のこぎり)” の例文
国手こくしゅと立花画師との他は、皆人足で、食糧を持つ他には、道開き或いは熊けの為に、手斧ておののこぎりかまなどを持っているのであった。
壁の眼の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
指さす所へ行くと、いつの間にか、そこの草むらの中には斧だののこぎりだのまた、農具などだけが、炎をかけずに、取り残されてあった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
然るに自分は、の鬼のような、けものの頭のような、又は異形ののこぎりのようなヘアピンを見ると、ゾッとするのを禁ずる事が出来ない。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
なんぼ山鳥やまどりのおろのかゞみで、頤髯あごひげでたところで、えだで、のこぎり使つかひ/\、さるあしならんだしりを、したからせてはつこちねえ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
赤黒い棍棒こんぼうの様なものであった。その棍棒の尖端せんたんがパックリ二つに割れて、内側にギザギザしたのこぎりの歯みたいなものがついていた。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ソコデ江戸に這入はいったとき、今思えば芝の田町たまち、処も覚えて居る、江戸に這入て往来の右側の家で、小僧がのこぎりやすりの目をたたいて居る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
この戦車は、頭のところが、例のロータリー除雪車に似た廻転のこぎりになっていて、そのうしろに、車体があり、後方は流線型りゅうせんがたになっていた。
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼は固まった池を切り、のこぎりで引き、魚の家の屋根を取はずし、まさしくかれらの要素であり空気であるものを車ではこんで往ってしまう。
屯所とんしょの小屋はテントがわりに、文字通り一夜の露をしのげば足りた。鍬やのこぎりやホソなどを外気にさらさせないためのものであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
八つ裂きか、のこぎり引きにでもして殺してやりてえくれえだ、いつかおれの手で、きっとそうしてやりてえと思ってるんだぞ、政、聞いてるのか
あすなろう (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
こののこぎりなんなくれる家尻やじりを五つましたし、角兵ヱかくべえ角兵ヱかくべえでまた、足駄あしだばきでえられるへいを五つました。
花のき村と盗人たち (新字新仮名) / 新美南吉(著)
第二中学の模様など聞いているうち船員が出帆旗を下ろしに来た。そまらしき男が艫へ大きなのこぎりや何かを置いたので窮屈だ。
高知がえり (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
入れ、そしてのこぎりを腰にはさんでいて用意がいいわね。何処でも足がさわれば屋根の上までも、登って行けるのね、おじさまは登れないでしょう。
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
のこぎりや、かんなや斧や槌などで、木を伐ったり板を削ったり、釘を打ったりして建築をしている、ノンキな物音が聞こえて来た。
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかし立木を伐るとなれば、大抵はのこぎりを用ゐるので鉈を用ゐることは殆どない。鉈で伐れるやうな木ならば、極めて小さい立木と見ねばならぬ。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
裕佐は、しかしそののこぎりびきを見たわけではなかった。役人がその大きな竹の鋸を持って現われた時、彼はもうすでにひどい脳貧血を起こしていた。
人のすむあたりの雪は自然しぜんにきゆるをまたずして家毎いへごとに雪を取捨とりすつるに、あるひは雪を籠にいれてすつるもあり、あるひはのこぎりにて雪を挽割ひきわりてすてもし
するのう。うちに、のこぎりで柱をゴシゴシ引いて、なわかけてエンヤサエンヤサと引張り、それで片っぱしからめいで行くのだから、かわらも何もわや苦茶じゃ
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
肩巾かたはばの広い監督のあとから、のこぎりの柄を腰にさして、カンナを持った小柄な大工が、びっこでも引いているような危い足取りで、甲板を渡って行った。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
解剖臺のテーブルの上には、アルコールの瓶だの石炭酸の瓶だの、ピンセットだののこぎりだのはさみだのメスだの、全て解剖に必要な器械や藥品が並べてある。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
その計画はズット前からたくらまれていて、両室共に牢の格子が鋭利なるのこぎりの類でき切られていたのを、飯粒で塗りつぶして隠しておいたということ。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「物のはずみでございましょう、下にのこぎりの歯のようになった処がございまして、その上へ落ちたものでございますから」
海神に祈る (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
泥棒の入つたのは、南の縁側、僅かばかりの隙からのこぎりを入れて、かなり大きい穴を二つまで開けた上、輪鍵わかぎさんも易々と外したことはよくわかります。
もつとひろく行はるるは摩擦發火法まさつはつくわはうなるが是に又一へんの木切れに他の木切れをててのこぎりの如くに運動うんどうさする仕方しかたも有り
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
もんの前にはの七兵衛老爺じじいが、銀杏いちょうの黄なる落葉をいていた。横手の材木置場には、焚火の煙が白く渦巻いて、のこぎりの音にまじる職人の笑い声も聞えた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それは外科手術用ののこぎりや、メスや、消毒剤などだ。メスを握り、白衣びゃくえの腕をまくり、大男の屍骸に居ざりよって
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
恐ろしい音がして倒れて行きましたっけ。あの大きなのこぎりおので柱をる音は、今だにわたしの耳についています。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そこでハンニバルはこの大きな岩へをかけて火をいて、柔かにしておいて、それからのこぎりでこの大岩を蒲鉾かまぼこのように切ってとどこおりなく通行をしたそうだ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
六十歳になる高利貸を殺した三十二歳の大工は、高利貸の頭蓋骨がのこぎりで引き割られるとき、私の手にすがって
三つの痣 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
のこぎり手斧ちょうなとマッチが食料品と同様に雪の山では必需品であることを実例で教えてくれたのはこの老人であった。
のこぎりの歯のようになったうえ、飴ン棒のように曲ってしまったので、敵方の刀をぶんどって奮戦したという、豪の者であることは、伝説的にすらなっている。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
多木の家の山中の温泉は殆ど歯朶しだ類の中に埋れているといっても良いほど、山は一面にのこぎりの歯のように鋭い青葉でもって満ちていて、足で踏む苔の下からは
馬車 (新字新仮名) / 横光利一(著)
こはれたすゞりのはしをのこぎりつきつて、それを小さな小判形(印章屋では二分小判と称する)に石ですりまろめて、恰好かつかうをとゝのへたが、刻るのは造作ざうさなかつた。
老残 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
幹にのこぎりを入れてゴリ/\やる度び、それにつれてこずえの方で落ち残つてゐる紅葉した葉がカサ/\と鳴つた。
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
私どもはその台風がすっかりおそってこないうちに帆索ほづなをゆるめておきましたが、最初の一吹きで、二本のマストのこぎりでひき切ったように折れて海へとばされました。
それから、それ/″\両方の頭をのこぎりでひいて、二つに分けます。こうして切り取った半分の頭を、それ/″\取り換えっこして、反対派の頭にくっつけるのです。
それで、足の鉄鎖をき割り得た時、最初の考えは、今や踊り得るということである。そしてのこぎりを bastringue(居酒屋の一種の踊り)と呼んでいる。
木にのぼって、のこぎりをひきながら、次郎は、たえす、恭一にあてて書いた手紙のことばかり考えていた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
製板所の構内だといふことはもくもくした新らしい鋸屑おがくづが敷かれ、のこぎりの音が気まぐれにそこを飛んでゐたのでわかりました。鋸屑には日が照って恰度ちゃうど砂のやうでした。
イギリス海岸 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
若い者は、のこぎりのみ、棒を持って、走り出した。近所の若い者が、それについて、同じように走った。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
自分の生活が自分の手によって最も直接に支えられていることの意識——その敷地に自分が一杙ひとくい打込んだ家に住み、自分がのこぎりをもって其の製造の手伝をした椅子に掛け
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
んでも暮方の天気が非常に寒かった。西の空の、黄色い雲はいつしか消えて、のこぎりの歯のようにぎくぎくした形をした山々は地球の上にしがみついて黒くなって見えた。
北の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
柳の丸材へ横に半分のこぎりを入れて上からぽんぽんと二つ三つのみでこなし、その後ろへ削りかけのもじゃもじゃを作り、脳天を墨でぬり、眼玉を描き、ぐるりと紅でくび
木彫ウソを作った時 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
なたという長方形の巌丈な柄の付いた刃物と、手頃なのこぎりを携えて、白い息を悠々と吐き乍ら、幹は鋸にかけ、枝は鉈で叩いて、この山城屋の一年中の燃料に当つべき雑木を
かやの生立 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
漸次仕事が広げられ、のこぎりはさみ金鎚かなづちに及び、更に栄えるにつれて機械を入れ、ナイフ、フォークの類にも及び、盛に中央の都市のもとめに応じ大きな産業へと発展しました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
かれみなみいへからりたのこぎり大小だいせう燒木杙やけぼつくひ挽切ひつきつた。しまひかれうしろからけたたけつてのやうによこたへてひくゆかつくつた。たけつたなたかれ所有ものではなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それに神経が非常に鋭敏になりまして、工場の男がのこぎりで氷を切っていると、その音を聞くと自分の体を鋸で切られるようだと云って、急いで逃出したこともあるぐらいです。
凍るアラベスク (新字新仮名) / 妹尾アキ夫(著)
これなるは、安房あわの国はのこぎり山に年ひさしく棲みなして作物を害し人畜をおびやかしたる大蛇おろち
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
私たちはその半島の或る驛で下り、そこから一里ばかり海岸に沿うた道を歩いた後、のこぎりのやうな形をした山にいだかれた、或る小さな漁村に到着した。宿屋はもの悲しかつた。
燃ゆる頬 (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
りゅうなら竜、とらなら虎の木彫をする。殿様とのさま御前ごぜんに出て、のこぎり手斧ちょうなのみ、小刀を使ってだんだんとその形をきざいだす。次第に形がおよそ分明になって来る。その間には失敗は無い。
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)