つら)” の例文
さらに、附近の漁船まで狩りだして、それに無数の小舟をつらね、赤々と、篝火かがりびかせて、あたかも夜襲を強行するようにみせた。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なまなましい昨夜の感懐は彼の脳裡にまざまざ書きつらねてある。握った筆は、それを文字に改めて紙の上に定着させるだけである。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
元来、暗号とは一見似てもつかぬ、二つの奇文のように見えるが、そのうち、最初の短文の頭文字だけを、つらねたものが暗号語なんだ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そこは保利橋のちょっと手前で、右側には炭薪商、籠屋かごや、桶屋などが軒をつらね、左側には八百屋、魚屋、繩蓆屋なわむしろや、石屋などが認められた。
醜聞 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
この「スカンディナヴィアの詩王」の下に小さくアンデルセンの名をつらねて下さいと虚栄の心からではなくお願いしたいと思っています。
聖アンデルセン (新字新仮名) / 小山清(著)
彼女は父の葬式につらなることも出来なかった。葬式やら、病人やら、黒沼家の混雑は思いやられて、長八はますます同情に堪えなかった。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
つらね遊芸の師匠や芸人などの住宅のある所でもなしなまめかしい種類の家は一軒いっけんもないのであるそれにしんしんとけた真夜中
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
かかる席につらなりては、口利くちきくだにずかしきものを、いざさらば帰るべしとて、思うままに言いののしり、やおらたたみ蹶立けたてて帰り去りぬ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
最もほそく作られたるものは其原料げんれう甚だ見分みわけ難けれどややふときもの及び未成みせいのものをつらね考ふれば、あかがひのへり部分ぶぶんなる事を知るを得。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
たとへば銀河が、大小さま/″\の光をつらねて宇宙の兩極の間に白み、いと賢き者にさへ疑ひをいだかしむるごとく 九七—九九
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
温故之栞おんこのしおり』(巻十)にはこの国の水田生産のことを記して、以前は割竹五六本を木の台に立てつらね、稲を七八けいずつはさんでいた故に
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
形式や文字のつらなりにはない。すくなくとも第一流の詩には、リズム論者などの通常的色盲にはふれることのできない、いいところがある。
星より来れる者 (旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
われわれが現実詩をば、古語・中世語又は、近古語でつらねるのも、其と同じ事で、やはり一つの文体として認めねばならぬ。
詩語としての日本語 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
その蛙の句は古池をはじめといふて可なるべし。今連歌以来古池の句に至るまでの蛙の句をつらねて、蛙に対する観念の変遷を知らしむるに便せん。
古池の句の弁 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
しかるにその後、『異制庭訓往来』和漢の名馬をつらねた中に、本朝厩戸王子うまやどのおうじ甲斐黒駒、太宰大弐だざいのだいに弘継ひろつぐ土竜とあるを見出した。
西北に当っては畑や田を隔てて停車場や宿屋やその他の建物がつらなっている。町の形をなした村だ。中でも一番眼につくのは憲兵隊の建築だ。
書棚は壁に片寄せて、けんの高さを九尺つらねて戸口まで続く。組めば重ね、離せば一段の棚を喜んで、亡き父が西洋むこうから取り寄せたものである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もう目の前には岩内の町が、きたなく貧しいながらに、君にとってはなつかしい岩内の町が、新しく生まれ出たままのように立ちつらなっていた。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それより情死の事由をつらね、更に一転してその苦痛と応報とをぶ。「あやなき闇に凄然すさまじや、閻羅えんらと見ゆる夏木立」。
とにかく、元禄十四年の暮から明くる年の春にかけて、連判状にその名をつらねるものじつに百二十五名の多きに上った。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
景気がよいので付近には夜商人が店をつらね、池中にも田舟が二艘、舳へ氷水、御菓子などと書いた赤行灯を灯してうろうろ船の姿も風情を添えた。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
この観燈と漢時代に一の神を祭るに火をつらねて祭ったと云う遺風から、そのは家ごとにともしびを掲げたので、それをようとする人が雑沓ざっとうした。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
両門瀑の少し下手から西の国境山脈を望むと、黒い岩壁が高く幕を張ったようにつらなっているのが眼につくであろう。
秩父の渓谷美 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
屋の棟をつらならせていたものでありまして、羅馬貴族の邸宅を見て素人でも一眼に感ずることは、屋内にも庭園にも至るところに噴泉の設備があり
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
風雨のはげしい音にも消されずに、警笛サイレンの響はたちまちに近づいた。門内のやみがパッと明るく照されて、その光のうちに雨が銀糸をつらねたように降っていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
さうだ、あれは、義雄の友人たる某漢詩人が有名な事件で殺されたその葬式の掛り員として、義雄等が人力車をつらねて青山に向ふ途中のことであつた。
私どもも時宜によっては、たもとつらねて官職を辞し、ともに民間にいて永久に事を取るだけの決心でありますから。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
天井に丸竹を並べたり、ひしぎ竹をつらねたりするいわゆる竹天井の主要なる任務は、この種の材料によって天井と牀との二元性を判明させることにある。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
さいはひに一ぱいみて歇息やすませ給へとて、酒をあたため、下物さかなつらねてすすむるに、赤穴九一袖をもておもておほひ、其のにほひをくるに似たり。左門いふ。
銀波、銀砂につらなる千古の名松は、清光のうちに風姿をくして、宛然えんぜん、名工の墨技ぼくぎ天籟てんらいを帯びたるが如し。行く事一里、漁村浜崎はまさきを過ぎて興なお尽きず。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
たぶん伝吉の友達の家へ行って、祝言の席につらなった人から、伝吉の帰った時刻を聞き出すつもりでしょう。
濃紫が家に来た後も、香以の吉原通はまなかった。遊に慣れたものは燈燭とうしょくつらねた筵席えんせきの趣味を忘るることを得ない。次の相手は同じ玉屋の若紫であった。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
これをたとえば、大廈たいか高楼の盛宴に山海の珍味をつらね、酒池肉林しゅちにくりんの豪、糸竹しちく管絃の興、善尽し美尽して客を饗応するその中に、主人は独り袒裼たんせき裸体なるが如し。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
列車れつしやは、おやとおもふほど何処どこまでも長々なが/\つらなつたが、これ後半部こうはんぶ桐生行きりふゆきてられたものであつた。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
一合から一合五しゃくの休み茶屋、そこを出ると、雲の海は下になって、天子てんしヶ岳の一脈、その次に早川連巓の一線、最後に赤石山系の大屏風だいびょうぶが、立てつらなっている。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
そのひとつらの土塀の上へ、いつかまたしとしと糠雨こぬかあめがふりだしていた。ところどころ崩れた土塀の破れから、おそい一八いちはつが花ひらいて、深むらさきに濡れていた。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
くし、こうがい、裲襠うちかけ姿のままで吉三郎が真ん中、先を成田屋、うしろに主水之介がつづいて、木挽町こびきちょうの楽屋を出た三ちょうつらね駕籠は、ひたひたと深川を目ざしました。
五月の四日、粕谷草堂の夫妻は鶴子を連れて、お馨さんの郷里きょうりに於ける葬式につらなるべく出かけた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
二里も三里もあるところから峠越しでその日の葬式につらなりに来て、万福寺や伏見屋に泊まっている隣の国の客もあったが、そういう人たちも提灯ちょうちん持参で招かれて来た。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
燕師いよ/\東昌に至るに及んで、盛庸、鉄鉉うしを宰して将士をねぎらい、義をとなえ衆を励まし、東昌の府城を背にして陣し、ひそかに火器毒弩どくどつらねて、しゅくとして敵を待ったり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
まずチベット風に法王に対し敬意を表する言葉をまず書きつらね、それからこの雪をもって清められたる美しき美の主人に対し、私は世界の人民の精神的苦痛を救うために
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
従って、「子路いかまみえて曰く」に対応して「子貢、色を作す」という一句を挿入し、この場面とおよそ関係のない「予一以貫之」の問答をここにつらねることになったのである。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
席上でできた詩歌の数は多かったが、こんな時のまじめでない態度の作をたくさんつらねておくことのむだであることを貫之つらゆきも警告しているのであるからここには書かないでおく。
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
一行はここに席をつらね、徳利をおろし、行炉を置き、重箱よりほふれる肉を出し、今一度水にて洗い清めたり、その間にあるものは向いの森より枯枝と落葉を拾い来たりて燃しつけつ
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
されば他の諸山からも、心ある学僧の一慶様の講莚こうえんつらなるものが多々ございました。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
はなすぐに四人をともなひて客殿きやくでん末座ばつざに待せ置き其身もせきつらなりける四人ははるか向ふを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
二人は打連れて四谷左門町よつやさもんちようなる赤樫の家をでぬ。伝馬町通てんまちようどおりは両側の店にともしつらねて、だ宵なる景気なれど、秋としも覚えず夜寒のはなはだしければ、往来ゆききまれに、空は星あれどいと暗し。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
開場式のお歴々の群集も畢竟ひっきょう一種の囚徒で、工場主の晩餐会ばんさんかいの卓上につらなる紳士淑女も、刑務所の食卓に並ぶルンペンらも同じくギャングであり囚人の群れであるように思われてくる。
映画雑感(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その窓掛けの青い色までが、人間の物尺ものさしにはもとより、普通の人の想像そのもののなかにもちよつとはありさうもないほどの細かさで、而も実に明確に、彼の目の前に建てつらねられた。
さて其次席につらなれる山木梅子が例の質素の容子ようすを見て、しば躊躇ためらひつ「山木様は独立で、婦人社会の為に御働おはたらきなさらうと云ふ御志願で、こと阿父おとつさんは屈指の紳商でいらつしやるのですから」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)