らち)” の例文
小堀平治も、娘のあまりの美しさに、少し心配になったのでしょう、しきりに英山公を促し立てて、一刻も早くらちを明けようとします。
永「黙れ、何だ二三百のお布施でらちが明くかえ、貸されぬ、うーん悪いところって、瞽女町で芸者買うなんて不埓千万な奴じゃア」
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼らが山を走ることはあたかも兎の走るがごとくで私など追いかけたところで、らちく訳でもない。また追いかけようという考えもない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
老婆がその通り、給仕に出た小僧も亦た不愉快千萬な奴で、遙々樂しんで來たこの古めかしい山上の幻の影はらちもなくくづれてしまつた。
何ののと、らちもないこと云われ、藤はお山へ返せなどとも云い、館を飛び出しては騒ぎ廻り、ほとほとこうじはてておりまする。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それが今までらちが明かないので、おかみさんはあたしを叱って、おまえが請け合ったんだから、催促して取って来いと云う。
きつねのごとき怜悧れいりな本能で自分を救おうとすることにのみ急でないかぎり、自分の心の興奮をまで、一定のらち内に慎ませておけるものであろうか。
片信 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
こうなると君、人間というやつはばかに臆病になるものだよ、何ごとにもおじ気がついて、らちもなくびくびくするのだ。
去年 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
矢張やはぼく友人いうじんだが、——今度こんどをとこだが——或奴あるやつからすこるべきかねがあるのに、どうしてもよこさない。いろ/\掛合かけあつてたがらちがあかない。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
いつまでたってもいっこう壺のらちがあかないとなると、そろそろ退屈してきて、すね押し、腕相撲のうちはまだいいが
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
が、それだけなら、ともかくも金でらちの開く事ですが、ここにもう一つ不思議な故障があるのは、お敏を手離すと、あの婆が加持も占も出来なくなる。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
夜になれば、白人国に買われた土人のような淋しさでらちもない唄をうたっている。メリンスの着物は汗で裾にまきつくと、すぐピリッと破けてしまう。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
藩主の家に出入するとすればその姓名はすぐに分る。これが余の仮定である。もしあの女が浩さんと同藩でないとするとこの事件は当分らちがあかない。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何しろ金は八十万弗渡したその中で、四十万弗の船が来たけでその後は何も来ない。りとはらちが明かぬから、アトの軍艦は此方こっちからいっ請取うけとろう。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
よろしう御座ござんすたしかに受合うけあひました、むづかしくはお給金きうきん前借まへがりにしてなりねがひましよ、家内うちとはちがひて何處いづこにも金錢きんせんらちきにくけれど
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「華族さんのお客さんがあるやろ」と訊くと、「ほら、うちかて芸者だす。たまには華族はんも呼んで呉れはります」ちゅう返事で、一向らちが開きまへん。
「おれは酒井侯に会って来る、きさまたちではらちがあかぬ、おれは酒井侯に会って御所存のほどを聞いて来る」
はなすにぞ女房お富はあきはて暫時しばし言葉ことばもなかりしが夫と云ふも皆お前がらちも無き事を云ひ出してこんなさわぎに成りしなり初めから私し呉々くれ/″\口止くちどめをしておいたるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ただ復古の夢を実顕するためには、まっしぐらに駆けり出そうとするような物を企つる心から、時には師の引いた線をえてらちの外へ飛び出したものもあった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
数十名の捕手が同時に同一の空間を占めようとするものだから、ワイ/\いう丈けで一向らちが明かない。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
自分の心のうちを眺め、その思想や感情をしらべ、はてしのないらちのない、想像の荒野の中を逍遙さまよつてゐるのを嚴格な手で安全な常識のをりの中につれ歸らうと努力した。
『ほかでもないが、吾々共も、やがて程なく、この世のらちも明こうかと存ずる。お礼と申すも、今更らしいが、お暇乞いに、ここで芸づくしなと御覧に入れよう』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
またそう考えることは定まらない不安定な、らちのない恐怖にある限界を与えることになるのであった。
温泉 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
いくらあッしが掛け合いにいっても、打つ、殴る、蹴るの散々な目に会わせるだけで、一こうらちが明かねえんでごぜえますよ。いいえ、命はね、決して惜しくねえんです。
細かないざこざはもうしませんが、どうでも肚にすえかねることがござんして、そのらちをあけようと思い、ゆんべ、宵の口の五ツ半ごろここへ押しかけてまいりました。
顎十郎捕物帳:06 三人目 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それ、ひめせた。おゝ、あのやうなかるあしでは、いつまでむとも、かた石道いしみちるまいわい。戀人こひびとは、なつかぜたはむあそぶあのらちもない絲遊かげろふのッかっても、ちぬであらう。
こういうときにただ『早くおあがりなさいおあがりなさい』といっているだけではらちがあかない。あまりうるさくせっついたりすると、『ご飯はもういや』といって立ってしまう。
女中訓 (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
さうして勘次かんじ仕事しごとらちいたのでまた利根川とねがはかれることゝこゝろしてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
責任のある画債がさいを少しずつ果していっておりますが、なかなからちがあきません。
女の話・花の話 (新字新仮名) / 上村松園(著)
お遊さんの心のおくへ這入はいってみましたら自分で自分にゆいまわしていたらちはずれてしまったような気持のゆるみができまして妹の心中しんじゅうだてを憎もうとしても憎めなんだのでござりましょう。
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
西蝦夷の生命をささえる咽喉いんこうにあたっていた。従って、大きくまとまった取引きはこの地に来なければらちがあかないのだ。そこに慇懃いんぎんを通じなければ糧米をととのえることが出来ないのであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
が、由蔵はと見ると、只もうおろおろとしながらも、何か気になるらしく、一向湯槽へ飛び込む勇気を持とうともせず、ふちつかまったまま、左右を見廻したり、肩を振ったりしてらちが明かなかった。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
オイ、寅さん、お前さんは一体何時あの方のらち
火つけ彦七 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
らちのくづれをえゆかば、星も照らさぬよるの道
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
「五臓の疲れじゃ。らちもない」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
訳が有って三藏どんがおらとけえ頭を下げて来て、さて作右衞門どん、うもの者に話をしてはとてらちが明かねえ、人一人は大事な者なれども
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
けれども、お葉の方はまだらちが明かぬ。彼女かれは依然として生贄いけにえの冬子を掴んでいるのであった。市郎は気が気でない。忙しい中にも駈け寄って
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
もし誤って無思慮にも自分のらちを越えて、差し出たことをするならば、その人は純粋なるべき思想の世界を、不必要なる差し出口をもって混濁し
広津氏に答う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
一向らちがあかないが……こうと生酔いというやつは……めかけの顔形ということであり……その顔形は美人でなくては
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それはどうもらちが明かないから、その紙に礬水どうさをして、れから筆は鵞筆がぺんで以て写すのがず一般の風であった。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
今日はどうあっても調達しなければ……と与吉を供に出かけて来たのだが、らちのあかないことおびただしい。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「なに、何でもいい、法律上の術語だから——それでね、糸公、いつまで行ってもらちが明かないから、おもいに打ち明けて話してしまうが、実はこうなんだ」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
『そうでもしなければらちは明くまいが、まだ、御本家の方へおすがりに行った使者が帰って来ぬうちは』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
未練が出て今一度老婆に滯在のことを頼んでみたが生返事で一向らちがあかず、幾らか包んでやれば必ず效能があつたのだと、あとで合點が行つたが最初氣がつかなかつた。
比叡山 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
きて、二本さした浪人ふう……と、まあ、言うんですが、これも、チラと見かけたばかり。……あんまり、きっぱりしたことも言われねえ。……まったく、らちのねえ話で……
顎十郎捕物帳:08 氷献上 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
讓り申べしときゝて左京は大によろこさらば早々らちあけんと立上るを大膳はしばしと押止おしとゞめ先々待たれよ今宵の仕事はふくろの物を取り出すよりもやす先々まづ/\ぱいのんだ上の事とて是より酒宴しゆえん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それぞれに人生のらちの外へはみ出た、一言にして云えば落魄らくはくした者ばかりであったことだ。
溜息の部屋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それは私が主として樂しんでゐた興味であり、またいつも私がらちを越えないやうにしてゐる確かな本能でもあつた。私はもう一歩で相手をおこらせるといふ間際まぎはで踏み止まつた。
峠からは牛行司の利三郎、それに十二兼村じゅうにかねむらの牛方までが、呼び寄せられる。峠の組頭、平助は見るに見かねて、この紛争の中へ飛び込んで来たが、それでもらちは明きそうもない。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
とてしたいて歎息たんそくこゑらすに、どうもなんとも、わし悉皆しつかい世上せじやうことうとしな、はゝもあのとほりのなんであるので、三方さんばう四方しはうらちことつてな、第一だいいち此娘これせまいからではあるが
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)