トップ
>
引摺
>
ひきず
ふりがな文庫
“
引摺
(
ひきず
)” の例文
赤帽のいない駅なので、自分のお粗末な
革鞄
(
トランク
)
をまるで
引摺
(
ひきず
)
るようにして、空架橋の線路の向う側からこっち側へと昇って降りて来た。
田舎医師の子
(新字新仮名)
/
相馬泰三
(著)
傾斜へ出かかるまでの自分、不意に自分を
引摺
(
ひきず
)
り込んだ危険、そして今の自分。それはなにか均衡のとれない不自然な連鎖であった。
路上
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
陸
(
おか
)
の麦畑の間にある
路
(
みち
)
から、
中脊
(
ちゅうぜい
)
の
肥満
(
ふと
)
った
傲慢
(
ごうまん
)
な顔をした長者が、
赤樫
(
あかがし
)
の
杖
(
つえ
)
を
引摺
(
ひきず
)
るようにしてあるいて来るところでありました。
宇賀長者物語
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
之
(
これ
)
が
引摺
(
ひきず
)
つて、
足
(
あし
)
を
見
(
み
)
ながら
情
(
なさけ
)
なさうな
顔
(
かほ
)
をする、
蟋蟀
(
きり/″\す
)
が
𢪸
(
も
)
がれた
脚
(
あし
)
を
口
(
くち
)
に
啣
(
くは
)
へて
泣
(
な
)
くのを
見
(
み
)
るやう、
目
(
め
)
もあてられたものではない。
高野聖
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
誰
(
だれ
)
だ
己
(
おれ
)
の
真似
(
まね
)
をするのは。と
云
(
い
)
つて腹を立て、
其男
(
そのをとこ
)
を
引摺
(
ひきず
)
り出して
打
(
ぶ
)
ん
殴
(
なぐ
)
つたところが、
昨日
(
きのふ
)
自分の
連
(
つ
)
れて歩いた
車夫
(
しやふ
)
でございました。
年始まはり
(新字旧仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
▼ もっと見る
川岸の
灌木
(
かんぼく
)
や
蘆
(
あし
)
の繁っているところへ
引摺
(
ひきず
)
ってゆき、押倒して、しのの唇へ、頬へ、いたるところへ狂ったようにくちづけをした。
はたし状
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
衆生をじめじめした暗い穴へ
引摺
(
ひきず
)
ってゆくのでなくて、
赫灼
(
かくしゃく
)
たる光明を高く仰がしめるというような趣がいかにも尊げにみえる。
春の修善寺
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
絶えずそれに
引摺
(
ひきず
)
られて行く気分のわたし、それでも山へ登る気持はしないで、濡れない海の中を深く潜り入るような感じが不思議です。
大菩薩峠:35 胆吹の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
王子の
停車場
(
ステーション
)
へついたのは、もう晩方であったが、お島は
引摺
(
ひきず
)
られて行くような暗い心持で、やっぱり父親の
迹
(
あと
)
へついて行った。
あらくれ
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
正気の針を夢の中に
引摺
(
ひきず
)
り込んで、夢の中の刺を前後不覚の
床
(
とこ
)
の下に
埋
(
うず
)
めてしまう分の事である。ところがそうは行かなかった。
坑夫
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
木枯の吹く寒い日に、計算翁は例の如く黒い服を裾長く
地面
(
じびた
)
に
引摺
(
ひきず
)
って、黒頭布を被って、手に聖書を持って、町の中を右左に歩き廻った。
点
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
われわれは
一先
(
ひとまず
)
土間へ下した書物の包をば、よいしょと覚えず声を掛けて畳の方へと
引摺
(
ひきず
)
り上げるまで番頭はだまって知らぬ顔をしている。
梅雨晴
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
紫陽花
(
あじさい
)
のような感じのする娘お妙が、不自由な足を
引摺
(
ひきず
)
ってお勝手へ出て来ると、父親の袂を引いて、その
我武者羅
(
がむしゃら
)
な強気を牽制しながら
銭形平次捕物控:244 凧の糸目
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
ところで、ここのお
引摺
(
ひきず
)
りの家の小部屋をフォマという男が借りてるんだよ。このフォマは土地の者で兵隊あがりの男なのさ。
カラマゾフの兄弟:01 上
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
肉屋の亭主が手早く細引を投げ掛けると、数人その上に馬乗りに乗って脚を締めた。豚はそのまま屠場へ
引摺
(
ひきず
)
られて行った。
千曲川のスケッチ
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
実際髯
抔
(
など
)
は
何
(
ど
)
うでも
可
(
い
)
い、問題は尻尾の
有無
(
あるなし
)
である。女の嫁きたがる男には狐の様によく尻尾を
引摺
(
ひきず
)
つてゐるのがある。
茶話:02 大正五(一九一六)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
マチルドは、お
引摺
(
ひきず
)
りが足に
纏
(
まつ
)
わりつくと、自身でそれをまくり上げ、指の間に
挾
(
はさ
)
む。にんじんは、片足を上げたまま、優しく、彼女を待っている。
にんじん
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
ばばは、
罵
(
ののし
)
って、彼女が何かいえばいうほど、もがけばもがくほど、黒髪を
引摺
(
ひきず
)
りまわし、踏んだり
打擲
(
ちょうちゃく
)
したりした。
宮本武蔵:08 円明の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
しかし、その
石塊
(
いしころ
)
は彼のまえを歩いている薄汚い子供が、糸で結んで
引摺
(
ひきず
)
っているのだということが直ぐに判った。
葉
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
その背後から候補生が、絶大の苦痛に価する一歩一歩を
引摺
(
ひきず
)
り始めた。夜目にも白々とした苦しそうな呼吸を、大地にハアハアと吐き落しながら……。
戦場
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
お千は
引摺
(
ひきず
)
られるようにして、でも嬉しくもなさそうに眼を細くして、杜の云いなり放題にドンドン引張られていった。杜は柳島までも行かなかった。
棺桶の花嫁
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
二階に張出しがあってちょっといいと妻が見て来ていうので、私もそのままスリッパを
引摺
(
ひきず
)
って出て往って見た。
晩夏
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
てっきり赤ン坊は焼け死ぬものと誰もが思ったが、小さい
布団
(
ふとん
)
のまま
引摺
(
ひきず
)
り出されて眠っていたという子は、支那人の人浚いの難からも逃れたのだった。
旧聞日本橋:03 蕎麦屋の利久
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
予が
漸次
(
ぜんじ
)
浮腫を
来
(
きた
)
すや、均しく体温上昇し、十二月は実に
病
(
やまい
)
の花盛りなりしが如し、然れども足を
引摺
(
ひきず
)
りながらも、隔時の観測だけは欠くことなかりしが
寒中滞岳記:(十月一日より十二月廿一日に至る八十二日間)
(新字新仮名)
/
野中至
(著)
思わず理屈を
捏
(
こ
)
ねたが、この時は理屈どころではない。疲れて足を
引摺
(
ひきず
)
り引摺り、だんだん山道に差し掛かる。
本州横断 癇癪徒歩旅行
(新字新仮名)
/
押川春浪
(著)
欧洲から日本へ、日本から欧洲へと往復するにもただプラプラと青い尻尾さえ
引摺
(
ひきず
)
れば
済
(
す
)
むのだから、今の若い日本の画家等にとっては大変な
福音
(
ふくいん
)
なのだ。
楢重雑筆
(新字新仮名)
/
小出楢重
(著)
さうでないと、
簀子
(
すのこ
)
の
上
(
うへ
)
へ
叩
(
たゝ
)
き
伏
(
ふ
)
せて、
引摺
(
ひきず
)
って
行
(
ゆ
)
かうぞよ。おのれ、
萎黄病
(
ゐわうびゃう
)
で
死
(
し
)
んだやうな
面
(
つら
)
をしをって! うぬ/\、
碌
(
ろく
)
でなし! おのれ、
白蝋面
(
びゃくろうづら
)
めが!
ロミオとヂュリエット:03 ロミオとヂュリエット
(旧字旧仮名)
/
ウィリアム・シェークスピア
(著)
ば
引摺
(
ひきず
)
り込み
結納
(
ゆひなふ
)
までも
取交
(
とりかは
)
せしぞ
息子
(
せがれ
)
の
意
(
こゝろ
)
に
叶
(
かなう
)
たる者にてあらばとは
云
(
いふ
)
たれど惡ひ病があつても
能
(
よ
)
いと我々夫婦は決して云ぬに
和郎
(
そなた
)
は左樣な
女兒
(
むすめ
)
とも知ずに
縁
(
えん
)
を
大岡政談
(旧字旧仮名)
/
作者不詳
(著)
与兵衛は早速
駈
(
か
)
け
上
(
あが
)
つて行つてその親猿の手をソツと掴んで下へ三尺ばかり
引摺
(
ひきず
)
りますと、山の上の方から
土瓶
(
どびん
)
のまはり程の大きな石が、ゴロ/\と転つて来ました。
山さち川さち
(新字旧仮名)
/
沖野岩三郎
(著)
毎日毎日疲れた足を
引摺
(
ひきず
)
って、減った腹を抱えて、就職口を探している哀れな青年なんだ。
愛の為めに
(新字新仮名)
/
甲賀三郎
(著)
昨日
(
きのう
)
は酒屋の御用が来て、こちらさまのに
善
(
よ
)
く似た犬の首玉に児供が縄を縛り付けて
引摺
(
ひきず
)
って行くのを
壱岐殿坂
(
いきどのざか
)
で見掛けたといったから、直ぐ飛んでって
其処
(
そこ
)
ら中を
訊
(
き
)
いて見たが
二葉亭余談
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
なにも好んで俳句をそこまで
引摺
(
ひきず
)
って行かねばならぬ理由はない。俳句は俳句として表現するに適当な思想内容があるはずである。
其処
(
そこ
)
に気がつかないというのは
迂遠
(
うえん
)
なことである。
俳句への道
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
亢奮した心のめりはりに
引摺
(
ひきず
)
られながら、伸子が佃との関係で彼女にかけた苦労を思い知るべきだということや、伸子の芸術が、目に見えて堕落し始めたというようなことを攻撃した。
伸子
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
陰気な、間違えば、ひとを
引摺
(
ひきず
)
り込むような、危険な
遊戯
(
ゲーム
)
に
耽
(
ふけ
)
っておられる。いったい、なんです。たかが、伝説じゃありませんか、それが、この屍体の流血になんの関係があります!?
潜航艇「鷹の城」
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
蒸風呂にはいり過ぎたようなけだるさに、一歩一歩重い足を
引摺
(
ひきず
)
るようにして、私は歩いて行く。足が重いのは、一週間ばかり寝付いたデング熱がまだ治り切らないせいでもある。疲れる。
環礁:――ミクロネシヤ巡島記抄――
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
と、
這出
(
はいだ
)
す。
脚
(
あし
)
を
引摺
(
ひきず
)
りながら力の脱けた手で動かぬ体を動かして行く。死骸はわずか一間と隔てぬ所に在るのだけれど、その一間が時に取っては十里よりも……遠いのではないが、難儀だ。
四日間
(新字新仮名)
/
フセヴォロド・ミハイロヴィチ・ガールシン
(著)
彼は
疾
(
とっ
)
くに既うこうして謝罪りたかったのであったが、
流石
(
さすが
)
に女の前では
出来難
(
できにく
)
かった間に、ずんずんと女に
引摺
(
ひきず
)
られて嘘許り云ったのであった。其処へ持って来て巡査は
飽迄
(
あくまで
)
彼を追窮した。
偽刑事
(新字新仮名)
/
川田功
(著)
讀
(
よ
)
んでゐると、その
冴
(
さ
)
えた力に
驚
(
おどろ
)
き、亦
引摺
(
ひきず
)
られても行きますが、さて頁を伏せて見て、ひよいと今
作者
(
さくしや
)
に依つて
描
(
ゑが
)
かれた人物の
心理
(
しんり
)
を考へて見ると、人物の心理の
線
(
せん
)
や
筋
(
すぢ
)
丈
(
だ
)
けは
極
(
きは
)
めて
鮮
(
あざや
)
かに
三作家に就ての感想
(旧字旧仮名)
/
南部修太郎
(著)
彼は女を半ば
引摺
(
ひきず
)
りながら、丸太町通りまで引き返して、道ばたで介抱して居ると、ちょうど一台の
空
(
から
)
自動車が来たので、呼びとめて、わが家へ連れて来た事、とりあえず寝台に横たわらせて
好色破邪顕正
(新字新仮名)
/
小酒井不木
(著)
そう
仰有
(
おっしゃ
)
ると、ロダンさんは別室から、等身大の彫像を奇蹟的な偉大な力で、妾の前に
引摺
(
ひきず
)
っていらっしゃったのです。妾はその彫像を見ると、妾に何ものかが唯心的な理解力を生んだのです。
バルザックの寝巻姿
(新字新仮名)
/
吉行エイスケ
(著)
目科は夫を詰らぬ事と言い無理に余を
遮
(
さえぎ
)
らんとす、余はむッとばかりに
憤
(
いきどおり
)
しかども目科は眼にて余を叱り、二言と返させずして
匆々
(
そこ/\
)
倉子に分れを告げ、余を
引摺
(
ひきず
)
らぬばかりにして此家を
起立
(
たちいで
)
たり。
血の文字
(新字新仮名)
/
黒岩涙香
(著)
私はただ黙って皆を
引摺
(
ひきず
)
ってゆけば良いのだ。
夜の靴:――木人夜穿靴去、石女暁冠帽帰(指月禅師)
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
鼠の服でしよんぼりと足を
引摺
(
ひきず
)
るいぢらしさ。
牧羊神
(旧字旧仮名)
/
上田敏
(著)
飛ぶ方へ止める力は
引摺
(
ひきず
)
られ
鶴彬全川柳
(新字旧仮名)
/
鶴彬
(著)
同時に、
戸外
(
おもて
)
を
山手
(
やまて
)
の
方
(
かた
)
へ、からこん/\と
引摺
(
ひきず
)
つて行く
婦人
(
おんな
)
の
跫音
(
あしおと
)
、私はお辻の
亡骸
(
なきがら
)
を見まいとして
掻巻
(
かいまき
)
を
被
(
かぶ
)
つたが、案外かな。
処方秘箋
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
哀れた忠義者は、
苛酷
(
かこく
)
な運命と強い意志とに
引摺
(
ひきず
)
られ乍ら、こんな異常な樂しみに、僅か自分の生活を見出して居たのでせう。
銭形平次捕物控:161 酒屋忠僕
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
私の
穿
(
は
)
いていた
藍縞仙台平
(
あいじませんだいひら
)
の
夏袴
(
なつばかま
)
は死んだ父親の形見でいかほど
胸高
(
むなだか
)
に
締
(
し
)
めてもとかくずるずると
尻下
(
しりさが
)
りに
引摺
(
ひきず
)
って来る。
日和下駄:一名 東京散策記
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
と云って逃げようとするおあさの
髻
(
たぶさ
)
を取って、二畳の座敷へ
引摺
(
ひきず
)
り込み、
隔
(
へだて
)
の
襖
(
ふすま
)
を
閉
(
た
)
てましたが、これから
如何
(
いかゞ
)
なりましょうか、
次回
(
つぎ
)
に述べます。
業平文治漂流奇談
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
「何だい」と立って行くと彼女はどこからか、大きな
信玄袋
(
しんげんぶくろ
)
を
引摺
(
ひきず
)
り出して、「これお貞さんのよ、見せたげましょうか」と自慢らしく自分を見た。
行人
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
それから野良の元兇は農舎へ
引摺
(
ひきず
)
って行ってつないで置き、さて全く改心の見込無きものとして断然死刑に処してしまうか、或いは相当期間
禁錮
(
きんこ
)
して
百姓弥之助の話:01 第一冊 植民地の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
引
常用漢字
小2
部首:⼸
4画
摺
漢検準1級
部首:⼿
14画
“引摺”で始まる語句
引摺込
引摺出
引摺上
引摺倒
引摺々々
引摺下
引摺寄