みの)” の例文
のみならず、矢竹の墨が、ほたほたと太く、みのの毛を羽にはいだような形を見ると、古俳諧にいわゆる——狸をおど篠張しのはりの弓である。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ちょうどその夜は、小雨でもあったので、長兵衛は、みのかさにすがたを包み、城下はずれのなまず橋を西へ、高台寺道こうだいじみちをいそぎかけた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
横手からそう遠くない千屋せんや村あたりのみの深沓ふかぐつで大変細工のよいのを見かけます。蓑はここでも襟飾りに矢絣やがすりなどを入れてります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
みのをやち○笠をてつか○人の死をまがつた又はへねた○男根なんこんをさつたち○女陰ぢよいんくまあな。此あまたあり、さのみはとてしるさず。
歌っている声や、話をする声は誰にも聞えますが、肝心かんじんの姿はかくみのという、姿を隠すものを着ていますので、誰にも見えないのです。
蕗の下の神様 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
彼は髪を乱して腰に垂れ、麻の帯をしめてみのを着て、手に大きい袋を持っていた。袋のなかにはたくさんの鵝鳥がちょうや鴨の鳴き声がきこえた。
三人はまだくすくすと笑いながら、戸口を閉め、雪帽子やみのをぬいで、板壁のくぎに掛け、それから、三人かたまって挨拶をした。
しかしなおその以外に、麦飯正月と名づけて麦飯をうんと食い、あるいは出雲の大原郡のように、麦畠の上にみのをしいてその上に転がり
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
と駒に打ち乗り、濁流めがけて飛び込もうとするので式部もここは必死、しのつく雨の中をみのかさもほうり投げて若殿の駒のくつわに取りすが
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
千両ばこ、大福帳、かぶ、隠れみの、隠れがさ、おかめのめんなどの宝尽くしが張子紙で出来て、それをいろいろな絵具えのぐで塗り附ける。
煙霧は模糊もことして、島のむこうの合流点の明るく広い水面を去来し、濡れに濡れた高瀬舟は墨絵の中のみのと笠との舟人かこに操られてすべって行く。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
女房の荒栲は、縮を小腋こわきに当てて、右の手には竹笠を持って、みのを着て外へ出て行こうとしているところを描いてあります。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
何んに致せ、あの大勢のいる宴会の中で、隠れみの、隠れがさをでも持っているように致す事の出来た二人でございますから。
何年来置き古し見古したみの、笠、伊達正宗だてまさむねの額、向島百花園むこうじまひゃっかえん晩秋の景の水画みずえ、雪の林の水画、酔桃館蔵沢すいとうかんぞうたくの墨竹、何も書かぬ赤短冊などのほかに
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
井上出雲守は、小脇差を差し、笠と、みのとに身体をつつんで、人目につかぬ脇道から、城下を離れるため、急いでいた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
彼等かれらあめわらみのけて左手ひだりてつたなへすこしづつつて後退あとずさりにふかどろから股引もゝひきあし退く。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
圭介の空け切った眼には、そこら一帯の葡萄畑ぶどうばたけの間に五六人ずつみのをつけた人達が立って何やら喚き合っているような光景がいかにも異様に映った。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
田圃たんぼの中に出る。稲の植附はもう済んでいる。おりおりみのを着て手籠たごを担いで畔道あぜみちをあるいている農夫が見える。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
新著聞集しんちょもんじゅう』十四篇には、京の富人溝へ飯を捨つるまでも乞食に施さざりし者、死後蛇となって池に住み、みの着たようにひるに取り付かれ苦しみし話を載す。
そこへ下男の佐吉もみのかさとで田圃たんぼの見回りから帰って来て、中津川の大橋が流れせたとのうわさを伝えた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
万一の用意に四人分のみのをつめこんで、これまたよろめくように背負い、そして足ばやに勝に追いついて一言の下にたしなめると、やがてすたすたと追い抜き
(新字新仮名) / 犬田卯(著)
良平りょうへいうちでは蚕に食わせる桑のたくわえが足りなかったから、父や母は午頃ひるごろになると、みのほこりを払ったり、古い麦藁帽むぎわらぼうを探し出したり、畑へ出る仕度したくを急ぎ始めた。
百合 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
伽噺とぎばなしかくみのというものがありますが、天井裏の三郎は、云わばその隠れ蓑を着ているも同然なのです。
屋根裏の散歩者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
だから、そこにもし殺人動機があるものとすれば、ファウスト博士の隠れみの——あの五芒星ペンタグラムマの円が判るよ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
れる」とさも何物をか取ったように云った。やがてみのを着たまま水の中に下りた。勢いのすさまじい割には、さほど深くもない。立って腰までつかるくらいである。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
灸は柱にほおをつけて歌をうたい出した。みのを着た旅人が二人家の前を通っていった。屋根の虫は丁度その濡れた旅人の蓑のような形をしているに相違ないと灸は考えた。
赤い着物 (新字新仮名) / 横光利一(著)
みのを着た人夫がどっさり出ていて、そこいらに腰をおろしたさんだわらがいくつも散っている景色は物々しい眺めでした。汽車はそういうところは徐行いたしますしね。
路のほとりに軒のかたむいた小さな百姓家があって、壁にはすきくわや古いみのなどがかけてある。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
大きなみのを着た百姓が、何かの苗を山とつんだ田舟を曳いてゆくのが、うごきが遅いので、どうかするととまっているようで、ちょうど案山子かかしのように眺められるのだった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
二人はその板敷の上へみのを着て横になったが、昼間の疲れがあるのですぐ眠ってしまった。
雪女 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それは昨日きのうの夕方顔のまっかなみのた大きな男が来て「知ってくべき日常にちじょう作法さほう。」
紫紺染について (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
夏の葉盛りには鬱青うっせいの石壁にもたとへられるほど、蔦はその肥大な葉をうろこ状に積み合せて門を埋めた。秋より初冬にかけては、金朱のいろのにしきみのをかけ連ねたやうに美しくなつた。
蔦の門 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
長押なげしやりへいに鉄砲、かさみのなど掛けてある。舞台の右にかたよって門がある。外はちょっとした広場があって通路に続いている。雪が深く積もって道のところだけ低くなっている。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
現にこの爺さんは、先年代馬さがしの折にも、とうとうかくれみのを被り通した。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
みの
冬の木立 (新字新仮名) / 小川未明(著)
はらはらとその壇のもとに、振袖、詰袖、揃って手をつく。階子の上より、まず水色のきぬつまもすそを引く。すぐにみのかつぎたる姿見ゆ。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なにかでつくったみののようなものが、彼のからだにせられた。その時から、忍剣がなにをきいても、さる返辞へんじをしなかった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みのだとか雪沓ゆきぐつだとか、背中当せなあてとか背負袋とか、そういう民具に立派な手の技を示します。集めたら心をそそる陳列となるでありましょう。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
笠をかぶり、みのをつけているけれども、それは茂太郎に相違ありません。彼は物に追われたように走るけれども、別段、追いかけて来る人はない。
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
藤尾は雨支度がないので、合羽も笠も大助のを借りた、大助はみの筍笠たけのこがさで間に合わせた。宿を出てから提灯をつけた。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
病室の片側には綱を掛けて陸中りくちゅう小坂おさかの木同より送り来し雪沓ゆきぐつ十種ばかりそのほかかんじきみの帽子など掛け並べ
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
バンドリとはわらで製した一種のみののことで、雀の毛の色とむくむくした様子とが、あたかもバンドリを着ているように見えたからそういうと考えられている。
車掌や渡し船の切符切りが、隠れみのとなる。いつも目の前にいるのに、まるで気がつかないのである。
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
みのをきた男に手綱をとられながら、一ぱい背中に湿った草を積んだ馬が、その道をとぼとぼと登って往った。その馬の傍には、かわいらしい仔馬が一匹ついていく。
晩夏 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
昨日きのうの雨をみの着てりし人のなさけをとこながむるつぼみは一輪、巻葉は二つ。その葉を去る三寸ばかりの上に、天井から白金しろがねの糸を長く引いて一匹の蜘蛛くもが——すこぶるだ。
一夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
平助はそこにかけてあるみのを引っかけて、小さいすくい網を持って小屋を出ると、外には風まじりの雨が暗く降りしきっているので、いつもほどの水明かりも見えなかったが
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
さてだん中央まんなかに杉のなま木をたてゝはしらとし、正月かざりたるものなにくれとなくこのはしらにむすびつけ又はつみあげて、七五三しめをもつて上よりむすびめぐらしてみののごとくになし
しばらく彼は書記官としての自分の勤めも忘れて、大坂道頓堀どうとんぼりと淀の間を往復する川舟、その屋根をおおう画趣の深いとま、雨にぬれながらを押す船頭のみのかさなぞに見とれていた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
雨過山房の午後——鎌ぐ姿、そのみのからたれた雨の雫。縄なう機械の踏み動く音、庭石の苔の間を流れる雨の細流。空が徐徐にれるに随い、竹林の雫の中から蝉の声が聞えて来る。
「城の屋根が洩ってみのを着て寝る始末じゃ。大藩などとは、人聞きがわるい」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)