一声ひとこえ)” の例文
旧字:一聲
「うん、持っているとも」そういって大辻老はわきの下へ手をやったが、うわーッと一声ひとこえ、たちまちね上った。「岩の足型がないッ」
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
時間の関係からいえば、上野の鐘が十二時で、この鳥の一声ひとこえが三時だから、所謂いわゆる丑満刻うしみつこくというのでは無いが、どうもしかしおだやかで無い。
白い光と上野の鐘 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
と、一声ひとこえかければ、すぐ飛んで来て、戸も開けよう、手を取って、迎え上げもしよう。けれどこの身はいま、自分のものでない。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私は顔を空ざまにして、あらん限りの肺臓の力を以て、花火の様な一声ひとこえを上げた。胸と喉の筋肉が無限の様に伸びて、一点の様にちぢんだ。
火星の運河 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
うぐいすは、やまのやぶへかえるときに、一声ひとこえいい音色ねいろしてなきました。野原のはらも、もりも、木立こだちはもちろんのこと、その音色ねいろみみかたむけました。
春がくる前 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ガラガラとガラスの破片はへんのとびちる音が気味悪きみわるくひびいた。同時どうじにくるいたったくまは一声ひとこえ高くうなると、自分を目がけてとびかかってきた。
くまと車掌 (新字新仮名) / 木内高音(著)
一声ひとこえでほととぎすだとさとる。二声で好い声だと思うた」と再び床柱にりながら嬉しそうに云う。この髯男は杜鵑ほととぎすを生れて初めて聞いたと見える。
一夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
といいながら、おにが出てたので、「ひゃあ。」と一声ひとこえ、すっかりあおくなって、ぶるぶるふるえしてしまいました。
鬼六 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
妻はおれがためらう内に、何か一声ひとこえ叫ぶが早いか、たちまち藪の奥へ走り出した。盗人も咄嗟とっさに飛びかかったが、これはそでさえとらえなかったらしい。
藪の中 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
公園は森邃しんすいとして月色ますますくらく、夜はいまや全くその死寂に眠れるとき、谽谺こだまに響き、水に鳴りて、魂消たまぎ一声ひとこえ
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一声ひとこえするどい悲鳴ひめいをあげますと、そのまま、石のあいだにぱったりたおれて、じっと動かなくなってしまいました。
純綿の一声ひとこえに、寝ている踊子も起直おきなおって、一斉に品物のまわりに寄集よりあつまる騒ぎ。廊下を歩み過ぎる青年部の芸人の中には、前幕の化粧を洗いおとしたばかり。
勲章 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
とうのやれづかに手を掛けて此方こなたを振り向く処を、若侍は得たりと踏込みざま、えイと一声ひとこえ肩先を深くプッツリと切込む、斬られて孝藏はアッと叫び片膝を突く処をのしかゝり
老婆は一声ひとこえうなるような声を出して、蟇の足を左右に引いた。蟇の尻尾しっぽの処が二つに裂けてその血が裂口さけぐちつとうてコップの中へしたたり落ちたが、それが底へ微紅うすあかく生なましくたまった。
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
物哀ものかなしい日。田圃向うに飴屋あめやが吹く笛の一声ひとこえ長く響いて、はらわたにしみ入る様だ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
これ程の息苦しげな沈黙に、業腹ごうはら立てて一声ひとこえ搾らぬことがあらうか?……
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
今はあの一言ひとこと一声ひとこえがもう時機に後れている。
犬は一声ひとこえ鳴いて尾をふった。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
母親ははおやは、これもていました。そして、このとき、ねこのさきぬいたのであろうか、「ニャオ。」と、かなしそうに、一声ひとこえたかくなきました。
どこかに生きながら (新字新仮名) / 小川未明(著)
私の母の目をおとす時は、私は家内と二人で母をていたが、母の寝ている部屋の屋根のむねで、タッタ一声ひとこえ烏がカアと鳴いた。それが夜中の三時であった。
白い光と上野の鐘 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
大きなつばさで海面をたたいたかと思うまに、ギャーッと一声ひとこえ、すごい絶鳴ぜつめいをあげて、猛然もうぜんと高く飛び上がった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だれがなんといったって、世界中せかいじゅうでおれの威勢いせいにかなうものはあるまい。おれが一声ひとこえうなれば、十ほういえ地震じしんこって、鍋釜なべかまのこらずひびがいってしまう。
物のいわれ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
と鶴の一声ひとこえで、たちまち結構なお料理が出ました。水飴をすてると、お手飼てがい梅鉢うめばちという犬が来てぺろ/\皆甜めてしまいました。それなりにりますとお庭先がしんと致しました。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その内に猪首の若者は、とうとう大岩にせなされて、崩折くずおれるように砂へ膝をついた。その拍子ひょうしに彼の口からは、叫ぶともうめくとも形容出来ない、苦しそうな声が一声ひとこえあふれて来た。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その伯爵は、急に一声ひとこえうなると、岩のうえに腹ばったまま、筒型つつがたの望遠鏡をとりだして、目にあてた。そして前より熱心に、洞窟の多島海のまん中あたりを見つめているのであった。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
一声ひとこえくりかへすと、ハヤきこえずなりしが、やうやう心たしかにその声したるかたにたどりて、また坂ひとつおりて一つのぼり、こだかき所に立ちておろせば、あまり雑作ぞうさなしや、堂の瓦屋根かわらやね
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
こけこっこうとにわとりがまた一声ひとこえ鳴いた。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
こうおもいつくと、いざるは、かなしそうに一声ひとこえたかく、ともだちをあつめるべく、そらかってさけんだのです。
深山の秋 (新字新仮名) / 小川未明(著)
もなくふたに手がかかりました。そのひょうしに、しっぺい太郎たろうは、一声ひとこえ「わん。」とたかくほえて、いきなりふたを下からぽんとげて、そとへおどりしました。
しっぺい太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
かれのみか、丹羽昌仙にわしょうせん蚕婆かいこばばあ穴山あなやま残党ざんとう足助あすけ佐分利さぶりの二名、そのほかなみいる野武士のぶしたちまで、みな総立そうだちとなり、あさましや、歓楽かんらくの席は、ただ一声ひとこえで乱脈となった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし犬は目の下に温泉宿の屋根が見えると、一声ひとこえ嬉しそうにえたきり、もう一度もと来た熊笹くまざさの中へ姿を隠してしまったと云う。一行は皆この犬が来たのは神明しんめいの加護だと信じている。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
最前からの山冷やまびえにて手足も凍え、其の儘に打倒うちたおれましたが、女の一心、がばと起上り、一喝いっかつ叫んでドンと入れました手練しゅれん柔術やわら、一人の舁夫はウームと一声ひとこえ、倒れるはずみに其の場を逃出しました。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
(うむ、)といって長く呼吸いきを引いて一声ひとこえうなされたのは婦人おんなじゃ。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして、わたしが、一声ひとこえかけさえすれば、あのおじいさんのような、無骨ぶこつまでがはなくのですよ……。
風と木 からすときつね (新字新仮名) / 小川未明(著)
すっかりでちょうど百たびったとき、もうだんだんむしくようなこえでそれでもひいひいいっていたぼうさんは、きゅう一声ひとこえたかく「ひひん。」と、うまのいななくようなこえしました。
人馬 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
と、咲耶子さくやこのいるおかの上から、悲調ひちょうをおびた笛の一声ひとこえ高く聞えたかと思うと、いままでワラワラ逃げまどっていた野武士のぶしたちの影は、忽然こつねんとして、草むらのうちにかくれてしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
流石さすがに鶴の一声ひとこえで早四郎も黙ってしまいました。此の甲州屋には始終きまった奉公人と申す者は居りません、其の晩の都合によって、客が多ければ村の婆さんだの、宿外しゅくはずれの女などを雇います。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
一声ひとこえ、時彦は、うつし沈める音調もて、枕も上げで名を呼びぬ。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「さようなら。」と一声ひとこえいいのこして、小鳥ことりかげは、いずこへともなくってしまいました。
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
こういいながら、獅子ししはおなかにちかられて、一声ひとこえ「うう。」とうなりはじめました。
物のいわれ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
一声ひとこえ一生懸命の声を出して無茶苦茶に切込んで来る。続いてお繼が
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
すると獅子ししは、こんどこそ、ほんとうに体中からだじゅう逆立さかだてておこって、ちからいっぱい意気張いきばって、一声ひとこえ「うう。」とうなりますと、あんまりりきんだひょうしに、くびがすぽんとけてしまいました。
物のいわれ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
いえうちでは、なんだか大騒おおさわぎをするようなようすでありましたから、まごまごしていてらえられてはつまらないとおもいましたので、一声ひとこえたかくないて、遠方えんぽうえる、こんもりとした森影もりかげあてに
めくら星 (新字新仮名) / 小川未明(著)
と云う一声ひとこえで息は絶えました。新吉は鎌を持ったなり
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
もずは、一声ひとこえたかいて、すぎのいただきまりました。
もずとすぎの木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
と申している処へ一声ひとこえ高く、玄関にて
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)