住家すみか)” の例文
カピ長 やゝ、これは! おゝ、我妻わがつまよ、あれ、さしませ、愛女むすめ體内みうちからながるゝ! えゝ、このけん住家すみかをば間違まちがへをったわ。
きっかり八時に、わたしはフロックコートを一着におよび、頭のかみを小高くり上げて、公爵夫人こうしゃくふじん住家すみかなる傍屋はなれへ入って行った。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
ゆっくりした田舎の時間じかん空間くうかんの中に住みれては、東京好しといえど、久恋きゅうれん住家すみかでは無い。だから皆帰りには欣々として帰って来る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
なぜならば土地を離れて、家郷とすべき住家すみかはないから。そこには拡がりもなく、さわりもなく、無限に実在してゐる空間がある。
田舎の時計他十二篇 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
先に、賊の住家すみかの玄関脇の一室に、棺桶の様な長い箱が置いてあったことを記したが、妙子はその中にとじこめられていたのだ。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
此の浮島の東北の隅のよしあし茫々と茂った真中に、たった一軒、古くから立って居る小屋がある。此れは漁師の万作まんさく住家すみかだ。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
青年わかものは言葉なく縁先に腰かけ、ややありて、明日あすは今の住家すみかを立ち退くことに定めぬと青年は翁が問いには答えず、微笑ほほえみてその顔を守りぬ。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
それまで住んでおる仮りの住家すみかじゃ、ここへその方をれて来たのは、その方の精神に感じてのことじゃから、気を置かずに休息するがよかろう
神仙河野久 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
戸村家の墓地は冬青もちのき四五本を中心として六坪許りを区別けしてある。そのほどよい所の新墓にいはかが民子が永久とわ住家すみかであった。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
三田の部屋の下の川岸を住家すみかとする泥龜は、夏の間に相手を見つけて、何時の間にかやゝ形の小さいのと二疋になつてゐた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
『いろ/\くわしいことうけたまはりたいが、最早もはやるゝにもちかく、此邊このへん猛獸まうじう巣窟さうくつともいふところですから、一先ひとま住家すみかへ。』とじうつゝもたげた。
四千万の愚物ぐぶつと天下をののしった彼も住家すみかには閉口したと見えて、その愚物の中に当然勘定せらるべき妻君へ向けて委細を報知してその意向を確めた。
カーライル博物館 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
天狗の宮にはまつる者がなく窩人の住家すみかには住む者がなく、従来いままで賑やかであっただけにこうなった今はかえって寂しく蕭殺しょうさつの気さえ漂うのであった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
へやは屋根裏と覚しく、天井低くして壁は黒ずみたれど、彼方かなた此方こなた脱捨ぬぎすてたる汚れし寝衣ねまき股引もゝひき古足袋ふるたびなぞに、思ひしよりは居心ゐごゝろ好き住家すみかと見え候。
夜あるき (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
白姥しろうば焼茄子やきなすび牛車うしぐるまの天女、湯宿ゆやどの月、山路やまじ利鎌とがま、賊の住家すみか戸室口とむろぐちわかれを繰返して語りつつ、やがて一巡した時、花籠は美しく満たされたのである。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それからおよそ何時間たったかよく分かりませんでしたが、一人の客がその悪漢たちの住家すみかに入ってきました。
塵埃は語る (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
さけび歩くにぞ名主なぬしの甚兵衞ももてあまし其隱居所いんきよじよ追出おひいだしけりさればお三婆は住家すみかを失なひ所々方々とうか彷徨さまよひしを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
その証拠には昔は山籠の住家すみかへ人の尋ねて来るのがうるさかつたのに、今では人が来ないと寂しくてならない。
その晩から、万吉は、森囲いの怪しい家、住吉村の三次の住家すみかへ監禁された。縄目を解かれてほうり上げられた所は、屋根裏を仕切ったような空部屋あきべやである。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
吝嗇りんしょく一方にて金をたくわえ、公共慈善等には一銭も出金せぬものに対し、他よりその行為を擯斥ひんせきして、かの家は犬神の系統である、人狐の住家すみかであると称し
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
世の中の人々の運命や、人々の住家すみかの移り変りの激しい事等は丁度河の流れにもたとえられ、又奔流に現われては消えさる飛沫の様に極めてはかないものである。
現代語訳 方丈記 (新字新仮名) / 鴨長明(著)
「私の父はミスシツピイで農園をやつてゐましたが、ある時洪水おほみづで農園はすつかり台なしにされてしまひ、加之おまけに私達の住家すみかも根こそぎ持つてかれました。」
鼠も昔より国に盗賊家に鼠と嫌われ、清少納言も、きたなげなる物、鼠の住家すみか、つとめて手おそく洗う人、『もっとも草子そうし』ににくき者、物をかじる鼠、花を散らす鳥と言った。
住家すみからしい生き生きとしたいそしみの気配は何も感じられない! ただ一つ表門だけが開いていた。
家族を率いて次から次へと雨露を凌ぐに足る様な適当な岩窟いわやや、塚穴つかあななどを見付けて臨時の住家すみかとし、ざる竹籠たけかごなどを造っては、その付近二三里の場所を売って歩く。
我輩はこの景色のいい住家すみかを捨てていくのは残念だ。我輩はこの奇巌城エイギュイユいただきから全世界を掴んでいた。ほらね、その金の冠を持ち上げて見たまえ。電話が二つあるだろう。
紅葉もみじを踏んで箱根の山も越した。以前の住家すみかへゆくと玄関の両側にたてた提灯の定紋じょうもんは古びきって以前のままだが、上方の藩の侍が住んでいて、取次の男が眼をむいてにらんだ。
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
どうも物盗りを捕えて、これからその住家すみかへ、実録じつろくをしに行く所らしいのでございますな。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
描いてくれた、人形町の彫辰ほりたつあごを探ったら、大方女の住家すみかの当りが付きましょう、御免
中にも人目を引く城のやうな一郭ひとかまへ、白壁高く日に輝くは、例の六左衛門の住家すみかと知れた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
その北向きの家には、二階をヴァイオリンを弾く御夫婦に貸して、もう、老夫婦の住家すみからしい色に染めてしまって、台所から見える墓場なども案外にぎやかなものだと云っていた。
落合町山川記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
岩代いわしろ信夫郡しのぶごおり住家すみかを出て、親子はここまで来るうちに、家の中ではあっても、この材木の蔭より外らしい所に寝たことがある。不自由にも次第に慣れて、もうさほど苦にはしない。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
私達がその部落に帰ったとき、そこには私達の住むべき家がなかった。そこで、みんながいろいろと相談の上、小林のあによめの実家の西にあるまき小屋を片づけて私達の住家すみかとしてくれた。
類人猿の住家すみかだそうでございますが、まだ、この眼で見る機会はございません、ダイヤ族の首狩も、ダイヤ族は島の奥におりますそうですし、私たちには関係もなさそうでございます
宇宙爆撃 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
芭蕉の葉色、秋風を笑ひてまがきおほへる微かなる住家すみかより、ゆかしきの洩れきこゆるに、仇心浮きてなかうかゞひ見れば、年老いたる盲女の琵琶を弾ずる面影凛乎りんことして、俗世の物ならず。
秋窓雑記 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
だから、わたしは、御覧のとおり、自分のために夢の住家すみかをつくったのだ。
して……もっとも、鬼どもの住家すみかのほうへは、恐ろしゅうて近よれませんが
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
三幕目は清三郎の住家すみかで、百姓に身をやつしてゐる蒲地の一子の宗虎丸を、妹お徳と変装さして、隠くしてゐる処。お徳が小波で、清三郎が虚心。妹の方がノツポーで、兄の方がチンチクリン。
硯友社と文士劇 (新字旧仮名) / 江見水蔭(著)
旅寐たびねとこ侘人わびびと住家すみか、いづれにききても物おもひ添ふるたねなるべし。
あきあはせ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
入って行くといろいろの奇怪があるように伝えられ、従って天狗の住家すみかか、集会所のごとく人が考えました。その奇怪というのは何かというと、第一には天狗礫てんぐつぶて、どこからともなく石が飛んでくる。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ああ是れぞ横笛が最後の住家すみかよと思へば、流石さすがの瀧口入道も法衣ほふえの袖をしぼりあへず、世にありし時は花の如きあでやかなる乙女をとめなりしが、一旦無常の嵐にさそはれては、いづれのがれぬ古墳の一墓のあるじかや。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
雲の上をかけはなれたる住家すみかにも物忘れせぬ秋の夜の月
源氏物語:38 鈴虫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
希くば、此の寒空に、汝の温かき住家すみかを出づる勿れ。
港は人生の闘に疲れた魂には快い住家すみかである。
ここを永久の住家すみかと定めているのである。
磯部の若葉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
七、コルシカ人を殺せば三界に住家すみかなし。
これがまあつひの住家すみかか雪五尺 一茶
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
十勝とかち荒野あらの住家すみかさだめん
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
あの不具者はここの家からも出入ではいりしていたことが分った。つまり彼奴の住家すみかは、三つの違った町に出入口を持っている訳だ。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
下女は口惜くやしそうに吾輩を台所へほうり出した。かくして吾輩はついにこのうちを自分の住家すみかめる事にしたのである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)