つい)” の例文
夫人や園子が自分事のようにおしもを世話しているのも不快なことだったし、何にもまして、無駄なついえが気にいらないのだった。
女心拾遺 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
このはなしが、わずか、三分間ぷんかんか、五分間ふんかんにしかぎなかったけれど、二人ふたりには、たいへんになが時間じかんついやしたごとくおもわれました。
戦友 (新字新仮名) / 小川未明(著)
彼は最後の八年を神戸でついやしたあと、その間に買っておいた京都の地面へ、新らしい普請ふしんをして、二年前にとうとうそこへ引き移った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼が、一年中の托鉢たくはつに得た浄財は、ほとんど、自分が樹下石上の生活につかう極く微少なついえのほかは、みなこの米問屋へ送っていた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あるだけの金は自分ひとりのもので、子供らに使われるのはこのうえもない損だというふうに、そのほうのついえには青銭一枚出さなかった。
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そういう危険きけんをおかしたくはなかった。獣医をたのむことはよけいなついえではあろうけれど、どうもほかにしかたがなかった。
「くどいわッ、くやしくば将軍家手札でも持って参らッしゃいッ。もう貴公なぞと相手するのも役儀のついえじゃッ。おととい来るといいわッ」
それを粉にはたき、または蒸し上げて、餅や強飯こわめしを調整するのには、男が参与するようになってからでも、なおなかなかの時間のついえがあった。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
見す見す余命いくばくもないのが解っていながらんな高価な辞書を買うでもあるまいと、それといわずに無益のついえをさせたくないと思っていうと
思うにこの一句、これを各戸の食堂の壁に題することを得ば、恐らく天下無用のついえを節する少なからざるべし。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
学塾に入りて修業するには一年のついえ百円に過ぎず、三年の間に三百円の元入れを卸し、すなわち一月に五、七十円の利益を得るは、洋学生の商売なり。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
まして今は非常のときでございます、ひともわれも、できるだけついえをきりつめ、あらゆるものを捧げて王政復古の大業のお役にたてなければなりません。
日本婦道記:尾花川 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
……菜大根、茄子なすびなどは料理に醤油したじついえ、だという倹約で、ねぶかにら大蒜にんにく辣薤らっきょうと申す五うんたぐいを、空地あきち中に、植え込んで、塩で弁ずるのでございまして。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
どの位ことわってもそれをいわなければ何遍も出て来てこちらの時間がついえて誠に困るから、まずどっちとも付かぬような返事をしてやるとそれで満足して帰る
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
庄内しょうないには産物が多い。ここと鶴岡とで私たちは旅を結ぶことに決めた。町々を探るには人力車に限る。自動車は眺めを粗末にする。歩いては不案内で時がついえる。
思い出す職人 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
半年の月日をついやして根気よく多四郎が造ったもので、今、その道を上の方から二人の男が下りて来る。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ガスの不経済ばかりでなく、湯わかしがいたむばかりでなく、手間もそれだけついえるわけになります。
女中訓 (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
しかるに、幕府は間もなく喫煙をもって無益のついえとなし、失火の原因となり、煙草の植附けは田畑を荒すなど種々の弊害あるものとして、これを禁止するに至った。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
このうえなき満足まんぞくもっ書見しょけんふけるのである、かれ月給げっきゅう受取うけとると半分はんぶん書物しょもつうのについやす、その六りているへやの三つには、書物しょもつ古雑誌ふるざっしとでほとんどうずまっている。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
食い雑用をさし引いて、人間一匹を生かして置くついえというものは生やさしいものじゃねえんだ。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ドイツ見物に数週間ベルリンについやしたことがあったが、その際ある文士に会って、四方山よもやまの文談を聞いたときに、話がゲーテとシラーに移って、両氏の性格および文才と
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
學海居士ガクカイコジ批評ひゝようたいして無用むようべんついやさんとするものにあらず、みぎきたるは、居士コジ批評法ひゝやうほふ如何いか儒教的じゆけふてきなるや、いかに勸善懲惡的くわんぜんてふあくてきなるやをしめさんとしたるのみ
「罪と罰」の殺人罪 (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
皆が、八十の祝いを、来年の正月早々しようと云ってくれるが、無駄なついえだと云った。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
その公方さま花の御所の御造営にはいらかに珠玉を飾り金銀をちりばめ、そのついえ六十万さしと申し伝えておりますし、また義政公御母君御台所みだいどころの住まいなされる高倉の御所の腰障子こししょうじ
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
で、私がそれを買い取って、面倒やついえを無くして差しあげようと言ってるんですよ。
仏参の帰りに乞食をみて、夫婦はいくらかのぜにを恵んでやろうとしたのではない。今度の忠義の代になってから、乞食に物を恵むことを禁じられていた。乞食などは国土のついえである。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
なかなかついえのある事を思わず、またそうした苦悩をしのんでも、志した道に精進して、婦人の覚醒かくせいに力をつくされる、社会的な、広義な愛を——新人の味わう悲痛を知ろうとしないのに
平塚明子(らいてう) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そうして恐らく彼らの労働能力の全部をついやさなくてもすむものである。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
この日は翻訳のしろに、旅費さえ添えて賜りしを持て帰りて、翻訳の代をばエリスに預けつ。これにて魯西亜ロシヤより帰りんまでのついえをば支えつべし。彼は医者に見せしに常ならぬ身なりという。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
無駄むだついえが懸るのを恐れたのであろうと、幸子は察していた。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
猿田彦の子孫鷺坂伴内の後裔と議論したって真のことばついえじゃ。
かんがぶかい、また臆病おくびょうひとたちは、たとえその準備じゅんび幾年いくねんついやされても十ぶん用意よういをしてから、とお幸福こうふくしまわたることを相談そうだんしました。
明るき世界へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
答えは、唇の端にゆがめた微笑を以てした。低い一声、静かな呼吸の一つも、もういたずらについやすことはできないものになっている。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あいつどこへもふみをやる所がないものだから、やむを得ず姉とおれに対してだけ、時間をついやして音信たよりおこたらないんだと、腹の中で云うでしょう。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「それではどういう訳で多くの金をついやしてチベットに入りまたこのネパール国に来られたか。」
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
家をぜひとも萱葺かやぶきにしておりたい人は、自分の持地もちじのなかに生やして置けばよいのだが、それをすることは大へんな地面のついえだから、やはり多くの仲間のユイによって
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
医薬のついえだけでも分に過ぎた重荷だった、それで僅かでもその費えを助けようと、伊緒は夜仕事に紙漉かみすきのわざをならい、凍てる夜な夜な、水槽すいそうの氷を破ってしごとをはげんだ。
日本婦道記:春三たび (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その公方さま花の御所の御造営にはいらかに珠玉を飾り金銀をちりばめ、そのついえ六十万さしと申し伝へてをりますし、また義政公御母君御台所みだいどころの住まひなされる高倉の御所の腰障子こししょうじ
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
或いは木曾街道を選ぼうかと、道中記と首ッ引きの結果、距離と日数に多少のついえはあるが、変化の面白味からいって、木曾街道を取り、途中から名古屋へ廻るということに決定しました。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
取っているそうだが、随分無駄な話で、国のついえではないか
教育の目的 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
なにさなにさそれには及ばぬ。新しく仕立てればそれだけついえ、無駄な費用はかけない方がよろしい。そうまで私はこだわらないよ。ありあわせの絹物で結構だ。だがその代りモカさん達にも、同じ絹布の夜具を
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「早速でございますが、荷になる手土産は、お山の事とて、持っても伺えませんので、ぶしつけながら、社殿のご修繕のついえの端にでも」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
代助は其九時頃平岡のいへした。するまへ、自分の紙入かみいれなかるものをして、三千代にわたした。其時は、はらなかで多少の工夫くふうついやした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
また、電気でんきが、にぎやかな街々まちまちにつくのも、てんでのうちにきたのも、そこには、たくさんなひとたちの労力ろうりょくとそれについやされた日数にっすうがあったことをかんがえなければなりません。
子供と馬の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
四条五条の橋の上にて大施餓鬼せがき執行しゅぎょうせしめられましたところ、公儀よりは一紙半銭の御喜捨もなく、ついえはことごとく僧徒衆の肩にかかり、相国寺のみにても二百貫文を背負い込んだとやら。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
源氏方一人に、平家方は十人以上を以て当り得る優位にあったが、その優位がものいうまでには、かなりな時をついやした。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
単簡たんかんなる猿股を発明するのに十年の長日月をついやしたのはいささかな感もあるが、それは今日から古代にさかのぼって身を蒙昧もうまいの世界に置いて断定した結論と云うもので
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
らないおとこが、さけんだり、ソーダすいんだり、また、蓄音機ちくおんきをかけたりして時間じかんついやしていました。いつか、自分じぶんがそうであったのだ、かれおもってていました。
銀のつえ (新字新仮名) / 小川未明(著)
四条五条の橋の上にて大施餓鬼せがき執行しゅぎょうせしめられましたところ、公儀よりは一紙半銭の御喜捨もなく、ついえはことごとく僧徒衆の肩にかかり、相国寺のみにても二百貫文を背負ひ込んだとやら。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
しかもみつぎの礼だに守らせておけば、成都は意を労せず、物をついえず、よくこれを国家の外壁となし富産の地となしておくこともできるではないか
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)