はこ)” の例文
お島はその間を、ここでも針仕事などに坐らせられたが、どうかすると若い美術学生などの、はこをさげて飛込んで来るのに出逢った。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「どうして子供なんてものが生れるのかな。余計な事だと思ふんだけど。」と、青木さんははこの巻煙草を取つて火をお付けになる。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
てこら」とホモイのお父さんがガラスのはこおさえたので、きつねはよろよろして、とうとうはこいたままげて行ってしまいました。
貝の火 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そのとき彼の眼についたのは、器械棚と並んで大きな棺桶を壁ぎわに立てかけたようなはこの中に納まっている鋼鉄製の人造人間であった。
人造人間事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
市場にやられる日には私は、まず、家の者の気づかない時を見計みはからって、そっと押入れの小遣銭こづかいせんはこの中から銅貨を七、八ツ盗み出した。
また、決して許そうともしない範宴なのである。鉄で作られた虚偽のはこのように範宴の膝はいつまでもしびれを知らずに真四角なのである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「じゃア、一しょにおいで!」といって、継母ままはは部屋へやへはいって、はこふた持上もちあげげながら、「さア自分じぶん一個ひとつりなさい。」
六頭の馬にかれた砲車の列が丁度その町を通った。一砲車ごとに弾薬のはこを載せた車が八頭の馬に挽かれてその後から続いた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
れ!」とかれはそのてのひらを学生の鼻頭はなさき突出つきいだせり。学生はただちにパイレットのはこを投付けたり。かれはその一本を抽出ぬきいだして、燐枝マッチたもとさぐりつつ
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すると、グレゴリ警部は四角い小さなブリキのはこを取出し、鍵で蓋をとっていろいろな品物を私達の前へ並べてみせた。
彼は黙って扉を押すと、僕を一室に導く。僕は黙って彼の後についてゆく。ガラス張りの大きなはこの前に彼は立留る。函の中には何も存在していない。
鎮魂歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)
革命前から池のそばに住んでいた瀬戸物つくりの老人から彼がかつて聞いた話だそうだが、ここの水底には鉄のはこがあり、自分もそれを見たそうである。
やっととにかくどうにか収まったらしいが、そちこちの形勢がまだ蜜蜂のはこの穏かならぬ呟きをひそめていた。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
郵便物をポストに入れる場合に、大きな雑誌や何か、はこの口に差入れられない物は、そのまま函の下の道端に置いて行っても、盗まれるおそれが無いのでした。
亜米利加の思出 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
坐舗の一隅いちぐうを顧みると古びた机が一脚え付けてあッて、筆、ペン、楊枝ようじなどを掴挿つかみざしにした筆立一個に、歯磨はみがきはこと肩をならべた赤間あかますずりが一面載せてある。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
どうだね、一つやってみないかね。御褒美ごほうびをつけよう。君がその中へうまく這入れたら、チョコレートのはこ
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
手前は只今は修行者の身の上になりさがり零落いたしましたが、これは親父がかみより拝領したもので、替箱かえばこが有り、二重三重のはこ箱書付はこがきつけも附いて居たものが
パッキングされたはこは、二階からエスカレーターに乗って、運河の岸壁に横付けにされている船に、そのまゝ荷役が出来る。——昼近くになって、罐が切れた。
工場細胞 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
用意ようゐ!。』と武村兵曹たけむらへいそうさけぶと、二名にめい水兵すいへい車中しやちう大旅櫃だいトランクなかから、一個いつこ黒色こくしよくはこ引出ひきだしてた。このはこなかには、すう爆裂彈ばくれつだんはいつてるのである。
その——三稜鏡プリズムはこに入ったような光明の乱舞が、四人の盲人には、いっこう感知できないのも道理であるが、いつかの日艇長と死生を共にしたこのへやの想い出は
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
されどそは予が語らんとする所にあらず。予は馬車中子爵の胃痛を訴ふるや、手にポケツトをさぐりて、丸薬のはこを得たり。而してその「かの丸薬」なるに一驚したり。
開化の殺人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
そこへお宮は二階から金唐紙きんからかみの小さいはこを持って降りて来た。その中には手紙が一ぱい入っている。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
そこで思ひ切つてホープのはこをポケットからとり出すと、ふと小声で独りごちたのである。——
三つの挿話 (新字旧仮名) / 神西清(著)
「えゝさうです。何んでも気合一つで鳥獣を眠らせたり、はこの中にあるものをあてたり、又は刀で腕の上に載せた大根を切つたり、ビールびんを額に打ちつけて割つたりするんです。」
手品師 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
帝はまたかれに命じて丹陽公主たんようこうしゅ(公主=皇女)の枕を取って来いと言った。それは金をちりばめたはこ付きの物である。かれは夜半にその寝室へ忍び入って、手をもって睡眠中の公主の顔を撫でた。
化粧品を買ってここではこをあけて、それだけ捨てて行ったのだろう。相手がおとなしい雅子でなかったら、からかわれたと腹の立つところだ。とにかく、これでは雅子と話をする材料にはならない。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
私は桟橋さんばしの上に立っていた。向側には途方もない大きな汽船の剥げ汚れた船腹が横づけになっている。傘のように開いた荷揚器械が間断なく働いて大きなはこのようなものを吊り揚げ吊り降ろしている。
(新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
下しおかる有難く頂戴ちやうだいせよとはこを出せばおかぢは押戴おしいたゞき拜見はいけんして涙を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ロイドさんは、またかぎ煙草のはこを取り出した。
つちやすりもかすれ、言葉悲しきはこ
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
はこが、独りで歩いて行くのはいいね。」
ロボットとベッドの重量 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「何だ! このはこは?」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
うさぎのおっかさんまでがいて、前かけで涙をそっとぬぐいながら、あの美しい玉のはいった瑪瑙めのうはこ戸棚とだなから取り出しました。
貝の火 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
こういわれて、おとこはこなかあたま突込つっこんだ途端とたんに、ガタンとふたおとしたので、小児こどもあたまはころりととれて、あか林檎りんごなかちました。
庸三は少しうとうとしかけたところだったが、目をあげて見ると、彼女は青いペイパアにくるんでひもで結わえたはこ枕元まくらもとへ持ち込んで来て
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
軸の前には「佐伯家系図」と書いた細長いはこ三方さんぼうに載せて安置せられ、それと並んでは、叔母が古道具屋で買って来た
見ていると彼はそれをはこの中の人造人間に読み聞かせている様であった。然し鋼鉄人間はピクンとも動かない。
人造人間事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
尾張おわり停車場ステイションほかの乗組員は言合いいあわせたように、残らず下りたので、はこの中にはただ上人と私と二人になった。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そら、はこが出来た。よろし。運搬台が来る。ガラガラガラガラガラガラ、走り出す。また紙包みが来る。パタパタ、トントン、すうっ、ガラガラガラガラである。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
それから、符表と文字盤を覆うている、鉄製のはこを開く鍵を、真斎から借りて、まず鉄函を開き、それから文字盤を、右に左にまた右に合わせると、ドアが開かれた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そのまた中を合乗で乗切る心無し有難ありがたの君が代に、その日活計ぐらしの土地の者が摺附木マッチはこを張りながら、往来の花観る人をのみながめて遂にまことの花を観ずにしまうかと
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
図書館の扉口とぐちに近い、目録カタログはこの並んでいる所へ、小倉こくらの袴に黒木綿くろもめん紋附もんつきをひっかけた、背の低い角帽が一人、無精ぶしょうらしく懐手ふところでをしながら、ふらりと外からはいって来た。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
すると、すぐ足許のところを、白木の大きなはこが流れており、函からみ出た玉葱たまねぎがあたりにただよっていた。私は函を引寄せ、中から玉葱をつかみ出しては、岸の方へ手渡した。
夏の花 (新字新仮名) / 原民喜(著)
お千代はもう逆上のぼせたように顔ばかりか眼の中までを赤くさせ、はこの中から取出す指環ゆびわや腕時計を、はめて見たり、抜いて見たりして、そのたびたびに深い吐息といきをついている。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それは宝石のように小さなはこにしまえる 小さな心にもしまえる
死の淵より (新字新仮名) / 高見順(著)
道誉は、手の切れそうな楮幣のたばはこから取って
かくなるはこかしづくり、焦茶こげちやの色のわくはめて
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
お母さんがきながらはこを出しました。玉はお日さまの光をけて、まるで天上にのぼって行きそうにうつくしくえました。
貝の火 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「あいよ。」とおかあさんがって、はこなかから美麗きれい林檎りんごして、おんなにやりました。そのはこにはおおきな、おもふた頑固がんこてつじょうが、ついていました。
そして警部を大きな脳波受信機のはこの中へ押しこんで、ぱたんとふたをした。警部は冠をかぶせられたときから後は、別人のようにおとなしくなってしまった。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)