こた)” の例文
新字:
平次も丁寧にこたへました。左まで遠くないところに住んで居て、この評判の良い隱居は、平次も知り過ぎるほどよく知つて居ります。
かみ引拔ひきぬかれますやうに……骨身ほねみこたへるやうなんです……むしにはまないとぞんじながら……眞個ほんと因果いんぐわなんですわねえ。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
我はさながら答をきゝてさとりえずたゞ嘲りをうけし如く立ちてさらにこたふるすべを知らざる人のさまに似たりき 五八—六〇
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
「苦しいか」と云へば、無造作に、「うん」とこたへたツヤが、母の前では、顏を赧めてはにかんでゐる。周次にはそれが一種の魅力でもあつた。
多摩川 (旧字旧仮名) / 林芙美子(著)
午後ごごれた所爲せゐか、あさくらべると仕事しごとすこ果取はかどつた。しか二人ふたり氣分きぶん飯前めしまへよりもかへつて縁遠えんどほくなつた。ことにさむ天氣てんき二人ふたりあたまこたへた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そして濃霧がこの娘たちの震へてゐる身體にこたへて行くので、彼等のうちに屡々力のない咳の音を聞いた。
勿論こたへはなかつた。幾度か呼んでゐるうち其聲がホルレルバッハの注意を惹き窓から覗いて云つた。
無法な火葬 (旧字旧仮名) / 小泉八雲(著)
旅裝束たびしようぞくをとほして、さむさがこたへるとおもつてゐたが、なるほどやついたはずだ。あのむかうにえる、るこまのくらといふまへの乘鞍のりくら高山たかやまに、ゆきつもつてゐる。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
虎髯大尉こぜんたいゐ本名ほんめい轟大尉とゞろきたいゐであつた。『だく。』とこたえたまゝ、ひるがへして前甲板ぜんかんぱんかたはしつた。
人ありて我にヘスペリアの好景を歌へとはゞ、我は此遊の見る所を以てこれにこたふるならん。
いたい、だれだつ‥‥」と、わたしからだこたへながらその兵士へいしばした。と、かれやみなかをひよろけてまた背後はいご兵士へいしあたつた、「けろい‥‥」と、その兵士へいし呶鳴どなつた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
飛鳥あすか清原きよみはらの大宮に太八洲おほやしましらしめしし天皇の御世におよびて、潛龍元を體し、せん雷期にこたへき。夢の歌を聞きて業をがむことをおもほし、夜の水にいたりて基を承けむことを知らしたまひき。
見返れば笹簑さゝみのたる者の居るにぞ是はと吃驚びつくりし然るにても斯る山中に人の居るこそいぶかしけれ但し妖怪えうくわい所爲しよゐなるかとうたがひつゝ聲を掛け夫なる者は何者ぞ旅人りよじんか又は山賊さんぞくたぐゐなるか狐狸こりなるかこたへを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
如何にも道理な話で、私にはもうそれにこたへることが出來なかつた。
姉妹 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
重砲隊とどろ壓し來る地響ぢひびきに叫びこたふる鵞鳥早や
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
誰もこたへるものはありません。平次も、八五郎も泣いて居りました。遲い月が屋根を離れて、五月の街をおぼろに照して居ります。
されどわが愛深からねば汝の恩惠めぐみに謝するに足らず、願はくは全智全能者これにこたへ給はんことを 一二一—一二三
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
むねこたへた、爾時そのとき物凄ものすご聲音こわねそろへて、わあといつた、わあといつてわらひつけたなんともたのみない、たとへやうのないこゑが、天窓あたまからわたし引抱ひつかゝへたやうにおもつた。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
よし産婆さんばこと間違まちがひがあつて、はら發育はついく今迄いままでのうちに何處どこかでとまつてゐたにしたところで、それがすぐされない以上いじやう母體ぼたい今日こんにちまで平氣へいきこたへるわけがなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
些少なる棄損きえんのいかに大いなる功徳くどくをなすべきかを諷し試みたれども、人々は只だその笑止なることなるかなとて、肩をそびやかして相視たるのみにて、眞面目にこれにこたふるものなく
張上はりあげられコリヤ理左衞門其方は先刻せんこくより某しが相尋問る事ども一向にこたへなきは糺明きうめい行屆ゆきとゞかざる儀と存ずる彌々いよ/\へんの取調しらべもなきは役柄に不似合の致方いたしかた不埓ふらち至極なり只九郎兵衞が申立のみを取上九助を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
親切な囁きは、短劍のやうに、私の胸にはこたへた。
ああみんなみしほ黒く、呼べばこたへむ波の涯
新頌 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
時の氏神の國府こくぶ彌八郎が、一人で辯じ立てますが、主人の永左衞門も、客の久我之助も、默り込んで受けこたへをするでもなく
されどげに、材もだしてこたへざるため形しば/\技藝の工夫くふうはざるごとく 一二七—一二九
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
宗助そうすけならんでゐるものも、一人ひとりとしてかほ筋肉きんにくうごかすものはなかつた。たゞ宗助そうすけこゝろなかで、おくからの何物なにものかをけた。すると忽然こつぜんとしてれいひゞきかれみゝこたへた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
顏がきりやう自慢で、客の前にも好んで出す樣子ですが、智惠の廻りは至つて遲く、受けこたへの發火點も低くて、何を訊いてもらちがあきません。
「言ふまでもなく、直ぐ窓の外を見て——誰だ——と一應は怒鳴つたが、こたへる者もなく外は眞つ暗だ。五日月はもう沈んで、一寸先も見えない」
平次の論告は峻烈しゆんれつで容赦ないものでした。が、友吉はそれにこたへようともせず、何處ともなく茫然と見詰めて居ります。
平次はそれにはこたへませんでした。まだ晝には間のある明るい秋の往來へ飛出すと、何も彼も忘れてしまつたやうに默りこくつて家路を急ぎます。
丁寧に挨拶する主人の久兵衞に輕くこたへて、平次と八五郎は、花嫁の死骸を擔ぎ込んだ次の間を覗きました。
さうこたへたのは、母親のお源です。若旦那の宗太郎とはまゝしい仲ですが、精力的で押が強さうで、上總屋の奧で勢力をふるつて居ることには疑ひもありません。
後ろにいて來る八五郎は、耳を掘つたり、鼻をかんだりこたへを待ちましたが、それも失望に終りさうです。
眞つ先にこたへてくれたのは、一間半ばかりの路地をへだてて筋向うに住んでゐる、鑄掛屋いかけやの岩吉でした。
「此處で下手人を擧げるのは、十手捕繩の意地ばかりぢやありません。ね、玄龍先生。あつしのお尋ねすることに、一々おこたへを願ひたいものですが、どうでせう」
こたへたのはその後ろからそつと顏を出してゐる三十五六のみにくい女でした、下女のお竹といふのです。
二人の町役人の外に、主人鹿右衞門、養子與茂吉などがをりますが、誰もこたへる者はありません。
お糸はつゝましくこたへました。この三人の女は全く嫌疑の外に置かなければなりません。
三番目娘のお露は、まだ十六の可愛らしさで、何を訊いてもハキハキとはこたへません。
お篠はそれに感謝の眼でこたへて、手代と二人、木戸の中の闇にスーツと消えました。
和助は低い囁やくやうな聲でこたへ乍ら、平次の顏をジロジロと盜み見るのでした。
これ以上何を訊いても、恐らく滿足なこたへは望めないことでせう。娘心の奧の奧、とき色の八重のとばりの中を、フト覗いたやうな氣がして、平次はその儘歸してやる外はなかつたのです。
作内がしたのは、部屋の隅に丸めてあるお玉のさゝやかな荷物でした。兄の清三郎が平次の目配せにこたへてそれを解くと、女物の華奢な短刀が一とふり、何んの仔細もなく轉げ出します。
平次は平凡なことをたづねました。この男のこたへを試さうといふのでせう。
曉方近い街、女房のお靜が待つて居る家路を急ぎ乍ら、平次はこたへました。
優しくこたへて、秋の朝日の這ひよる障子を開けたのは、二十二三とも見える、少し病身らしいが、恐ろしい美人。ガラツ八も吉原冠りの手拭を取つて、思はずヒヨイとお辭儀をして了ひました。
娘はそれにはこたへず、もう一度そつと床の中に手を合せるのです。
木戸の外からこたへた者があります。言ふ迄もなく下つ引の一人。
「お孃さん、私の訊くことに、包み隱さずこたへて下さいよ」
平次の問ひにこたへたお若は、大膽で無造作を極めました。