いは)” の例文
同情を呈する事あたはず、いはんや、気宇かめの如くせまき攘夷思想の一流と感を共にする事、余輩の断じて為すこと能はざるところなり。
一種の攘夷思想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
伝奇の精髄を論じてアリストテレスの罪過論を唯一の規則とするは既に偏聴のせめを免れず、いはんやこれを小説に応用せんとするをや
罪過論 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
おなひとですら其通そのとほり、いはんやかつこひちかられたことのないひと如何どうして他人たにんこひ消息せうそくわからう、そのたのしみわからう、其苦そのくるしみわからう?。
湯ヶ原より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
いはんや彼の此行固より空嚢くうなうたりしをや。古より名士は謗訕ばうせん多し。吾人たとひ好む所に佞する者に非るも彼の為めにゑんを解かざるを得ざる也。
頼襄を論ず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
実際の失恋でもない、いはんや得恋でもない、はゞ無恋の心もちが、一番悲惨な心持なんだ。此の落寞らくばくたる心持が、俺にはたまらなかつたんだ。
良友悪友 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
いはんや私は尋常の文人である。後代の批判にして誤らず、普遍ふへんの美にして存するとするも、書を名山に蔵するていの事は、私の為すべき限りではない。
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
いはんや石川が存生中の知人は今なほ沢山あるにも拘はらず、その伝記がたまたま誤り伝へられてゐるのを考へると
石川啄木と小奴 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
京都街鼓、今尚ほ廃す。後生、唐の詩文を読み街鼓に及ぶ者、往々にして茫然知る能はず。いはんや僧寺夜半の鐘をや
わづか三十一みそひと文字を以てすら、目に見えぬ鬼神おにがみを感ぜしむる国柄なり。いはんや識者をや。目に見えぬものに驚くが如き、野暮なる今日の御代みよにはあらず。
青眼白頭 (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
いはんや三十一字の和歌十七字の俳句は古來より言ひ古して大方は陳腐に屬し熟套じゆくたうに落ちし今日少くとも三十二三字又は十八九字の新調を作るの必要を見る。
字余りの和歌俳句 (旧字旧仮名) / 正岡子規(著)
時に州を領するの間滅亡する者其数幾許いくばくなるを知らず、いはんや存命の黎庶れいしよは、こと/″\く将門の為に虜獲せらるゝ也。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
いはんや竹藪自身たけやぶじしん二十間にじゆつけん移動いどうしたことが明治二十四年めいぢにじゆうよねん濃尾大地震のうびだいぢしんにも經驗けいけんされ、またそれをとほしておほきな地割ぢわれの出來でき實例じつれいはいくらもあるくらゐであるから
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
いはんやそを猶太の翁に學ぶことをや。されどこの事に就きては、我等また詞を費さゞるべし。今日は善くこそ我を訪ねつれ。物欲しからずや。酒飮まずや。
かしかりければ、そのころ此の平中にすぐれたる者世になかりけり、かゝる者なれば、人の妻、娘、いかにいはんや宮仕人は此の平中に物云はれぬはなくぞありける
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ヨオロツパ諸国の間にあつても左様であるから、いはんやすべての事情環境の異つた東洋の言葉を以て、或は東洋の筆を以て西洋の気分を出す事はづ不可能である。
翻訳製造株式会社 (新字旧仮名) / 戸川秋骨(著)
信念の巌は死もこれを動かす能はず、いはんや区々くくたる地上の権力をや。大哲スピノザ、少壮にして猶太ユダヤ神学校にあるや、侃々かんかんの弁を揮つて教条を議し、何のはばかる所なし。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
罪せずいはんや罪のうたがはしきは輕くしやうの疑しきは重くすと是賞を重んじ罪をかるくする事の理なり其方共が吟味ぎんみは定めて九助の衣類のすそそみたると鼻紙はながみ入の落てありしとを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いはんや一旦病魔に冒さるれば、多くは毒の力でなくては恢復が出来ないに於ておやである。
毒と迷信 (新字旧仮名) / 小酒井不木(著)
いはんやこのぴい/\ではないか? この十五日にはとても間に合はんから、いツそ來年元旦の發行に變へて、十二月中に大準備をして、新年號から大發展としようかとも思うてをる。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
いはンヤ吾トなんぢ江渚こうしよノホトリニ漁樵ぎよしようシ、魚鰕ぎよかつれトシ、麋鹿びろくヲ友トシ、一葉ノ扁舟へんしゆうニ駕シ、匏樽ほうそんヲ挙ゲテ以テ相属あひしよくス、蜉蝣ふゆうヲ天地ニ寄ス、びようタル滄海そうかい一粟いちぞく、吾ガ生ノ須臾しゆゆナルヲかなし
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
やゝもすれば見と信とを対せしめては、信の一義に宗教上千鈞せんきんの重きをくを常とし、而して見の一義に至りては之れを説くものまれ也、いはんや其の光輝ある意義を搉揮かくきするものに於いてをや。
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
更に見よ、漆のやうに鮮潤つややかなりし髪は、後脳のあたり若干そくばくの白きをまじへて、額に催せししわの一筋長くよこたはれるぞ、その心のせばまれるひだならざるべき、いはんや彼のおもておほへる蔭はますます暗きにあらずや。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
家業かげふ奮發ふんぱつすれば、あと三里さんり五里ごりはしれようが、それにしても、不忍池しのばずいけ三十幾囘さんじふいくくわい——いはんや二十七里にじふしちりづけの車夫くるまや豪傑がうけつであつた。つたものにとくはない。が、ほとん奇蹟きせきはねばならない。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さらでもおいてはひがむものとかいはんやひんにやつれにやつれひとうらめしくなかつらくけてはなげれてはいかこゝろ晴間はれまなければさまでには病氣びやうきながら何時いつなほるべき景色けしきもなくあはれ枯木かれきたる儀右衞門夫婦ぎゑもんふうふちわびしきは
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いはんや俳聖芭蕉の生地である。
伊賀国 (旧字旧仮名) / 近松秋江(著)
一蟻螻ひとつのありを害す、なほ釈氏は憐れみにえざりし、一人を殺す、如何いかばかりの罪に当らむ。いはんや百万の衆生を残害するをや。
想断々(1) (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
後生唐の詩文を読んで街鼓に及ぶ者、往々にして茫然知る能はず。いはんや僧寺夜半の鐘をや。(老学庵筆記、巻十)
すでに然るからはこれを果亭と認めて壁間へきかんにぶら下げたのにしろ、毛頭まうとう自分の不名誉になる事ぢやない。いはんや自分は唯、無名の天才に敬意を表する心算つもりで——
鑑定 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
いきとし生る物子を愛せざるはなし燒野やけの雉子きゞすよるつる皆子を思ふが故に其身のあやふきをもかへりみずいはんや萬物のれいたる人間界にんげんかいに於てをや然るに情け無くも吉兵衞は妻の死去せしより身代を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
然もこの不思議や、静かに考へ来れば、遂に不思議にあらず、幻怪にあらず、いはんや無意義の妄想幻想をや。我等はこの不思議を不思議とする世の人の心を以て却つて不思議なりと云はむ。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
彼は儒者たるを甘んぜざる者なり、何ぞいはんや詩人文人たるを甘んぜんや。
頼襄を論ず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
何となれば独乙の諺は日本人に不案内なればなり。いはんや「屋上の鳩」の語は「手中の雀」と云へる語をツて意味あるものに於てをや。けだかくの如き些細ささいを責むるも全く本篇が秀逸の傑作なれば也。
舞姫 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
いはんや此の残燈の夜に
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
いはんや扶桑第一の好風に遊びて、一句をさずして帰りし事、如何許いかばかりの恥辱にてやありけむ。然るも、凡傭の作調家が為すこと能はざる所を蕉翁は為せり。
松島に於て芭蕉翁を読む (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
しかし僕は、山形県は勿論、仙台へ行つたこともなければ、いはんや針久旅館などに泊つたこともない。
偽者二題 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
洋涛万里やうたうばんりを破るの大艦といへども、停滞動く事なくむば汚銹腐蝕をしうふしよくを免かれ難く、進路一度梶を誤らば遂に岩角がんかくの水泡に帰せむのみ。いはんや形色徒らに大にして設備完たからざる吾現時の状態に於てをや。
渋民村より (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
いはんや見合ひなどした際、どちらか一方が幻滅を感じたにも拘らず、当座の義理や体裁から、これを有耶無耶うやむやに葬つて結婚するなどに至つては笑止のきはみであると思ふ。
いはんや沈痛凄惻人生を穢土ゑどなりとのみ観ずる厭世家の境界に於てをや。いづくんぞ恋愛なる牙城にる事の多からざるを得んや、曷んぞ恋愛なる者を其実物よりも重大して見る事なきを得んや。
厭世詩家と女性 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
幽霊と他界の悪霊と協合したるものゝ如くにあらはす者に比す可きにあらず、いはんや狂公子のみに見えて其母には見えざる如き妙味に至りては、到底わが東洋思想の企及する所にあらざるなり。
他界に対する観念 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
誰かみづから省れば脚にきずなきものあらんや。僕の如きは両脚りやうきやくの疵、ほとんど両脚を中断せんとす。されど幸ひにこの大震を天譴てんけんなりと思ふあたはず。いはんや天譴てんけんの不公平なるにも呪詛じゆその声を挙ぐる能はず。
哲学必ずしも人生の秘奥を貫徹せず、何ぞいはんや善悪正邪の俗論をや。
心機妙変を論ず (新字旧仮名) / 北村透谷(著)