かし)” の例文
雪こそは降り出さなかったが、その灰色をした雪雲の下に、骨を削ったようなくぬぎかしの木立は、寒い木枯こがらしに物凄い叫びをあげていた。
不幸 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
物置へ行ってみると、床はいだまま、灯の用意をして無気味な中へ入ると、穴蔵のかしの戸のところへ、もうプーンと生血の臭い——
銭形平次捕物控:124 唖娘 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
二八 利休が「富田左近とみたさこんへ露地のしつらい教うるとて」示したものは「かしの葉のもみじぬからにちりつもる奥山寺の道のさびしさ。」
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
船中でけずって来たかしの木剣を持って立ち向ったり、なお仔細に武蔵の一挙一動を見て行ったなら、すべてが、戦前に戦っているので
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そも/\人間の肉はいと弱し、されば世にては、善く始められし事も、かし生出おひいづるより實を結ぶにいたるまでだに續かじ 八五—八七
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
巨大なかしの机を前に、虎の皮を掛けた椅子いすり、じっと正面を見詰めている五十近い一人の武士がある。これぞ弾正太夫であった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そして川岸から三十間ばかり上の方まで来た時、右手の岩の上の大きなかしの枝が、ザワ/\と動くのが逸早いちはやく与兵衛のに映りました。
山さち川さち (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
丈の高いかし椅子いすが、いかつい背をこちらへ向けて、掛けた人の姿はその蔭にかくれて見えぬ。雪のやうなすそのみゆたかに床にふ。
ジェイン・グレイ遺文 (新字旧仮名) / 神西清(著)
これからすぐに私をたずねておいでなさい。森の奥の奥に大きなかしの木があります。それが私です。私のふところに夢の精が一ついます。
夢の卵 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
礼拝堂の両側にはバスの騎士の高い席があり、かしの木でゆたかに彫刻されているが、ゴシック建築特有の奇怪な飾りがついていた。
そこを挾んで、両辺の床から壁にかけ胡桃くるみかしの切組みになっていて、その所々に象眼をちりばめられ、渋い中世風の色沢が放たれていた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
その混凝土コンクリート氏こと、山木やまき勘九郎氏邸の前を通ると、鬱蒼うっそうたるかしの木立の奥に、青空の光りを含んだ八手やつでの葉が重なり合って覗いている。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
三本の大きなはりがねで家をかしの木にしばりつけてあるので、風当かぜあたりがひどかろうとは覚悟して居たが、実際吹かれて見て驚いた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
綺麗に刈込んだかしの垣を前に、後に深い杉の森をめぐらし、数多い白堊しろかべの土蔵の夕日に照されてゐるのが常に遠く街道からゆびさされた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
ヤニマツか節くれだったかしの木が炉ばただったところに生え、よく匂う黒ヤニマツが敷居石のあったところにそよいでいることだろう。
一樹が立留まって、繁ったかしの陰に、表町の淡いにすかしながら、その「——干鯛かいらいし——……蛸とくあのくたら——」
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
身を躍らせて山を韋駄天いだてんばしりに駈け下りみちみち何百本もの材木をかっさらい川岸のかしもみ白楊はこやなぎの大木を根こそぎ抜き取り押し流し
ロマネスク (新字新仮名) / 太宰治(著)
向うのかしの木の下に乳母うばさんが小供をつれてロハ台に腰をかけてさっきからしきりに感服して見ている、何を感服しているのか分らない
自転車日記 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わが車五味坂ごみざかを下れば茂み合うかしの葉かげより光影ひかげきらめきぬ。これ倶楽部クラブの窓より漏るるなり。雲の絶え間には遠き星一つかすかにもれたり。
おとずれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
赤松谷は爆発火口原であるが、その急峻きゅうしゅんな傾斜面には赤松が生え、もみが生え、しいかしなどの雑木が、鮮麗に頂の緑を見せて鬱蒼うっそうとしている。
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
女だてらに脇差を抜いて、一方に槍を防ぎながらお銀様は、ようやく梅の木を離れてかしの木の後ろへ避けることができました。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それは穹窿形きゅうりゅうけいの低い狭い丈夫な古い通路門で、全部かしの木で造られ、内部には鉄板を張り鉄骨が施されていて、監獄の暗道そっくりだった。
かしぶなの森林におおわれた丘陵がその間を点綴てんてつしていて、清い冷たい流れの激しい小川がその丘陵の間を幾筋も流れていた。
ゼラール中尉 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
女の子はもうこのさきげて行くことができなくなって、ぬまのふちにっている大きなかしの木の上にのぼりました。すると山姥やまうばっついて
山姥の話 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
『冬』は私にかしの樹を指して見せた。髪のように輝いたその葉の間には、歌わない小鳥が隠れて飛んでいて、言葉のない歌を告げ顔である……
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
クララは首をあげて好奇の眼を見張った。両肱は自分の部屋の窓枠に、両膝は使いなれたかし長椅子ながいすの上に乗っていた。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それは握りごろの太さに長さ五尺ほどの、かなり重みのあるかしの棒で、使いようによっては武器にもなりそうであった。
実はこのファイア・プレェスの傍に二つ三つ無雑作にころがっていた古いかしの木の椅子(昔から私はこんな椅子をどんなに欲しがっていただろう!)
卜居:津村信夫に (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
百姓ひやくしやうにしては比較的ひかくてきちひさなれたかとおもほどぽつりとふくれて、どれほどかしつかんでもけつして肉刺まめしやうずべきでないことをあきらかにしめしてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
このように不祥な霧が若やかなかしの葉にも震えている山の中で、怪しい邪婬の火に身を巻かれとうはございませぬ。
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)
窓は細長く、とがっていて、内側からはぜんぜん手がとどかないくらい、黒いかしの床から高く離れたところにあった。
かしの卓の上に立てるとすると、樫のヤング率は1.3×1011くらいである。大体の見当をみるのであるから、卵殻の固さも樫と同程度と見ておく。
立春の卵 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
しいかし杉椿なぞの大木にまじって扇骨木かなめなぞの庭木さえ多年手入をせぬ処から今は全く野生の林同様七重八重ななえやえにその枝と幹とを入れちがえている。
校長が取り調べに出かけたるに、その庭内にかしの木の茂りたるのがあって、その下に雨の降りたる跡が見えている。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
モンテヴェルディやリュリーなど、現在だれにとって生きてるか。古典音楽の森のかしの木もすでにこけに食われてる。
濱萵苣はまさじ、すました女、おまへには道義のにほひがする、はかりにかけた接吻せつぷんの智慧もある、かしの箪笥に下着したぎが十二枚、をつ容子ようす濱萵苣はまさじ、しかも優しい濱萵苣はまさじ
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
中景の右の方はかしか何かの森で、灰色をしたたくましい大きな幹はスクスクと立ち並んで次第に暗い奥の方へつづく。
森の絵 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
かしかしは冬青もち木犀もくせいなどの老木の立ち込んだ中庭は狹いながらに非常に靜かであつた。ことごとしく手の入れてないまゝに苔が自然に深々とついてゐた。
鳳来寺紀行 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
にれかしや栗や白樺などの芽生したばかりのさわやかな葉の透間から、煙のように、またにおいのように流れ込んで、その幹や地面やの日かげと日向ひなたとの加減が
俺がこの間の晩、柳原のどてで突かれそくなった時に、そいつの槍の柄をちょいと掴んだが、その手触りがほんとうのかしじゃあねえ。たしかに竹のように思った。
半七捕物帳:18 槍突き (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
村の中に一本のかしの木が生えてゐました。何時頃からか、この樫の木の根元の大きな洞穴のなかにずる/\べつたりと一匹の大工の狼が住むやうになりました。
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
桜樹の尽きたあたりには、まだ軟かい芽を出したばかりのかえでかしがあり、円く刈り込んだ馬酔木あしびがある。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あの辺に大工のカンナに使うかしの木のごとき、いろいろの器具用の材木を売る商人が昔から住んでいて、その取り扱う商品をば今でも根小屋物と呼んでいるという。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そのじぶん上野公園から谷中の墓地へかけては何千本という杉の老木が空をついて群立むらだち、そのほかにもしいかし、もち、肉桂にっけいなどの古い闊葉樹かつようじゅが到る処繁ってたので
独り碁 (新字新仮名) / 中勘助(著)
ちぎりはふか祖先そせんえんかれてかし一人子同志ひとりこどうし、いひなづけのやく成立なりたちしはおたかがみどりの振分髮ふりわけがみをお煙草盆たばこぼんにゆひむるころなりしとか、さりとてはながかりし年月としつき
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
第一の窓から見るかしの茂みが過剰な重みで公園の鉄柵を噛んでいる。第二の窓からやや遠方を見る。其処の屋上起重機はロンドンの今朝の濃霧を重そうに荷っている。
バットクラス (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
鉄格子てつごうしをはめた窓の外には枯れ葉さえ見えないかしの木が一本、雪曇りの空に枝を張っていた。)
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
猛禽や渡鳥がかすめた。かしの森には野獣の列がゆききしていた。潮に乗ってしずかに湾頭を去らんとするとき、北岸のみぎわに鹿がならんで、いぶかしそうに見送ってくれた
黒雲空に流れてかしの実よりも大きなる雨ばらりばらりと降り出せば、得たりとますます暴るる夜叉、かきを引き捨てへいを蹴倒し、門をもこわし屋根をもめくり軒端のきばかわらを踏み砕き
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
かしの葉を取って、手の中でおもみなさい。そうすりゃ金貨が地べたに落ちて来ます。」
イワンの馬鹿 (新字新仮名) / レオ・トルストイ(著)