二間ふたま)” の例文
真黒にすすけた段梯子だんばしごを上ると、二階は六畳と四畳半の二間ふたま切りで、その六畳の方が雪子の居間と見え、女らしく綺麗きれいに飾ってある。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
母屋から離れた二間ふたまつづきの茶室の内で、こう軽く驚いていたのは、菖蒲あやめの寮が焼けて以来、その行方を疑われていた光子てるこの御方——
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
桟敷二間ふたまを打ち抜いて設けた席であつた。細木は接待の事を挙げて石川に委ね、自分は午の刻の比に桟敷に来て挨拶し、直に又去つた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
二間ふたま三間みま段々だん/\次第しだいおくふかると……燈火ともしびしろかげほのかにさして、まへへ、さつくれなゐすだれなびく、はなかすみ心地こゝち
麦搗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
近江屋の二階は六畳と三畳の二間ふたまで、おせきはその三畳に寝ることになつてゐたが、今夜は幾たびも強い動悸どうきにおどろかされてをさました。
秋「いや/\知らんが、少し思うことがある、それゆえ貴様のうちくんだが、貴様の家は二間ふたまあるか、失礼な事を云うようだが、広いかえ」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
堀田原の家は二間ふたまあって、物置きが広い。お悦さんが籍を移し、私が養子となり、今まで中島幸吉であった私が高村幸吉となった訳であります。
二階の六畳に下の座敷二間ふたまを入れた狭い妾宅中は、どこへ行ってもお千代の真白な身体に煌々たる電燈の光の反射せぬ処はないように思われた。
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その空地にやつと二間ふたまの二階家をはさみ込んだのであるから、階下は隣家の土藏の横腹へよせて通ひ廊下が通り、奧の間と臺所がそれに並んで出來た。
住居 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
ほかに六じょう二間ふたま台所だいどころつき二じょう一間ひとまある。これで家賃やちんが十円とは、おどろくほど家賃も高くなったものだ。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
華老栓かろうせんはひょっくり起き上ってマッチを擦り、油じんだ燈盞とうさんに火を移した。青白い光は茶館の中の二間ふたまに満ちた。
(新字新仮名) / 魯迅(著)
父は常に我々とはかけへだたった奥の二間ふたま専領せんりょうしていた。簀垂すだれのかかったその縁側に、朝貌はいつでも並べられた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その出外れの裏表二間ふたまをあけ放した百姓家の土間に、一人の眼のわるい乞食爺こじきじじいが突立って、見る人も無く、聞く人も無いのにアヤツリ人形を踊らせている。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
二階は十二畳敷二間ふたまで、階段はしごを上つたところの一間の右の一隅かたすみには、けやき眩々てら/\した長火鉢が据ゑられてあつて、鉄の五徳に南部のびた鉄瓶てつびん二箇ふたつかゝつて
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
まあ、当分、間借りで辛棒するのさ。二間ふたまあればなんとかやつていけるだろう。その方の段取りはおれに委せろ
光は影を (新字新仮名) / 岸田国士(著)
玄関脇の三畳間に、三つになる細君の子供が、昼寝のつづきか、奥の、といっても二間ふたましかないが、奥の六畳間の騒ぎに一向平気で、いと安らかに眠っていた。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
十二畳二間ふたまを打ぬいて、正面の床に遺髪と骨を納めた箱を安置し、昨日から来て葛城の姉さんが亡き義妹の為に作った花環はなわをかざり、また藤なぞ生けてあった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
彼はちよつと硝子戸の日ざしに目をやり、それからごちやごちや物の置いてある二間ふたま續きを見𢌞して
おばあさん (旧字旧仮名) / ささきふさ(著)
書斎しよさい二間ふたまだけよりないのだから、あの家と切り離して保存する事も出来ない事はないが、かく相当な人程小さい家に住むとか、或は離れの様な所に住んでゐる方が
拊掌談 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
鉈豆煙管なたまめぎせるでパクリ、パクリ、のんきにむらさきのけむりをあげていたこの主人あるじ、漁師ていのおやじが、そう大声に言って、二間ふたまきりないその奥の部屋をふりかえった。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
僕の知るのは二階二間ふたまと離れの書斎二間と座敷二間、それから庭だけ、家族の居間は知らない。
青い絨毯 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
やがて半蔵が平兵衛と共に案内されて行ったところは、二間ふたま続きの奥まった座敷だ。次ぎの部屋へやの方の片すみによせて故人蘭渓らんけいの筆になった絵屏風えびょうぶなぞが立て回してある。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
二人を迎えた竹柴館の女中は倉地を心得ていて、すぐ庭先に離れになっている二間ふたまばかりの一軒に案内した。風はないけれども月の白さでひどく冷え込んだような晩だった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
私は又養嗣子夫婦の住居すまひになつてゐる二階へあがつて行つた。総てこの家は、前に来たよりも、手広くなつてゐて、兄達老夫婦の階下の二間ふたまも、すつかり明るく取拡げられてゐた。
町の踊り場 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
夜更けには、この嗣二の部屋から、押し殺された実に奇妙な声が、二間ふたまほど隔てた私の部屋にまで伝はつて来ることがあつた。それはある時は嗚咽であり、ある時は忿怒ふんぬの叱声であつた。
母たち (新字旧仮名) / 神西清(著)
宿といつても此家ここ普通なみの下宿ではない、ただ二階の二間ふたまを友人と共に借切つてまかなひをつけて貰つてるといふ所謂いはゆる素人下宿の一つである。自分等の引越して來たのはつい三ヶ月ほど以前まへであつた。
一家 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
妻と女中に二人の子供、私を入れて総勢五人、桜山の葉山へ抜けるトンネル入り口近くの農家の二階二間ふたまを、一夏借りたのであったが、何が月に五回のところも、海岸地方もクソもあるものか!
雷嫌いの話 (新字新仮名) / 橘外男(著)
入口で古風な呼鈴よびりんの紐を引くと、ひとりで戸があいた。狭い階段をいくつも上っていちばん高い所にB君の質素な家庭があった。二間ふたまだけの住居らしい。食堂兼応接間のようなところへ案内された。
異郷 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
折しも唾壺はひふき打つ音は、二間ふたまばかりを隔てて甚だ蕭索しめやかに聞えぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そこに、わずか二間ふたまの茶屋がある。小さい水屋が附いているのみで、青苔あおごけの匂うばかりふかい泉石に、銀杏いちょうの黄色な落葉が、かけひの下にたまっていた。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一昨日おとといの晩三人で来て前のうちは策で売らしてしまったから、笠阿弥陀堂かさあみだどうの横手に交遊庵こうゆうあんという庵室あんしつがありましょう、二間ふたまがあって、庭もちっとあり
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
近所きんじよには、六歳ろくさいかにをとこで、恐怖きようふあまくるつて、八疊はちでふ二間ふたまを、たてともはずよこともはず、くる/\駈𢌞かけまはつてまらないのがあるといた。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
家は腰高こしだか塗骨ぬりぼね障子を境にして居間いまと台所との二間ふたまのみなれど竹の濡縁ぬれえんそとにはささやかなる小庭ありと覚しく、手水鉢ちょうずばちのほとりより竹の板目はめにはつたをからませ
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
野々宮が此所こゝうつつてから、三四郎は二三度訪問した事がある。野々宮の部屋はひろい廊下をあたつて、二段ばかり真直まつすぐのぼると、左手ひだりてに離れた二間ふたまである。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
なんでも二間ふたまか三間ぐらいで、ちょっと小綺麗な家で、家賃は一円二十五銭どまりのを見付けようという注文だから、その時代でも少しむずかしかったに相違ない。
月の夜がたり (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
僕等のいるのは何もない庭へ葭簾よしず日除ひよけを差しかけた六畳二間ふたまの離れだった。庭には何もないと言っても、この海辺うみべに多い弘法麦こうぼうむぎだけはまばらに砂の上にを垂れていた。
海のほとり (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その階下の幾部屋かを工場に、階上の二間ふたまを主人夫婦の居室に充ててゐる。
医術の進歩 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
主人がと世に立ち交つてゐる頃に、別荘の真似事のやうな心持で立てた此小家は、只二間ふたまと台所とから成り立つてゐる。今据わつてゐるのは、東の方一面に海を見晴らした、六畳の居間である。
妄想 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
その床下へどうして彼様あんな広い座敷を建てましたか、二間ふたま程の大広間がございまして、夫圖書もおりますし、千島禮三と申す以前下役の者もおりまして
亭主のいう離れとはどこかと見まわしていると、飼蚕小屋しさんごやでもつくろわしたのであろう、ひどい板小屋を二間ふたまに仕切って、その一方に、誰やら寝ている者がある。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
先生は大方御食事中でもあったのか、私は取次の人に案内されたまましばらくの間唯一人この観潮楼の上に取残された。楼はたしか八畳に六畳の二間ふたまかと記憶している。
自分のへやはもと特等として二間ふたまつゞきに作られたのを病院の都合で一つづゝに分けたものだから、火鉢などの置いてある副室の方は、普通の壁が隣の境になつてゐるが
変な音 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
部屋は三畳と六畳との二間ふたまつづきで、六畳の突き当りは型のごとく欞子窓れんじまどになっていた。
半七捕物帳:31 張子の虎 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
二間ふたまを隔つる奥に伴いて、内儀は賊のもとむる百円を出だせり。白糸はまずこれを収めて
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
十分ばかりつたのち、僕は息を切らしながら、当時僕等の借りてゐた、宿やど離室はなれに帰つて来た。離室はたつた二間ふたましかない。だから見透みすかし同様なのだが、どこにも久米の姿は見えなかつた。
微笑 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
自分のへやはもと特等として二間ふたまつづきに作られたのを病院の都合で一つずつに分けたものだから、火鉢ひばちなどの置いてある副室の方は、普通の壁が隣の境になっているが
変な音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
藤田未亡人の家には六畳三畳二間ふたまつゞきの二階がある。久しい間死んだ主人の寝てゐた処であるが、その後は折々天気の好い時風を入れるだけで平素ふだんは明間になつてゐる。
来訪者 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そんな座敷があったとしても、それは僅かに二間ふたま三間みまで、特別の客を入れる用心に過ぎず、普通はみな八畳か六畳か四畳半の一室で、はなはだしきは三畳などという狭い部屋もある。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
中二階ちうにかい六疊ろくでふなかにはさんで、梯子段はしごだんわかれて二階にかい二間ふたま八疊はちでふ十疊じふでふ——ざつとこの間取まどりで、なかんづくその中二階ちうにかいあをすだれに、むらさきふさのしつとりした岐阜提灯ぎふぢやうちん淺葱あさぎにすくのに
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
が、八畳二間ふたま、六畳一間ひとま、四畳半二間、それに湯殿ゆどのや台所があつても、家賃は十八円を越えたことはなかつた。僕らはかういふ四畳半の一間にこの小さい長火鉢を据ゑ、太平無事たいへいぶじに暮らしてゐた。
身のまはり (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)