように、暗い焔を蔵していたのである。
忠義
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
香がまだ
燻
(
くすぶ
)
っている。煙が玄関を通って中庭の方に流れて行くのが、
悠容
(
ゆうよう
)
たる趣きがあった。順々に皆が焼香する。私も人々にまじって焼香した。
風宴
(新字新仮名)
/
梅崎春生
(著)
そして、この激烈な感情を
燻
(
くすぶ
)
らせつつも独立を全うしない未能力者の彼は、苦しい日々の生活を迎えねばならなかった。
地上:地に潜むもの
(新字新仮名)
/
島田清次郎
(著)
白い煙を
颺
(
あ
)
げて浴衣はめらめらと燃えて行ったが、燃えのこりの部分の
燻
(
くすぶ
)
っているのを、さらに
棒片
(
ぼうきれ
)
で
掻
(
か
)
きたてていた。
仮装人物
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
背後の村には燃えさしの家が、ぷすぷす
燻
(
くすぶ
)
り、人を焼く、あの火葬場のような悪臭が、部隊を追っかけるようにどこまでも流れ拡がってついてきた。
パルチザン・ウォルコフ
(新字新仮名)
/
黒島伝治
(著)
薪
(
たきぎ
)
の
煤
(
すす
)
で真ッくろに
燻
(
くすぶ
)
っている天井から、笠の
焦
(
こ
)
げているのや、ホヤに
膏薬貼
(
こうやくば
)
りのしてあるランプが、卓の上に添うて七、八個ほど吊りさげてある。
かんかん虫は唄う
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
其頃
(
そのころ
)
武内
(
たけのうち
)
は
富士見町
(
ふじみちやう
)
の
薄闇
(
うすぐら
)
い
長屋
(
ながや
)
の
鼠
(
ねづみ
)
の
巣
(
す
)
見たやうな
中
(
うち
)
に
燻
(
くすぶ
)
つて
居
(
ゐ
)
ながら
太平楽
(
たいへいらく
)
を
抒
(
なら
)
べる元気が
凡
(
ぼん
)
でなかつた
硯友社の沿革
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
いわんやこんな
燻
(
くすぶ
)
り返った老書生においてをやで、
私
(
わたし
)
の
家
(
うち
)
は向う横丁の
角屋敷
(
かどやしき
)
ですとさえ云えば職業などは聞かぬ先から驚くだろうと予期していたのである。
吾輩は猫である
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
著作家や牧師のやうな
始終
(
しよつちゆう
)
家
(
うち
)
ばかしに
燻
(
くすぶ
)
つてゐるのは一番の困り者で、出来る事なら
船乗
(
ふなのり
)
や海軍軍人のやうな月の半分か、一年の
何分
(
なにぶんの
)
一かを海の上で送つて
茶話:02 大正五(一九一六)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
この
燻
(
くすぶ
)
つた竹藪の家では、その傾いた屋根の下の、あらゆる物、あらゆる空気、あらゆる心に、こんな豪華(!)な
装飾
(
よそおい
)
を導き入れる何の用意も出来てゐない。
竹藪の家
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
そして、絹川の土手にとりついた
比
(
ころ
)
には、
姝
(
きれい
)
な
樺色
(
かばいろ
)
に燃えていた西の空が
燻
(
くすぶ
)
ったようになって、
上流
(
かわかみ
)
の方は
微
(
うっ
)
すらした霧がかかりどこかで馬の
嘶
(
いなな
)
く声がしていた。
累物語
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
「糞壺」のストーヴはブスブス
燻
(
くすぶ
)
ってばかりいた。鮭や鱒と間違われて、「冷蔵庫」へ投げ込まれたように、その中で「生きている」人間はガタガタ
顫
(
ふる
)
えていた。
蟹工船
(新字新仮名)
/
小林多喜二
(著)
奥山の炭焼の
烟
(
けむり
)
に
燻
(
くすぶ
)
って、真黒になって、それでも働く人のあるというのは——何の為だ。
皆
(
みんな
)
、生きたいと思やこそ。自分の命より大切なものが世の中にあるかよ
藁草履
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
と戸を開けて這入ると、上り口は広い板の間で、炉が切ってあって、
自在鈎
(
じざい
)
に
燻
(
くすぶ
)
った薬鑵が懸ってある。
松の操美人の生埋:02 侠骨今に馨く賊胆猶お腥し
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
涙と水ぱなが流れだした。そして、むかむか腹立たしくなった。もくもく
燻
(
くすぶ
)
っている
焚
(
た
)
き木に怒りがぶっつかって行った。雪のついた
沓
(
くつ
)
の先でそれを
蹂
(
にじ
)
りつけた。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
「
鄙
(
ひな
)
には
稀
(
まれ
)
」とは京子のことではないか、こんなところに
燻
(
くすぶ
)
っているのは、何か暗い影がありはしないか——と余計な心配を起させる程、優れた美貌の持主だった。
鉄路
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
交霊会の席上に出現する燐光でさえもが、右にのぶる如き好条件の下にありては、青く冴え亘って煙がない。之に反して条件が悪ければ
其
(
その
)
光が鈍く汚く
燻
(
くすぶ
)
っている。
霊訓
(新字新仮名)
/
ウィリアム・ステイントン・モーゼス
(著)
「ここは何という所であろうか。」と、小坂部はあいにくに
燻
(
くすぶ
)
る落葉の煙りを袖に払いながら訊いた。
小坂部姫
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
夫にして一朝事業に失敗するとか、あるいは長い
病蓐
(
びょうじょく
)
に臥すとかいうことの起った場合には、今まで家庭に
燻
(
くすぶ
)
っていた妻が奮然立って外に働かねばならぬかも知れぬ。
夫婦共稼ぎと女子の学問
(新字新仮名)
/
大隈重信
(著)
その下でメラメラと燃え
燻
(
くすぶ
)
っている紅黒いガラ焼の焔が、ロシヤ絨氈のように重なり合って見える。
女坑主
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
例えば
鯉
(
こい
)
だとか菊水などは前者で、
打出
(
うちで
)
の
木槌
(
こづち
)
や
扇子
(
せんす
)
の如きは後者の場合であります。煙で充分に
燻
(
くすぶ
)
り、これをよく
拭
(
ふ
)
きこみますから、まるで
漆塗
(
うるしぬり
)
のように輝きます。
手仕事の日本
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
火に入れば熱い焔色、
燻
(
くすぶ
)
りむせる煙に巻かれれば見わけのつかない煤色になって、恐れて逃る人間達を導き導き空気とともに勇気を与え、必要な次の営みにつかせます。
対話
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
散った跡の河岸に誰かが
焚
(
た
)
きすてた焚火の灰がわずかに
燻
(
くすぶ
)
って、ゆるやかな南の風に
靡
(
なび
)
いていた。
雑記(Ⅱ)
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
今は、怠け者の、
口喧
(
やかま
)
しい爺さんとしての存在でしかなかった。伜や孫娘のすることに、うるさいほど
嘴
(
くちばし
)
を入れるだけで、しょぼしょぼと、薄暗い
室
(
へや
)
の中に
燻
(
くすぶ
)
っていた。
駈落
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
彼は古びたオーバーを着込んで、「寒い、寒い」と
顫
(
ふる
)
えながら、生木の
燻
(
くすぶ
)
る
火鉢
(
ひばち
)
に
獅噛
(
しが
)
みついていた。言葉も態度もひどく弱々しくなっていて、
滅
(
めっ
)
きり老い込んでいた。
廃墟から
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
玄關
(
げんくわん
)
の
先
(
さき
)
は
此
(
こ
)
の
別室全體
(
べつしつぜんたい
)
を
占
(
し
)
めてゐる
廣
(
ひろ
)
い
間
(
ま
)
、
是
(
これ
)
が六
號室
(
がうしつ
)
である。
淺黄色
(
あさぎいろ
)
のペンキ
塗
(
ぬり
)
の
壁
(
かべ
)
は
汚
(
よご
)
れて、
天井
(
てんじやう
)
は
燻
(
くすぶ
)
つてゐる。
冬
(
ふゆ
)
に
暖爐
(
だんろ
)
が
烟
(
けぶ
)
つて
炭氣
(
たんき
)
に
罩
(
こ
)
められたものと
見
(
み
)
える。
六号室
(旧字旧仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
それを置く窖(ずいぶん長いあいだあけずにあったので、その息づまるような空気のなかで、持っていた
火把
(
たいまつ
)
はなかば
燻
(
くすぶ
)
り、あたりを調べてみる機会はほとんどなかったが)
アッシャー家の崩壊
(新字新仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
駒井能登守の屋敷あとには草がいや高く生え、神尾主膳の焼け跡ではまだ煙が
燻
(
くすぶ
)
っている時分、甲府の町へ入り込んだ二人の旅人が、神尾の焼け跡を暫く立って見ていたが
大菩薩峠:17 黒業白業の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
するうちえたいのしれない焦燥が私のうちに
燻
(
くすぶ
)
りはじめ、美佐子のうちにもひとしく何か焦燥が燻り出したらしいのが私に感ぜられた。美佐子が突然、突っかかるように言った。
如何なる星の下に
(新字新仮名)
/
高見順
(著)
休んで
自宅
(
うち
)
に
燻
(
くすぶ
)
っていると、喧しく寄席から迎えがきた。どうしても今夜出てくれ、と。
寄席
(新字新仮名)
/
正岡容
(著)
生れは何でも
越後
(
ゑちご
)
の者だといふ事だが、其処に住んだのは、七八年前の事で、始めはその父親らしい腰の曲つた顔の
燻
(
くすぶ
)
つた
汚
(
きたな
)
らしい
爺様
(
ぢいさま
)
も居つた相だが、それは間もなく死んで
重右衛門の最後
(新字旧仮名)
/
田山花袋
(著)
夏も冬も同じ事である。冬は部屋の隅の鉄砲煖炉に
松真木
(
まつまき
)
が
燻
(
くすぶ
)
っているだけである。
青年
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
「俺はかうして何年も何年も同じ所に
燻
(
くすぶ
)
つて居るんだ。そして昇級の
宛
(
あて
)
もない。」
公判
(新字旧仮名)
/
平出修
(著)
出来る事なら
惰
(
なま
)
けて、終日
火燵
(
こたつ
)
に
燻
(
くすぶ
)
っていたいであろう。時には
暖炉
(
だんろ
)
のかたわらにばかりかじりついている上官を呪うこともあろう。決してその死んだ集配人を立派な人とも考えない。
丸の内
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
燻
漢検1級
部首:⽕
18画
“燻”を含む語句
一燻
燻肉
蚊燻
燻蒸
黒燻
松葉燻
燻腿
燻製
燻銀
燻占
空燻
燻製鰊
余燻
燻々
銀燻
坐燻
股燻製
突燻
燻鰊
燻香
...