つれ)” の例文
畜生、巫山戯ふざけている。私は……一昨々年——家内をなくしたのでございますが、つれがそれだったらこういうめた口は利きますまい。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すぐ次の狩に出た時には、彼はほとんどおとなになりきった若い熊を殺し、またその次には大きな雄熊おすぐまとそのつれ雌熊めすぐまとを殺しました。
負けない少年 (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
田の草をとる時にも、峠を越す時にも、この帽子はおれのつれだったが、今は別れる時だ。留吉は、帽子をすててしまおうと決心しました。
都の眼 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
三吉が着いて三日目にあたる頃、つれの直樹は親戚の家へ遊びに行った。その日は午後から達雄も仕事を休んで、奥座敷の方に居た。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そういう声のもとに、大入道のような五十がらみの肥満漢が、ゼイゼイ息を切りながら姿を現わした。——どうやら二人はつれらしい。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
丈「おや/\清水の息子さんか、此間こないだは折角おでだったが、取込とりこんでいて失敬を云って済みません、何かえ清次さんのおつれかえ」
野々宮さんが立つと共に、美禰子のうしろにゐたよし子の姿すがたも見えた。三四郎は此三人のほかに、まだつれが居るか居ないかをたしかめやうとした。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
もむ折柄をりからに近邊の人々も驚きて何故傳吉殿は召捕めしとられしと種々評議ひやうぎおよびやがてて女房おせんをつれ組頭百姓代共打揃うちそろひ高田の役所へ罷り出御慈悲じひ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
肉いろの、緑の、桃いろの、パラソルを畳んで、水際にうずくまった浴衣ゆかたの女学生らしいのが二、三人、これらは私たちのつれではない。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
薬草道人とそのつれは、名古屋の城中にとどまっている。山影宗三郎一党は、蝮酒屋に籠もっている。島津太郎丸は海上にある。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
福助は物珍しさうに窓に顔を押しつけて、夜目よめに気味悪く光る水のおもを眺めてゐたが、ひよいとつれの男を振かへつたと思ふと
帰国するに一人のつれはなきかと言へばわれも共に帰らん今二、三日がほど待てよといふは松枝某なり。さらばとてここにまた幾日をくらしつ。
従軍紀事 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
お花というつれのある時はそうでもなかったが、自分一人のおりには、お島は大人同志からは、全然まるでけものにされていなければならなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
矢頃やごろあまりに近かりしかば、銃をすてて熊にかかえつき雪の上をころびて、谷へ下る。つれの男これを救わんと思えども力及ばず。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
かれ毎日まいにちのやうにおつぎをつれて、唐鍬たうぐはおこしたつちかたまり萬能まんのうたゝいてはほぐして平坦たひらにならさせつゝあつたのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
もはやこらえられんで二郎は泣出そうとした時に、先刻さっきのみすぼらしい乞食が現われて、私がおうちつれて行ってあげましょう。
迷い路 (新字新仮名) / 小川未明(著)
残り五人は浦人なり、後れて乗りこみし若者二人のほかの三人みたりとしより夫婦とつれ小児こどもなり。人々は町のことのみ語りあえり。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
その頃、ともつれもない美貌の湯治客があらわれた。二十七八であらう。ちよつと都会風で、明るくかつ健康さうだつた。
山の貴婦人 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
この際、阿呆気あほげな事を云っとられますまい。わしのつれは今釣に行って舟がなし、あなたの息子さんの舟は御家来共が番を
二人が外套をとると、そこに現れたのは繻子しゆすや寶石で——無論私の贈り物ですが——まばゆいばかりのヴァレンと、將校服の彼女のつれの姿でした。
それから隣のつれを顧み、気味悪さうに目を見合せ、急にすつかり黙つてしまつた。私はテレかくしにニヤニヤ笑つた。
田舎の時計他十二篇 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
好まざれど唯故郷に帰る嬉さにて其言葉に従いしなりやがつれられて長崎に来り見れば其弟の金起と云えるは初め妾が長崎の廓にて勤めせしころ馴染を
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
しかし二三日前にった時、あなたにはわたくしから話をして見て、来られるようなら、おつれ申すかも知れないと、勝兵衛しょうべえさんにことわってあります。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
折ふしおひざの上へ乗せておつれになる若殿さま、これがまた見事に可愛かあいい坊様なのを、ろくろくお愛しもなさらない塩梅あんばい、なぜだろうと子供心にも思いました。
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
ところが兄は、同行の上官石黒氏を始め、その外にもつれがあって、陸軍省から差廻しの馬車ですぐにお役所へ行かれましたので、出迎えは不用になりました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
それを見て、つれの一人がぐっとお千代を引寄せて同じように手を入れかけたが、「何だ、こいつは。いやに用心していやがる。」と言ってわきの方へ突き退けた。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
し手にして居る羽扇が無かったら、武装して居る天使の図そっくりだ。彼女の面長で下ぶくれの子供顔は、むしろ服装に負けて居る。つれの男は年老としとった美男だ。
ドーヴィル物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
白樺しらかばの茂った谷の底から、何者か高い声で「面白いぞう」とよばわる者がある、薄月夜うすづきよつれも大勢あったが、一同ことごとく色を失って逃げ帰った、という話が出て来る。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
備中つれ島の名家で豪農で豪商だった三宅定太郎みやけじょうたろうとは安政三年春以来兄弟盃の間柄、等々といったふう。
志士と経済 (新字新仮名) / 服部之総(著)
「身延の道者どうじゃならば講中こうじゅうとかつれとかいうものがありそうなもの、一人で出て歩くというはしからん」
十吉 (おど/\する。)今この境内でつれにはぐれ、うろ/\探してゐるうちに、向うにばかり氣をとられて、つい粗相をしましたが、どうぞ勘辨してくださいまし。
箕輪の心中 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
つれみつ折合ずそれがため志しばかりでのみ長旅はせず繪圖の上へよだれを垂して日を送りしが今度其の三ツ備はりたればいでや時を失ふべからず先づ木曾名所を探り西京さいきやう大坂を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
今妾のつれが来るほどに、いま少時しばらく此処に止まり候へ。妾一人にては物おそろしや。こはや。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
此方こっち流石さすがに生理学者で、動物を殺すに窒塞ちっそくさせればけはないと云うことをしって居る。幸いその牛屋は河岸端かしばたであるから、其処そこつれいって四足をしばって水に突込つっこぐ殺した。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そのころは山中にてたまさかに見たるものもあり、一人にてもつれある時はかたちを見せずとぞ。
それから無理に訳も聞かせず此処ここまでつれて来たなれば定めし驚いたでもあろうが少しも恐るゝ事はなし、亀屋の方は又々田原をやって始末する程に是からは岩沼子爵の立派な娘
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
埠頭に沿うて二人がしばらくの道を歩いてゆく間も、彼は実に面白いつれになってくれた。
「あなたは一人で旅行していたのですか、ロリー氏、それとも誰かつれがありましたか?」
同伴の書生達は、別間に酒肴しゅこうの用意が出来ているというので、その方へつれられて行った。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
つれなる騎者馬さし寄せて、夜は明けんとす、客人の目疾めやみせられぬ用心に、涼傘ひがささゝせ申さんと、大なる布を頭より被せ、頸のまはりに結びたれば、それより方角だにわきまへられず。
ひそかに部屋の戸を開きて外にいづれば悽惻せいそくとして情人未だ去らず、泣いて遠国につれよとくどく時に、清十郎は親方のなさけにしがらまれて得いらへず、然るを女の狂愛の甚しきにかされて
「歌念仏」を読みて (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
中の条町にて昼食ちゅうじき。掛茶屋に腰を下ろしている間に、前の通りで五十ばかりになる田舎者と馬車の馭者ぎょしゃとが押問答をしている。田舎者のつれらしい三十位の女が子を抱いてそばに立っていた。
学校から家へ帰る途中、少しの間田圃たんぼの中の道を通るのでありますが、私はそこで、下駄の鼻緒を切つてしまひました。つれはないし、どうしたらよいだらうかと、しばらくたたずんでゐました。
時男さんのこと (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
文章の続柄つゞきがらさうよりほかには取れぬ、で、吉原の景気を叙するあたりにも大分珍聞もあるが、それは省略して、此通信員つれの独逸人とトある格子かうし先に立つた……とは書いてないが、立つたに違ひない。
露都雑記 (新字旧仮名) / 二葉亭四迷(著)
それから大きい窓ガラスを越して、向い側に見えるビルディングのどっさり並んだ窓々や、ずっと彼方の、何をしているのか彼女は知っていない彼女の娘とその二人のつれの上にも懸っている薄青い空。
道づれ (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
向山むかやまのむら立つ杉生すぎふときをりに鴉のつれの飛びゆくところ
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
「みんなしてうなのごと送てぐど。そいづぁなぁ、うな立派になってどごさが行ぐ時ぁみんなして送ってぐづごとさ。みんないゝごとばがりだ。泣ぐな。な、泣ぐな。春になったら盛岡祭見さつれでぐはんて泣ぐな。な。」
ひかりの素足 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
心配げなわたしは、いつもおつれになっています。
そして二人のつれと共に東京へ出た。
つかさんに つれられて
青い眼の人形 (新字新仮名) / 野口雨情(著)