さき)” の例文
書く時には原稿紙の方を動かして右の手の筆のさきへ持つて往てやるといふ次第だから、只でも一時間か二時間かやると肩が痛くなる。
ラムプの影 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
むっとこもった待合のうちへ、コツコツと——やはり泥になった——わびしい靴のさきを刻んで入った時、ふとその目覚しい処を見たのである。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小当りに当ってみても温順の如く鄭重ていちょうに、或いは鄭重の如く温順に受流すばかりで、短気なところなど爪のさきほどもみつからなかった。
評釈勘忍記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
飛込んだガラツ八、絡み付くお喜代に手が伸びると、平次はそれに引かれるやうに、僅かに身をかはして辛くも匕首のさきけます。
尺八の穴みなビューッと鳴って、一角の大刀を大輪おおわに払うと、払われたほうは気をいらって、さっとそのさき足下あしもとからずり上げる。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
種々くさ/″\なる旗章は其さきひるがへれり。光景は拿破里ナポリに似たれど、ヱズヰオの山の黒烟を吐けるなく、又カプリの島の港口によこたはれるなし。
それは多分ステッキで上から押して見て何も入っていないと知るとステッキのさきでこの溝へはじき込んだものにちがいありませんでした。
三角形の恐怖 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その男のいふのでは、牛程人間の役に立つものはすくない。田をたがへし、荷車をき、頭から尻尾しつぽさきまで何一つ捨てるところも無い。
此時このときいへいて、おほきなさら歩兵ほへいあたまうへ眞直まつすぐに、それからはなさきかすつて、背後うしろにあつた一ぽんあたつて粉々こな/″\こわれました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
新一は母親の声を聞きながら手にした短刀の刃さきに眼をやった。血とも脂とも判らないうす赤いねっとりしたものが一めんに附着していた。
狐の手帳 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
デン/\太鼓のさきには桃太郎の首までが附いてゐた。『これは珍らしい。多謝! 多謝!』老人はさすがに単純な笑顔に変つてしまつた。
南京六月祭 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
見れば、恥辱を感じたのか、氣の毒と思つたのか、それとも怒つたのか、耳の根迄紅くなつて、鉛筆のさきでコツ/\と卓子テーブルつついて居る。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
ゴシツクの塔が中断せられて意外な所でさきを見せたり、高い屋根の並ぶ大路おほぢが地下鉄道のほらの様に見えたりするのも霧のせいだ。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
カンボジア人言うは虎より出る時、何気なく尾が廻る、そのさきを見て向う所を占う(アイモニエー『柬埔寨人風俗迷信記ノート・シユル・レ・クーツーム・エ・クロヤンス・スペルスチシヨース・デ・カンボジヤン』)。
翼はさきの見えざるばかり高くあがれり、その身のうちに鳥なるところはすべて黄金こがねにてほかはみな紅まじれる白なりき 一一二—一一四
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
伸びきった左手の長剣、濡れ燕、斬っさきから肩まで一直線をえがいて微動だもせず、畳のうえ三尺ばかりのところに、とどまっています。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
木村は今云ったような犬塚の詞を聞く度に、鳥さしがそっとうかがい寄って、黐竿もちざおさきをつと差し附けるような心持がする。そしてこう云った。
食堂 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そこで彼は狭窄衣の丈夫な袖を縄にり、鉄棒のさきやりになっているところへ引っかけて、全身の重みでそれにぶら下がった。
そのあんぺらは彼にとって殆んど外套の代用をなしているものであるし、またその包みは年中杖のさきにぶらさげて持ちあるいているのである。
乞食 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
喬介は撥形鶴嘴ビーターを受取ると、その柄先の穴を、例の鉄棒のさき充行あてがってグッと押えた。するとスッポリふさがって、撥形鶴嘴ビーターは鉄棒へぶら下った。
気狂い機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
さてさきの太い鉛筆を何度も何度も紙の上で振りながら、安全装置をほどこされぬ上靴製工場のガス中毒について書くだろう。
モスクワ印象記 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
がらにもない華奢きゃしゃ洋杖ステッキ蝙蝠傘などを買って来たのがそもそもの過りであった、私は苦笑して、その柄とさきとを両手に持った。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
町には古い火の見やぐらが立っていた。櫓のさきには鉄葉ブリキ製の旗があった。その旗は常に東南の方向になびいていた。北西の風が絶えず吹くからである。
不思議な鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
砂を蹴る気持ちで脚を踏み下す時必ず足さきよりせよ、踵は不可、踏んだ拍子に『ハツシー』といへ云々。夫が中々巧く行かないので散々繰返す。
相撲の稽古 (新字旧仮名) / 岡本一平(著)
がそれは冷たいコチリという音がして鋤のさきにぶつかって手毬のようにコロコロと転がりさま一同の方へ歯をむき出した。
タチヨーはすなわち立て硫黄であって、さきだけに火を引きやすい硫黄を塗ったために、しばらくはこの木を立てて置くことができたからの名と思う。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
男のやうに太いその指のさきを伝うて、彼等のひとみの落ちたところには、黒つぽい深緑のなかに埋もれて、目眩まぶしいそはそはした夏の朝の光のなかで
二束ほど車に投げ込んで、三束目を上げようとして熊手をつき込むと、そのさきが、小悪魔の背中へ、突き刺さりました。
イワンの馬鹿 (新字新仮名) / レオ・トルストイ(著)
「与四郎さん、こんなとこで寝てなはる。用事あるんやわ、もう起きていなあ、」鼻のさきを摘まれる。美しい年増夫人のやわらかくしなやかな指。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼は極めて用心深く一鋤々々ひとすきひとすき、掘り下げて行ったが、深夜のことではあるし、鉄のさきに土の当る音は、とにかく重々しく、隠しおおせるひびきではない。
白光 (新字新仮名) / 魯迅(著)
ボーイ長の左足は、銃剣のさきのように、白木綿しろもめんでまん丸くふくれ上がっていた。そのさきがストーブの暖かみで、溶けた雪粉によって湿らされていた。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
これこそルパンのねらった機会だ。障害物が除去せらるるや否や長靴のさきでドーブレクの向脛むこうずねに得意の一撃を与えた。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
それに、黒地のついへ大きく浮き出している茅萱ちがや模様のさきが、まるで磔刑槍はりつけやりみたいな形で彼女のくびを取り囲んでいる。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
肉は肉、骨は骨で切り放してしまいますと、峰の上あるいは巌のさきに居るところの坊主鷲はだんだん下の方に降りて来て、その墓場の近所に集るです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
そして大抵は先に来て、青いベンチの前の砂利じゃりにパラソルのさきで何かの形を描きながら、しかも注意ぶかくあたりを警戒してゐるらしい彼女を発見した。
青いポアン (新字旧仮名) / 神西清(著)
長羅は剣のさきで鹿の角を跳ねのけると、卑弥呼を見詰めたまま、飛びかかる虎のように小腰こごしかがめて忍び寄った。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
一時に濛々もうもうと、凍えた煙を噴きあげて空間を晦冥かいめいに包んでしまった。刺すような冷気が、衣類の織りめから千本の鋭いきっさきとなって肌につき刺さった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
鼓村氏は閉口した時にする、頭のさきの方より、くびすじの方が太いのを縮めて、それが、わざと押込みでもするかのように、広い額に手をあてながら座についた。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
侍は、こう叫ぶと、刀のさきを、手首のところへ当てて、青白く浮いている静脈を、すっと切った。血が、湧き上って来て、見る見る火の中へ、点々と落ちた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
おおきさ犬の如くなれど、何処どこやらわが同種みうちの者とも見えず。近づくままになほよく見れば、耳立ち口とがりて、まさしくこれ狐なるが、その尾のさきの毛抜けて醜し。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
「暮といえば、去年の暮に僕は実に不思議な経験をしたよ」と迷亭が煙管きせる大神楽だいかぐらのごとく指のさきで廻わす。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その白くうごめく舌のさきからよだれがたらたらと滴った。その左右の緋色の眼は代る代るに大きくなり、又小さくなると同時に、眉は毛虫のように上下にのたくった。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ようやくのことでそんな風にはじめたものの、再び彼は、鉛筆のさきを半白のいが粟頭へ突き差すように持って行ってごしごしやり出した。どうもやはり駄目だ。
荒蕪地 (新字新仮名) / 犬田卯(著)
牛は、ときどき飼葉桶から顔をあげ、鼻のあなにはいつた餌を、舌のさきめとつては喰べてゐた。とびが松林の上を高くなつたり、低くなつたりして鳴いてゐた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
初めは鉛筆のさきで突いたほどの黒い点でしたが、だん/\大きくなつて豆粒ほどになり、甲虫かぶとむしほどになり、それから急にムクムクツと尨犬むくいぬのやうに大きくなつて
文化村を襲つた子ども (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
平三はともづなを解いて舟に乗るや否やを取つた。父はへさき錨綱いかりづなを放してさをを待つた。艪のさきで一突きつくと、舟がすつと軽く岸を離れた。平三は艪に早緒をかけた。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
幾何学上に称する点や線などは大きさなきものと説いてあるが、しかし針のさきでさえも一りん何分なんぶんの一というように必ずはかり得る大きさを有するものである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
然し翁の医術はゴマカシではない。此を見てくれとさし出す翁の右手をよく見れば、第三指のさきが左の方に向って鉤形かぎなりに曲って居る。打診だしんに精神がこもる証拠だ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それもみんな生きていて、身をよじったり、のたくったり、くるくる巻きになったり、それから、さきの方がまたになって毒をった舌をぺろぺろと出したりしました。
何やら呪文じゆもんをとなへると、すぐその指のさき章魚たこいぼのやうになつたので、それでべた/\と壁に吸ひついて、その塀をのりこえて、また豆小僧のあとを追ひました。
豆小僧の冒険 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)