引緊ひきしま)” の例文
涙が乾いて、興奮が納まると、青白く引緊ひきしまった顔が、江戸娘らしいきかん気を匂わせて、多い髪も、赤い唇も、なかなかの魅力です。
鼻筋はなすぢ象牙彫ざうげぼりのやうにつんとしたのがなんへば強過つよすぎる……かはりには恍惚うつとりと、なに物思ものおもてい仰向あをむいた、細面ほそおも引緊ひきしまつて
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
引緊ひきしまった面に、物を探る額の曇り、キと結んだ紅いくちびる懊悩おうのうと、勇躍とを混じた表情の、ひらめきを思えば、類型の美人ということが出来よう。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
猛烈な鮮新フレツシユな力の妄動まうどうである。其れに対すると僕までが血をわかし、肉が引緊ひきしまる程に力強さを覚える。果して僕にも其れだけ活力ヸタリテがあるか、うか。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
上歯と下歯がきっちり合い、引緊ひきしまって見える口の線が、滑かになり、仏蘭西髭の片端が目についてあがる——父親は鮨を握りながらちょっと眼を挙げる。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
痩せてはいるが引緊ひきしまった小柄な躯の、小さな尻が、歩くたびにくりっくりっと動く。その歩きぶりが驚くほどまざまざと、少年時代の長を思いださせた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その若い男は三十ぐらいの苦味ばしった細面の好男子で、きりりと引緊ひきしまった体格からだに、粋な服装みなりをしていて、眼付はごく柔和で、殊に細君を見るときの眼ざしが優しかった。
それでいろいろの彩料を交ぜながら何処どこかに引緊ひきしまって調和が取れている絵のように二人の心持がしっくりと合っている所に、自分の感情は歓喜と幸福とを得ているらしい。
私の貞操観 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
それは時間じかんにすればおそらくようやく一ときぐらいみじかい統一とういつであったとおもいますが、こころ引緊ひきしまっているせいか、わたくしとすれば前後ぜんごにないくらいのすぐれてふか統一状態とういつじょうたいはいったのでございました。
五度いつたびここへやって来るものと助役は睨んでいるに違いない——そう思うと吉岡は一層身内が引緊ひきしまる様な寒気を覚えて、外套の襟に顔を埋めながら助役の側へ小さくなってしまいます。
とむらい機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
頂上から肩のあたりへかけて何処どこにもこれという程の露岩がある訳でもなく、例の如く短い木本や笹が生えているのみなるにもかかわらず、山勢頗る峭抜して恐ろしく引緊ひきしまった感じを与える。
利根川水源地の山々 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
と苦笑していた役人達の顔までが、妙に引緊ひきしまって来て、目瞬まじろぎもしない。
醤油仏 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
主人は公方や管領の上を語るのを聞いているうちに、やや激したのであろう、にッたりと緩めて居た顔つきは稍々やや引緊ひきしまってこわばって来たが、それを打消そうとつとむるのか、裏の枯れたような高笑い
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
靜子の顏は、先刻さつき怡々いそ/\した光が消えて、妙に眞面目に引緊ひきしまつてゐた。妹共はもう五六町も先方さきを歩いてゐる。十間許り前を行く松藏の後姿は、荷が重くて屈んでるから、大きい鞄に足がついた樣だ。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
涙が乾いて、興奮が納まると、青白く引緊ひきしまつた顏が、江戸娘らしいきかん氣を匂はせて、多い髮も、赤い唇も、なか/\の魅力です。
別に、肩には更紗さらさ投掛なげかけ、腰に長剣をいた、目の鋭い、はだか筋骨きんこつ引緊ひきしまつた、威風の凜々りんりんとした男は、島の王様のやうなものなの……
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
せてはいるが引緊ひきしまった小柄こがらからだの、小さな尻が、歩くたびにくりっくりっと動く。その歩きぶりが驚くほどまざまざと、少年時代の長を思いださせた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それに反して女は皆ボチセリイの「春」にいた女の様に顔だちが堅く引緊ひきしまり過ぎて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
骨細ですが、よく引緊ひきしまつた肥りじし、——所謂いはゆる凝脂が眞珠色に光つて、二十五といふにしては、處女のやうな美しい身體を持つた女です。
べつに、かたには更紗さらさ投掛なげかけ、こし長劍ちやうけんいた、するどい、はだか筋骨きんこつ引緊ひきしまつた、威風ゐふう凛々りん/\としたをとこは、しま王樣わうさまのやうなものなの……
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その女が現れると妙に場内が引緊ひきしまり、ひき込むと流星の過ぎ去つたあとの様に物足らなかつた。余り僕等が注視するのでその女も気が附いたらしく、のちには僕等の下を通る度にわざわざ見上げて微笑ほゝゑんで居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
血の気を失って、蒼白く引緊ひきしまった顔は、紅白粉のせいもあったでしょう。それは八五郎の好奇心をそそるほどの異様な魅力です。
鼻筋の通った細面ほそおもてりんとした、品のい横顔がちらりと見えたが、浮上るように身も軽く、引緊ひきしまった裙捌すそさばきで楫棒を越そうとする。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ちよいと行つて見ませんか。柄は小さいが、身體が引緊ひきしまつて、子供々々した愛嬌があつて、何んとも言へない良い娘ですよ」
電燈がさっくのを合図に、中脊でやせぎすな、二十はたちばかりの細面ほそおもて、薄化粧して眉の鮮明あざやかな、口許くちもと引緊ひきしまった芸妓げいこ島田が、わざとらしい堅気づくり。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
骨細ですが、よく引緊ひきしまったふとじし、——いわゆる凝脂が真珠色に光って、二十五というにしては、処女のような美しい身体を持った女です。
と尻ッぱねの上調子で言って、ほほと笑った。鉄漿かねを含んだ唇赤く、細面で鼻筋通った、引緊ひきしまった顔立の中年増ちゅうどしま
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
血の氣を失つて、蒼白く引緊ひきしまつた顏は、紅白紛のせゐもあつたでせう。それは八五郎の好奇心をそゝるほどの異樣な魅力です。
朝涼あさすずの内に支度が出来て、そよそよと風が渡る、袖がひたひたとかいななびいて、引緊ひきしまった白の衣紋着えもんつき
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すつかり自尊心を失つて、時々痙攣けいれん的に顫へては居りますが、蒼白く引緊ひきしまつた顏は旗本屋敷などにはない不思議な魅力です。
やや蔭になった頬骨ほおぼねのちっと出た、目の大きい、鼻のたかい、背のすっくりした、人品に威厳のある年齢ねんぱい三十ばかりなるが、引緊ひきしまった口に葉巻をくわえたままで、今門を出て
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二十八九、精々三十くらゐ、若いにしては分別者らしい男で、淺黒い引緊ひきしまつた顏にも、キリリと結んだ口にも、やり手らしい氣魄きはくがありまます。
引緊ひきしまった肉づきのい、中背ちゅうぜいで、……年上の方は、すらりとして、細いほど痩せている。
霰ふる (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二十八九、せいぜい三十くらい、若いにしては分別者らしい男で、浅黒い引緊ひきしまった顔にも、キリリと結んだ口にも、やり手らしい気魄きはくがあります。
どんな場合ばあひにも二十四五のうへへはない……一人ひとりは十八九で、わかはうは、ふつくりして、引緊ひきしまつたにくづきのい、中背ちうぜいで、……年上としうへはうは、すらりとして、ほそいほどせてる。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
行灯あんどんの灯が片面かたおもを照して居るせいもあるでしょう、何時いつしたたるような美しい顔が、妙に引緊ひきしまって、畳に突いた片手は、ワナワナとふるえて居ります。
黄金を浴びる女 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
すっと入交いれかわったのが、の大きい、色の白い、年の若い、あれは何と云うのか、引緊ひきしまったスカートで、肩がふわりと胴が細って、腰の肉置ししおき、しかも、そのゆたかなのがりんりんとしている。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
青白く引緊ひきしまった額、激情と恐怖と、絶望とにワナワナと顫えている鈴子夫人は、最後の勇気を振い起して、私に裏のB面をかけるように望むのです。
きざはしを昇ってひざまずいた時、言い知らぬ神霊に、引緊ひきしまった身の、拍手かしわでも堅く附着くッついたのが、このところまで退出まかんでて、やっとたなそこの開くを覚えながら、岸に、そのお珊のたたずんだのを見たのであった。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
見るとそれは、今まで臆病者おくびやうものとばかり思ひ込ませてゐた若黨の勇吉。めう引緊ひきしまつた凄い顏をして、裸蝋燭を片手に、新三郎の陷ち込んだ穴を覗きます。
判然きっぱり言う。その威儀が正しくって、月に背けた顔があおく、なぜか目の色が光るようで、うすものしまもきりりと堅く引緊ひきしまって、くっきり黒くなったのに、悚然ぞっとすると、身震みぶるいがして酔がめた。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
人の後ろに小さくなつて居たお延は引緊ひきしまつた可愛らしい顏を、朝の光の中に出しました。
五分刈ごぶがりのなだらかなるが、小鬢こびんさきへ少しげた、額の広い、目のやさしい、眉の太い、引緊ひきしまった口の、やや大きいのも凜々りりしいが、頬肉ほおじしが厚く、小鼻にましげなしわ深く、下頤したあごから耳の根へ
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
少し淺黒い顏、長い眉、よく通つた柔かい鼻、その下の唇が近くて、頬が引緊ひきしまつて。
紳士を顧みた美しいひとまつげが動いて、目瞼まぶたきっ引緊ひきしまった。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
少し浅黒い顔、長い眉、よく通った柔かい鼻、その下の唇が近くて、頬が引緊ひきしまって。
藤助は杯でちょっと句切って、眉も口も引緊ひきしまった。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
平次はしばらくこの飛上がりな娘とにらみ合いました。すっかり自尊心を失って、ときどき痙攣けいれん的にふるえてはおりますが、蒼白く引緊ひきしまった顔は旗本屋敷などにはない不思議な魅力です。
客は引緊ひきしまった口許くちもとに微笑した。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
妙に引緊ひきしまった凄い顔をして、裸蝋燭を片手に、新三郎の陥ち込んだ穴を覗きます。