あるい)” の例文
しかも其の因縁いんえん糾纏錯雑きゅうてんさくざつして、果報の惨苦悲酸なる、而して其の影響の、あるい刻毒こくどくなる、或は杳渺ようびょうたる、奇もまた太甚はなはだしというべし。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「さよう。とりあえず空前とは申しましたものの、あるいは絶後になるかも知れぬと考えられておりますほどの異常な事件で御座います」
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
日比谷ひびや公園、帝国劇場、丸ビル等々を、あるいは車の上から、或はちょっと降りたりして、最大急行で見物し、五時半に東京駅に着いた。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ある者は商家に嫁ぎ、ある者は良人に従って海を越えた遠い国へ移住し、あるいは又ようやくその日を送るだけのかてを得る為に営々と働いていた。
秘められたる挿話 (新字新仮名) / 松本泰(著)
芸者が両肌もろはだ抜いで化粧している処や、お客が騒いでいる有様までが、垣根や板塀を越しあるいは植込の枝の間を透して円見得まるみえに見通される。
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
さいわいに来る汽車の中で、犯人——あるいは犯人の片割かも知れんが——を見つける事が出来たので、名古屋から電報を打っといたのじゃ。
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
かれ生活せいかつはかくのごとくにしていた。あさは八き、ふく着換きかえてちゃみ、それから書斎しょさいはいるか、あるい病院びょういんくかである。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
それは微笑の寸前であるとともに、慟哭どうこくの寸前でもあるようにみうけられる。菩薩の微笑とは、あるいは慟哭と一つなのかもしれない。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
芸術に於ける題材は、それが外界の「物」にあろうと、あるいは内界の「心」にあろうと、さらに本質上に於て異なるところは少しもない。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
あるい不甲斐ふがいない意久地が無いと思いはしなかッたか……仮令よしお勢は何とも思わぬにしろ、文三はお勢の手前面目ない、はずかしい……
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
れからつかまえられたとか斬られたとか、あるいは奥平屋敷の溝の中に人が斬倒きりたおされて、ソレをまた上からやりついたと云うようなおお騒動。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
あるいは運送問屋、苦力クリー及車夫の取締、料理屋、女郎屋の親分などにより組織せられたもので、——行動の如きも極めて巧妙である。
ところが君は何も知らぬ様子なので安心したんだろうけど、でも君の出ようにっちゃあるいはあの女と同じことになったかも知れないぜ……
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
あるいはこの想像が当っているかも知れない。妙子さんを運んだ塵芥ごみ車はすぐ近所の神社の境内に、空っぽにして捨ててあったのだ。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
対手あいては𤢖か、あるいれに似寄により曲者くせものか知らぬが、いずれにしても彼等に襲われた父の運命は、甚だ心許ないものと云わねばならぬ。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あるいはまた、田植えの頃に水喧嘩みずげんかがあって、一人の農夫が怪我をして寝ていると、夜の間に小僧さんが来て、その男の田に水を入れている。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
あの観音様は童子の御姿だとも言い、あるい弥勒菩薩みろくぼさつだとも伝えますが、美しいという点では、血の通っている十六歳の美人でも及びません。
くびのところを突刺つきさされたんです。もう少し早く手当をすれば、あるいは助かったかも知れませんが、斯う出血がひどくては……」
天狗岩の殺人魔 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
だから人の生活はあるいは宿命的であり或は自由であり得るといおう。その宿命的である場合は、その生活が正しき緊張から退縮した時である。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
そう思って来ると、自分の子供らしさが、恥しいと同時に、寂しい頼りない気がした。あるいは、あれ切りもう一生われない人かも知れない。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
土手の方からさっと来たが、都合三輛か、それあるいは三びきか、三びきか、つばめか、兎か、見分けもつかず、波の揺れるようにたちまち見えなくなった。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
此の山口と申す処にも五六軒温泉宿が有ります、其のほか餅を売ったりあるいすし蕎麦などを売る店屋が六七軒もあります。小坂こざかへかゝると馬士まご
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あるいはまた、一夜に髪の色を白くするような事件に捲きこまれて見たいというような愚にもつかぬかんがえを抱いて居たのである。
狂女と犬 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
ロセッチはあるいはこれを縦に弾くものと誤解したのかもしれぬが、この物凄い魔の女に取合とりあわした対照は実にいと思った。
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
真女児は、「我身おさなきより、人おおき所、あるいは道の長手ながてをあゆみては、必ず気のぼりてくるしきやまいあれば、従駕ともにぞ出立いでたちはべらぬぞいとうれたけれ」
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
貴女あなたは私を離婚すると里子に言ったそうですが、その理由わけを聞きましょう。離婚するなら仕ても私は平気です。あるいむしろ私の望むところで御座います。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
それが、上からなされる開拓地の気分であった。官員の行動は絶対であった。あるいは官員だけが人間としての待遇を受けた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
足元には、白い泡をうかべた荒潮が、あるいは高く、或は低く満ち引きしています。そして海鳴うみなりのような音さえ聞えるのです。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それはあるいは今から五六十万年或は百万年を数へるかも知れません、その頃今の北上の平原にあたる処は、細長い入海か鹹湖で、その水は割合浅く
イギリス海岸 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
わたくし一人の考えでは、何かわるいものにかれなされたとしか思えません。それとも、あるいは山々の何かのつきものとも思えるのでございます。
あじゃり (新字新仮名) / 室生犀星(著)
避けるとするも行く先きの永い子供は可愛かわいそうだ一命に掛けても外国人の奴隷にさしたくないあるい耶蘇やそ宗の坊主にして
福沢諭吉 (新字新仮名) / 服部之総(著)
僕はあるいは汽車の中から山を焼いている火を見たり、或は又自動車の中から(その時は妻子とも一しょだった)常磐橋界隈ときわばしかいわいの火事を見たりしていた。
歯車 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私達わたくしたちでさえ、すでにこれなのでございますから、現世げんせ方々かたがた戸惑とまどいをなさるのもあるい無理むりからぬことかもれませぬ。
あるいは僧門の人であり、後世専門的彫刻家が輩出するようになっても皆所謂いわゆる大仏師であって、定朝以来皆法印、法眼、法橋のような僧綱そうごうを持していた。
本邦肖像彫刻技法の推移 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
あるいは長生するやもはかられざれども、また今直ちに何事か起り来るありて、にわかに死するやも料られざるにはあらずや。
一夜のうれい (新字新仮名) / 田山花袋(著)
彼女の稽古事が新時代的のものや知識的のものに移って行ったのも、あるいはまたその現れの一つと云えるかも知れない。
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
もっとも咯血したりとて必ず死すとも限らねどあるいは先日腫物はれもの云々の報知ありしころの事にはあらずやなど存じ候。秘し居るにはあらずやなど存じ候、いかゞ
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
あるいは倫敦消息は読みたいが「猫」は御免ごめんだと逃げるかも分らない。然し「猫」は余を有名にした第一の作物である。
妻を有ちながら、他の女に通ぜねばならなくなった、あるいはそういう事を考えねばならなくなった男があるとする。
性急な思想 (新字新仮名) / 石川啄木(著)
あるいは渡しを向うへ渡って、そこで知合のうちを尋ねてお島の体の始末をする目算であったであろうが、お島はその場合、水を見ている父親の暗い顔の底に
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ええ、御承知の通り現在、我が広島市へは東京をはじめ、名古屋、あるいは大阪、神戸方面から、つまり各方面の罹災者りさいしゃが続々と相次いで流込んでおります。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
追伸ついしん、この手紙に、僕は、言い足りない、あるいは言い過ぎた、ことの自己嫌悪を感じ、『ダス・ゲマイネ』のうちの言葉、『しどろもどろの看板』を感じる。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
こうに、「御字を補ひつ」と云ったのはほしいままに過ぎた観があってもあるいは真相を伝えたものかも知れない。「中大兄三山歌」(巻一・一三)でも「御」の字が無い。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
以前は最下等のうなぎどんぶり位で済ませたものがにわかに種々の趣向が出て、あるいあゆすしに茶菓子が出る事もあり、中には自分の家から手打蕎麦てうちそばこしらえて来る事もあり
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
公方の哀憐あいれんを求めれば、あるいは、伜だけは、不名誉からすくわれるかも知れぬが、それが出来る三斎ではない。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
手が無くっても、足が無くっても、あるいは目が無くっても、人間はまだしも忍び得られるのだが、さして必要のなさそうな鼻が無くっては最も汚辱を感じるのだ。
武州公秘話:02 跋 (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
そしてひっきりなしに身体のあちらこちらに、丁度大地震のあとに起る無数の小さな余震のように、あるいは頭痛が、或は神経痛が、或は歯痛が次ぎ次ぎに起った。
恢復期 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
らに第二の徳川政府を見るにぎざるべしと一般に予想よそうしたるも無理むりなき次第しだいにして、維新後いしんご変化へんかあるいは当局者においてはみずから意外いがいに思うところならんに
時間的に人事の変遷とか、あるいは事件の推移を書かないで、自分の官能を刺戟したものを気持で取扱って、色彩的に描写すると云うことは新らしき文芸の試みである。
動く絵と新しき夢幻 (新字新仮名) / 小川未明(著)
けだし天女ここに嘆き、清躯せいく鶴のごとき黄巾こうきんの道士がきたって、ひそかにたんを練り金を練る、その深妙境しんみょうきょうをしてここに夢み、あるい遊仙ゆうせんおかと名づけられたものであろう。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)