朱鷺色ときいろ)” の例文
入口を見ると、三分刈のクリ/\頭が四つ、朱鷺色ときいろのリボンを結んだのが二つ並んで居た。自分が振り向いた時、いづれも嫣然につこりとした。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
純白や、クリーム色や、朱鷺色ときいろや、薄いモーヴや、さまざまの色のロオブの裾が、海風に吹かれて花むらの花のように揺れている。
だいこん (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
真白なのは、てのひらへ、むらさきなるは、かへして、指環の紅玉ルビイの輝くこうへ、朱鷺色ときいろと黄のあしして、軽く来てとまるまでにれたのであつた。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
春の日の朱鷺色ときいろ牡丹女童めわらはが跳ぶ足音に揺れつつ照りぬ
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
眞白まつしろなのは、てのひらへ、むらさきなるは、かへして、指環ゆびわ紅玉ルビイかゞやかふへ、朱鷺色ときいろあしして、かるとまるまでにれたのであつた。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
入口を見ると、三分刈りのクリ/\頭が四つ、朱鷺色ときいろのリボンを結んだのが二つ並んで居た。自分が振り向いた時、いづれも嫣然につこりとした。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
朱鷺色ときいろや、黄や、緑や、その間色かんしょくの雑多なペンキで、にぎにぎしく塗りあげられているので、古い三色版画のミシシッピー河のショオ・ボートにそっくりなようすをしている。
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
朱鷺色ときいろ扱帶しごきふので、くだん黒髯くろひげおほきなひざに、かよわく、なよ/\とひきつけられて、しろはな蔓草つるくさのやうにるのをた。
麦搗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
二人の妹は、裾短かな、海老茶えびちやの袴、下髮おさげに同じ朱鷺色ときいろのリボンを結んで、譯もない事に笑ひ興じて、追ひつ追はれつする。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
払暁ふつぎょうの薄い朱鷺色ときいろを背にうけて、ゆったりとたゆたっているその船。
顎十郎捕物帳:13 遠島船 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
幕に、それが消える時、風がなげうつがごとく、虚空から、——雨交りに、電光の青き中を、朱鷺色ときいろが八重に縫う乙女椿の花一輪。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二人の小妹いもうとは、裾短かな海老茶の袴、下髪おさげに同じ朱鷺色ときいろのリボンを結んで、訳もない事に笑ひ興じて、追ひつ追はれつする。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
むねを、萌黄もえぎこぼれ、むらさきれて、伊達卷だてまきであらう、一人ひとりは、鬱金うこんの、一人ひとり朱鷺色ときいろの、だらりむすびが、ずらりとなびく。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
同時に、横の襖に、それは欄間らんまに釣って掛けた、妹の方の明石あかしの下に、また一絞ひとしぼりにして朱鷺色ときいろ錦紗きんしゃのあるのが一輪の薄紅い蓮華に見えます。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やがて、朱鷺色ときいろ手巾ハンケチで口を蔽うて、肩で呼吸いきして、向直って、ツンとすまして横顔で歩行あるこうとした。が、何と、おのずから目がこっちに向くではないか。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お美津はこらえず、目に袖を当てようとした。が、朱鷺色ときいろ衣に裏白きは、神の前なる薄紅梅、涙に濡らすは勿体ない。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
映って、そして、緋に、紫に、朱鷺色ときいろに、二人の烏帽子、素袍、狩衣、あやあるままに色の影。ことにお珊の黒髪が、一条ひとすじ長く、横雲掛けて見えたのである。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
着物きものは、ちやつた、おなじやうながらなのをて、阿母おふくろのおかはりにつた、老人としよりじみた信玄袋しんげんぶくろげた、朱鷺色ときいろ襦袢じゆばん蹴出けだしの、内端うちわながら、なまめかしい。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「かの隅田川に、ただ一羽なる都鳥があつて、雪なす翼は、朱鷺色ときいろの影を水脚みずあしに引いて、すら/\と大島守の輝いて立つそでの影にるばかり、水岸みずぎしへ寄つて来た。」
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ときに、一筋ひとすぢでもうごいたら、の、まくら蒲團ふとん掻卷かいまき朱鷺色ときいろにもまがつぼみともつたかほをんなは、芳香はうかうはなつて、乳房ちぶさからしべかせて、爛漫らんまんとしてくだらうとおもはれた。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
黒小袖の肩を円く、但し引緊ひきしめるばかり両袖で胸を抱いた、真白まっしろな襟を長く、のめるように俯向うつむいて、今時は珍らしい、朱鷺色ときいろ角隠つのかくし花笄はなこうがいくしばかりでもつむりは重そう。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その長襦袢で……明保野で寝たのであるが、朱鷺色ときいろの薄いのに雪輪を白く抜いた友染である。みちに、ちらちらと、この友染が、小提灯で、川風が水に添い、野茨のばらの花。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
辞退したがかないで、床の間のわきの押入から、私の床を出して敷いたあとを、一人が蚊帳を、一人が絹の四布蒲団よのぶとんを、明石と絽縮緬ろちりめんもすそからめて、蹴出褄けだしづま朱鷺色ときいろ、水色
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
くずるる潮の黒髪を洗うたびに、顔の色が、しだいに蒼白そうはくにあせて、いまかえって雲を破った朝日の光に、濡蓑は、さっ朱鷺色ときいろに薄く燃えながら——昨日きのう坊さんを払ったように
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひさしへ張って、浅葱あさぎに紺の熨斗のし進上、朱鷺色ときいろ鹿の子のふくろ字で、うめという名が一絞ひとしぼり
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
れない人だから、帯も、扱帯しごきも、羽衣でもむしったように、ひき乱れて、それも男の手で脱がされたのが分ります。——薄い朱鷺色ときいろ、雪輪なんですもの、どこが乳だか、長襦袢だか。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……湯気に山茶花さざんかしおれたかと思う、れたように、しっとりと身についた藍鼠あいねずみ縞小紋しまこもんに、朱鷺色ときいろと白のいち松のくっきりした伊達巻だてまきで乳の下のくびれるばかり、消えそうな弱腰に
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
朱鷺色ときいろ手絡てがら艶々つやつやした円髷まるまげ、藤紫に薄鼠うすねずみのかかった小袖のつまへ、青柳をしっとりと、色の蝶が緑を透いて、抜けて、ひらひらと胸へ肩へ、舞立ったような飛模様を、すらりと着こなした
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
藍色がかった、おぶい半纏ばんてんに、朱鷺色ときいろの、おぶい紐を、大きくゆわえた、ほんの不断着ふだんぎと云った姿。で、いま、傘をすぼめると、やりちがえに、白い手の菊を、背中の子供へさしあげました。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
房々とあるつややかな黒髪を、耳許みみもと白くくしけずって、櫛巻くしまきにすなおに結んだ、顔を俯向うつむけに、撫肩なでがたの、細く袖を引合わせて、胸を抱いたが、衣紋えもん白く、空色の長襦袢ながじゅばんに、朱鷺色ときいろの無地のうすものかさねて
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と二階を下りる、……その一輪の朱鷺色ときいろさえ、消えた娘の面影に立った。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
惜気おしげなく真鍮しんちゅうの火鉢へ打撒ぶちまけると、横に肱掛窓ひじかけまどめいた低い障子が二枚、……其の紙のやぶれから一文字いちもんじに吹いた風に、又ぱっとしたのが鮮麗あざやか朱鷺色ときいろめた、あゝ、秋が深いと、火の気勢けはいしもむ。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
二人寢ふたりねゆつたりとした立派りつぱなもので、一面いちめんに、ひかりつた、なめらかに艶々つや/\した、ぬめか、羽二重はぶたへか、とおもあは朱鷺色ときいろなのを敷詰しきつめた、いさゝふるびてはえました。が、それはそらくもつて所爲せゐでせう。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
赤地に白菊の半襟、緋鹿ひがの子の腰巻、朱鷺色ときいろ扱帯しごきをきりきりと巻いて、萌黄繻子もえぎじゅすと緋の板じめ縮緬ちりめんを打合せの帯、結目むすびめを小さく、しんを入れないで帯上おびあげは赤の菊五郎格子、帯留おびどめも赤と紫との打交ぜ
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
藍、浅葱、朱鷺色ときいろと、鹿子かのこと、しぼりと、紫の匹田ひったと、ありたけの扱帯しごき、腰紐を一つなぎに、夜の虹が化けたように、おんなの下から腰にまつわり、裾にからんで。……下に膝をついた私の肩に流れました。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と見向く、と朱鷺色ときいろに白のすかしの乙女椿おとめつばきがほつりと一輪。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
既にして、朱鷺色ときいろ布一重ぬのひとえである。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)