こは)” の例文
「あの人は真面目むきだから怒るとこはいぜ。それに、今度のことぢや、若旦那、篦棒べらぼうなのぼせやうをして居なさるんだつて言ふからな。」
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
「だつてお父様、ジウラさんは男のくせに、お馬にのることが下手で、落ちるのがこはいからいやですつて行かうといひませんもの」
ラマ塔の秘密 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
しかしこれは人をあやめるものではなく、仏さまの守護神まもりがみであることを爺は知つてゐますので、ちつともこはいとは思ひませんでした。
天童 (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
渡し守は、彼が渡し舟に乗るのをことわらうとした。しかし、彼の腰にさしてゐる刀がこはかつたので、黙つて向かふ岸へ渡してやつた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
一向人も来ないやうでしたからだんだん私たちはこはくなくなってはんのきの下のかやをがさがさわけて初茸はつたけをさがしはじめました。
二人の役人 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
さうして、こはい目を見つけたものが逸早く店の女へ合圖あひづをするのであつた。合圖がかゝると女は素早く窓を閉めて奧へ引き込む。
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
こはい夢を見て目を開くと九時であつた。桃を呼んで見たがまだ帰らないらしい。風が戸に当つて気味の悪い音を立てゝ居た。
六日間:(日記) (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
さてはわがこはがらないのか、ちつともこはいとおもつてゐない。このには、あたしのおそろしい白栲しろたへが、御主おんあるじのそれとおなじにえるのだ。
それにわたくしあやふければ、おとうとたすけてくれます、わたくしもまたおとうと一人ひとりころしません。それ二人ふたりとも大丈夫だいぢやうぶおもひますから。すこしもこはくはござらぬ。
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「お嬢さんと同じぐらゐの年のお友達が沢山この部屋に入りましたよ。みんな、ちつともこはくないと云ひましたよ。さあ、すぐ済みますよ。」
亜剌比亜人エルアフイ (新字旧仮名) / 犬養健(著)
かはづは愛嬌者で、へその無い癖に人間並に一つは持合せてゐるらしい顔つきをしてゐるが、広い世間にはこんな愛嬌者を何よりもこはがる人さへある。
細木夫人はその瞬間、自分の方を睨んでゐる、一人の見知らぬ少女の、そんなにもこはい眼つきに驚いたやうだつた。
聖家族 (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
「することもあるんですけれど、目がさめた時は、下へ行くの暗くてこはいから、七輪のなかへするんです。」
チビの魂 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
へどをいたり下痢げりをしたりする不風流な往生わうじやうやである。シヨウペンハウエルがコレラをこはがつて、逃げて歩いたことを読んだ時は、甚だ彼に同情した。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
と、阿父おとうさんが晃兄さんを切諌せつかんなさる時のこはい顔が目にうかんだので、此の縄をつては成らぬと気が附いた。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
「美代が悪いんだ」と、兄は怒つてでもゐるやうなこはい顔をして、かぶせるやうな強い口調で云つた。
イボタの虫 (新字旧仮名) / 中戸川吉二(著)
『可哀相よ、あの方は。………………………………………………………………………………………。………真個ほんとに私あのお話を聞いてゐて、こはくなつたことよ。』
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
犬の八公とその犬達とがをれば、泥坊どろばうも何もこはいことはありません。昼間はふまでもなく夜分でも、うちを空けて構ひませんし戸を開いたまゝ眠つても構ひません。
犬の八公 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
わざこはい顏をしますと、千代は驚いて女中部屋の方へ駈けて參りました。千代は正直者だから、斯ういふ風に言へば、きつとお時を寄越さずには置くまいと思つたのです。
反古 (旧字旧仮名) / 小山内薫(著)
て、ちがふもの——はいぶよはいはうるさがられ、ぶよこはがられてます。ぶよひとをもうまをもします。あのながくて丈夫ぢやうぶうま尻尾しつぽ房々ふさ/\としたは、ぶよひ拂はらのにやくつのです。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「でも……。」と弓子は当惑の色を浮べてゐたが、「でも……うち、ちよつとした拍子で、ぢきにお祈りしたうなるのやもん。うち、なにやら年をとるんがこはうなつて来ますのやもの。」
鬼神 (新字旧仮名) / 北条民雄(著)
水色みづいろ薔薇ばらの花、虹色にじいろ薔薇ばらの花、怪獸シメエルの眼に浮ぶあやしい色、水色の薔薇ばらの花、おまへのまぶたを少しおあげ、怪獸シメエルよ、おまへはめんと向つて、ぢつと眼と眼と合せるのがこはいのか、僞善ぎぜんの花よ
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
こはいうちにも優しい顔して、地平のかたへと進みゆく!……
こはや、あかしや、まだなゝつ。
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
君、あの男はこはいぜ。
少年の死 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
そのうへに今のやうにちやんと普段から支度がとゝのへてありませんから、たゞこはがつて、あわててばかりゐて、一向だめでした。
拾うた冠 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
そんなものらないと私たちは思ひましたが役人が又まじめになってこはくなりましたからだまって受け取りました。そして林を出ました。
二人の役人 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
うもさうらしい、はねへたうつくしいひとうも母様おつかさんであるらしい。もう鳥屋とりやには、くまい、わけてもこのこはところへと、其後そののちふつゝり。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
戸田采女正うねめのしやう一西かずあきといふと、徳川秀忠について真田昌幸さなだまさゆきを信州上田の城に攻めた智恵者だが、この智恵者の家来に人並外れて蛇をこはがる男があつた。
中が真暗まつくらこはかつたので、半ときばかり泣いてあばれてゐて、やうやく許された。あのやり方は随分ききめがあつた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
雨の中へ重いひかるを抱いて出まして、叔母さんがこはいから逃げてきませうなどと云ひました。私を介抱して下すつたのは春夫さんと菽泉しゆくせんさんでした。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
こはがつてゐますか。それとも内心は待つてゐてくれるやうですか。——さうです。あの人達は何もしないでもよろしいですわ。ほんとに、たゞ、待つてゐてさへくれれば
南京六月祭 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
この人に出逢であつたら、汽車だつて、何だつてかなはねえ。ううんと一息にはねとばされてしまふ。それで騎士屋に注意すべしさ。汽車の方でこはかつたのだな。それがどうだ。
騎士屋 (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
どの駅でもこはい顔の蒙古犬もうこいぬいかめしいコサツク兵や疲れた風の支那人やが皆私の姿をいぶかさうに見て居た。夕方に広い沼の枯蘆が金の様に光つた中に、数も知れない程水鳥の居るところを通つた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
人々ひとびと御主おんあるじよ、われをもつみくなしたまへ、この癩病らいびやうものを。」あゝさむしい、あゝ、こはい。だけに、生来しやうらいしろいろのこつてゐる。けものこはがつてちかづかず、わがたましひげたがつてゐる。
彼女のこはい父親の、今日はゐないをいいことに。
蟾蜍ひきがへるよっ。——なにもこはい事は無い。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
こはや、赤しや、まだ七つ。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
「ウルフの畜生奴ちくしやうめ、やつぱり出て来ないな。」と、下村は幾分か失望したやうな口振で言つた。「やつぱり帝国軍艦『伊吹』がこはいのだらう。」
怪艦ウルフ号 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
むかし有馬兵庫頭ひやうごのかみといふ人があつた。その人は一代のうちに色々いろんな仕事もしたらしいが、その仕事よりも蟹をこはがつたので今だに名を残してゐる。
父樣おとつさんいおかたで、それきりあとえるやうなわること爲置しおかれたかたではありませんから、わたくしどもは甚麽どんなあぶなこは出會であひましても、安心あんしんでございます。
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
虎猫は、はじめはこはい顔をしてそれでも頭を下げて聴いてゐましたが、たうとう、よろこんで笑ひ出しました。
「海坊主の時は、もうこはくはなかつた。それよりも、帆まへ船の方が気味がわるかつたぞよ。」
海坊主の話 (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
さうです、玉島の円通寺ゑんつうじです。それでわたしは、よつぽど弟子にしてつれていつて下さいと、頼みたかつたのですが、やつぱり駄目でした。家を遠く離れてゆくのがこはいのです。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
空地あきちの左の大きい高い家は思ひ切つて酒落しやれて建てられた家で、家の壁にはいろんなモザイク模様がある。石段のぐ脇になつて居る門の二つの柱には鬼のやうなこはい顔がかれてゐる。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「飯島君の薬もき過ぎたのさ。——宇宙論なんぞまだ早いのだ。——みんながそろ/\こはがり出した時に、いゝ加減にやめて置けばよかつたんだよ。——あゝいふ宇宙論といふのは結局小乗論ぢやないか」
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
なんこはいものですか、真白まつしろかたですもの。
そればかりでなく、その大女は魔物だけあつて、魔法をつかふことができるといふので、土地の人たちは何よりもそれを一ばんこはがつてゐました。
虹猫の大女退治 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
どれ貸してごらん、ああ、とってるとってる。みんながりがりとってるねえ。たうもろこしはこはがってみんな葉をざあざあうごかしてゐるよ。娘さんたちは髪の毛を
畑のへり (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
で、はじめのうちうしてもひととりや、けだものとはおもはれないで、やさしくされればうれしかつた、しかられるとこはかつた、いてると可哀想かあいさうだつた、そしていろんなことをおもつた。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)