かはや)” の例文
井戸は小屋をかけかはやは雪中其物をになはしむべきそなへをなす。雪中には一てん野菜やさいもなければ家内かない人数にんずにしたがひて、雪中の食料しよくれうたくはふ。
それから又座敷からかはやを隠した山茶花さざんくわがある。それの下かげの沈丁花ぢんちやうげがある。鉢をふせたやうな形に造つた霧島躑躅つつじの幾株かがある。
およそ外より人に入るものの人を汚し能はざる事を知らざる。そは心に入らず、腹に入りてかはやおとす。すなはちくらふ所のものきよまれり。」
西方の人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
義雄は敷島の手紙を、お鳥に見られない爲め、きのふの朝、かはやへ這入つて讀んだが、それは渠を引きつけるだけの力がなかつた。
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
仕舞しまひにはあしいたんでこしたなくなつて、かはやのぼをりなどは、やつとのこと壁傳かべづたひに身體からだはこんだのである。その時分じぶんかれ彫刻家てうこくかであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
お村が虐殺なぶりごろしに遭ひしより、七々日なゝなぬかにあたる夜半よはなりき。お春はかはや起出おきいでつ、かへりには寝惚ねぼけたる眼の戸惑とまどひして、かの血天井の部屋へりにき。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
勘次かんじうちからんでもかはやそば返辭へんじをするおつぎのこゑ最初さいしよあひだ疑念ぎねんいだかせるまでにはいたらなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
敏捷すばしこい広業は画絹が取出されたのを見ると、いつの間にかかはやに滑り込んで、そのまゝそこで居睡ゐねむりをしてゐたのだ。
徹夜仕事のスタンド一つでも、恟々と、ともして居たのだから、もちろん、かはやの電燈なども、いちいち、スイツチを忘れないやうに、家族共へ、いましめてゐた。
折々の記 (旧字旧仮名) / 吉川英治(著)
病氣を隱蔽する者が多いため、巡査は夜中に村を巡つて村民のかはや通ひに注意し出したので、靴の音がすると、誰れでも便所へ行くのをさへひかへるといふ噂さへ起つた。
避病院 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
ひきずりながらあとに從ひ音羽町の七丁目迄來りしが長三郎は此時は頻に腹痛ふくつうなし初めこらへ難なく成しかばかはやいらんと思へども場末ばすゑの土地とてかりんと思ふ茶屋さへあらぬにこうじたり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
夜更けてから、富岡は、猛烈な下痢げりをした。息苦しいかはやに蹲踞み、富岡は、両のてのひらに、がくりと顔を埋めて、子供のやうに、をえつしていた。人間はいつたい何であらうか。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
やがて婆さんは爺さんに手をかれて静に長い縁側をかはやの方に行つた。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
其のかはやは今も戸を釘付けにしたまゝ、對面所の縁側の奧に殘つてゐる。
ごりがん (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
私たちの結婚した年であつたから恰度今から十一年前にあたる、武藏の御嶽山みたけさんに一週間ほど登つてゐた事がある。山上のある神官の家に頼んで泊めて貰つてゐた。ある夜、私は其處のかはやに入つてゐた。
イヤうにもうにもじつ華族くわぞくのお医者いしやなどかゝるべきものではない、無闇むやみにアノ小さな柊揆さいづちでコツコツ胸をたゝいたりなんかして加之おまけひどい薬をましたもんだから、昨夜ゆうべうも七十六たびかはやかよつたよ。
華族のお医者 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
吹きさらしの岩にほこらのごときかはやありて見のさみしさよここらの谿は
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
彼女は彼女の聖いよるをばかはやの中で過ごしました。
わが歌は腹の醜物しこものあさるとかはやの窓の下に詠む歌
和歌でない歌 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
偶然と云ふのは燈籠とうろう時分の或夜、玉屋の二階で、津藤がかはやへ行つた帰りしなに何気なく廊下を通ると、欄干らんかんにもたれながら、月を見てゐる男があつた。
孤独地獄 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そのうちきよ下女部屋げぢよべやけてかはやきた模樣もやうだつたが、やがてちや時計とけいてゐるらしかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
勘次かんじはどれほど嚴重げんぢうにしてもおつぎがかはやかよ時間じかんをさへせまにはなかはなつことをこばむことは出來できなかつた。執念深しふねんぶかい一にん偶然ぐうぜんさういふ機會きくわい發見はつけんした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ひと静まりて月の色の物凄ものすごくなりける頃、やうやさかづきを納めしが、臥戸ふしどるに先立ちて、お村はかはやのぼらむとて、腰元にたすけられて廊下伝ひにかの不開室の前を過ぎけるが、酔心地のきもふと
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
初め兩親にかたるもいとゞ面伏おもぶせと思ふばかりに言も出さず心地こゝろあししと打伏しがさうとはれてはつゝむに由なし實は今日音羽までゆきたる時に箇樣々々かやう/\かはやへ入んと七丁目の鹽煎餠屋しほせんべいやと炭團屋の裏へ這入て用を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
かはやから出て来た彼は、手を洗はうとして戸を半分ばかり繰つた。すると、今開けた戸の透間から、不意に月の光が流れ込んだ。月はまともに縁側に当つて、ゆがんだ長方形で板の上に光つた。
路次のかはやの屋根に干したり下駄いくつ鼻緒紅きは子らか多くゐる
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
かはやの涼気のその中に、御執心にも蟄居ちつきよした。
それわしごふふかくてさとれないのだとつて、毎朝まいてうかはやむかつて禮拜らいはいされたくらゐでありましたが、のちにはあのやうな知識ちしきになられました。これなどもつとれいです
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
貴族或は貴族主義者が思ひ切つてうぬぼれられないのは、彼等もまたわれら同様、かはやのぼる故なるべし。さもなければ何処どこの国でも、先祖は神々のやうな顔をするかも知れず。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
たゞ南瓜たうなすだけは特有もちまへおほきなをずん/\とひろげてつるさきたちまちにかはやひくひさしかられた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
此所等ここらあたりは場末ばずゑの土地とてかはやからんと思へども茶屋さへ無にこうじたる長三郎の容子ようすを見て和吉は側のうらへ入り其所此所そこここ見ればきたなげなる惣雪隱そうせついんありたれば斯とつぐるに喜びて其所へ這入はひりて用を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
我がいほかはやの裏のなつめの木花のさかりも今は過ぎたり
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)