函館はこだて)” の例文
一時間ほどして船が再び棧橋さんばしに着いた時、函館はこだての町はしらじらとした暮靄ぼあいの中に包まれてゐたが、それはゆふべの港の活躍の時であつた。
処女作の思い出 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
あの恐ろしい函館はこだての大火や近くは北陸地方の水害の記憶がまだなまなましいうちに、さらに九月二十一日の近畿きんき地方大風水害が突発して
天災と国防 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
函館はこだての三港を開かせたばかりでなく、さらに兵庫ひょうごの港と、全国商業の中心地とも言うべき大坂の都市をも開かせることになった。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
案内者あんないしやがついてゐます。御串戲ごじやうだんばかり。……洲崎すさき土手どてあたつたつて、ひとふねせば上總澪かづさみをで、長崎ながさき函館はこだてわた放題はうだい
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
本来宣教師せんきょうしにして久しく函館はこだてり、ほぼ日本語にもつうじたるを以て仏公使館の訳官となりたるが、これまた政府にちかづきて利したることすくなからず。
ある日農場主が函館はこだてから来て集会所で寄合うという知らせが組長から廻って来た。仁右衛門はそんな事には頓着とんじゃくなく朝から馬力ばりきをひいて市街地に出た。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
その反抗はつねに私に不利な結果をもたらした。郷里くにから函館はこだてへ、函館から札幌さっぽろへ、札幌から小樽おたるへ、小樽から釧路くしろへ——私はそういう風に食をもとめて流れ歩いた。
弓町より (新字新仮名) / 石川啄木(著)
いま汽車は函館はこだてって小樽おたるむかって走っている。まどの外はまっくらだ。もう十一時だ。函館の公園はたったいま見て来たばかりだけれどもまるでゆめのようだ。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
オランダ・ロシア・イギリス・フランスの四かこくとも条約じょうやくをむすび、すでに日米和親条約にちべいわしんじょうやく開港かいこうされていた下田しもだ箱館はこだて函館はこだて)にくわえて、ちかいしょうらい
それから歸つて、人見寧ひとみやすし梅澤敏うめさわとしなどゝいふ人の取り立てた靜岡の淺間下あさましたの集學所といふにはいつた。其の集學所に居る人間は函館はこだて五稜廓ごりやうかくの討ち洩らされといふ面々だ。
兵馬倥偬の人 (旧字旧仮名) / 塚原渋柿園塚原蓼洲(著)
されば幕府は奥羽諸藩をもよおして、函館はこだてを護らしめ、西国諸大名に令して長崎を警せしめ、文化七年においては、松平定信は、松平容衆かたひろと共に房総海岸の防禦を命ぜられ
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
五月初旬はじめ、武男はその乗り組めるふねのまさにくれより佐世保させほにおもむき、それより函館はこだて付近に行なわるべき連合艦隊の演習に列せんため引きかえして北航するはずなれば
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
昭和九年三月二十一日の函館はこだての大火は、その日の午後六時から翌朝の七時まで燃えつづけて、焼失家屋二万四千戸、死傷者三千人を出したが、その時火に追われた市民は
焦土に残る怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
二人はデッキの手すりに寄りかかって、蝸牛かたつむりが背のびをしたように延びて、海をかかえ込んでいる函館はこだての街を見ていた。——漁夫は指元まで吸いつくした煙草たばこつばと一緒に捨てた。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
上陸して逍遥しょうようしたきは山々なれど雨にさまたげられて舟を出でず。やがてまた吹き来し強き順風に乗じて船此地を発し、暮るる頃函館はこだてに着き、ただちに上陸してこの港のキトに宿りぬ。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「ええ。まだいちども。札幌さっぽろ函館はこだてさえ数えるほどしか行ったことはないんですの。」
夕張の宿 (新字新仮名) / 小山清(著)
もちろん俄仕込にわかじこみで、粒揃つぶぞろいの新橋では座敷のえるはずもなく、借金がえる一方なので、河岸かしをかえて北海道へと飛び、函館はこだてから小樽おたる室蘭むろらんとせいぜい一年か二年かで御輿みこしをあげ
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
津軽海峡を渡って函館はこだてへ上陸したことのある人は知っていると思うが、連絡船が港に近づくと、下北半島に相対した恵山えさん方面の丘に、トラピスト女子修道院の白堊はくあの塔がみえるであろう。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
節蔵が脱走した後でもって、脱走艦は追々函館はこだていって、れから古川ふるかわの長崎丸と一処いっしょまた此方こっちへ侵しに来た、とうのは官軍方のあずま艦、すなわち私などが亜米利加アメリカからもって来た東艦が官軍の船になって居る
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「もし、室蘭になかったら小樽おたるか、函館はこだてから呼ぶんだ。えーっと、しかし、そうすると横浜帰航が大変おそくなるね。だが、室蘭に五人や十人の船員がないってことはないだろう。君は調べて見たかね」
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
一条 長崎、函館はこだてを開く(函館は調印の日より十ヶ月後)
空罎 (新字新仮名) / 服部之総(著)
函館はこだてへ、函館へ」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その上に風向旋転のために避難者の見当がつかなかったことなども重要な理由には相違ないが、何よりも函館はこだて市民のだれもが
函館の大火について (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
この条約によると、神奈川かながわ、長崎、函館はこだての三港を開き、新潟にいがたの港をも開き、文久二年十二月になって江戸、大坂、兵庫ひょうごを開くべき約束であった。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
室蘭むろらんか、函館はこだてまで来る間に、俺は綺麗さっぱり北海道と今までの生活とに別れたいと思って、北海道の土のこびりついている下駄を、海の中に葬ってくれた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
良人は宇都宮うつのみやからだんだん函館はこだてまでまいり、父は行くえがわからなくなり、弟は上野で討死うちじにをいたして、その家族も失踪なくなってしまいますし、舅もとうとう病死をしましてね
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
函館はこだて砲台ほうだいのある山には低く雲がかかっている、僕はそれを少し押しながら進んだ、海すずめが何重ものになって白い水にすれすれにめぐっている、かもめも居る、船も通る
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
函館はこだてを出帆してから、四日目ころから、毎日のボロボロな飯と何時も同じ汁のために、学生は皆身体の工合を悪くしてしまった。寝床に入ってから、ひざを立てて、お互にすねを指で押していた。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
彰義隊しょうぎたいけいくさにおわったあと、幕府ばくふがわのひとたちは、東北地方とうほくちほうにのがれ、二本松にほんまつ会津若松あいづわかまつや、北海道ほっかいどう箱館はこだて函館はこだて)の五稜郭ごりょうかくなどで、官軍かんぐんにてむかい、つぎつぎにやぶれていきました。
読者どくしやるや、とんさんと芥川あくたがは……あゝ、面影おもかげえる)さんが、しか今年ことしぐわつ東北とうほくたびしたときうみわたつて、函館はこだてまづしい洋食店やうしよくてんで、とんさんが、オムレツをふくんで、あゝ、うまい、とたん
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
函館はこだて青柳町あをやぎちやうこそかなしけれ
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
昭和九年三月二十一日の夕から翌朝へかけて函館はこだて市に大火があって二万数千戸を焼き払い二千人に近い死者を生じた。実に珍しい大火である。
函館の大火について (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
商船十数そう、軍艦数隻、それらの外国船舶が兵庫ひょうごの港の方に集まって来たころである。横浜からも、長崎からも、函館はこだてからも、または上海シャンハイ方面からも。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
場主までわざわざ函館はこだてからやって来た。屋台店や見世物小屋がかかって、祭礼に通有な香のむしむしする間を着飾った娘たちが、刺戟しげきの強い色を振播ふりまいて歩いた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
過ぐる日の喀血かっけつに、一たびは気落ちしが、幸いにして医師いしゃの言えるがごとくそのあとに著しき衰弱もなく、先日函館はこだてよりの良人おっと書信てがみにも帰来かえりの近かるべきを知らせ来つれば
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
津軽海峡つがるかいきょう、トラピスト、函館はこだて五稜郭ごりょうかく、えぞ富士ふじ白樺しらかば小樽おたる、札幌の大学、麦酒ビール会社、博物館はくぶつかん、デンマーク人の農場のうじょう苫小牧とまこまい白老しらおいのアイヌ部落ぶらく室蘭むろらん、ああぼくかぞえただけでむねおどる。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
函館はこだてのかの焼跡やけあとを去りし
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
そのために東北地方から北海道南部は一般に南西がかった雪交じりの烈風が吹きつのり、函館はこだてでは南々西秒速十余メートルの烈風が報ぜられている。
函館の大火について (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
元は幕府の奥詰おくづめのお医者様ですが、開港当時の函館はこだての方へ行って長いこと勤めていらっしゃるうちに、士分に取り立てられて、間もなく函館奉行の組頭でさ。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
札幌さつぽろ行の列車は、函館はこだての雜沓をあとにして、桔梗、七飯なゝえと次第に上つて行く。皮をめくる樣に頭が輕くなる。臥牛山ぐわぎうざんしんにした巴形ともゑなりの函館が、鳥瞰圖てうかんづを展べた樣に眼下に開ける。
熊の足跡 (旧字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
「まあ辛抱してやるがいい。ここの親方は函館はこだて金持まるもちで物のわかった人だかんな」
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「冬猫もまた細心の注意を要す。函館はこだて付近、馬肉にて釣らるる危険あり。特に黒猫は充分に猫なることを表示しつつ旅行するにあらざれば、応々黒狐くろぎつねと誤認せられ、本気にて追跡さるることあり。」
函館はこだて床屋とこや弟子でし
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ある外国船は急を告げるために兵庫から横浜へ向かい、ある外国船は函館はこだてへも長崎へも向かった。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
青森湾口に近づくともう前面に函館はこだての灯が雲に映っているのが見られる。マストの上には銀河がぎらぎらと凄いように冴えて、立体的な光の帯が船をはすかいに流れている。
札幌まで (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
この瑞見は二年ほど前に家をげ蝦夷の方に移って、函館はこだて開港地の監督なぞをしている。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
六人ある姉妹きょうだいの中で、私の子供らのかあさんはその三番目にあたるが、まだそのほかにあの母さんの一番上のにいさんという人もあった。函館はこだてのおじいさんがこの七人の兄弟きょうだいの実父にあたる。
分配 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
次第に停車場へ集って来る人の中で岸本は白い立派なひげはやした老人を見つけた。その人が妻の父親であった。老人は岸本の外遊を聞いて、見送りかたがた函館はこだての方から出て来てくれた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
横浜、長崎、函館はこだての三港を開いたことは井伊大老の専断であって、朝廷の許しを待ったものではない。京都の方面も騒がしくて、賢いみかどの心を悩ましていることも一通りでないと言い伝えられている。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それに、書記官のメルメット・カションが以前函館はこだての方にあったころ、函館奉行津田近江つだおうみの世話により駿河の友人喜多村瑞見ずいけんから邦語を伝えられたという縁故もあって、駿河の方でも応対に心やすい。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)