きよ)” の例文
旧字:
それだのに君は、実にきよらかな燦かな玲瓏たる紅顔を何時迄も保っている。どうして君に対する忌しい取沙汰なぞを信用出来ようか。
現界げんかい景色けしきくらべてべつ格段かくだん相違そういもありませぬが、ただこちらの景色けしきほうがどことなくきよらかで、そして奥深おくふかかんじがいたしました。
(おどろきの変った形として)そのような精神のきよらかな命は、いつの間にやら失われて、通俗作家以下のものになっているのね。
汚水どろみずをくぐりてきよき蓮の花」と、古人もいっていますが、そうした尊い深い意味を説いているのが、この『法華経』というお経です。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
彼女の此の内部生活の清浄さに私は幾度きよめられる思をしたか知れない。彼女にくらべると私は実に茫漠として濁っている事を感じた。
智恵子の半生 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
悩み嘆く魂のために安らけき時を与え給え。犯せる罪をきよめるために浄罪の時を与え給え。——神の怒りは火となりて我らの五体を
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
林太郎と同じ宝物蔵のこれは階下の唐櫃からびつの中に入れられていたのを救い出して身をきよめさせ、身扮みなりを改めてここへ呼出したのです。
手水鉢ちょうずばちで、おおいの下を、柄杓ひしゃくさぐりながら、しずくを払うと、さきへ手をきよめて、べにの口にくわえつつ待った、手巾ハンケチ真中まんなかをお絹が貸す……
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「だからよ。船員みんなは小僧を見付みつけ次第タタキ殺して船霊様ふなだまさまきよめるって云ってんだ。汽鑵かまへブチ込めやあ五分間で灰も残らねえってんだ」
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ことごとくが名なき人々の作である。慾なきこの心が如何に器の美をきよめているであろう。ほとんど凡ての職工は学もなき人々であった。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
また晴れた心の清朗さ、慰められた心のなごやかさは、憂きに閉じた心よりもはるかに高められきよめられていると見てよいのであろうか。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
自分はそのとき静かな祈りを感じる。そしてそのときほど自分の心がきよらかに平和に、またみち足っているのを感じることはない。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
爺達おやぢたちはうきを持つて一塵も残らないやうに境内を掃ききよめた。若い女達はさま/″\の色彩を持つた草花を何処からか持つて来てゑた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
そしてその魅力をさらに大ならしむるものは、きよあたたかいなめらかな声の惑わしだった。一語一語が美しい和音のように響いていた。
孔明は前日から斎戒沐浴さいかいもくよくして身をきよめ、身には白の道服を着、素足のまま壇へのぼって、いよいよ三日三夜の祈りにかかるべく立った。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この夜は別して身をきよめ、御燈みあかしの数をささげて、災難即滅、怨敵退散おんてきたいさんの祈願をめたりしが、翌日あくるひ点燈頃ひともしごろともなれば、又来にけり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そのあおざめた、きよめてから間もない清らかな顔も、それから頭布からはみ出ている白い襟布までが何となく、よろこびに輝いたように見えた。
クララはそれが天使ガブリエルである事を知った。「天国にとつぐためにお前はきよめられるのだ」そういう声が聞こえたと思った。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
不思議な行為である。けれども次女は、此の行為に依ってみずからをきよくしているつもりなのである。変態のバプテスマである。
ろまん灯籠 (新字新仮名) / 太宰治(著)
けれども、フローラのきよらげな顔は動かず、眼を閉じて、眠っているのか、それとも、永劫えいごうの休息に入ったのかわからなかった。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
その輪廓の正しい顔はすごいほど澄みわたって、神々こうごうしいと云ってもいゝような美しさが、勝平の不純な心持ちをさえ、きよめるようだった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
惜しい夜もけた。手をきよめに出て見ると、樺の焚火たきびさがって、ほの白いけむりげ、真黒な立木たちきの上には霜夜の星爛々らんらんと光って居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「ジェズスは我々の罪をきよめ、我々の魂を救うために地上へ御降誕ごこうたんなすったのです。お聞きなさい、御一生の御艱難辛苦ごかんなんしんくを!」
おしの (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
階下の台所に近い井戸のそばで水垢離みずごりを取り身をきよめることは、上京以来ずっと欠かさずに続けている彼が日課の一つである。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「サヤケク」はきよいという意味でありますから、これでよさそうでありますが、この「」は「さやけく」の「け」とは仮名の類が違います。
古代国語の音韻に就いて (新字新仮名) / 橋本進吉(著)
すがすがしい朝を前触れるきよめの嵐なのではあるまいかと、わたくしごとの境涯を離れて広々と世を見はるかす健気けなげな覚悟もいて参ります。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
雨によって十分にきよめられ元気づけられたように、より明るく、より緑に、そしてよりまっ直ぐに、より生き生きと見えた。
次第にあらたまから玉が出来るように、記憶の中できよめられて、周囲から浮き上がって、光の強い、力の大きいものになっている。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
かの女は水のきよらかな美しい河のほとりでをとめとなつた女である。の川の水源は甲斐かい秩父ちちぶか、地理にくらいをとめの頃のかの女は知らなかつた。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
五日ばかりで身がきよまったので、また私は御堂に上った。ずっと来ていて下すった伯母もその日お帰りになって往かれた。
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
私はその時からひたすらに、如何いかにもして自分の汚れた血を、人間の血にきよめもどしたいと思った。然し、医者でない私に何の施しようがあろう。
犬神 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
殊に平一郎があの美しい少年の深井を愛しているきよい少年らしい情操を発見して、「文学者K」はひそかに微笑せずにはいられなかったのである。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
おッとッと、そう一人ひとりいそいじゃいけねえ。まず御手洗みたらしきよめての。肝腎かんじんのお稲荷いなりさんへ参詣さんけいしねえことにゃ、ばちあたってがつぶれやしょう
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ここではあらゆるのぞみがみんなきよめられている。ねがいの数はみなしずめられている。重力じゅうりょくたがいされつめたいまるめろのにおいが浮動ふどうするばかりだ。
インドラの網 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
一家戒慎かいしんして室をきよめ、みだりに人を近づけず、しかも出入坐臥ざが飲食ともに、音もなく目にも触れなかったことは、他の多くの尊い神々も同じであった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
やっと娘になったばかりの、色気にはまだまだよほど間の遠いかんじではあるが、しかし、それだけに、あどけない眼には夢みるようなきよらかさがあった。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
あるいはこれに反して我が身に一点の醜を包蔵せんか、満天下に無限の醜を放つものあるも、その醜は以て我が醜をきよむるに足らず、またじょするに足らず。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
雑念のない顔を見ると、こわいことも忘れられて、すうっとした、洗いきよめられたような感情にき入れられた。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
この絵姿の若衆の顔はやさしく晴々しく邪気なく、この若衆が手にした白躑躅しろつつじのそれよりもきよい浄い姿でした。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
その彫像はにわかに生気が出てきた! 蒼ざめた大理石のおもざし、膨らんだ大理石の胸、きよらかな大理石の足が、突然、一面に抑えきれぬ紅潮を呈してくる。
彼はきよい室内に壇をしつらえさせ、何かの符を自分で書いて供えた。それから三日の後、いよいよ絵具や紙や筆を取り揃え、茘裳に礼拝させて立ち去らせた。
諸農の仏事供養の時汝壇をきよめるの職にあれば供養の品々を受用してからずやとのたもうなどその事もっぱら家猪に係り、猪八戒は豕で野猪でないと証明する。
白昼、花々におう小路をさまよい、勝手な空想にふけっていれば、あなたはいつもぼくの身近く、きよらかな童女のような相貌そうぼうで、ぼくにつきまとっていたのです。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
ぼろぼろに乾いたそこらの土は、土塊つちくれは、その香気のために絶えずき籠められ、いぶしきよめられている。
水仙の幻想 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
そこで正助爺さんは掃溜の中から犬の死骸を拾つて、綺麗きれいに洗ひきよめ、それを土竈どがまのさきへ埋めました。
竜宮の犬 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
そして一月ひとつきに三ずつ、おはいってからだきよめて、そこへおこもりになり、ほとけみち修行しゅぎょうをなさいました。
夢殿 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
長い間の自分のうらみも憤りも悲しみもすべて洗いきよめられて、深い暗い失望のどん底から、すっと軽い、好い心地で高く持ち上げられているような気がしてきた。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
職務のためのこととはいいながら、前夜来のあだがましかった青まゆの女との不潔な酒のやりとりに、濁ったからだをきよきよめるように、ばらばらとふりかけました。
その花びらが、幾つにも分けて見せる隈、仏の花の青蓮華しょうれんげと言うものであろうか。郎女の目には、何とも知れぬきよらかな花が、車輪のように、宙にぱっと開いている。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
それは死の影によって更にきよめられ、さらに神聖になっていたとはいえ、世に在りし時よりも更に肉感的になって、誰が見てもただ睡っているとしか思われないのでした。