大晦日おほみそか)” の例文
千兩箱は大晦日おほみそかの晩から積んであつて、松のうちはその儘にして置くさうです。床の前はふさがつて居るから誰も氣が付きやしません。
聞て長八は成程御道理ごもつともの事なり兄樣へ一生の別れと申せば假令たとへ元日ぐわんじつであらうが大晦日おほみそかで有うが是は行ねばならず直に今より御供おとも
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
去年の大晦日おほみそかの晩、それは白々とした良い月夜だつたが、私達は——H氏と私とマリヤンとは、涼しい夜風に肌をさらしながら街を歩いた。
戦争いくさになつてからは、さう暢気のんきな事も出来ないが、伯林ベルリンの市中では、いつも大晦日おほみそかは、市街まちを歩く人達が、出会頭であひがしらに誰彼の容捨はなく
すると大晦日おほみそかの晩、木山はその日は朝から集金に出かけて行つたが、たとひんなことがあつても二千円の金は持つて来なければならない筈であつた。
のらもの (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
鼠色のきたない雨漏りのすぢのいくつもついてゐる部屋の壁には、去年の大晦日おほみそかの晩に一高前の古本屋で買ひ求めた
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
そのほか迎年げいねん支度したくとしては、小殿原ごまめつて、煑染にしめ重詰ぢゆうづめにするくらゐなものであつた。大晦日おほみそかつて、宗助そうすけ挨拶あいさつかた/″\屋賃やちんつて、坂井さかゐいへつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
生死しようし分目わけめといふ初産ういざんに、西應寺さいおうじむすめがもとよりむかひのくるま、これは大晦日おほみそかとて遠慮ゑんりよのならぬものなり、いへのうちにはかねもあり、放蕩のらどのがてはる、こゝろは二つ
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それまでは大晦日おほみそかに到る日数を精確に計算して考慮に入れた上、仕事の分量を定め営々として働いてゐた。私は沢山の家族に楽しい正月をさせてやらねばならなかつた。
大凶の籤 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
「みんなあなたのせゐですよ、色氣違ひのあなたのせゐですよ」と疊みかけて、千代子はあまり喜びもせず、かの退職金——大晦日おほみそかに都合して貰つた——三分の二を手にした。
それは偶然といふやつがコンディションを助ける場合と、さうでない場合とによつて結果はちがふからであらう。これでいよ/\大晦日おほみそかを迎へる準備はできたといふわけだつた。
老残 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
驛路えきろうますゞおと、しやんと道筋みちすぢながら、時世ときよといひ、大晦日おほみそか道中だうちうひつそりとして、兩側りやうがはひさしならぶる商賈しやうこいへまきそろへて根占ねじめにしたる、門松かどまつつらねて、としかみおくるといふ
城の石垣 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
三箇日さんがにちと新年宴會の五日は、會社も休みだつた。大晦日おほみそか迄はたてこんでゐた醉月も、元日には客といつては三田一人で、三番の野呂も休暇を利用して東京にゐる妻子のところへ行つてしまつた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
夜となりたる大晦日おほみそかかな。
悲しき玩具 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「二十年前の話だが、大晦日おほみそかの晩の雪の中に棄ててあつた女の兒のことを、お前は親父さんから聽いたことがあるだらうと思ふが」
先刻さつき大晦日おほみそかよる景色けしきるつてつたのよ。隨分ずゐぶん御苦勞ごくらうさまね。このさむいのに」と御米およねあといて、きよおほきなこゑしてわらつた。やがて
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
めづらしききやく馳走ちそう出來できねど好物かうぶつ今川燒いまがはやき里芋さといもころがしなど、澤山たくさんたべろよと言葉ことばうれし、苦勞くらうはかけまじとおもへど大晦日おほみそかせまりたるいゑ難義なんぎ
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
これより一説いつせつあるところなん大晦日おほみそかげたくせに、尊徳樣そんとくさまもないものだと、編輯へんしふ同人どうにんつておほいあざけるに、たじ/\となり、あへわが胸中きようちうたくはへたる富國經濟ふこくけいざいみちかず、わづかしろおもかげしるすのみ。
城の石垣 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
仕廻しまはんとするに見えざれば萬一もし忙敷いそがしきまぎれ外の金子の中へ這入りはせぬかと種々尋ぬると雖も一向知れず大晦日おほみそかの事ゆゑ邸方やしきがたより二百兩三百兩づつ度々來るに付入帳には付けたれども百兩不足に受取しや合點がてんゆかずと種々考ふれども帳合あはず然るを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「二朱や一分なら、わざ/\親分の耳には入れませんよ。大晦日おほみそかが近いから、少しは親分も喜ばしてやりてえ——と」
苦労はかけまじと思へど見す見す大晦日おほみそかに迫りたる家の難義、胸につかへの病はしやくにあらねどそもそも床に就きたる時、田町の高利かしより三月しばりとて十円かりし
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それ迄に是非美禰子の肖像をき上げて仕舞ふ積である。迷惑だらうが大晦日おほみそかでもゝして呉れ。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ひくふして頼けるに三郎兵衞は碌々ろく/\耳にも入ず合力は一向なり申さず勿論もちろんむかしは借用致したれども夫は殘らず返濟したりすれば何も申分有べからずとの返答に四郎右衞門成程なるほど其金は受取たれども仕舞しまひの百兩は大晦日おほみそかの事にてちやうへは付ながら金は見え申さず不思議の事と思へども最早もはやそれむかしの事我等が厄落やくおとしと存じ思切てすましたり夫を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「第一、元日から大晦日おほみそかまで、お祭やもよほし事のない日はなく、何處かに火事があつて、何處かで喧嘩が始まつて」
總領そうりようのるたまがころがるとはらぬか、やがてきあげて貴樣きさまたちに正月しやうぐわつをさせるぞと、伊皿子いさらごあたりの貧乏人びんぼうにんよろこばして、大晦日おほみそかてに大呑おほのみの塲處ばしよもさだめぬ。
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
かれ自分じぶん御米およね生命らいふを、毎年まいとし平凡へいぼん波瀾はらんのうちにおく以上いじやうに、面前まのあたりたいした希望きばうつてゐなかつた。かうしていそがしい大晦日おほみそかに、一人ひとりいへまもしづかさが、丁度ちやうどかれ平生へいぜい現實げんじつ代表だいへうしてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
大晦日おほみそかの江戸の街は、一瞬轉毎しゆんてんごとに、幾百人かづつ最後の足掻きの坩堝るつぼの中に、眼をさまさして行くのでせう。
最初はじめいひいでし時にやふやながら結局つまりしと有し言葉を頼みに、又の機嫌むつかしければ五月蠅うるさくいひてはかへりて如何いかがと今日までも我慢しけれど、約束は今日と言ふ大晦日おほみそかのひる前
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
明日は大晦日おほみそかといふ、ギリギリに押し詰つた江戸の夜は、吹き千切るやうな風に吹き捲くられながらも、時刻かまはぬ人足に刻まれて、あわたゞしく、荒々しく更けて行きます。
大晦日おほみそかの晩大川橋のたもとに捨ててあつたのを、物好きに家の人が拾つて來ましたよ。これはお玉と違つて、男物の赤合羽あかがつぱ一枚に包んだきり、着物も金も附いてゐたわけぢやありません」
「明日は大晦日おほみそかだ、酒の荷を先にしてくれ。三河屋も、長崎屋も來て居るぞ」
「良い御用聞が、大晦日おほみそかでもないのに、天下泰平だぜ」