)” の例文
広い清らかなへやがあって酒や肴がかまえてあった。室の隅には四十前後の貴婦人が腰をかけていた。貴婦人は崔を見るとってきた。
崔書生 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
晴々した声がひびきわたると、麦畑の処々からぽつぽつちあがった作男等は、皆んな木蔭に集まって来て、やがて昼食ちゅうじきをはじめた。
麦畑 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
幸いに咯血は五回で止みまして、その後の経過も順調に進み、凡そ一ヶ月半の静養で再びって働くことが出来るようになりました。
人工心臓 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
大鷲おおとり神社の傍の田甫の白鷺しらさぎが、一羽ち二羽起ち三羽立つと、明日のとりまちの売場に新らしく掛けた小屋から二三にんの人が現われた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
泣々なく/\ずっとって来ますと、先刻せんこくから此の様子を聞いていまして、気の毒になったか、娘のおいさが紙へ三円包んで持ってまいり
「お気がつきましたか。——さっさっ、私の肩につかまっておちなさい。今逃げた兵が、徐栄の軍を呼んでくるに違いありません」
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御米は特別の挨拶あいさつもしなかった。小六はそのままって六畳へ這入はいったが、やがて火が消えたと云って、火鉢をかかえてまた出て来た。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
碑文に「辛未、宣教判官ニ拝ス。既ニシテマタ権大法官、五等判事ニ歴任ス。官廃セラレテム。マタツテ司法少書記官トル。」
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ちかける葉子は彼の体に寄って来た。別れのキスでもしようとするように。庸三はあわてて両手でそれをさえぎりながら身をひいた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
南天なんてんつもっている雪がばらばらと落ちた。忠一はって縁側の障子を明けると、外の物音は止んだ。忠一は続いて雨戸を明けた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
少時しばらくすると乳母やさんは達也様を小さい寝台の上にねかしつけ、ツト、って廊下へ出ました、たぶんご不浄へでも行ったのでしょう。
美人鷹匠 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
背後うしろからお才を呼んで、前垂まえだれの端はきりりとしながら、つまなまめく白い素足で、畳触たたみざわりを、ちと荒く、ふいと座をったものである。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
顔も手も墨だらけな、八つと七つとの重蔵しげぞう松三郎が重なりあってお辞儀じぎをする。二人はちさまに同じように帽子をほうりつけて
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
そんなことを思うと、身をられるような悩ましさに胸の動悸が躍って、ほとんどいてもってもいられないほど女のことが思われる。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
一番先に蜂屋文太郎がち上りました。その後へ十一人の同勢、ぞろぞろ付いて行くと、道はうねりくねって城の裏手の山際へ出ます。
古城の真昼 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「甚五郎は怜悧れいりな若者で、武芸にもけているそうな。手に合うなら、甘利あまりを討たせい」こう言い放ったまま、家康は座をった。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
傍にいる壮太をたせた「是は僕の為に、いつも身命を賭して尽してくれる友、拳骨メリケン壮太君です。今度の事件でも第一の功労者です‼」
骸骨島の大冒険 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
癩人島の俗譚に十のひなもてる牝鶏が雛をつれて食を求め、ギギンボ(自然薯の一種)を見付けるとその薯根ち出て一雛を食うた。
例えば『浮草うきくさ』の如き丁度関節炎を憂いて足腰あしこしたないでていた最中で、病床に腹這はらんばいになって病苦と闘いながらポツポツ訳し
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
と読み上げた瞬間、ジャアク先生は、憤然としてち上がり、こう怒鳴どなりました——「早く席に着いて! なにぐずぐずしとる!」
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
しかるに少し気の小さな人が、自分のことをうわさされ、あるいは新聞雑誌に悪く掲げらるれば、再びあたわざる窮地におちいるごとくなげく。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「首じゃ、首じゃ、首じゃア……一番首、二番首、三番首と十七の首じゃア!」突如とつじょち上った神尾喬之助、晴ればれと哄笑こうしょうして
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
和尚の眉が虫のやうに動いたと思ふと、ふいとち上つて帰つて往つた。そしてそれからといふもの一度も鉄斎翁を訪ねようとしない。
よもやつまいと言われた西郷隆盛さいごうたかもりのような人までがたって、一万五千人からの血気にはやる子弟と運命を共にするようになった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
食堂のドアの開くのが聞えて、男が一人出て來た。急いでち上ると、私は彼と面と向ひ合つてゐた。それはロチスター氏であつた。
ボルシェビキ党は工場委員会、ソヴェト、その他の団体のうちへ、「すべての権力をソヴェトへ」のスローガンを掲げてった。
「自然主義とは何ぞや? その中心はどこにありや?」かく我々が問を発する時、彼らのうち一人でもってそれに答えうる者があるか。
あの人は、やはりいつものように手紙を読みおわってから、ゆっくり煙草たばこをふかした。だが五分間ほどすると急にち上がった。
陪審官のある者は好奇心にかられて、それをよく見定めようとしてちかかったのもあったが、彼らはたちまちに顔をそむけてしまった。
ちて野に出で、種播く人を見よ。そしてイエス様のあのすばらしい種播きの譬話を思い出せ。我らも種を育て給う生ける神を信じよう。
感傷の場合、私はすわって眺めている、ってそこまで動いてゆくのではない。いな、私はほんとには眺めてさえいないであろう。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
もぬけのからなりアナヤとばかりかへして枕元まくらもと行燈あんどん有明ありあけのかげふつとえて乳母うばなみだこゑあわたゞしくぢやうさまがぢやうさまが。
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
やがて食卓から立って妻児が下りて来た頃は、北天の一隅に埋伏まいふくし居た彼濃い紺靛色インジゴーいろの雲が、倏忽たちまちの中にむら/\とった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
いかにも爽々さは/\した、一刻千金といふ言葉がふつと頭に浮ぶやうな夕暮である。遠くの賄部屋まかなひべやでは、夕食の用意の皿の音を勢よくててゐる。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
して圧制者に反抗してたしめるのは此の憎悪である。私は或る男が他の人々を圧制しているのを見れば、私は其の事を憤慨する。其の男を
すぐに顔を見ないと、つても坐つてもゐられない。日比谷と聞いて飛んで来た。すると、女房の奴が、こんなところで……。
職業(教訓劇) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
いま彼女かのぢよかほをごりと得意とくいかげえて、ある不快ふくわいおものために苦々にが/\しくひだりほゝ痙攣けいれんおこしてゐる。彼女かのぢよつてく。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
私はすぐってそこの廊下の雨戸を一枚けて、立って待っておると戸外おもておぼろの夜で庭のおもにはもう薄雪の一面に降っていた。
雪の透く袖 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
「オー!」と、僕はちあがって、はなはだ不格好に両腕をひろげながら叫んだ。「私はあなたが私のものでありしことを天に祈ります!」
臨むに諸侯の威をもってし招くに春岳の才をもってし、しこうして一曙覧をして破屋竹笋ちくしゅんの間よりたしむるあたわざりしもの何がゆえぞ。
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
と言ひかけしが、ちて、椽側の上に釣れる竿架棚さおだなの上なる袋より、六尺程の竿一本をき取り来りて、之を振り廻しながら
元日の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
重ね重ねの不思議に姫は全く狐につままれた形で、ぼんやりと突立って見ていると、その内に又もや風が一しきり渦巻うずまって
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
そういう悲嘆に圧倒された魂は、痛ましい努力をもってしだいにち上がって、自分の苦しみを供物くもつとして神へささげていた。
私はふくつらをして容易にたない。すると、最終しまいには渋々会いはするが、後で金をもってかれたといって、三日も沸々ぶつぶつ言ってる。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
積年の病ついに医するあたわず、末子ばっし千秋ちあき出生しゅっしょうと同時に、人事不省におちいりて終にたず、三十六歳を一期いちごとして、そのままながの別れとなりぬ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
またたとへば喜ぶ處女をとめが、その短處おちどの爲ならず、たゞ新婦はなよめの祝ひのために、ち、行き、踊りに加はるごとく 一〇三—一〇五
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
はや足音は次の間にきたりぬ。母はあわてて出迎にてば、一足遅れに紙門ふすまは外より開れてあるじ直行の高く幅たきからだ岸然のつそりとお峯の肩越かたごしあらはれぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
私学校の変に次いで、西郷つとの報が東京に達すると、政府皆色を失った。大久保利通は、悒鬱ゆううつの余り、終夜ねむる事が出来なかったと云う。
田原坂合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
杯がしげくまわりはじめると、座に一人の老人がって大きな声で、『二十年振りで会う木村義雄君にご挨拶を申しあげる』
淡紫裳 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
わが国の存亡そんぼうの決まる日がすぐそこに見えているために、これが最後のチャンスとふるって立ったのだ。どうぞあわれみたまえ