)” の例文
「それでもおへそが大きいやろ。あんまり大き過ぎるのでれて血が出やへんかしら思うて、心配してるのやが、どうもなかったか?」
御身 (新字新仮名) / 横光利一(著)
そんな事を云い合っているうちに一人がマッチをって葉巻に火をけたようなの。間もなくい匂いがプンプンして来たから……。
支那米の袋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
千代松は村ででも夜に入る見込みの外出には必ず懷中に入れて行く小ひさな小田原提灯を取り出して、用意のマッチをパツとつた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
もとより云う事はあるのだから、何か云おうとするのだが、その云おうとする言葉が咽喉のどを通るとき千条ちすじれでもするごとくに
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
初めは詞もてさま/″\に誘ひたれどそのしるしなかりき。次にはたはぶれのやうにもてなして、掻き抱きたれど、女はいち早くけたり。
真先まっさきに来たのは白い革の旅行鞄トランクで、それがあちこちり剥けているところは、旅に出たのは今度が初めてではないぞといわんばかりだ。
親指の爪先つまさきから、はじき落すようにして、きーんと畳の上へ投げ出した二分金ぶきんが一枚、れたへりの間へ、将棋しょうぎの駒のように突立った。
歌麿懺悔:江戸名人伝 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
先生はいま馬の背を征服したばかりの、そしてりむき傷のために血のにじんでゐるところの私の手足を痛いほどたゝいて叫びました。
亜剌比亜人エルアフイ (新字旧仮名) / 犬養健(著)
「木之さん、今年ことしも出かけるかな」。木之助が家の前の坂道をのぼって、広い県道に出たとき、村人の一人がそういってれちがった。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
と云って、花房は暫くり合せていた両手の平を、女の腹に当てた。そしてちょいと押えて見たかと思うと「聴診器を」と云った。
カズイスチカ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それを見届けると、大蘆原軍医は始めて莞爾かんじと笑って、かたわらにりよってくる紅子の手をとって、入口のの方にむかって歩きだした。
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と両手をり合わせて絶望的な歎息たんそくをしているのであった。弟子でしたちに批難されては月夜に出て御堂みどう行道ぎょうどうをするが池に落ちてしまう。
源氏物語:13 明石 (新字新仮名) / 紫式部(著)
西洋的なものから採入れようとする一般の風潮は彼の後姿に向っては「葵祭あおいまつりの竹の欄干てすりで」青くれてなはると蔭口を利きながら
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
この美女たちがいずれも長い裳裾もすそを曳き、薄い練絹ねりぎぬ被衣かつぎを微風になぶらせながら、れ違うとお互いにしとやかな会釈を交わしつつ
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
松山は周囲まわりに注意した。店員風のわかい男と、会社員風の洋服男が来てれちがおうとしていた。松山はしっと云って半ちゃんに注意した。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
いたり、かなりの怪我をしているから、品右衛門が背中に背負って、そうして平湯へ来て療治を加えているという出来事でした。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「ふゝん、まだお若いから、」と言ひながら、マツチをしゆつとつて、わざと顔をしかめて、青いけむりをふうと吐きました。
どんぐりと山猫 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
落ちる時手を放して、僕は左を下に倒れて、左の手の甲を花崗岩でりむいた。立ち上がって見ると、彼は僕の前に立っている。
花吹雪 (新字新仮名) / 太宰治(著)
その鷹の羽の紋や足がすつかりれて居るところを見ると、何うかしたら三十年も、五十年も昔に、お求めになつた品ぢや御座いませんか
然し、流石さすがに昔のことを思ふと、氣が引けて話し掛ける勇氣も出なかつた。そしてぐづぐづしてる内に、お互にれ違つてしまつたんだ。
猫又先生 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
路の上で、わたしがまずれちがったのは、肩と肩とを並べてあるいている男の子と女の子とであった。二人は腕を組んではいなかった。
もし山𤢖やまわろか。」と、市郎は咄嗟とっさに思い付いた。で、その正体を見定める為に、たもとから燐寸まっち把出とりだして、慌てて二三本った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
願はくは我等の名汝のこゝろを枉げ、生くる足にてかく安らかに地獄をりゆく汝の誰なるやを我等に告げしめんことを 三一—三三
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
庸三は腹んいになって煙草たばこをふかしていたが、彼女の計算の不正確と、清川の認識不足とのれ違いも分明わかりすぎる感じだった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
入口の左手が一間の欞子窓れんじまどになっていて、自由に手の入るだけの荒い出格子でごうしの奥に硝子戸ガラスどが立っていて、下の方だけ硝子ガラスをはめてある。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
チムニーの背をるような狭いところを這って行く。そこから斜めに上のほうへ折れまがり、そのむこうは潮のつかない砂場になっている。
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それを修繕し修復しみがり動かし光らして、使われなかったために調子がくるっているその古いさびた機械にふたたび油をぬりはじめる。
死刑囚最後の日 (新字新仮名) / ヴィクトル・ユゴー(著)
跫音きようおんみだれて、スツ/\とれつゝ、ひゞきつゝ、駅員えきゐん驚破すわことありげなかほふたつ、帽子ぼうしかたひさしめて、そのまどをむづかしく覗込のぞきこむだ。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
はるかくら土手どてすかしててぶつ/\いひながらかれさら豚小屋ぶたごやちかづいて燐寸マツチをさつとつてて「油斷ゆだんなんねえ」とつぶやいてまたぢた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
伸子さんが燐寸マッチって顔を照らすまでは、いったい誰がたおされたのか、それさえも明瞭はっきりしていなかったというくらいで……。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
私達は初めのうちは、このお婆さんとれ違っても、たれもお婆さんのことなどはかまいませんでしたが、ある日のことです。
納豆合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
りあかめたまぶちに、厳しく拘攣こうれんする唇、またしても濃い睫毛の下よりこぼれでる涙のしずくは流れよどみて日にきらめいた。
あいびき (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
多分、倒れた家から出て来る時に受けたのであろう。膝頭をりむいているほかに、沢山たくさんの擦過傷が、血のあとを残していた。
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
私は夫が留守になると早速日記帳を取り出してみた。セロファンテープは大体元の位置に貼ってあった。表紙も一見り切れた痕がなかった。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そしてはいつも失望して出て来た。りきれた襦袢じゅばんをつけてる古い道化どうけ役者を見るために、金と時間とを費やしたことが多少恥ずかしかった。
呟いて、行きすぎようとするときだった——三斎屋敷の方角から、一人の武家が、月光に、長い影を落してやって来たが、れ違いざまに——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
こんにゃくはこんにゃく芋をりつぶして、一度煮てからいろんな形に切り、それを水にト晩さらしといてあくをぬく。
こんにゃく売り (新字新仮名) / 徳永直(著)
その時には、さすがの彼も、気がひけたとみえて、通信薄のその部分を指先でがして、家に持って帰ったのだった。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
不死人は、さいごに、念を押すと、それこそ、燕が川をるようなはやさを見せて、たちまち、加茂の向うへ渡って行った。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると、やや暫くして、会場の方に当って、塩田真しおだまこと氏がり足であっちこっちを駆けているのがこっちから見えました。
宮内省に出仕していた次男までが、袖口のれた洋服のひざに手を置いて、まるで、打ちひしがれた人間の態度で言った。
(新字新仮名) / 富田常雄(著)
それから彼女は、耳の上に挟んでいたみかけの葉巻をくわえて、うううとうなりながら、私達に燐寸マッチを催促するために、それをる手真似をした。
踊る地平線:10 長靴の春 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
しかし保吉は今日こんにちもなおこの勇ましい守衛の秘密を看破かんぱしたことと信じている。あの一点のマッチの火は保吉のためにばかりられたのではない。
保吉の手帳から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
能の役者は足を水平にしたままって前に出し、踏みしめる場所まで動かしてから急に爪先をあげてパタッと伏せる。
能面の様式 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
然しそれは真珠貝の生身なまみが一顆小砂にられる痛さである。痛みが突きつめれば突きつめるほど小砂は真珠になる。
然しそれは真珠貝の生身なまみが一顆小砂にられる痛さである。痛みが突きつめれば突きつめるほど小砂は真珠になる。
月に吠える:01 序 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
すぐ鏡の横の締切った窓の戸は、下の方は皆りガラスであったが、上部の一駒丈けが透明なガラスになっていた。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「いいえ、そんなに長くはありません。箱をポケットに入れて、消えれば次のをります。どこでも擦れば附きますから、五分マッチともいいます。」
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
仮令たとえ途中でれ違う機会が有ってもなるべく顔を合せないようにして、もし遠くからでも見つけようものなら直に横町の方へ曲ってしまうようにしていた。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
または木の根などに、からだが痛むのもかまわないで、り寄りながら、くるしそうにもだえているのでありました。
寂しき魚 (新字新仮名) / 室生犀星(著)