冷汗ひやあせ)” の例文
苦痛のために身体をエビの如くに曲げてみても冷汗ひやあせが流れ、自然のたうちまわって、まったく意識せずして唸り声を発してしまう。
青い絨毯 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
うかすると自分のいてゐる草履がペツタ/\いふのに、飛上るやうに吃驚びつくりして冷汗ひやあせを出しながら、足の續く限り早足にあるいた。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
しぼるような冷汗ひやあせになる気味の悪さ、足がすくんだというて立っていられるすうではないからびくびくしながら路を急ぐとまたしても居たよ。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ボートルレの額から冷汗ひやあせがぽたりぽたりと落ちると、番人はランプを持ってこちらへ近づいてくるらしく、光が自分の方に動いてくる。
かれはどつかりすわつた、よこになつたがまた起直おきなほる。さうしてそでひたひながれる冷汗ひやあせいたが顏中かほぢゆう燒魚やきざかな腥膻なまぐさにほひがしてた。かれまたあるす。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
いかに言ってもわたしたちは踏み出したばかりで、経験にも乏しく、ことに自分なぞは当時を追想するたび冷汗ひやあせの出るようなことばかり。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
たとえばたれでも一度か二度は経験しない人はあるまいが、寝ておって、高い所から落ちる夢を見て、冷汗ひやあせをかいてざめることがある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
思わず火のような息を吐いて足を休めると、初めの熱汗は極度の疲労で冷汗ひやあせとなり、しばらくは、空を仰いで星月夜の涼風を入れる気力もない。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
冷え冷えと露を含んだ草の葉が彼の肉体に触れたとき、彼は死人のように蒼ざめて、恐怖のあまり眼を大きく見開いた。冷汗ひやあせが彼の額ににじみ出た。
ただ帰りがけに生徒の一人がちょっとこの問題を解釈をしておくれんかな、もし、と出来そうもない幾何きかの問題を持ってせまったには冷汗ひやあせを流した。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのひんの悪いメリンス友染を取巻いて珍らしげに仏蘭西フランス婦人が眺めて居るのを見ると冷汗ひやあせの出る気がする。(四月十八日)
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
冷汗ひやあせがかさ/\の背中へじつとりとたまりました。もう、泣かんばかりの顔をして、たすけをさけばうとしてゐます。
青い顔かけの勇士 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
ば助けつかはさんコリヤ十兵衞とよばれし時十兵衞は始終の樣子を聞て大岡殿の頓智とんちしたまきまことに恐れ入て冷汗ひやあせを流し居たりしゆゑ急に答へもいでず平伏するを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
検事は、入口のところに足をとめてしまった田口巡査を、低い声でしかりつけた。しかし検事は冷汗ひやあせをもよおした。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あやしむべし、彼はこの日頃さしも憎からぬ人を見ることをおそれぬ。見ねばさすがに見まほしく思ひながら、おもてを合すれば冷汗ひやあせも出づべき恐怖おそれを生ずるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
今まで日本で、若い学生たちに、「世界を見る眼が大切だ」などと話していたのは、少々冷汗ひやあせものである。どうも世界は広大なものだと、つくづく感心した。
アラスカ通信 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
「何となくうら恥かしきやうに心落ちゐず。白石先生の事など憶出せばそびら冷汗ひやあせを流す」と書いておる。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
私は冷汗ひやあせを拭いながら、私の見た超自然な現象を、妻に打明けようかどうかと迷いました。が、心配そうな妻の顔を見ては、どうして、これが打明けられましょう。
二つの手紙 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
居たたまらぬ風で、冷汗ひやあせを流しつゝ居室へ入つた道臣は、燗冷かんざましの酒を手酌でグイ/\飮んだ。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
今にして当時を顧みれば、なお冷汗ひやあせの背を湿うるおすを覚ゆるぞかし、安藤氏は代々よよ薬屋にて、当時熱心なる自由党員なりしが、今は内務省検疫官けんえきかんとしてすこぶ精励せいれいの聞えあるよし。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
そりゃアあたしもネ、なんて頼み甲斐のないお人だろうと、いまから思えば冷汗ひやあせものですけど、一時は殿様をお恨み申したこともありますのさ。でもね、すぎたことはすぎたこと。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「そっと仕舞しまって置くことさな。だが全くあの時は、見ていた俺さえ冷汗ひやあせをかいた」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
私の全身に冷汗ひやあせがニジミ出た。……コンナ馬鹿な事がと思いつつ慌てて機体を右に向けると、向うの機も真似をするかのように右の横腹をまぶしく光らせつつ、やはり真正面に向って来る。
怪夢 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
これで夢が醒めると、わたくしの枕はぬれる程に冷汗ひやあせをかいていました。
鰻に呪われた男 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
若い頃に画家になろうとこころざした程の、私などが足もとにも近づけない程の、美術に対してすぐれた観照眼かんしょうがんを持っている茂吉であった事を、ずっと後に、思い出して、私は、冷汗ひやあせをかいたことである。
茂吉の一面 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
れも無言むごんわきながるゝ冷汗ひやあせ跣足はだしりてしたきおもひなり。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いま考えても、冷汗ひやあせきます。微衷をおみ取り願い上げます。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
せつ冷汗ひやあせをおかかせなさるには当るまいじゃあございませんか。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ゾッと冷汗ひやあせ発生わいて、シャツがぴったり脊骨にくっついた。
鉄路 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
フーラー博士は、冷汗ひやあせを流してしにものぐるいである。……
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
むぐらは土の中で冷汗ひやあせをたらして頭をかきながら
貝の火 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
この寒さに、全身ビッショリの冷汗ひやあせであった。
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
佐助は取り着くしまもなくさればと云ってめるわけにも行かず何とかとか独りで考えては弾いているといつまで立ってもよいと云ってくれないそうなると逆上してますますトチリ出す体中に冷汗ひやあせく何が何やら出鱈目でたらめ
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
りよはびつくりして、背中せなか冷汗ひやあせた。
寒山拾得 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
よくのつかれか、冷汗ひやあせ
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
冷汗ひやあせです。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
しぼるやうな冷汗ひやあせになる気味きみわるさ、あしすくんだといふてつてられるすうではないから、びく/\しながらみちいそぐとまたしてもたよ。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かれはどっかりすわった、よこになったがまた起直おきなおる。そうしてそでひたいながれる冷汗ひやあせいたが顔中かおじゅう焼魚やきざかな腥膻なまぐさにおいがしてた。かれはまたあるす。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
長造は、弦三のことを、色気いろけづいた道楽者どうらくものののしったことを思い出して、暗闇の中に、冷汗ひやあせをかいた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と、ひどい厭味いやみつたときは、與力よりきどもが冷汗ひやあせ仕立したておろしの襦袢じゆばんどうらした。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
これがすなわちわれわれの代になってもなお、時々は現れ出て冷汗ひやあせをかかせる理由となる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
総身はびっしょり冷汗ひやあせで、胸さえまるで早鐘をつくように躍っていたとか申しました。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
頼んで來た夫故それゆゑ此樣こんなおそくなり其上空腹ひだるくもありモウ/\わきの下から冷汗ひやあせが出るはやく飯をくはせくれよと云ながら内へ這入はひり長兵衞を見てるさうにコレハと云しのみにて辭宜じぎをなせば長兵衞は苦笑にがわらひを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「わかりましたよ、わかりましたよ、ああ冷汗ひやあせが出ちまった」
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
冷汗ひやあせ、冷汗」
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
わたくしはもう落胆がっかりしてしまいましたよ、きみ。』と、かれ顫声ふるえごえして、冷汗ひやあせきながら。『まった落胆がっかりしてしまいました。』
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
きたな病苦びやうく冷汗ひやあせに……そよ/\とかぜめぐまれた、淺葱色あさぎいろ水團扇みづうちはに、かすかつきしました。……
雪霊記事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
なぜって、みなさんはこの話を聞いているうちに、手の中にあついあせをにぎったり、背中にねっとりと冷汗ひやあせをにじみ出させたりするでしょうからねえ。いや、まだあります。
恐竜艇の冒険 (新字新仮名) / 海野十三(著)
して見れば今の大あらしも、あの虎や白蛇と同じように、鉄冠子の留守をつけこんだ、魔性の悪戯いたずらに違いありません。杜子春はようやく安心して、額の冷汗ひやあせぬぐいながら、又岩の上に坐り直しました。
杜子春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
見透みすかされはりむしろに坐する如く冷汗ひやあせながしてひかへらる此時綱條卿には越前天一坊の仕置しおきの儀は其方が勝手に致べしゆるすぞ越前は小身者せうしんものなれば天一坊召捕方めしとりかたの手當等はむづかしからん伊豆其方そのはうより萬端ばんたん助力じよりよくいたしつかはし早々其用意ようい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)