)” の例文
せきとして人影もない、また足脂あしあぶらに磨かれた広い板敷にも、ちりひとつ見えず、ただ何処からかす春の陽が長閑のどか斜影しゃえいをながしている。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのうちに東の空はほのぼのと明け渡って、向うの庭の枯れ木立の間から眩しいの光りが、このへやの中へ一パイにし込みました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
向う側の其の深い樹立こだちの中に、小さく穴のふたづしたやうに、あか/\と灯影ひかげすのは、聞及ききおよんだ鍵屋であらう、二軒のほかは無いとうげ
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
貴所方あなたがたは」と糸子を差し置いて藤尾ふじおが振り返る。黒い髪の陰からさっと白い顔がす。頬の端は遠い火光ひかりを受けてほの赤い。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
手拭で首筋の汗を吹き/\阿波太夫は、日の光りのし込まない、冷え/″\とした畳へ坐つて、満更お世辞でもないらしく、辺りを見廻した。
吉原百人斬り (新字旧仮名) / 正岡容(著)
烟をわけてはや白くす光を見よ、天使かしこにあり、我はわが彼に見えざるさきに去らざるをえず。 一四二—一四四
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
この室内の一部へし込んできた新しい月のぼんやりした光りによって、主人のヒンクマン氏がドアに近い大きい椅子に沿うて立っているのを見た。
なんとなく粗野そやで、しかも人を圧するような、えられない感じがする上に、日光はほとんどここへし込まず、土臭い有毒らしい匂いがそこらにただよって
茂之助が柄杓で水を飲んで居るうち、夕立もれてたちまちに雲が切れると、十七日の月影が在々あり/\します。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と新太郎君は答えたが、もう行かないことに決心していた為め余り明瞭に言い放ったので気がした。松浦さんの連中が帰京したからのように聞えると思って
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
きょうもそれをうっかりと考えていると、翁は日影がだんだんしこんで来るのにまぶしくなったらしい。だるそうに立ちあがって入口のがますだれをおろした。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
東雲しののめの光が雪の障子にぽうっと白くして、大窓の夜は明けた。有明の月が山の端から青白い顔をして覗いている、私の体を藻抜もぬけ出た魂のかけらではないかと思った。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
ああ、さう、何でもあはせを着てゐたから、丁度今時分でした。湖月こげつさんのあの池に好いお月がしてゐて、あつたかい晩で、貴方と一処に涼みに出たんですよ、善く覚えてゐる。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
入梅つゆになッてからは毎日まいにち雨降あめふりそれやつ昨日きのふあがツて、庭柘榴ざくろの花に今朝けさめづらしくあさひ紅々あか/\したとおもツたもつか午後ごゝになると、また灰色はいいろくもそら一面いちめんひろがり
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
五月はじめの晩らしい、町の白壁と暗い青葉とに薄くした月の光がお節の眼に浮んで来た。その忘れがたい晩には、いよいよお婿さんが出掛けて来るといふ手紙の着いたことを思出した。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
杜松ねずの木の下に坐つて、ポオル叔父さんと三人の子供とは岡の上にす光の見えるのを待つてゐました。東の空が明るくなりかけて来ますと、星は色が青ざめて一つ一つ消えて行きます。
おりから何だか、気味をく思っていないところへ、ある晩高麗蔵さんが、二階へこうと、梯子段はしごだんへかかる、妻君さいくんはまたおどかす気でも何でもなく、上から下りて来る、その顔に薄くあかりして
薄どろどろ (新字新仮名) / 尾上梅幸(著)
朝の真赤な光がす、忠太郎、その光に背いて、股旅の路に踏み出す。
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
日はすっかり暮れて、十日ごろの月が鮮やかにしていましたが、坂の左右は樹がしげっていますから十分光が届かないのでございます。上りは二丁ほどしかありません、すぐ武の家の前に出ました。
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
さては横合いから緑の掌葉を差し出したかえでの小枝などであるが、楓の一枚の葉裏に、一体どうしてなのかは、まるで分らないが、不意に日光がして、パッとそれを火のように透明なものに変えて
朝の陽と雪との反射が、部屋いッぱいしこんだ。市十郎もハネ起きた。近所の屋根の下から、ただならない人声がわき起っている。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
丁度ちやうどわたしみぎはに、朽木くちきのやうにつて、ぬましづんで、裂目さけめ燕子花かきつばたかげし、やぶれたそこ中空なかぞらくも往來ゆききする小舟こぶねかたちえました。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
二人の女が他愛もなく笑い転げている真正面の細骨障子に、音もなく小さな人影がした。脇差をひっさげた与一の前髪姿であった。
名君忠之 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
もし他の物汝等の愛を迷はさば、こはかの光の名殘がその中にし入りて見誤らるゝによるのみ 一〇—一二
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
よちよちかえっていく爺さんのこけた背中の辺りからは、キラキラ後光がしているようにすらおもわれた。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
其のうちに冬の明方あけがたと見え、穴の口より少し日がして居りますが、四辺あたりはまだ暗がりでだ能く見えませぬ、まるで井戸の中へ這入ったようでござります。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
夜の商売でありませんから、下総屋はもう大戸をおろして、くぐり戸の障子に灯のかげがしているので、わたくしは藤助を指図して、外から唯今と声をかけさせました。
半七捕物帳:60 青山の仇討 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
もっとも自分でも急に立つのは気がして、進退に迷っていたところだった。松浦さんは二時間近くも話し込んで引き取った。それから父親と母親が茶の間で談合を始めた。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
落ちつけようと思いました。それがために私はいくらか弱ってしまったからです。それから再び外へ出てみると、もう日光がしていて、幽霊はどこへか消え失せてしまいました
今までの悲哀ひあいや苦痛はもとより其によツて少しもげんぜられたといふわけではないが、蔽重おつかさなツたくもあひだから突然とつぜん日のひかりしたやうに、前途ぜんと一抹いちまつ光明くわうめうみとめられたやうに感じて
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
玄関の障子に燈影ひかげしながら、格子こうし鎖固さしかためたるを、車夫は打叩うちたたきて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
すこしすその見えた八つが岳が次第にけわしい山骨を顕わして来て、しまいに紅色の光を帯びたいただきまで見られる頃は、影が山から山へしておりました。甲州にまたがる山脈の色は幾度いくたび変ったか知れません。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
朝の真赤な光がす。忠太郎、その光に背いて踏み出し、佇む。
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
陽がした。白い海気ににじんだ橙色だいだいいろの旭光を船底から上に仰ぐと、後醍醐は、待ちきれぬもののように、乾魚俵ほしかだわらの間からお身を起した。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
晃 いや……お手伝いという処だが、お百合さんのそうした処は、咲残った菖蒲を透いて、水に影がしたようでなお綺麗だ。
夜叉ヶ池 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
安全燈ラムプの網目を洩れる金茶色の光りがゆるやかにしたり、又静かに消え失せたりするところをみると
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
日の光雲間くもまをわけてあざやかにす花の野を、わが目かつて陰に蔽はれて見しことあり 七九—八一
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
もう日が西に傾きましたから職人も仕事をしまいかけて居ります、なれども夕日は一ぱいにす。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
たつた此丈これだけを云つた丈けの伯龍だつたが、もうそれ丈で忽ちぐるりが青田や蓮田の、外はギラギラ烈日がかゞやいてゐるのに、狭い座敷ぢうには小指ほども日がして来ない。
吉原百人斬り (新字旧仮名) / 正岡容(著)
「それじゃ早速取りかゝるかな。しかし気がすね。芸者を側に置いてお説法は」
村の成功者 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
明月は南の空へまわって来て、庭から家のなかまで一ぱいに明るくし込んだ。
半七捕物帳:07 奥女中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
すこしすその見えた八つが岳が次第にけわしい山骨をあらわして来て、しまいに紅色の光を帯びたいただきまで見られる頃は、影が山から山へしておりました。甲州にまたがる山脈の色は幾度いくたび変ったか知れません。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その雲間から一瞬の月がし、また一瞬に暗雲が閉ざした。明滅定まりなく、天地は絶えず暗くなったり明るくなったりしていた。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ことばきまって含羞はにかんだ、あか手絡てがらのしおらしさ。一人の婦人が斜めに振向き、手に持ったのをそのままに、撫子なでしこす扇の影。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
奇妙な謡曲をうたう者、流行節を唄い唄い座ったままおどり出しているもの……不安とか、不吉とかいう影のミジンもしていない、醇朴じゅんぼくそのもののような田舎いなかの人々の集まりであった。
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
怖々こわ/″\庭を見る途端に、叢雲むらくもれて月があり/\と照り渡り、す月影で見ると、生垣を割って出ましたのは、頭髪かみは乱れて肩に掛り、頭蓋あたま打裂ぶっさけて面部これからこれへ血だらけになり
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
万歳村というのがありまして、村中万歳ですから、悉皆すっかりでは何億歳という頭数でしょうな。これが年の暮になると鋤鍬を捨てゝ日本中へ散らばります。そうして初日の影のすと共に鼓を
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
文覚は、炉へしばを折りくべていた。赤い焔が下からその顔へす。この上人の素性すじょうに就いてはかねて種々いろいろ聞き及んでいる事が多い。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おどされてわれはその顔を見たり。舞台は暗くなりぬ。人大方は立出たちいでぬ。寒き風じょうに満ちて、釣洋燈つりランプ三ツ四ツ薄暗きあかりすに心細くこそなりけれ。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
傾いた日光が大天幕テントの左上から眩しくして、馬の臭いや汚物の臭気が鼻をった。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)