刈萱かるかや)” の例文
松に舫った釣舟は、主人あるじなさけで、別荘の庭に草を植え、薄、刈萱かるかや女郎花おみなえし桔梗ききょうの露に燈籠を点して、一つ、二見の名所である。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
栗の木の株間株間には、刈萱かるかやすすき背丈せたけほども伸びて、毎年秋になると人夫を雇って刈らせるのだったが、その収入もかなりあるようだった。
唐物からものかご芙蓉ふよう桔梗ききょう刈萱かるかやなど秋草を十分にけまして、床脇の棚とうにも結構な飛び青磁の香炉こうろがございまして、左右に古代蒔絵こだいまきえの料紙箱があります。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
秋風が吹いて、収穫とりいれが済むころには、よく夫婦の祭文語さいもんかたりが入り込んで来た。薄汚うすぎたない祭文語りは炉端ろばたへ呼び入れられて、鈴木主水もんど刈萱かるかや道心のようなものを語った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
竹の櫺子れんじをつけたいかにも床しい数奇屋がまえなのに、掛軸はかけず、床柱の花籠に申訳のようにあざみ刈萱かるかやを投げいれ、天井の杉板に金と白緑びゃくろくでいちめんに萩が描いてある。
ユモレスク (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
頭の上には、らんを飾った藤蔓ふじづると、数条のつたとがけやきの枝から垂れ下っていた。二人の臥床は羊歯しだにら刈萱かるかやとであった。そうして卑弥呼ひみこは、再び新らしい良人おっとの腕の中に身を横たえた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
米山よねやま萃螺すゐらが見えた。晴れた日には、遠く佐渡の島影をもゆびさす事が出来た。そしてそこの高原には、桔梗、われもこう、刈萱かるかや、松虫草などがさながら毛氈をいたやうに美しく乱れ開いた。
女の温泉 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
という歌の書かれた手紙を、穂の乱れた刈萱かるかやに中将はつけていた。女房が
源氏物語:28 野分 (新字新仮名) / 紫式部(著)
薄 なおその上に、御前様ごぜんさま、おせ遊ばしておがまれます。柳よりもお優しい、すらすらと雨の刈萱かるかやを、おけ遊ばしたようにござります。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
にははさながら花野はなのなり桔梗ききやう刈萱かるかや女郎花をみなへし我亦紅われもこう瑠璃るりける朝顏あさがほも、弱竹なよたけのまゝ漕惱こぎなやめば、むらさきと、と、薄藍うすあゐと、きまどひ、しづなびく。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
宵々よひ/\稻妻いなづまは、くもうす餘波なごりにや、初汐はつしほわたるなる、うみおとは、なつくるまかへなみの、つゞみさえあきて、松蟲まつむし鈴蟲すゞむしかたちかげも、刈萱かるかやはぎうたゑがく。
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あゐあさきよひそら薄月うすづきりて、くも胡粉ごふんながし、ひとむらさめひさしなゝめに、野路のぢ刈萱かるかやなびきつゝ、背戸せど女郎花をみなへしつゆまさるいろで、しげれるはぎ月影つきかげいだけり。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
これや串戯じょうだんをしてはけないぜと、思わず独言ひとりごとを言いながら、露草をふみしだき、すすき掻分かきわけ、刈萱かるかやを押遣って、章駄天いだてんのように追駈けまする、姿は草の中に見え隠れて
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一時ひとしきり、芸者の数が有余ったため、隣家となりの平屋を出城にして、桔梗ききょう刈萱かるかや女郎花おみなえし、垣の結目ゆいめ玉章たまずさで、乱杙らんぐい逆茂木さかもぎ取廻し、本城のてすり青簾あおすだれは、枝葉の繁る二階を見せたが
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蚊帳をはらはら取巻いたは、桔梗ききょう刈萱かるかやうつくしや、はぎ女郎花おみなえし、優しや、鈴虫、松虫の——声々に
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
向日葵ひまはり向日葵ひまはり百日紅ひやくじつこう昨日きのふ今日けふも、あつさはありかずかぞへて、麻野あさの萱原かやはら青薄あをすゝき刈萱かるかやあきちかきにも、くさいきれくもるまで、たちおほ旱雲ひでりぐもおそろしく、一里塚いちりづかおにはあらずや
月令十二態 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
しか刈萱かるかやみのいつしかにつゆしげく、芭蕉ばせをそゝ夜半よはあめ、やがてれてくもしろく、芙蓉ふようひるこほろぎときるとしもあらずやなぎなゝめすだれおどろかせば、夏痩なつやせにうつくしきが、轉寢うたゝねゆめよりめて
月令十二態 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
床几しやうぎいこ打眺うちながむれば、きやく幾組いくくみ高帽たかばう天窓あたま羽織はおりかたむらさきそでくれなゐすそすゝきえ、はぎかくれ、刈萱かるかやからみ、くずまとひ、芙蓉ふようにそよぎ、なびみだれ、はなづるひとはなひとはなをめぐるひと
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
浮出うきだしたように真中へあらわれて、後前あとさきに、これも肩から上ばかり、爾時そのときは男が三人、ひとならびに松の葉とすれすれに、しばらく桔梗ききょう刈萱かるかやなびくように見えて、段々だんだん低くなって隠れたのを、何か
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その谿谷けいこくをもみじの中へ入って行く、のこンの桔梗と、うらさびしい刈萱かるかやのような、二人の姿の、窓あかりに、暗くせまったのを見つつ、乗放のりはなしてりた、おなじ処に、しばらく、とぼんとしゃがんでいた。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
添へて刈萱かるかやの濡れたのは、蓑にも織らず、折からの雨の姿である。
玉川の草 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)