かか)” の例文
橋の欄干らんかんかかって、私はただ涙ながらに時の経つのを待っていた。大時計の上には澄み渡った空に星が二つ三つきらめいていた。
下僕しもべは「それでもいうたら大変に怒られるから仕様しようがない。」「そんならこの儘打棄うっちゃって置いてもよいか。一月かかってもよいのか。」
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
この血だらけの魚の現世うつしよさまに似ず、梅雨の日暮の森にかかって、青瑪瑙あおめのうを畳んで高い、石段下を、横に、漁夫りょうしと魚で一列になった。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何か魚でも釣って来ておさいにしてあげましょうって今までかかって釣をしていましたよ、運が悪くって一尾いっぴきも釣れなかったけれども
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
前年アメリカに行った時には小さな船で(咸臨丸を指す——著者)海上三十七日もかかったというのが今度のコロラドは四千トンの飛脚船ひきゃくせん
咸臨丸その他 (新字新仮名) / 服部之総(著)
余裕よゆう綽々しゃくしゃくとした寺田の買い方にふと小憎こにくらしくなった顔を見上げるのだったが、そんな時寺田の眼は苛々いらいらと燃えて急にいどかかるようだった。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
余興は午後にあると云う話だから、ひとまず下宿へ帰って、こないだじゅうから、気にかかっていた、清への返事をかきかけた。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それだけの罪でもろくなことの無いのは当然あたりまえです。二十年ぶりで現在の子に邂逅めぐりあいながら、その手にかかって殺されると云うのも自然の因縁でしょう。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
始終子供にばかかかっていれば生活が出来ないから、拠無よんどころなくこのかしつけ、ないたらこれを与えてくれと、おもゆをこしらえて隣家の女房に頼み
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
礼拝堂らいはいどうの扉も調べたがみんな錠がかかっており、一枚の窓硝子も壊れていなかった。僧院の隅から隅までとり調べたが、猫の子一ぴきも出なかった。
主人のおい——と言っても義理の甥なんだそうで、かかうどの与茂吉、二十二三の良い若い者ですが、少しばかり学があって、筆跡が良いから帳面を
そこで幕府は、大小目付三奉行の五手かかりのお役かえを断行して、野火をあおるように一挙に安政の大獄に取りかかる。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
一千部限り印行、十八箇月内に完結の予定、と云ふ規定であつた。広告配布数は二万四千で、その費用は百二十六ポンドかかつた。返事の来たのは八百通。
信州梓山から四時間ばかりの楽な登りを続けた後、白檜しらべ唐檜とうひの茂った薄暗い林を抜けて、漸く急な斜面にかかると、間もなく頭の上がぱっと明るくなって
秩父の奥山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
中津の西一里ばかりの処にしまと云う港があって、其処そこに船がかかって居ると云うから、私はそのとき大病後ではあるし、老人、子供の連れであるから
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
トラックを急がせて、会社近くのまがり角へ来たとき、不意に横合から、五六人の男が、運転手台へ飛びかかった。
(新字新仮名) / 徳永直(著)
日記に批判を与えるかかりがいて、ここの追求が足りないとか、ここは正しいとか朱を入れて返すのである。
流浪の追憶 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
右のかかりに鼠色のペンキで塗つた五坪位の平屋ひらやがある。硝子窓が廣く開けられて入口に石膏の白い粉が散ばつて居るので、一見製作室アトリエである事を自分達は知つた。
巴里の旅窓より (旧字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
丁度此処ここへ通りかかつた、ではない泳ぎかゝつた湖水のひれ仲間に名を知られた老成なますどのが、おなかのすき加減といひ、うまさうな物が水の面に見える工合ぐあいといひ
鼻で鱒を釣つた話(実事) (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
大きなをきって、自在じざいに大薬罐の湯がたぎって居る。すすけた屋根裏からつりさげた藁苞わらつとに、焼いた小魚こざかなくしがさしてある。柱には大きなぼン/\がかかって居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
これから八幡やわたという所、天竺木綿てんじくもめんの大きな国旗二つを往来の上に交扠こうさして、その中央に祝凱旋がいせんと大書した更紗さらさの額がかかっている、それをくぐると右側の屑屋の家では
八幡の森 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
思想しそう人間にんげん成熟せいじゅくたっして、その思想しそう発展はってんされるときになると、その人間にんげん自然しぜん自分じぶんがもうすでにこの輪索わなかかっているのがれるみちくなっているのをかんじます。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
そして巡査じゅんさ一人と、区役所の人夫が二、三人とで、しきりに引揚ひきあげかかっているらしかった。
死者を嗤う (新字新仮名) / 菊池寛(著)
すなわち裏の垣より忍び入りて窠宿とや近く往かんとする時、かれ目慧めざとくも僕を見付みつけて、驀地まっしぐらとんかかるに、不意の事なれば僕は狼狽うろたへ、急ぎ元入りし垣の穴より、走り抜けんとする処を
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
相手が逃げ出すかと思ったら、掴みかかって来たので、阿Qは拳骨を固めて一突きれた。その拳骨がまだ向うの身体からだに届かぬうちに、腕を抑えられ、阿Qはよろよろと腰を浮かした。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
化物の出そうな変な廊下をつたわって奥殿へと進み、試みに重い扉を力任せに押してみると、鍵はかかっておらず、扉はギーといたので、これは有難いと、懐中電灯の光に中をてらしてみると
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
東北の御殿で大将がかかりになって十分に用意してあった舞い手と楽人の衣装などが、また衛門督の意見によって加えられるものもできた、その道には深く通じている衛門督であったから。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
屹度きっと、今度二丁目の市村座いちむらざかかるという、大坂下りの、中村菊之丞きくのじょう一座ところ若女形わかおやま雪之丞ゆきのじょうというのに相違ないでしょう——雪之丞という人は、きまって、どこにか、雪に縁のある模様もよう
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「幕を締めさせましょうか。そして舞台裏から一時に飛びかかるんですか……」
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
重吉はしなだれかかるお千代の肩を抱くようにして上からその顔を差覗さしのぞいた。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
下谷したや七軒町しちけんちょうの親戚の法事へ行った帰り、この先きの四つ角へ差しかかると、自働電話の傍に立っていた男が突然おどかかって来て、はっと思う間に自分の身体は、板を跳ね返して溝へ落ち込んでいた。
助五郎余罪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
「さあ、今だ、今往って、あのひもけて来い、今ならきっとかかる」
黄灯 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
賢いお魚は一ぴきも二人の釣針にかかりませんでした。
二人の兄弟 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
やう/\ととうげかか雲霞くもかすみ 淡水たんすい
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
電燈をけようという処へ、電話がかかって、家内が取次に出て、……「小山でございます、はい、あなたは、はあ、雪の家さん。」
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その一軒家までは僅かに三里半の路程ですが、日暮ではあり大変に荷持にもちが疲れて居るものですからかれこれ半日ばかりかかったです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
かかうどのお半というのは無類のお人好しで、顔はまずいが気立ての良い女だ。染五郎とお絹のことというと夢中になる」
そうして、口で先へ出た通りを、行為で実現しにかかります。彼はこうなると恐るべき男でした。偉大でした。自分で自分を破壊しつつ進みます。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ただ天地暗澹あんたんうちに、寒い日がしずかに暮れて、寒い夜がしずかに明けた。この沈黙は恐るべき大雪をもたらす前兆である。里の人家ではいずれも冬籠ふゆごもりの準備にかかった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
是れは一番こねくって遣ろうと、塾中の衆議一決、すぐにそれ/″\かかりの手分てわけをした。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
いいえ、明朝、きっとお目にかかるわ。約束を聞いてくだすってありがとう。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「僕が君のかかりでね、予審判事立松というものです」と自分を名乗った。
その中には唇をとがらして、「どうしたんだ。よっぽどひまがかかるのか。」
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
三味線しゃみせんをいれた小型のトランク提げて電車で指定の場所へ行くと、すぐ膳部ぜんぶの運びからかんの世話にかかる。三、四十人の客にヤトナ三人で一通りしゃくをして廻るだけでも大変なのに、あとがえらかった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
俯向うつむけて唄うので、うなじいた転軫てんじんかかる手つきは、鬼が角をはじくと言わばいかめしい、むしろ黒猫が居て顔を洗うというのに適する。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それをなだめて引退らせると、つづいて自分から進んで、かかうどの寺本山平という浪人者が逢いたいと言って来ました。
その鰹船が一つずつこの器械をそなえ付けるようになったら、莫大ばくだいな利益だって云うんで、この頃は夢中になってその方ばっかりにかかっているようですよ。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこでまず明日あす早くからトモの方に出掛ける必要があるけれども、なかなか明日中には片付きそうもない。これもやはり四、五日はかかるであろうという予定であった。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
次にの瀕死の男は何者の手にかかったのか、それも判らぬ。彼はお杉や𤢖に関係があるか、あるいは別種の出来事か、それも判らぬ。なお其他このほかにも昨夜さくやの惨殺屍体と云うものが有る。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
中にも土佐の若武者などは長い朱鞘しゅざやの大小をして、鉄砲こそ持たないが今にもきっかかろうと云うような恐ろしい顔色がんしょくをして居る。うかと思うとその若武者があかい女の着物を着て居る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)