)” の例文
それは後宮の火宅を出て、またつるぎの門へした三界に家なきものの悲哭ひこくとも歓喜ともつかない異様なまでの罪深いあえぎであった。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その時の将軍は十一代徳川家斉いえなりであろう。奢侈しゃしを極めた子福者、子女数十人、娘を大名へさした御守殿ごしゅでんばかりもたいした数だという。
あけみの両親は新潟にいがたにいたが、彼女の姉が東京の三共製薬の社員にしていたので、さしあたって、その夫妻を電話で呼びよせた。
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
新政府にし、維新功臣の末班まっぱんに列して爵位しゃくいの高きにり、俸禄ほうろくゆたかなるにやすんじ、得々とくとくとして貴顕きけん栄華えいが新地位しんちいを占めたるは
なつの実家である藤井家は代々の年寄役であり、当代の主殿とのもは筆頭の席にいるし、長女のはまは側用人の郷田靱負にしている。
滝口 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
余此蝶を見ざりしゆゑ、近隣きんりん老婦らうふわかきころ渋海川のほとりよりせし人ありしゆゑたづひしに、その老婦らうふかたりしまゝをこゝにしるせり。
わが十年の約は軽々かろがろしく破るべきにあらず、なほ謂無いはれなきは、一人娘をいだしてせしめんとするなり。たはむるるにはあらずや、心狂へるにはあらずや。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
次女はたか、後の名はしゆんで、長じて後柏軒にした。誕生の順序は第一懐之、第二たかの、第三たかであつたと云ふのである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
若しあなたが、縁談のはじめから打明けて下さったならば、或は私は喜んでしたかも知れません。然し今はただあなたの心をにくむのみです。
秘密の相似 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
かつまた、清岡の家には既にある医学博士にした姉娘もあるので、鶴子はその手前をもはばかって、何事も目に立たないようにひかえ目にしている。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
仮令たとひどんな事があらうとも、をんなしたいへ本当ほんたういへとしなければならぬとふことをひ聞かしてかへされたから
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
右は交通はなはだ不便の地なるも、確かに現存し、現に小生叔母の娘がしおり候、小生は京丸より東南約十里の土地の産に候、ただし京丸へは未到に候
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
父のところへくる以前にたづいていた家から不縁になり、その家を追われた事情にはなみ一通りならぬ口惜くやしい、悲しい事情があったらしいのであるが
抱茗荷の説 (新字新仮名) / 山本禾太郎(著)
余は文学といふ女神は、むしろ老嬢として終るも、俗界の神なる「事業」にすることを否むべしと言ひたり。
賤事業弁 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
三千代は始め美努王にして葛城王(後の橘諸兄)を生み、後に、藤原不比等に再嫁して光明皇后を生んだ。
道鏡 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
兄の中川は妹の身の大原にして幸福ならん事を信じ、四、五日過ぎて後我意を大原に通ぜしめんと親友なる小山の家を訪いて小山夫婦にその事を物語れり。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
たとえばぼう令嬢をしたいたるも実業家ならねばせしめぬというを聞き、実業を志望したというがごとき滑稽こっけい的動機すらも現にわが輩の耳にしたところである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
主命しゆうめいりて糸子いとこ縁談えんだんの申しこみなるべし、其時そのとき雪三せつざう决然けつぜんとせし聲音こわねにて、折角せつかく御懇望ごこんもうながら糸子いとこさま御儀おんぎ他家たけしたまふ御身おんみならねばおこゝろうけたまはるまでもなし
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
斬る時だけ侍の服装こしらえをして疑いを浪人の群へし、己れは下素げすの駕籠屋になりきって行こうと思いついた。
「姉二人は既に、ですよ、既にさる貴族にし、妹はかねてフランスのきさきになることにきまっていた……」
泣虫小僧 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
この不思議な僧の托鉢の話は、五六里隔つた町にして行つてゐる寺の先々代の娘のもとまできこえた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
妾の所為しょいいましめ給いしほどなれば、幼友達おさなともだちの皆ひとして、子をぐる頃となりても、妾のみは、いまだあるべきものをだに見ざるを知りて、母上はいよいよ安からず
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
主人のひげは六七年来放任主義であまりうるさくなるとはさみるばかりだし、主婦はして来て十八年来一度も顔をったことがないので、家には剃刀かみそりと云うものが無い。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
お勢をするのがいやになってと或時あのときは思いはしたようなものの、考えて見ればそれも可笑おかしい。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
かつて木部孤笻にしてほどもなく姿をくらましたる莫連ばくれん女某が一等船客として乗り込みいたるをそそのかし、その女を米国に上陸せしめずひそかに連れ帰りたる怪事実あり。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
此様こん不美まずいのを買ツたりして、気の利かないツて無いです。』と罪を細君にす。客は
元日の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
春琴の家は代々鵙屋安左衛門やすざえもんを称し、大阪道修町に住して薬種商を営む。春琴の父に至りて七代目なり。母しげ女は京都麩屋町ふやちょう跡部あとべ氏の出にして安左衛門にし二男四女を挙ぐ。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そして拙者の見たところでは梅子さんもまた細川にすることを喜こんでいるようである。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ただ神を頼まぬだけが一層の無責任である。スターンは自分の責任をのがれると同時にこれを在天の神にした。引き受けてくれる神を持たぬ余はついにこれを泥溝どぶの中にてた。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
蘇武の妻が良人おっとのふたたび帰る見込みなしと知って、去って他家にしたうわさを聞いたのは、陵の北征出発直前のことであった。そのとき、陵は友のためにその妻の浮薄をいたく憤った。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
アリナ嬢は、何事も云うあたわずしてし、何事も云う能わずして死せり。その貞操の高潔なる、その性情の純美なる、これをして疑うべくんば、天下いずれのところにか正義を求めん。
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そしてかかる心なき対人態度を当然のこととして流行せしむるにいたった責を私は文壇にしたい気がしている。それが動機となって私はこの文を書いている。私はいま熱が出ている。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
いまより十年を過ぎなば、童子は一家の主人となりて業を営み、女子はして子を生み、生産の業、世間に繁昌し、子を教うるの道、家に行われ、人間の幸福、何物かこれに比すべけん。
京都学校の記 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
かえつてここに人あるが如く、横に寝た肩にそでがかゝつて、胸にひつたりとついた胴抜どうぬきの、なまめかしい下着のえりを、口を結んでじっと見て、ああ、我が恋人はして、今は世にき人となりぬ。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
矢野が大学を卒業すれば、み篶子すずこが矢野にするということは、誰が話すともなくきまっている。み篶子すずこは心が若くてまだとりとめた恋心もないらしいが、矢野は深くみ篶子すずこを愛している。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
其の短刀は鎧通よろひどほしといふ鋭いもので、彼女の父がこればかりは一生肌身を離すなと言つて、道臣にする日に彼女の手匣てばこの中に入れてやつたもので、無銘ではあるが相州ものの古いところらしく
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
長男千尋ちひろ君は九州帝大法学部ご卒業後、福岡県県庁に奉職中、長女千登世ちとせさんは、神戸青木商会の大番頭……モトイ……営業部長久野信次郎ひさのしんじらう君にして、既に一男一女を挙げられ……次男千里ちさと君は
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
徐晃のしたまずい戦は、すべて王平の罪にされた。曹操は、忿懣ふんまんに忿懣を重ね、再度、漢水を前面に、重厚な陣を布いた。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
柏軒は後狩谷氏しゆんめとつた。又一せふ佐藤氏春をやしなつてゐた。しかし疎桐の生れたのは狩谷氏の未だ来りせざる前である。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
家族は父と彼と、十二になる妹の三人で、姉が一人いたが、何年もまえによそへし、その婚家の人たちといっしょに、北海道へ移住してしまった。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
娘の心からあの人がいとかこの人にしたいとか我儘わがままを言出すようでは生意気千万です。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
野本氏があれ程も自分のものだと信じ切っていた妙子が、彼には一言の断りもなく、一同がまさかこの男がと、高をくくっていた、あのむっつりやの北川氏にして了ったのであった。
恐ろしき錯誤 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
三十にしてめとり、廿にしてすということがございます、して他人が這入りますとおっかさまに不孝なことでも致すと、浪島の名をけがしますから、お母様っかさまのお見送りを致しましてから嫁を
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
又光子が他へする場合には相当の持参金を贈ると云うような事であった。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
父のとむらいに大願寺を建て、一生孤独で終わろうとしたのだったが、その並みならぬ容色にこがれて言いよる若者のうちで、ひときわ熱烈なひとりの情にほだされて、河内かわち禁野きんやの里にしたのです。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
だから好んで罪を中佐の詩にするのである。
艇長の遺書と中佐の詩 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
他にして美しき細君とはなりき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
「次ぎの単于へおしなさいよ」
沙漠の美姫 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「おしまいまで聞かないでひやかしてはいけない。その後にこういう言葉がつく。——女人、おん身は、真理にせ」
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「廿六日。晴。長女津山碧山へ暮時出宅にす。引続自分及めぐむ同家へ舅入行しうといりにゆく。夜四時前開く。安石、お糸、三沢老母、吉田老母、石川おきく等来。寛斎来。」
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)