かか)” の例文
従つてその泊り場も一定してゐた訳ではなく、或る時は隅田川の上流の人気ひとけない浅瀬に、或る時は都市の中央にかかつた巨大な橋の下に。
水に沈むロメオとユリヤ (新字旧仮名) / 神西清(著)
二百八間の大橋がかかっていたものとみえるが、その年、天文二十一年の夏の頃には、まだまだこの地は、乱世乱麻の合戦の真ッただ中。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は、畑と畑との間を辿たどって進んだ。河骨こうほねなどの咲いている小流れへ出た。それに添うて三四町行くと、そこに巾の狭い木橋がかかっていた。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
石橋のかかつてゐる中の島の枯松を越して、奥座敷に電燈が煌々こうこうとついてゐた。座敷の中には美術品らしいものが一ぱいに詰つてゐるのが見えた。
夏の夜の夢 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
橋は、雨や雪にしらっちゃけて、長いのが処々ところどころうろこの落ちた形に中弛なかだるみがして、のらのらとかかっているその橋の上に茫然ぼんやりと。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二の橋の日向坂はその麓を流れる新堀川しんほりかわ濁水だくすいとそれにかかった小橋こばしと、ななめに坂を蔽う一株ひとかぶえのきとの配合がおのずから絵になるように甚だ面白く出来ている。
ヤーセ駅の一里ばかり東の方から、入江いりえのごとくになって居る湖水に流れ込んで居る川があります。その川にかかってある石の小橋を南に渡ったです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
轟々ごうごうと闇の裡に鳴って渓河が流れている。其処には、黒い鉄橋がかかっている。太吉は氷のように冷たな鉄橋にすがりながら細い板の上を怖る怖る渡った。
越後の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
舟や材木のぎっしり詰った黒い堀割りの水にかかった小橋を幾個いくつとなく渡ると、そこにまた賑やかな一区画があった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
白い橋がかかっている。その橋の向うは、郊外こうがいらしい安料理屋が軒を並べていて、法華寺ほっけじがあると云う事であった。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
夏の明易あけやすかつた。両側に人家が続いたり、橋がかかつたりするあたりに来る頃には、もうまつた明放あけはなれて居た。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
やうやく千本松を過ぎ、進みて関谷村せきやむらに到れば、人家の尽る処に淙々そうそうの響有りて、これにかかれるを入勝橋にゆうしようきようす。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
瞼の上に重く蜘蛛の巣のようにかかっていて、払おうとしてもとりのけられない霞のようなものが、そこら中に張りつめられているようで、ものうい毎日がつづいた。
性に眼覚める頃 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
町のはずれの越辺川おつべがわというのに小さい橋がかかって居て、それを渡ると、弘法山という小さい山がある。
(新字新仮名) / 岩本素白(著)
多くの工場が、入れかわり立ちかわり、同じようなモオタアの音をさせながら遠くまで私について来た。とうとう私は川にかかっている一つの長い木の橋の上へ出た。
三つの挿話 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
その内に又馬車が動き出すと、鉄橋のかかった川の側へ出た。川には支那の達磨船だるませんが、水も見えない程群っている。川のふちには緑色の電車が、なめらかに何台も動いている。
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
場処ばしょは路が対岸に移るようになっているために、あやう略彴まるきばしが目のくるめくような急流にかかっているのを渡ったり、また少時しばらくして同じようなのを渡りかえったりして進んだ。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
逢引橋あいびきばしなどのあった三角の水隈みずくまには、今度三角の不思議な橋がかかったが、あのあたりは地震ごろまで川獺の噂があって逢引橋のたもとにあった瓢屋ひさごやなどに来る歌妓げいしゃを恐れさした。
築地の川獺 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
橋がかかって車が渡り、橋の下までは帆をかけた舟がのぼり、堤が低くなって水田が広く見え、城壁の下を流れて都府に入れば、岸には子供が集って軽業師の芸を見ている。
峠に関する二、三の考察 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
高麗こうらい橋通りにかかった筋違すじかい橋のたもとから四ツ橋まで、西横堀川に添うた十五町ほどの間は、ほとんど軒並みに瀬戸物屋で、私の奉公した家は、平野町通りから二三軒南へはいった西側の
アド・バルーン (新字新仮名) / 織田作之助(著)
小さい木橋がその間にかかつてゐた。東側に古い警察署があつた。川を越えて、丁度その向ひ側に、代書屋が四五軒並んでゐた。そのうちに、しもた屋の店さきを借りて、仙吉は坐つてゐる。
反逆の呂律 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
一同が広々としたなわてへ出て、村の入口にかかっている小さな橋を渡ろうとすると、突然物陰から、飛白かすりのよれよれの衣物きものを着た味噌歯みそっぱの少年が飛出して来て、一番背の高い自分に喰付こうとした。
秘められたる挿話 (新字新仮名) / 松本泰(著)
おいを負いて上京する遊学者も、伊勢参宮の道者本願寺にもうずる門徒、その他遠路に立つ商用の旅なども、おおよそ半年以上の別離と言えば皆この磧まで送らるるなり、されば下流にかかる板橋は
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
きのうのアングルは横にかか
朝へ行く (新字新仮名) / 平林彪吾(著)
と正吉が言う処を、立直って見れば、村の故道ふるみちを横へ切れる細い路。次第だかの棚田にかかって、峰からなぞえに此方こなたへ低い。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それは法林ほうりん道場(問答の場所)の横にかかって居る石段である。その石段を降ると法林道場の美しい門の前に出ます。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
下水と溝川はその上にかかった汚い木橋きばしや、崩れた寺の塀、枯れかかった生垣いけがき、または貧しい人家のさまと相対して、しばしば憂鬱なる裏町の光景を組織する。
芝草のような草の間を流れている水の澄みきった流れが前を横ぎっていて、それには一枚石が橋のようにかかっていた。武士はその石を渡って花の林の中へ入って往った。
山寺の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
かれは石段のところから二町ほど上流の、灰色っぽい木橋のたもとまで来かかっていた。長い木橋の、灰ばんでよこたわっている姿は、枯れた川原の草の上に蕭条しょうじょうとしてかかっていた。
童話 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
京都の嵐山あらしやまの前を流れる大堰川おおいがわには、みやびた渡月橋とげつきょうかかっています。その橋の東詰ひがしづめ臨川寺りんせんじという寺があります。夢窓国師むそうこくしが中興の開山で、開山堂に国師の像が安置してあります。
鯉魚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
あくあしたの食後、貫一はづこの狭き畑下戸はたおり隅々すみずみまで一遍ひとわたり見周みめぐりて、ぼその状況を知るとともに、清琴楼の家格いへがらを考へなどして、かはらに出づれば、浅瀬にかかれる板橋の風情ふぜい面白く
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
峠を下り切ったところにかかっている白い橋の上に、小さな男の子が一人、かばん背負せおったまま、しょんぼりと立っていた。私の連れ立っている子供たちがその男の子に同時に声をかけた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
浜の方へ五六間進むと、土橋が一架ひとつ、並の小さなのだけれども、滑川なめりがわかかったのだの、長谷はせ行合橋ゆきあいばしだのと、おなじ名に聞えた乱橋みだればしというのである。
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
想うに昔此川ここに鉄の橋がかかってあったろうと思う。といったところで立派な鉄橋ではない。ただ一筋の
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
堤には太鼓橋になった石橋が処どころにかかって、裸木の柳の枝が寒そうに垂れていた。
牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
どことも覚えない大溝が通っていて小橋がまばらにかかり、火事の焼跡に休業の小さい劇場の建物が一つくろずみ、河沿いの青白い道には燐光を放つ虫のようにひしゃげた小家が並んでいる。
蝙蝠 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
先刻さっき二人が着いた頃には、三味線太鼓で、トトン、ジャカジャカじゃじゃじゃんと沸返るばかりだった——ちょうど八ツ橋形に歩行あゆみ板がかかって、土間を隔てた隣の座敷に
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
堤には太鼓橋たいこばしになった石橋がところどころにかかって裸木はだかぎの柳の枝が寒そうに垂れていた。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
どことも覚えない大溝おおどぶが通つてゐて小橋がまばらにかかり、火事の焼跡に休業の小さい劇場の建物が一つくろずみ、河沿ひの青白い道には燐光りんこうを放つ虫のやうにひしやげた小家が並んでゐる。
蝙蝠 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
白い、しずかな、曇った日に、山吹も色が浅い、小流こながれに、苔蒸こけむした石の橋がかかって、その奥に大きくはありませんが深く神寂かんさびたやしろがあって、大木の杉がすらすらと杉なりに並んでいます。
雪霊記事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
向うは、安宅町河岸の倉庫、そして右手には悠揚と新大橋もかかっていれば、左側には、両国橋を越して蔵前橋の橋梁のカーヴも見えます。小名木川口の上にそびえる国技館の大きな丸屋根。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その、すぼんだ処に、土橋が一つかかっているわい。——それそれ、この見当じゃ。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その海へ落口おちぐちが、どっと濁って、ながれが留まった。一方、海からは荒浪がどんどんとッつける。ちょうどその相激する処に、砂山の白いのが築洲つきすのようになって、向う岸へかかったのです。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「構っちゃ可厭いやだよ。」とと茶の間を抜ける時、ふすまけんの上を渡って、二階の階子段はしごだんゆるかかる、拭込ふきこんだ大戸棚おおとだなの前で、いれちがいになって、女房は店の方へ、ばたばたと後退あとずさりに退すさった。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
松のかたへ小戻りして、向合った崖縁に立って、谿河たにがわを深く透かすと、——ここは、いまの新石橋がかからない以前に、対岸から山伝いの近道するのに、樹の根、巌角いわかどを絶壁に刻んだこみちがあって
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
道をはさんで、入口に清水のく、藤棚のかかった茶店があって、(六地蔵は、後に直ぐそのわきに立ったのですが、)——低く草の蔭に硝子ビイドロすだれが透いて、二つ三つ藍色あいいろの浪をいた提灯ちょうちんともれて
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ちょいとまきを倒したほどの足掛あしかけかかっているが、たださえ落す時分が、今日の出水でみずで、ざあざあ瀬になり、どっとあふれる、根を洗って稲の下から湧立わきたいきおい、飛べる事は飛べるから、先へ飛越えては
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お茶と水とは附いて廻る、駿河台するがだい水車みずぐるまかかったか、と云う。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その溝の色を白く裁切たちきって刎橋のかかったままのがあった。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)