布巾ふきん)” の例文
K氏の本の中には「東京の料理屋はすっぽんを料理するには、すっぽんに布巾ふきんくわえさせて、頭を引き延ばして首を落として庖丁する」
料理一夕話 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
弟子は大きな銅鉢どうばちに、何かの薬をいつぱい盛つて、布巾ふきんを添へて持つて来た。ソン将軍は両手を出して鉢をきちんと受けとつた。
北守将軍と三人兄弟の医者 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
亭主は食べおわった茶碗に湯を注ぎ、それを汁椀しるわんにあけて飲み尽し、やがて箱膳はこぜんの中から布巾ふきんを取出して、茶碗もはしも自分でいて納めた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それをんな混て一旦いったん沸立にたたせて布巾ふきんこしてレモン油を小匙に軽く一杯加えて大きなブリキ鉢かあるいはゼリー型へ入て氷でひやし固めます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
お蔦は、膳にかぶせてある布巾ふきんをとらなかった。茶棚の湯のみ茶碗をとって、がぼ、がぼ、熱いのをいで一息にのんだ。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
葉子はそのままそこにすわり込んで布巾ふきんをちゃぶ台にあてがったまま考えた。ほんとうはこれはとうに葉子のほうからいい出すべき事だったのだ。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
正面に駄菓子だがしせる台があって、ふちれた菓子箱のそばに、大きな皿がある。上に青い布巾ふきんがかかっている下から、丸い揚饅頭あげまんじゅうみ出している。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ともよの父親の福ずしの亭主は、いつかこの客の潔癖な性分であることを覚え、湊が来ると無意識に俎板まないたや塗盤の上へしきりに布巾ふきんをかけながら云う。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
杜鵑とけん亭の食堂はすなはち道のり込んだ空地あきちなのであるから十四五分して小さい料理店の家の中から客を見附けた給仕女が布巾ふきんを持つて出て来て卓を拭く。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
炉のそばまで行って、見ると、布巾ふきん戸棚が開いていて、その扉が壁の隅を隠すようにそちらへひっぱられていた。
死刑囚最後の日 (新字新仮名) / ヴィクトル・ユゴー(著)
その間に父上は戸棚から三宝さんぼうをいくつも取下ろして一々布巾ふきんで清めておられる。いや随分乱暴な鼠のふんじゃ。つつみ紙もところどころ食い破られた跡がある。
(新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それから台所の雑巾を取って来て、縁側から仏間へ続く血と泥の足跡をぬぐきよめた。水棚へ行って仕舞桶しまいおけで顔や両手をよく洗って、乾いた布巾ふきんで拭い上げた。
名君忠之 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
白い婚礼麺麭が焼かれたり、布巾ふきん手巾ハンカチがしこたま縫はれたりして、焼酎の樽がころがし出されると、新郎新婦は並んで卓子につき、大きな婚礼麺麭が切られた。
「只今すぐにでございますか?」とおくみは微笑みながら、皿のふちの濡れてゐるのを布巾ふきんで拭いた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
塗りにも蒔絵まきえにも格別特色は見られなかった。それでも、昨年静岡の家が焼けるまでは、客間の床脇とこわき違棚ちがいだなに飾ってあって、毎朝布巾ふきんで、みずからほこりぬぐっていた。
「おとつゝあん、お竈樣かまさまわすれたつけべな」女房にようばうかまどからめしかまおろして布巾ふきんにしたまゝいつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
でふ座敷ざしき借切かりきつてゐると、火鉢ひばちはここへくよ、烟草盆たばこぼんくよ、土瓶どびんしてやる、水指みづさしもこゝにるは、手水場てうづばへは此処こゝからくんだ、こゝへ布巾ふきんけてくよ
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
母は、ストーヴやなべや、ナイフやフォークや、布巾ふきんやアイロンや、そういうものに生命いのちきこみ、話をさせるじゅつを心得ていた。つまり彼女は、たくまないお伽話とぎばなし作者さくしゃだった。
母の話 (新字新仮名) / アナトール・フランス(著)
樂人共がくじんどもひかへてゐる。給仕人共きふじにんども布巾ふきんたづさへてきたり、取散とりちらしたる盃盤はいばんをかたづくる。
布巾ふきんをかけたお膳も出ている。が、肝心かんじんのお花は決してクツクツ笑ってはいないのだ。
接吻 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
女中が布巾ふきんやブラシを入れて置く暗い穴の縁を、行ったり来たりしているのがわかる。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
おしげは、茶餉台ちやぶだいの上をゆつくり布巾ふきんで拭きながら、ゆき子の話を聞いてゐてくれた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
土間どまは一面の日あたりで、盤台はんだいおけ布巾ふきんなど、ありったけのもの皆濡れたのに、薄く陽炎かげろうのようなのが立籠たちこめて、豆腐がどんよりとして沈んだ、新木あらきの大桶の水の色は、うすあお
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「……当りまえに此方側こっちがわから飲まずに、斯う口を開いて向う側へ喰いつこうとするから、お茶は皆胸へこぼれて……あつつ! これはしまった。お鶴や、雑巾ぞうきん、じゃない、布巾ふきんだ布巾だ」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
次の日、新吉が銀行から帰ると、留守の間に届いていた長火鉢に鉄瓶をかけて、おときは赤坊に御湯をつかわせる母親のように、ほとんど抱きかかえる形で、大事に大事に布巾ふきんをかけていた。
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
膳の傍には、いつもれた布巾ふきんがあります。指をくためです。もっともこれは壮年の頃のことで、晩年はどうでしたか知りません。日常の食事の時などは傍にいたことはありませんかったから。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
美津みつたもとくわえながら、食卓に布巾ふきんをかけていた。電話を知らせたのはもう一人の、まつと云う年上の女中だった。松は濡れ手を下げたなり、銅壺どうこの見える台所の口に、たすきがけの姿を現していた。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
と母親は火鉢の布巾ふきんげ出す。けれども、お勢は手にだも触れず
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
霜やけの手にする布巾ふきんさばきかな
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
茶椀ちゃわんからはしまで自分々々の布巾ふきんで綺麗に拭くことも——すべて、この炉辺の光景さまは達雄の正座に着いた頃と変らなかった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
長く持たせるには酸味を抜くため一日水へ漬けておいて一旦いったん水から出して布巾ふきんでよく拭いて皮を剥いたら水を少しも入れずにお砂糖ばかり入れて
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
茶の間の火鉢ひばちの前には黒塗の足のついたぜんの上に布巾ふきんを掛けたのが、彼の帰りを待ち受けるごとくにえてあった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
仁右衛門はだらんと下げた右手に斧をぶらさげたまま、妻は雑巾ぞうきんのように汚い布巾ふきんを胸の所に押しあてたまま、はばかるように顔を見合せて突立っていた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
土間どま一面いちめんあたりで、盤臺はんだいをけ布巾ふきんなど、ありつたけのものみなれたのに、うす陽炎かげろふのやうなのが立籠たちこめて、豆腐とうふがどんよりとしてしづんだ、新木あらき大桶おほをけみづいろは、うすあを
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
さて二月十七日の朝、もう正午少し過ぎた頃だったが、バスクが布巾ふきん羽箒はねぼうきとを腕にして、「次の間を片づけ」ていた時、軽くとびらをたたく音が聞こえた。呼び鐘は鳴らされなかった。
別法には生の身を細かく切って桜飯へ混ぜるのもあります。また鯛の身を塩湯煮しおゆでにして布巾ふきんで堅く絞って手で揉みほごして桜飯へ混ぜて炊くのもあります。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
鶴吉はすぐ又喧嘩があつたのだなと思つて、あたりさはりのない世間話に口を切つて見たが、母は碌々返事もしないで布巾ふきんをかけた精進の膳を出してすゝめた。
お末の死 (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
「あら靖雄やすおさん!」と布巾ふきんを持ったままあっけに取られたと云う風をする。あら靖雄さんでもらちがあかん。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
食べ終ったものから順に茶碗ちゃわんはしを拭いて、布巾ふきんをその上にかぶせて、それから席を離れた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ぐいとしりねに布巾ふきんける。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それから今の身を塩から出してよく洗って沸湯にえゆの中へ入れてサット湯がいてよく水気を切て布巾ふきんで堅くしぼる。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
彼女は「怒ったわ」と答えたなり、父の書斎の花瓶はないけの水をえながら、乾いた布巾ふきんで水を切っていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と時代な徳利を布巾ふきんで持添えて、勧めた。源は熱燗のごくというところを猪口にうけて
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
二三日空家あきやになっていたのにも係わらず、台所がきれいにふき掃除そうじがされていて、布巾ふきんなどが清々すがすがしくからからにかわかしてかけてあったりするのは一々葉子の目を快く刺激した。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
第七十二 林檎のゼリー 前の通りに煮て出たつゆ布巾ふきんで漉してまた四十分間湯煎ゆせんにして四角な器へ入れて二、三日置くと自然と凝結かたまってゼリーになります。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「おや左樣さうあんまおそいから、大方おほかた何處どこかで召上めしやがつたらうとはおもつたけれど、だゞと不可いけないから」とひながら、布巾ふきんなべみゝつまんで、土瓶敷どびんしきうへおろした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
やがて画家の一人が給仕を呼んだ。給仕は白い布巾ふきん小脇こわきにはさみながら、皆のところへ手摺てずれた骨牌かるたと骨牌の敷布の汚れたのを持って来た。その骨牌を扇面の形に置いて見せた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
葉子は布巾ふきんを持って台所のほうからいそいそと茶の間に帰って来た。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
第八十四 カスタープデンの二 これは湯煎の方ですが前の通りな原料を深い茶碗へ入れてふたをするかあるいは布巾ふきんかぶせて広い鍋で三十分間湯煎にします。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
和尚は手提てさげの煙草盆の浅い抽出ひきだしから欝金木綿うこんもめん布巾ふきんを取り出して、くじらつる鄭重ていちょうに拭き出した。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)