愉快ゆかい)” の例文
長吉ちょうきちおもいきってそとてゆきました。けれど、みんなといつものようにいっしょになって、愉快ゆかいあそ気持きもちになれませんでした。
残された日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
今日こんにち私はくまでもこの自然宗教にひたりながら日々を愉快ゆかいごしていて、なんら不平の気持はなく、心はいつも平々坦々へいへいたんたんである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
麦畑むぎばたけ牧場ぼくじょうとはおおきなもりかこまれ、そのなかふか水溜みずだまりになっています。まったく、こういう田舎いなか散歩さんぽするのは愉快ゆかいことでした。
帰るとき、アトから追っかけるようにして出てきた栗原は、電車に乗るまでも、乗ってからも、愉快ゆかいなことばかりしゃべって笑わせた。
工場新聞 (新字新仮名) / 徳永直(著)
「空の工兵大隊こうへいだいたいだ。どうだ、ますなんかがまるでこんなになってはねあげられたねえ。ぼくこんな愉快ゆかいたびはしたことない。いいねえ」
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
とにかくジナイーダは、わたしの思い切った勇敢ゆうかん振舞ふるまいを正当に認めずにはいられないのだ——と、そう思うと愉快ゆかいだった。……
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
最初私は独身ということを、大変愉快ゆかいのことのように感じていた。それは西洋の独身者どくしんものなどの生活を見たり聞いたりしていたからである。
独居雑感 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
おや、僕達が、あんなに愉快ゆかいにころげまわった草原も、こんなみじめに枯れて仕舞しまったか。なぜこんな赤ちゃけた色なんかに変ったんだ。
トシオの見たもの (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
これ最も危険なる最も愉快ゆかいなる場合にしてこの時の打者の一撃いちげきは実に勝負にも関すべく打者もし好球をたば二人の廻了ホームインを生ずることあり
ベースボール (新字新仮名) / 正岡子規(著)
いずれにしても、自分にとっては、あまり愉快ゆかいなことではない。何といういい気な、あまっちょろい兄だろう、と軽蔑けいべつしてやりたい気にさえなる。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
そして、いま、じぶんはこの世をはなれて、天へのぼっていこうとしているのだと考えて、たまらなく愉快ゆかいになりました。
こんな不都合ふつごうきわま汽車きしゃいとか、みな盗人ぬすびとのような奴等やつらばかりだとか、乗馬じょうばけば一にちに百ヴェルスタもばせて、そのうえ愉快ゆかいかんじられるとか
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
もし好意をもってすれば、さるだとか、耳朶じだが半分だなどいう特徴の一端を挙げずに、愉快ゆかいなる印象を与うるがごとき名をつけうることも必ずできる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
一時の奇貨きかも永日の正貨せいかに変化し、旧幕府の旧風をだっして新政府の新貴顕きけんり、愉快ゆかいに世を渡りて、かつてあやしむ者なきこそ古来未曾有みぞう奇相きそうなれ。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
と、ニッコリ顔を見あわせていたのは、その空気の一かくにあって、四のどよめきを愉快ゆかいがっていた忍剣にんけん龍太郎りゅうたろう
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
海がしずかなときには、ガラスのようにたいらな波上はじょうを、いっぱいに帆を張って走るほど、愉快ゆかいなものはない。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
糟谷は種畜場しゅちくじょうにおって、公務こうむをとるよりは、村落そんらくへでて農民を相手に働くのが、いつも愉快ゆかいに思われてきた。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
西洋せいようおほきな博物館はくぶつかんでは、目録もくろく研究書物けんきゆうしよもつ出版しゆつぱんされてゐるばかりでなく、館内かんない設備せつび完全かんぜん出來できてゐて、愉快ゆかい見物けんぶつされるようになつてゐます。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
赤シャツのおかげではなはだ愉快ゆかいだ。出来る事なら、あの島の上へ上がってみたいと思ったから、あの岩のある所へは舟はつけられないんですかと聞いてみた。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「先生、愉快ゆかい、愉快ですね。これさえあればもう大丈夫。もう何人、機械人間があらわれても平気ですよ」
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いつも夢では日本に居ります。未だ此の地に参りましてから西洋の夢は見ません。年来聞き及びました理想を実際に行う事が出来まして、実に愉快ゆかいに思います。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
家々の窓からは花輪や国旗やリボンやが風にひるがえって愉快ゆかいな音楽の声で町中がどよめきわたります。
燕と王子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
この輩のごときは、かかる多事紛雑たじふんざつの際に何か仕事しごとしてあたかも一杯の酒をればみずからこれを愉快ゆかいとするものにして、ただ当人銘々めいめい好事心こうずしんより出でたるに過ぎず。
眺望ちょうぼうのこれと指して云うべきも無けれど、かの市より此地まであるいは海浜かいひん沿いあるいは田圃たんぼを過ぐるみちの興も無きにはあらず、空気ことに良好なる心地して自然と愉快ゆかいを感ず。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
自分の仕事の結果がすぐにはっきりと現れて来る、しかも今までの経験には無かったほどの大きい規模で現れて来ることは、子路のような人間にとって確かに愉快ゆかいに違いなかった。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
見馴れない男は、さも愉快ゆかいそうに、はっはっ……と笑いました。そして言いました。
影法師 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
足の細い、そして首の細い自分の子を見送ることは、決して愉快ゆかいなものではない。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
一度なども辰子は電車に乗ると、篤介の隣りに坐ることになった。それだけでも彼女には愉快ゆかいではなかった。そこへまた彼はひざの上の新聞紙包みをひろげると、せっせとパンをじり出した。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
愉快ゆかいじゃ。いつもナ、このお絃とお噂申し上げておりました。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
空気くうきまでが私たちの愉快ゆかい常談じょうだんで笑い
笑いの歌 (新字新仮名) / ウィリアム・ブレイク(著)
愉快ゆかいがしたにちがひありません。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
赤とんぼは、とても愉快ゆかいです。
赤とんぼ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
鸚鵡あうむ愉快ゆかいでたまらない。
鸚鵡:(フランス) (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
そして、その天使てんしあおそらとをむすびつけてかんがえると、うつくしい、また愉快ゆかいないろいろな空想くうそうが、ひとりでに、わいてきたからであります。
町の天使 (新字新仮名) / 小川未明(著)
『ぼくと恋愛だって!』と、この男はさけびました。『そいつはさぞかし愉快ゆかいだろうな! 見物人は夢中むちゅうになってさわぎたてるだろうよ!』
そんな折の氏の家庭こそ平常とは打ってかわって実に陽気で愉快ゆかいです。その間などにあって、氏に一味ひとあじの「如才じょさいなさ」がいます。
なくちゃなるまい。今夜はずいぶん久しぶりで、愉快ゆかい露天ろてんに寝るんだな。うまいぞうまいぞ。ところで草へ寝ようかな。
楢ノ木大学士の野宿 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
心臓は今にも割れそうにおどっていた。わたしはひどくずかしく、またひどく愉快ゆかいだった。わたしはまだ身に覚えのないほどの興奮を感じた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
「それでも、食後はいやに愉快ゆかいそうだったじゃないか。やはり地区別の話し合いは、それだけ効果的だったと思うね。」
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
はじめのびん二人共ふたりとも無言むごんぎょう呑乾のみほしてしまう。院長いんちょう考込かんがえこんでいる、ミハイル、アウエリヤヌイチはなに面白おもしろはなしをしようとして、愉快ゆかいそうになっている。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
従来、男は女に比し優等なりしために、男は女を保護するをもってその義務となし、またこれを愉快ゆかいとした。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
いかなる名馬で地を飛ぶよりも、こうして空中を自由に飛行する快味は、まるでじぶんがじぶんでなく、生きながら、神か仙人せんにんになったような愉快ゆかいさである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
深さは立って乳の辺まであるから、運動のために、湯の中を泳ぐのはなかなか愉快ゆかいだ。おれは人の居ないのを見済みすましては十五畳の湯壺を泳ぎまわって喜んでいた。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だが潮にまかせて遡行そこうするいかだのことであるから、速力はいたってにぶかった。その日は中途ちゅうとで一ぱくし、一同は富士男の桃太郎物語などをきいて愉快ゆかいにねむりについた。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
とにかく石鏃せきぞくかたちちひさく可愛かわいらしいので、これを採集さいしゆうするのが一番いちばん愉快ゆかいであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
これほど愉快ゆかいな事があるでしょうか? 阿媽港甚内、——どうです? い名前ではありませんか? わたしはその名前を口にするだけでも、この暗いろうの中さえ、天上の薔薇ばら百合ゆりの花に
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
縁起えんぎがいいと言われてる正覚坊が、向こうからたずねて来てくれたんですもの、漁夫りょうしとしてこれくらい愉快ゆかいなことはありません。平助はすぐに、ありったけのお金で、酒をたくさん買って来ました。
正覚坊 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「気味のわるい話は、もうよそう。こんどはもっと愉快ゆかいな話をしよう」
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
さぁ元気で愉快ゆかいに手をつなぎましょう
笑いの歌 (新字新仮名) / ウィリアム・ブレイク(著)
それは、ほんとうに、愉快ゆかい音色ねいろでありました。ちょうど、やわらかなつちやぶって、がもえるようなよろこびを、きくひとこころあたえました。
楽器の生命 (新字新仮名) / 小川未明(著)