小児こども)” の例文
旧字:小兒
それが、顔全体いつたいを恐ろしくして見せるけれども、笑ふ時は邪気あどけない小児こどもの様で、小さい眼を愈々小さくして、さも面白相に肩をゆする。
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
普通の乳児ちのみごよりはずっと大きく小児こどもらしくなっておいでになって、このごろはもうからだを起き返らせるようにもされるのであった。
源氏物語:07 紅葉賀 (新字新仮名) / 紫式部(著)
それから幹に立たせて置いて、やがて例の桐油合羽とうゆがっぱを開いて、私の天窓あたまからすっぽりと目ばかり出るほど、まるで渋紙しぶかみ小児こどもの小包。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其のにおかめは盗賊どろぼうだと察し、怖いながらも一生懸命、小児こどもをかゝえ、表の方へ逃げ出す跡より、おかくはおかめを追いかけ
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
正行が鼻血を出したり、陳平が泣面をしたりするという騒ぎが毎々でした。細川はそういうことは仕ない大人おとなのような小児こどもでした。
少年時代 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
故に翁の智慧には殆ど虚偽の雲が無い。『小児こどもの時読んだ論語さへも、今日邪魔になる』と、何時やらもシミ/″\と歎息された。
大野人 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「きょうはかかあが留守だから、見舞はいずれ後から届けるが、小児こどもが病気じゃあ困るだろう。まあ、取りあえずこれだけ持って行け」
半七捕物帳:09 春の雪解 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
私が号外売りを追駈おいかけて行って買ったのは、暑い夏の頃で、ヂリヂリ照りつける陽で道の砂が足裏(私達小児こどもはみな大抵たいてい跣足はだしで過した)
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
つまり、あの絵の中で、表情が同一なことと、片方の小児こどもが右胸を押えているということが、クイロス教授の物云う表象テルテール・シンボルだったのだよ。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
発達を過ぎた大人と発達盛りの小児こどもとはよほど食物の配合を変えなければなりません。大人になっても毎日食物の影響を受けています。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
大人か小児こどもに物を言うような口吻こうふんである。美しい目は軽侮、憐憫れんみん嘲罵ちょうば翻弄ほんろうと云うような、あらゆる感情をたたえて、異様にかがやいている。
余興 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
二重ふたえに細い咽喉のどを巻いている胞を、あの細い所を通す時に外しそくなったので、小児こどもはぐっと気管をめられて窒息してしまったのである。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二人の小児こどもは子爵夫人の計らいとして、すでに月の初めより避暑におもむけるなり。浪子はうなずきて、ややうっとりとなりつ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
しかし、こうした貪慾の男でも、我が子は非常に可愛がって、小児こどものこととなるとどんなに無益なついえをしてもいとわなかった。
長者 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
こういわれて、おとこはこなかあたま突込つっこんだ途端とたんに、ガタンとふたおとしたので、小児こどもあたまはころりととれて、あか林檎りんごなかちました。
父親てておや小児こどもを母と一緒に愛します事などもちょっとその心持が解りません。婦人は懐胎した時から小児のために苦痛をします。
産屋物語 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
小児こども病気は日にまし快方。小生見舞に参り候えどもまだ一度もことばを交せたる事なし。「草枕」の作者の児だけありて非人情極まったもの也。
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
その場末の飲食店の奥の六畳には、衣服やら小児こども襁褓むつきやらがいっぱいに散らかされてあったが、それをかみさんが急いで片づけてくれた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
最後の抽出ひきだしには来月生れると云ふ小児こどもの紅木綿の着物や襁褓むつきが幾枚か出て来た。次の間から眺めて居た美奈子はこらへ兼ねてわつと泣き伏した。
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
残り五人は浦人なり、後れて乗りこみし若者二人のほかの三人みたりとしより夫婦とつれ小児こどもなり。人々は町のことのみ語りあえり。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
またはてんでんの小児こどもの噂などで、さのみ面白い話でもないが、しかしその中には肉身しんみの情と骨肉ちすじの愛とが現われていて、歎息たんそくすることもあれば
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
... 致すと書いてありましたから、小児こどもの事ではあり中毒したのでしょう。所が」彼は書物を開いたまゝ検事に示しながら「こう云う発見をしましたよ」
琥珀のパイプ (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
ダンチョンは次第に首を垂れ、小児こどものように頬を赭らめ、いつまでも無言で聞いていたが、この時フッと眼を上げた。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼女は一週の疲労つかれを癒するためシャンゼ・リゼイの方へ散歩に出かけた。その時フト小児こどもを連れている女に逢った。
頸飾り (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
神よ、オオ神よ、日々年々のこの婢女しもめの苦痛を哀れと見そなわし、小児こどもを側に、臨終をとげさせ玉うを謝したてまつる。
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
それを私が微笑しながら受け取ると、妻木君の顔が小児こどものように輝やいた。そうして前よりも一層丁寧に云った。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
読者中もし小児こどもに何か教えることがあれば、める者あると共に、いやに物知りぶると難ぜられたこともあろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
それはまだ小児こども時代ときの純潔や叡智がそのまま温和にふとり育つて、それが正確に保存されてゐるからである。
抒情小曲集:04 抒情小曲集 (新字旧仮名) / 室生犀星(著)
当初非人小屋に収容せられたものは、老人や、小児こどもや、病人、不具者など、自活のできぬものであったでありましょうが、その小児も年がたてば大人おとなとなる。
小児こどもを抱く様に秀子、イヤ春子を抱き、春子も亦親に親しむ小児の様に父の胸に顔を当て只涙に暮れて居た
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
頭が割合に大きいのにあごがこけて愛嬌の少しもない、いわば小児こどもらしいところの少い、陰気な質であった。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
「フン新聞か……日本の新聞は英国の新聞から見りゃまる小児こどもの新聞だ、見られたものじゃない……」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
う庄馬鹿が言つた。小児こどものやうに死を畏れるといふ様子は、其おろかしい目付にあらはれるのであつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
さてある日用ありて二里ばかりの所へゆきたる留守るす隣家りんかの者あやまちて火をいだしたちまちのきにうつりければ、弥左ヱ門がつま二人ふたり小児こどもをつれて逃去にげさり、いのち一ツをたすかりたるのみ
「深い知合いというでもないが、小児こどもの時学校が一緒とかで、顔は前から知ってるんだって」
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
摩違すれちがひざまに沈んだ目で車を見上げて過ぎた。憤を歯から出さぬと云つた意気込が小児こどもながらその顔に見えた。湯村は後から振返つたが、母衣ほろかぶさつてゐるので無論見えぬ。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
小松原で、小児こどもの時分遊んだ日の光景ありさまなどが活々いきいきと現われて来て、つらい、今の身を慰めてくれる。それを楽しみに、今日も空を見ていたのであった。つい三十分前までは……。
悪魔 (新字新仮名) / 小川未明(著)
御老人おとしよりにお小使はおしなさい。小児こどもと老人は兎角無駄費むだづかひをしたがるもんですから。」
荷車が驚いて道側みちばた草中くさなかける。にわとり刮々くわっくわっ叫んであわてゝげる。小児こどもかたとらえ、女が眼をまるくして見送る。囂々ごうごう機関きかんる。弗々々ふっふっふっの如くらすガソリンの余煙よえん
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
今はた思へばに人目には怪しかりけん、よしや二人が心は行水ゆくみづの色なくとも、ふや嶋田髷これも小児こどもならぬに、師は三十に三つあまり、七歳にしてと書物の上には学びたるを
雪の日 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
氏が坐禅ざぜん公案こうあんが通らなくて師に強く言われて家へ帰って来た時の顔など、いまにも泣き出しそう小児こどもの様に悄気しょげかえったものです。以上不備ふびながら課せられた紙数をようやく埋めました。
至つて至つて小児こどもらしき感情問題をもつて、敵党の乗ずるところあらむとせしを。時の総理は一笑に付し去りて顧みざりしも。今尾大臣は、これに対して、大いに悟るところあり。
移民学園 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
道々西洋人と小児こどもの姿を見なかったかと聞き乍ら、金亀楼きんきろうの前からちごふちの方へ、行こうとして、フト見ると、私等の前へ、道の無い所を右へ切れて、黒貂外套が藪を分けて行くのです。
呪の金剛石 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
小児こどもがなくしたおもちやを発見した時のような喜ばしそうな声を出した。
殺人鬼 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
そして、そこへ近隣の小児こどもたちをあつめて、学問を教えているのだった。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しかし私はまた、ルイ大王の時に、小児こどもに乳を与える所を捕えられて、腰まで裸にされ、くいに縛られ、小児は彼方かなたへ引き離された、あのユーグノー派の気の毒な婦人をも、同様にあわれむのです。
僕は彼らの一人に背負われて、その住家すみかに連れこまれ、やがて二階の一室に入れられてはじめて、猿轡と眼かくしとをはずされました。見ると、そのへやの隅に一人の小児こどもがうずくまっておりました。
塵埃は語る (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
戻って柳橋の袂を往復ゆきかえりして、淡紅色ももいろ洋脂ぺんきが錆にはげた鉄欄の間から、今宵は神田川へ繋り船のかみさんが、桶をふなばたへ載せて米を磨いで居る背中に、四歳よっつばかりの小児こどもが負われながら仰反のけぞって居るのを
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
小児こどもが河の中に溺れている。そこを四人の人が通り掛かる。
四つの道徳 (新字新仮名) / 大杉栄(著)
ほそぼそと出臍でべそ小児こども笛を吹く紫蘇の畑の春のゆふぐれ
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)