腕車くるま)” の例文
ひげある者、腕車くるまを走らす者、外套がいとうを着たものなどを、同一おなじ世に住むとは思わず、同胞はらからであることなどは忘れてしまって、憂きことを
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
腕車くるまから降りて行った笹村は、まだ寝衣ねまきを着たままの正一が、餡麺麭あんパンを食べながら、ひょこひょこと玄関先へ出て来るのに出逢った。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
綱引の腕車くるまを勢よくはしらせ、宿処ブツクを繰り返しながら、年始の回礼に勉むる人は、せんずる所、鼻の下を養はん為めなるべし。
元日の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
私がこの名人を茅ヶ崎の別荘へ訪問したのは明治三十五年(四年?)の夏、停車場から畑道を腕車くるまに揺られて約三十町。この方は裏門である。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
まだ其上に腕車くるまやら自転車やらお馬やらお馬車やら折々はわざと手軽に甲斐々々しい洋服出立のお歩行ひろひで何から何まで一生懸命に憂身うきみやつされた。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
二人は無言のまゝ長き舗石しきいしを、大鳥居の方に出で来れり、去れど其処には二輌の腕車くるまを置き棄てたるまゝ、何処いづく行きけん、車夫の影だも見えず
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
轟然ごうぜんと飛ぶが如くに駆来かけきたッた二台の腕車くるまがピッタリと停止とまる。車を下りる男女三人の者はお馴染なじみの昇とお勢母子おやこの者で。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
それからまたその良人おっとさんには腕車くるまへ乗る入費や畳付たたみつき駒下駄こまげたを買う入費を倹約して台所へお向けなさいと勧めます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「曽我祐準の名をよほどわれわれが怖がるものと思うたのか、曽我曽我と言い通して腕車くるまで逃げ出してしもうたよ」
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
内幸町うちさいわいちょうで見かけた時は腕車くるまひざかけの上まで、長い緑色のをらしてかけていたが、それも大層落附いていた。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
『東京は流石に暑い。腕車くるまの上で汗が出たから喃。』と言つて突然いきなり羽織を脱いで投げようとすると、三十六七の小作こづくりな内儀おかみさんらしい人がそれを受取つた。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
道よりもあれば新宿までは腕車くるまがよしといふ、八王子までは汽車の中、をりればやがて馬車にゆられて、小佛の峠もほどなく越ゆれば、上野原、つる川、野田尻、犬目
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
と是れから酒を酌交くみかわせ、橋本幸三郎がの老人にも御馳走を致し、翌日腕車くるまで瑞穂野村なる万福寺へ参って見ると、樹木繁茂致し、また一面に田畑も見晴しのい処で
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と女中の挨拶口々に、へい有難う、お静かにと、見送る前へ、挽き出した、四ツ目の紋の提燈は、確かに深井が抱えの腕車くるまと。気早き一人が声掛けて。おい君これは帰すがよい。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
ともかくもなだめすかして新井、葉石に面会せしむるにはかずとて、種々いろいろ言辞ことばを設け、ようよう魔室よりさそい出して腕車くるませ、共に葉石の寓居に向かいしに、途中にて同志の家をたず
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
四ツ谷の親類に預けてあった蒲団や鏡台のようなものを、お銀が腕車くるまに積んで持ち込んで来たのは、もうあわせに羽織を着るころであった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
トタンにがらがらと腕車くるまが一台、目の前へあらわれて、人通ひとどおりの中をいて通る時、地響じひびきがして土間ぐるみ五助のたいはぶるぶると胴震どうぶるい
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
『東京は流石に暑い。腕車くるまの上で汗が出たからなあ。』と言つて、突然いきなり羽織を脱いで投げようとすると、三十六七の小作りな内儀おかみさんらしい人がそれを受取つた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
道よりもあれば新宿しんじゆくまでは腕車くるまがよしといふ、八王子までは汽車の中、をりればやがて馬車にゆられて、小仏こぼとけの峠もほどなく越ゆれば、上野原うへのばら、つる川、野田尻のだじり犬目いぬめ
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
市「なに関宿までめえりやして、野田へ廻ったり何かして、蒸汽で川俣まで参りまして雨に降られやしたが、でけえ雷鳴かみなりで驚きやした、今朝は腕車くるまで此処まで参りました」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
簾が下りるとドヤドヤ退席してその女義の腕車くるまの後押し、掛持の席へ付いて回って忠義を尽すが一向有難がられぬ代物、なにしろ客席の賑いは大したもので、満員を通り越し
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
然かし体躯からだ以前まえよりも遙かに健康よくなられた。直訴の時分には車が無ければ歩行事あるくこと出来なかつた人が、今では腕車くるまを全廃されたと云ふ。顔の皺も近頃は美しく延びて、若々となられた。
大野人 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
いよいよお帰宅かえりないならば、私も腹を極めてゐる。男がようても、器量があつても、深切のない人が、どうなるものぞと思ふても、また気にかかる門の戸が、開いたは確かに腕車くるまの音。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
深山と気脈の通じているらしく思えるこの俳友B—に対する軽い反抗心も、腕車くるまに揺られる息苦しいような胸にかすかに波うっていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
駿河台の老婦人は、あわれ玉の輿こしに乗らせたまうべき御身分なるに、腕車くるまに一人のり軽々かろがろしさ、これを節倹しまつゆえと思うは非なり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
家の前から昨晩ゆうべ腕車くるまで來た方へ少し行くと、本郷の通りへ出ますから、それは/\賑かなもんですよ。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
はるゆめのうきはし、とえするよこぐものそら東京とうけうおもちて、みちよりもあれば新宿しゆじゆくまでは腕車くるまがよしといふ、八王子わうじまでは汽車きしやなか、をりればやがて馬車ばしやにゆられて
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
伊「それから夜が明けると朝湯に這入って腕車くるまたくへ帰る間もなくお前さんが来たんですよ」
一時ごろに、浅井が腕車くるまで帰って来るまで、お増は臥床ねどこに横になったり、起きて坐ったりして待っていた。時々下の座敷へも降りて見た。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
あしたよりゆうべに至るまで、腕車くるま地車じぐるまなど一輌もぎるはあらず。美しきおもいもの、富みたる寡婦やもめ、おとなしきわらわなど、夢おだやかに日を送りぬ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
腕車くるまが三輛、源助にお定にお八重といふ順で驅け出した。お定は生れて初めて腕車に乘つた。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
其の儘戸外おもてへ飛出して直に腕車くるまに乗り、ガラ/\ガラ/\と両国元柳橋もとやなぎばしへ来まして
勝沼の町とても東京こゝにての場末ぞかし、甲府は流石に大厦たいか高樓、躑躅つゝじが崎の城跡など見る處のありとは言へど、汽車の便りよき頃にならば知らず、こと更の馬車腕車くるまに一晝夜をゆられて
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
小野と新吉とが、間もなく羽織袴を着けて坐り直した時分に、静かなよいの町をゴロゴロと腕車くるまの響きが、遠くから聞え出した。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ここに引着けた腕車くるまが一台。蹴込けこみに腰を掛けて待っていた車夫、我があるじきたれりと見て、立直り、急いで美しい母衣ほろねる。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
腕車くるまが三輛、源助にお定にお八重といふ順で駆け出した。お定は生れて初めて腕車に乗つた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
市「いやお前さんは元渋川で腕車くるまいて居なすった峯松さんと云う車夫だアね」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
勝沼かつぬまの町とても東京ここにての場末ぞかし、甲府はさすがに大厦たいか高楼、躑躅つつじさきの城跡など見るところのありとは言へど、汽車の便りよき頃にならば知らず、こと更の馬車腕車くるまに一昼夜をゆられて
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
綱引きの腕車くるまで出て行く、フロック姿の浅井を、玄関に送り出したお増は、屠蘇の酔いにほんのり顔をあからめて、うやうやしくそこに坐っていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
五両と三両まとまった、こくの代を頂いたんで、ここで泊込みの、湯上りで五合ごんつくめた日にゃ、懐中ふところ腕車くるまからにして、土地さとへ帰らなけりゃならねえぞ。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うしほの様な人、お八重もお定も唯小さくなつて源助の両袂に縋つた儘、漸々やうやうの思で改札口から吐出されると、何百輛とも数知れず列んだ腕車くるま、広場の彼方は昼を欺く満街まんがい燈火ともしび
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
川長かわちょうへでも行っておまんまを喰いに一緒にけと仰しゃるから、お供をしてお飯を戴き、あれから腕車くるまを雇ってガラ/\/\と仲へ行って、山口巴やまぐちどもえのおしおとこあがって、大層お浮れなすって
時には一つの学校から、他の学校へ彼女は腕車くるまを飛しなどして、せり込んで行く多くの同業者とはげしい競争を試みることに、深い興味を感じた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
わすれもしない、温泉をんせんきがけには、夫婦ふうふ腕車くるまとほつた並木なみきを、魔物まものうです、……勝手次第かつてしだいていでせう。」
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
同じ事でもめうなもので、料理茶屋れうりぢややから大酔たいすゐいた咬楊子くはへやうじなにかでヒヨロ/\すぐ腕車くるまに乗るなどは誠に工合ぐあひよろしいが、汁粉屋しるこやみせからはなんとなく出にくいもの、汁粉屋しるこやでは気遣きづかひはない
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
今の腕車くるまに、私が乗っていたのを知って、車夫わかいしからで駆下りた時、足の爪をかれたとか何とか、因縁を着けて、端銭はした強請ゆするんであろうと思った。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ある朝新吉が、帳場で帳面を調べていると、店先へ淡色うすいろ吾妻あずまコートを着た銀杏返いちょうがえしの女が一人、腕車くるまでやって来た。それが小野の内儀さんのお国であった。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
するとだ……まだその踏切を越えて腕車くるまを捜したッてまでにもかず……其奴そいつ風采ふうつきなんぞくわしく乗出して聞くのがあるから、私は薄暗がりの中だ。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
腕車くるまがステーションへ着くころ、がそこここの森蔭から見えていた。前の濁醪屋どぶろくやでは、あったかそうな煮物のいいにおいが洩れて、濁声だみごえで談笑している労働者の影も見えた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
※弟きやうだい建場たてば茶屋ちやや腕車くるまやとひながらやすんでところつて、言葉ことばけてようとしたが、その子達こだち氣高けだかさ!たふとさ! おもはず天窓あたまさがつたぢや。
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)