大人おとな)” の例文
「ほんとうにかみながくおなりだこと。せめてもう二、三ねん長生ながいきをして、あなたのすっかり大人おとなになったところをたかった。」
鉢かつぎ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「あのるのは、かわいそうだ。」といって、大人おとなたちにかって、同意どういもとめ、このることに反対はんたいしたでありましょう。
町はずれの空き地 (新字新仮名) / 小川未明(著)
然し自分の大人おとなげないのを顧みて止した。そして、二人の前には三四十分の無駄な時間が残った。週に一時間ばかりとの約束だった。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
老人としより子供こどもだから馬鹿ばかにしておもふやうにはうごいてれぬと祖母おばあさんがつてたつけ、れがすこ大人おとなると質屋しちやさして
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
己もお前を子供だと思わずに大人おとなにきいてもらうつもりではなしをするとそういってそれをいうときはいつもたいへん真顔まがおになって
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と、一もいっていますが、たしかに叱り手のないことは、さびしいことです。大人おとなになればなるほど、この叱り手を要求するのです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
とうとうとムダ口をしゃべって大人おとな見物けんぶつをけむにまいた蛾次郎がじろうは、そこでヤッと気合いをだして、右手の独楽こま虚空こくうへ高くなげた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
正行が鼻血を出したり、陳平が泣面をしたりするという騒ぎが毎々でした。細川はそういうことは仕ない大人おとなのような小児こどもでした。
少年時代 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
読んでいたひとでしょう。ひどく大人おとなくさくなって、むかしの面影なんか、どこにもないから、思いだせといったって、それは無理です
雲の小径 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
大人おとな大人おとなしかりとばされるというのは、なさけないことだろうと、人力曳じんりきひきの海蔵かいぞうさんは、利助りすけさんの気持きもちをくんでやりました。
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
三方にめぐらした手摺は丁度大人おとなの腰の下まで屆くほど。眩暈めまひがした位では、これを乘り越して下へ落ちさうな樣子はありません。
三ちゃんが黙って遊びに行ってしまったって大変御機嫌が悪いから、早く行って大人おとなしくあやまっていらっしゃいと言うのである。
斗南先生 (新字新仮名) / 中島敦(著)
お母さん、私は、もう大人おとななのですよ。世の中のこと、なんでも、もう知っているのですよ。安心して、私になんでも相談して下さい。
女生徒 (新字新仮名) / 太宰治(著)
大人おとなになっていくにしたがって進んでいく官位や、世間から望みをかけられていることなどはうれしいこととも思われないのです。
源氏物語:48 椎が本 (新字新仮名) / 紫式部(著)
家に帰るべきわがうんならば、強ひてとどまらむとひたりとて何かせん、さるべきいはれあればこそ、と大人おとなしう、ものもいはでぞく。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
しかしほかの連中はみんな大人おとなしくご規則通りやってるから新参のおればかり、だだをねるのもよろしくないと思って我慢がまんしていた。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それも神様かみさまのお使者つかいや、大人おとなならばかくも、うした小供こどもさんの場合ばあいには、いかにも手持無沙汰てもちぶさたはなは当惑とうわくするのでございます。
でも大人おとなしくて、なんにも悪い事はあるんじゃありませんけれども、私の祖父じじいは、「口を利くから、怖くって怖くって、仕方がなかった。」
「ああしんど」 (新字新仮名) / 池田蕉園(著)
大抵たいてい大人おとなが子供の時を回顧して書いたと云ふ調子なり。その点では James Joyce が新機軸を出したと云ふべし。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
と云つて、大人おとなしく出て行く。私は何日か、此女は、アノ大きな足で、「眞面目」といふものの影を消して歩く女だと考へた事があつた。
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
兵馬は、仏頂寺の刀を抜いたのを大人おとなげないと思い、丸山勇仙ですらが、意外に打たれたようです。仏頂寺はそれに頓着なしに
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
おつぎのまだみじか身體からだむぎ出揃でそろつたしろからわづかかぶつた手拭てぬぐひかたとがあらはれてる。與吉よきちみちはたこもうへ大人おとなしくしてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「あゝ淺野先生は一年生の受持だしたなア、……先生は大人おとなやもん、上手に逃げはるやろ、地獄おとしにかゝらはれへん。」
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
二人は、うれしくってしばらくは、ものも言えませんでした。するとモーティが、すっかり大人おとならしくなった太い声で言いました。
やんちゃオートバイ (新字新仮名) / 木内高音(著)
「無理だ! 無理だ!」こらへ切れない苦しみのために、一時的ながら大人おとなびた力を喚び起されて、私の理性が、さう叫んだ。
山笠は、ときどき、ワッショ、ワッショ、と、喊声かんせいをあげて走りだす。山笠には、どれにも、十人ほどの大人おとながついている。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
大人おとなしくしているんだよ、御府内御朱引ごしゅびきの中とはちがうんだよ——じたばたすると、火をかけて遠慮なく、古寺ぐるみ、焼き殺すから——」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
偉い大人おとなが自分たちの相手になってくれたうれしさと、偉い大人を相手にさせてやったという力量をほこる心持が、ちゃんぽんに心の中でおどった。
大人の眼と子供の眼 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
ものつもつて考へて見ろ、それに此頃このごろ生意気なまいきになつて大分だいぶ大人おとなにからかふてえが、くないぞ、源蔵げんぞうたやうなかたい人をおこらせるぢやアねえぞ。
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
鍛冶七かじしち——鍛冶もしていた鉄問屋——の裏には、猫婆ねこばばあがいるということなど、いつの間にか大人おとなよりよく知ってしまった。
旧聞日本橋:02 町の構成 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
第三には今日はあまり喜ばれぬ大人おとなの真似、小児はその盛んな成長力から、ことのほか、これをすることに熱心であった。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
全く大人おとながいきなり子供の——特に大ぜいの子供の信用を得るためには——これよりほかに話の始めようがないのである。
大人おとな玩弄おもちゃには持って来いのように出来ているものであるから、西洋人の眼にそれが珍奇に見えて購買慾をそそられたのは道理もっとものことと思われる。
西洋では大人おとなの男子で普通の労働をしている者は、まず一日三千五百カロリーの熱量を発するだけの食物を取ればよいということがわかっておる。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
それを、大人おとなたちは、しんみょうなかおつきでおがんでいますが、いったい、おいなりさんの正体しょうたいはどんなものか、それをしりたくてたまりません。
そのとき向こうの河原のねむの木のところを大人おとなが四人、はだぬぎになったり、網をもったりしてこっちへ来るのでした。
風の又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
大人おとなっぽくひざをだいておきを見ている大吉とにはさまれてすわると、どうしたのか自転車のことは口に出したくなくなった。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
そして戸がしまってるのを見て、足でり初めた。その大きな激しい音は、彼の少年の足よりもむしろ、その足にはいてる大人おとなの靴を示していた。
おじさんという言葉を知らないなんて、変な大人おとなである。千二は、いよいようす気味が悪くなって、立上ろうとした。
火星兵団 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「朝鮮大虎」「大入り大入り」「大人おとなもん小児半文」と書いた札を背にしてしきりに客を呼んでいる男が一方にいる。
子供の眼は、大人おとなが看過してる多くの虚偽をもとらえるものである。また多くの弱点や矛盾をも見てとるものである。
尤も眼をいて見せたら子供はこはがる、こぶしを振廻したらねこに逃げる、雖然魂のある大人おとなに向ツては何等の利目きめが無い。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
大人おとなしく横になつてゐた清さんのえりへ私が手をりし事に候、その時に清さんは身を縮めてぶるぶると震ひなされ候、女の肌知らぬ人といふではなし
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
刺繍なぞもその頃から遊びごとに作られたのが、大人おとなのそれよりも綺麗でシッカリしていたという事で御座います。
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
子供が母を待つように大人おとなしく寝ていたが、不用意な葉子の雑誌や書物や原稿の散らかったあたりに、ある時ふと一色の手紙を発見したことがあって
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
大人おとなにしてなお赤児あかごのごとし」という語があるが、しいて赤児のごとくにならずとも、すくなくともいつまでも青年の気概きがいうしなわずにあるを要する。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
子役のあいだはやはり子供らしい役を勤めているのが当然で、だんだん大人おとなになるにしたがって、大人らしい役を勤める。それがほんとうの修業である。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
代って舌鼓したつづみうちたいほどのあま哀愁あいしゅうが復一の胸をみたした。復一はそれ以上の意志もないのに大人おとな真似まねをして
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
大人おとなしい女子衆おなごしは続かず、といって気性の強い女はこちらがなめられるといった按配で、ほとほと人手に困って売りに出したのだというから、掛け合うと
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
その背後には中学びいきの大人おとな連が陣取っている、その中に光一の伯父さん総兵衛そうべえがそのふとった胸を拡げて汗をふきふきさかんに応援者をり集めていた
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)