すす)” の例文
旧字:
と申しても、まさか借物の編笠をおすすめするわけに行かないから、佐々見氏が用意のため持参した御編笠をお着せしようとする、と
「今夜は御誘い申しますから、これから夕方までしっかり御坐りなさいまし」と真面目まじめすすめたとき、宗助はまた一種の責任を感じた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
また医員いいんのハバトフも時々ときどきては、何故なにゆえかアルコール分子ぶんしはいっている飲物のみものせ。ブローミウム加里かりめとすすめてくので。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
それをすすめることも、多分は中央にいる者の本務なのであろうが、欲を言えば地方の人たちも、これまでのような郷土研究ぶり
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
... だから僕は我邦わがくにの医者にすすめて食合せ物の化学作用を研究させたいと思うね」大原「なるほど、してみると僕のは鰻の中毒かもしれない」
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
貴女は、何時でも、美奈子みなこさんをお誘いになる。美奈子さんが、進まれない時でも、貴女は美奈子さんを、いろ/\すすめてお連れになる。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それで、多くの学者がくしゃたちが集って、いろんな面白おもしろあそびごとを考えだしては王子にすすめました。すると王子はこうこたえました。
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「それではまず客人きゃくじんたちに、わたしのすすめるさけんでもらって、それからこんどはわたしがごちそうになることにしよう。」
大江山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
その時、事情を聞いたお吉が、当然に、そういってすすめたけれど、お米は、どうしても首を振って、家へ帰ることをがえんじない。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は、にんじんに、その水を飲んでみろとすすめる。もっと滋養分じようぶんをつけるために、彼は、その中へなんでもほうり込むのである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
みんながわたしをヴァルセに止めたがって、いろいろすすめているあいだ、マチアはひどくぼんやりして考えこむようになった。
可笑おかしくなって吹き出したが彼らは真面目も大真面目でいる、夜になると提燈ちょうちんを下げて自分にも同行して見ぬかとすすめたが
平ヶ岳登攀記 (新字新仮名) / 高頭仁兵衛(著)
「あなた、やめろなんておすすめになっちゃ困りますよ。この人は悪いことならきつけられなくてもぐするんですからね」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
彼はとうとうしどろもどろに、美貌の若者がすすめる通り、琅玕と珊瑚と取り換えた上、礼には黒馬を貰った事まで残りなく白状してしまった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
先輩のすすめで婚約した園子はかつて娘の時分に同じ学校を早く卒業したあの勝子から物を習った人であったことなどへも行き
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
加藤われらをすすめて北川にかるた取りに行く。かれやなんらの友情も知らぬもの、友を売りてわが利を得んとするものか。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
粕谷かすやの夫妻が千歳村に移住いじゅうした其春、好成績こうせいせきで小学校を卒業し、阿爺は師範しはん学校がっこうにでも入れようかと云って居たのを、すすめて青山学院に入れた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
車停むるところへ、はや馴れたる末の姫走り来て、「姉君たち『クロケット』のあそびしたまへば、おん身もなかまになりたまはずや、」とわれにすすめぬ。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ワリニャーニが暇乞に行ったときに、信長は、この祝祭を見ることをすすめた。でワリニャーニは止むを得ず祝祭の日まで十日ほど滞在を延ばした。
鎖国:日本の悲劇 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
なんらかの事由じゆうのために各自の重荷おもには十貫目をえてはならぬ規定のある場合には、十一貫目以上をになえとはすすめぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
須利耶の奥さまは童子の箸をとって、魚を小さくくだきながら、(さあおあがり、おいしいよ。)とすすめられます。
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
うろうろ徘徊はいかいしている人相にんそうの悪い車夫しゃふがちょっと風采みなり小綺麗こぎれいな通行人のあとうるさく付きまとって乗車をすすめている。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
幕府の勘定方の役人は、そのとき三上藩にいたが、藩の役人が怖れて急ぎ避難をなさるようにとすすめたが、剛情な幕府勘定方役人はそれを聞き入れない。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
されども、これ愚人の計算にて、家業を荒廃し、堕落をすすむる魔言と謂ふべし。吾輩ごはいの惜む所は、餌代船賃に非ずして、職業を忘るゝ損害の大なるにあり。
研堂釣規 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
あなた方にも飲ませるからと言って、無理にすすめてそこらの店屋へ案内したが、二人は鼻をおおうてはいらない。
といってすすめ、そのうえ王成を当分ただで置くといった。王成は喜んで出かけていって、鶉を買えるだけ買ってかごに入れて帰って来た。主人は喜んでいった。
王成 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
泉原は半ば煙にかれたかたちで、すすめるまゝに相手の後にいていった。探偵の家は町はずれの丘の上に並んでいる小ぢんまりとした二階建の一つであった。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
「おたべや。」と言ってそれを余にすすめて自分も一つ口に入れた。居士は非常に興奮しているようであったが余はどういうものだか極めて冷かに落着いて来た。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
そののち幾年いくねんって、おとこほうがあきらめて、何所どこからかつまむかえたときに、敦子あつこさまのほうでもれたらしく、とうとう両親りょうしんすすめにまかせて、幕府ばくふ出仕しゅししている
色、聞、香、味、触の五感覚の中で、母は意識しないが、特に嗅覚を中心に味覚と触覚に彼女の気鬱症はあえきを持ったらしいことが、私にすすめる食餌しょくじの種類でわかった。
桃のある風景 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
論者が、しきりに近世の著書・新聞紙等の説をいとうて、もっぱら唐虞三代の古典をすすむるは、はたしてこの古典の力をもって今の新説を抹殺するに足るべしと信ずるか。
徳育如何 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
彼は思うて言わざるなく、言うて服せざるなく、服して共に行わざるなき勧化者かんげしゃなり。彼の眼中にはつねに一種の活題目あり、これを以てみずから処し、これを以て人にすすむ。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
山好きの友人から上高地かみこうち行をすすめられる度に、自動車が通じるようになったら行くつもりだといってげていた。その言質げんちをいよいよ受け出さなければならない時節が到来した。
雨の上高地 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
お浜はお民の顔色を窺っていたが、正木の老夫婦にすすめられて、これも泊ることにした。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
すすめられるままに、二三杯口にしたところが、たちまちカッと顔が熱くなり、頭の中にブランコでもゆすっているような気持で、何かしら放縦ほうじゅうなものが心を占めて行くのを感じ始めた。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
おかみさんは、商売物の水飴をはしに巻いてはしきりにすすめる。「よしえボコ」は絶えず口を動かしていたが、終にゆかの上から入口の土間に小用して、サッサと寝床へ入ってしまった。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
されど彼女にわざわいを及ぼさんは本意なしと思いければ、石塚重平氏にたくして彼に勉学をすすめさせ、また於菟おと女史に書を送りて今回の渡航を告げ、後事こうじを托し、これにて思い残す事なしと
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
そうして京都の貧しい公卿の、美しい姫を養女として養い、巧みに時の将軍にすすめて、その側室としたことによって、将軍家のお覚えがいともめでたい。——というのが理由の一つであった。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
薬湯くすりゆに連れて行くにもあまり見苦しいので家人も億劫おっくうがっていたところ、西岡という若い未亡人が来て、自分のらせている塩湯はどうだろうとすすめてくれた。家人のためには渡りに船であった。
「あのお好み焼屋は、これがまた但馬の、——作品と言いますかな。あれは、ご亭主の惚太郎が出征したあとで細君が開いた、——うちでやり出したんですがね。但馬が細君にすすめてやらしたんですよ」
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
現在ゆうべ俺がすすめて、ここまで一緒に来たのだもの。
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
彼はその返礼に私の顔を所嫌ところきらわずめようとしてやまなかった。その時彼は私の見ている前で、始めて医者のすすめる小量の牛乳をんだ。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すすむる背後うしろへそうっと出で来れるお登和嬢「大原さん、どうぞお上り下さい」と兄の言葉について小さく言えど勧むる心は兄にも優れり。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
尊氏の勧降かんこうは、じつに、こういうときになされたのだった。——もちろん、あからさまに「こうすすめる」とはいっていない。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女は夫や子供の死後、なさけ深い運送屋主人夫婦のすすめ通り、達者な針仕事を人に教えて、つつましいながらも苦しくない生計を立てていたのです。
捨児 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そういう青年たちにまずすすむべき手近な道は、孝悌であるほかはない。青年たちが今まで体験して来た家族生活が、ちょうどこの道の場なのである。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
ちがった信仰をもつ為政者いせいしゃが、単なる殖産政策の立場から、すすさとして神山の樹をらせ、それを開墾して砂糖黍さとうきびなどをえさせ、鼠の居処をせばめて
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ほどこして必ずほうある者は、天地の定理ていりなり。仁人じんじんこれを述べてもっひとすすむ。ほどこしてほうのぞまざる者は、聖賢せいけん盛心せいしんなり。君子くんしこれそんして以てすくう」
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
大阪では岸本は牧野と一緒にある未知の家族をおとなはずであった。そこには岸本の再婚にいて、巴里パリの美術家からすすめられて来た人も住んでいたからで。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
すすめて、承諾も待たずにもうひざまずいた。私は今更仕方がなく、占部さんの後について口真似をした。今考えて見るとしゅの祈りだった。大体申分なかったが
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)