なき)” の例文
お雪さん、捨てられたの何のってなきつらをしながら、かたきを討って下さいなんて、飛んでもないところへ泣きつくなんぞは、女の面汚つらよごし。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
〽一日逢わねば、千日の思いにわたしゃ煩うて、針や薬のしるしさえ、なきの涙に紙濡らし、枕を結ぶ夢さめて、いとど思いのますかがみ。
湯島の境内 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私はまだなきながらフト頭を挙げて見升と、父が気の毒さうな顔をしてそばに立つて居升たから、なにやら恥しい気がして、口早に
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
しかし何の物音も聽えず、すゝなきの聲もしなかつた。この上五分間も、あの死のやうな沈默が續いたなら、私は盜人のやうに錠前ぢやうまへをこぢ開けたに違ひない。
「さいなあ、おつる母御はヽごは、その手紙てがみをおつるふところからとりだしてみながらよみながらおなきやつたといのう」
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
此上のねがひには此くろかみをそりこぼして玉はれかし、あな悲哉かなしやとて、かほに袖をあてゝさめ/″\となきけり。
堰敢せきあへむなしき死骸にいだき付のう我が妻よ今一度此世にもどりて給はれや言事いふことあり臥轉ふしまろ如何いかなればこそ此如このごと果敢無はかなきにしに有りしやとさけべど答へさへなきゐる我子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あゝ、日毎ひごと暮るればこゝに来て、庭造る愛らしき器物うつわもの手籠てかご、如露のそばちかく、空想にふければ、あゝわがわかかりし折の思出おもいいで。幸福を歌ふすすなきは、心の底よりほとばしり出づ。
思い出したように頸低うなだれた者が四五人。軍服の袖を顔に当ててススリなきを初めた者が二三人……。
戦場 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
合せて引かつぎエイ/\聲に上りしは目ざましきまで感心なり拙者は中弱ちうよわりの氣味にて少し足は重けれど初日に江戸ツ子がなきを入れたりと云れんは殘念なればはづむ鼻息を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
なきなみだで静岡を発足ほっそくして叔父を便たよって出京したは明治十一年、文三が十五に成た春の事とか。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
兎も角お連れなさいというので、勇助は立帰り、此の話をして、是れからおみゑは乳母のおしのにも暇乞いとまごいをして駕籠に乗り、なきの涙で別れを告げ、丈助勇助が附添いまして
「先生——。」といって、後はしゃくりなきをする。教師は一寸ちょっと立止って後を振り向いて
蝋人形 (新字新仮名) / 小川未明(著)
近付くまゝにうちの様子を伺えば、寥然ひっそりとして人のありともおもわれず、是は不思議とやぶれ戸に耳をつけて聞けば竊々ひそひそささやくような音、いよいよあやしくなお耳をすませばすすなきする女の声なり。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
二人は泣きながら黙頭うなづくのであつた。歩み出してもなきじやくりが止まりさうにない。
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
小夜子は襖の蔭ですすなきをしている。先生はしきりにく。浅井君は面喰めんくらった。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
◎これはちと古いが、旧幕府の頃南茅場町みなみかやばちょう辺の或る者、乳呑子ちのみごおいて女房になくなられ、その日稼ぎの貧棒人びんぼうにんとて、里子に手当てあても出来ず、乳がたりぬのでなきせがむ子を、もらちちして養いおりしが
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
なほ其人そのひとこひしきもらく、なみだしづんでおく月日つきひに、らざりしこそをさなけれ、うへきをかさねて、宿やどりしたね五月さつきとは、さてもとばかなげふしてなきけるが、いまひとにもはじものおもはじ
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その女は殆ど専門的の老婆で、その報酬に米を与えるが、その米の多寡によって泣く程度を異にし、随って死者の貧富の度が知れる。米一升を与えれば一升なきと云い、二升ならば二升泣と云うている。
本朝変態葬礼史 (新字新仮名) / 中山太郎(著)
彼女はなきそしてすべてを理解した。
殴る (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
滅びゆく生命いのちへ滅ぶきがなき
鶴彬全川柳 (新字旧仮名) / 鶴彬(著)
三尺の開きを開けて出てきました。跡をてゝお町はあゝなさけないことだとこらえ兼て覚えず声が出ます。泣声がおっかさまに知れてはならぬと袂をみしめて蚊帳の外になき倒れます。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
仇でかへすとは御前方夫婦の事サア/\只今直に夫文右衞門が身のあかりを立出牢させて下されとなきうらみかき口説を市之丞夫婦は一々御道理ごもつともには御座れども何卒御新造樣私し共の申事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
すすりなきしながら、また何気なにげなく、「アアその墓に埋ってる人は殿さまのようにえらいお方?」というと、さも見下果みさげはてたという様子を口元にあらわして、僕の手を思い入れ握りしめ
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
すると源三は何を感じたかたきのごとくに涙をおとして、ついにはすすなきしてまなかったが、泣いて泣いて泣きつくしたはて竜鍾しおしおと立上って、背中に付けていたおおき団飯むすびほうり捨ててしまって
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
僕だって最初はじめからこういう間の中といっちゃあ、末始終すえしじゅうはきっとなきを見なければならないと思うから、今度こそ別れるような話にしようか、今度こそと、その度にしおれちゃあここへ来ると
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今日も美くしい須永の従妹いとこのいる所へ訪問に出かけるのだと自分で自分に教える方が、億劫おっくう手数てかずをかけて、好い顔もしないじいさんに、衣食のみちを授けて下さいとなきつきに行くのだと意識するよりも
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼女はなきそしてすべてを理解した。
小熊秀雄全集-15:小説 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
しかるに女房お政はをつと文右衞門がとはず語りをそばにて熟々つく/″\聞居たりしがこらへ/\し溜涙ためなみだ夜半の時雨しぐれと諸共にワツとばかりに泣出せしかば文右衞門は是を見返みかへりコリヤお政何が其樣にかなしくてなき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
が、前になきしている召使を見ると、そこは女の忽然こつねんとして憤怒になって
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
みんな手前達が甘やかされて、可愛がられて、風にもあてず育てられた、それほどの果報にも飽き足らず、にきびの出る時分にはその親になきを見せて、金をつかんで、女をもてあそびにせるためだ。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
僕はあんなに身をふるわしておなきなさるような失礼をどうしていったかと思って、今だに不思議でなりませんよ。そしてその夜は、明方あけがたまで、勿体もったいないほど大事にかけて看病して下すったんです。
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
討ち遂げねばお帰りにはならない、何だなきつらをして
私はまた新たになき始めました。母は私の側へよつて手拭てぬぐひで私の涙をぬぐひ
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
荒物屋から婆さんが私の姿を見ると、駆けて出て、取次いで、その花のことについて相談をされたのは私ばかり、はじめは滅相なと思ったが、こころを察すると無理はないので、なきの涙で合点しました。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ほの赤きまぶたの重げに見ゆるが、なきはらしたるとは風情異り、たとえば炬燵こたつに居眠りたるが、うっとりと覚めしもののごとく涼しき眼のうち曇を帯びて、見るにおもかげ晴やかならず、暗雲一帯眉宇びうをかすめて
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ぢいさんもわたしも頭アあがらなかつたネ、うれなきになけてよ
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
聞く方はなきじゃくって
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)